UIEvolution、AMSとの提携発表
凍結した道には注意しよう

iPhoneとApple TVの発表で明らかになった新生アップルの経営戦略

Appletv2 先日の「スティーブ・ジョブズの面接試験、iPhone編」には、たくさんの方々にコメントをいただき、まさに双方向性のコミュニケーションの楽しさを満喫させていただいた。出題の際にも述べたが、この手の問題には特に決まった正解があるわけでもないので、出来るだけ多くの方から、さまざまな意見が出てくることそのものにとても価値がある。

 しかし、出題者の私が皆さんの意見を読んでいるだけでは双方向性が不十分なので、今日は私なりの解釈を書いてみる。

 結論から先に言えば、新生アップルの経営戦略が「パソコン上で走るiTunesをホーム・エンターテイメントにおけるメディア・ハブおよびメディア・ゲートウェイのデファクト・スタンダードにし、それにスポークとしてつながるさまざまなデバイスを開発し、同時にiTune Storeからそういったデバイス向けのさまざまなデジタル・コンテンツをiTunesを通して流通させる」というものであるから、というのが私の解釈である。

 現時点でのアップルにとってもっとも戦略的に重要な財産は、「iTunesを使って自分たちのメディアファイルを管理している何百万人ものユーザー」である。その大半がすでにiPodを持っているのは当然のことだが、同時にそのユーザーたちは、これからアップルが発売するiPhoneやAppleTVなどのさまざまなデバイスに真っ先に飛びつくであろう消費者でもある。

 もしあなたの知り合いに、iPod miniを使っているあまりパソコンに詳しくない人がいて、その人に「そろそろもう少し容量が多くて、ビデオを見ることも出来るデバイスに買い換えようと思うんだけど、何にしたら良いと思う?」と相談されたと想定してみよう。このとき、ほぼ同じ容量の新型iPodとマイクロフトのZuneが同じ値段で売っていたとしたら、あなたはどちらを薦めるだろう。

 私なら迷わず新型iPodを薦める。なぜなら、その人が今までiTunesを使って蓄積してきた音楽ライブラリやプレイリストなどのデータがそのまま使えるからだ。もちろん、マイクロソフトもその辺りは分かっていてiTunesからのデータのインポートをサポートしてはいるのだが、その手の移行には必ず何らかのリスクや制限が伴うし、ライブラリの移行後にiPod miniとZuneの両方を使い続けることにはかなり無理がある。

 つまり、一度iTunesを使い始めたユーザーにとってみれば、機能や値段でよほどの差がない限り、他社製品に乗り換えずにアップル製品を買い続けることがユーザーエクスペリエンスの面で最も正しい選択なのだ。アップルもその辺りはきちんと意識しており、単に音楽ライブラリやプレイリストだけでなく、ポッドキャスト、ビデオ、そしてiTune Storeと、使えば使うほどiTunesから(すなわちアップル製品から)離れにくくなる要素を着実に増やして来ている。

 別の言い方をすれば、アップルは、マイクロソフトが喉から手がでるほど欲しがっていた、ホーム・エンターテイメントにおけるメディア・ハブおよびメディア・ゲートウェイのデファクト・スタンダードの地位を、iTunesというソフトウェアを使って、あっさり奪いつつあるのである。これこそが、ビル・ゲイツがアップルのiTunes+iPodの成功をあれほどうらやましがっている理由だし、マイクロソフトが今までのOEM戦略を曲げて自らZuneというハードウェアを出さざるをえなくなった理由である。

 そう考えてみると、今回のMacWorldで発表されたiPhoneもApple TVも、ハブであるiTunesからみれば、iPodと同じ位置づけのスポークにあたるデバイスに過ぎず、そういったデバイスから直接iTune Storeにアクセスしてコンテンツを購入できるようにする(アップルおよび既存のiTunesユーザーにとっての)メリットはほとんどない。そこでiTunes抜きの中途半端なユーザー・エクスペリエンスを提供して、他社のデバイスと真っ向から戦うよりも、あくまでパソコン上で動くiTunesがあるからこそのトータルなユーザー・エクスペリエンスで勝負して、他社に真似出来ない戦い方をするのがアップルにとって正しい戦略である。

 今回のiPhoneとApple TVの発表で明らかになったのは、パソコン上で動くiTunesをハブに、エクササイズの時にはiPod Shuffle、車のダッシュボードにはiPod nano、持ち歩くのはiPhoneかビデオ iPod、そして家のテレビやAVシステムにはApple TVと、TPOに応じてさまざまなデバイスを使いこなすというライフスタイルにフォーカスして、iTunesに匹敵するソフトウェアを持たない他社には追従ずることが難しいユーザー・エクスペリエンスで勝負する、というアップルの戦略である。これこそが、Apple Computer Inc.からApple Inc.へと名前を変更し、本気でコンシューマー・エレクトロニクス市場に進出することを宣言した新生アップルのビジョンなのである。

Comments

通りすがり

一カ所、iPhotoになっております。iPhoneかと。

Satoshi

 ご指摘ありがとうございます。修正させていただきました。今回は割愛しましたが、iPhotoに関しても書きたいことがあったので、つい打ち間違ってしまったようです。

重箱角突き

「片手落ち」を差別用語として認識している方も少なからず居るようです。
本筋とは関係ないですが気になりましたので念のため・・・

無駄に背が高いSE

ソフトウェア依存によるハードウェアの乗り換えコスト(と解釈しました)ってOSとパソコンみたいですね。
jobs氏がOS戦争に負けて(仮、現在進行形なので)、それを学習して反撃したとも見えますね。

ooki

なるほどーーー

私は考えても考えても何故そんな便利な事が出来ないのか
ハブはiTunesと思いますが不思議でした。

でもアイフォンでiTunesでお買い物できたほうがますます
アップルの顧客が増えるとおもっちゃいます^^;

むはー

「手」は「仕事」を意味していると説明する辞書も少なからずあるようです。
さほど気にされる必要もないかと思いますが、念のため投稿する次第。

プラット

なぜiPhoneにカメラ機能がついていないのでしょうか? やむをえず切り捨てたのか、それとも、しかるべき理由があってつけなかったのか。少なくとも、ケータイにカメラ機能は必須条件になってきていると思うのですが。

横から

>なぜiPhoneにカメラ機能がついていないのでしょうか?

付いてます。2メガピクセルのが。

むはー

https://www.apple.com/iphone/technology/specs.html
によれば
Camera 2.0 megapixelsだそうです。
動画も撮れるという情報もありますが...。

TT

いつも楽しく読ませていただいています。
重箱隅突きで恐縮ですが、
「iTunes Music Store」は、現在「iTunes Store」になっています。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0609/13/news013.html

コンピュータメーカからコンシューマ・エレクトロニクスメーカへと、
音楽流通からデジタルコンテンツ流通へと市場を広げ、
アップルのこれら事業分野の変化の表面化に、わくわくさせられます。

Satoshi

「片手落ち」、「iTune Music Store」の両方とも修正しました。ご指摘ありがとうございます。

shige-zo

うーん、そうなんですかねぇ・・。
iTunes Storeが物理的に1つのPC/Mac上で動作しなくとも、一人の人が"論理的には1つ"で、"物理的には複数"のiTunes StoreへアクセスできたとしてもHUBとしての機能は果たせるのでは無いでしょうか・・(そのほうが単体のデバイスとしては価値が高まるように思えます。だって、PCを持っていなくともiTunes Storeへアクセスできますから)
1個人からすれば論理的には1つのiTunes Storeとしてとらるでしょうし。PC/Macという物理的な制限(=利用する上でのハードル)を設ける結果になってしまう点が腑に落ちません。
また、複数デバイス楽曲が散在するのはエレガントでは無い、という意見ですが、Appleが視聴の権利を個人にネットを通じて保証してあげられれば、異なるデバイスで視聴することも可能と思われ、そのほうがエレガントな気がします(あるいは単にバックアップサービスでも良いですが)。
自身が権利を有するコンテンツをオンデマンドで視聴するには、現状十分な帯域はありませんが、何れそういう時代がくるように思います。
どちらかと言うとそういう世界を切り開いて欲しい気がします。

イソムラ

イソムラと申します。
いつも楽しく拝見させていただいております。

私は当然「iPhoneから直接アクセスさせる戦略」と考えていましたが、中島さんの以下のコメントは非常に腑に落ちるものがありました。

『iTunes抜きの中途半端なユーザー・エクスペリエンスを提供して、他社のデバイスと真っ向から戦うより~  iTunesがあるからこそのトータルなユーザー・エクスペリエンスで勝負して、他社に真似出来ない戦い方 ~』

会社にて商品提案などをしていますと、ついつい他社との横並びを意識していまいます。そして他社の思想に沿った戦略を考えてしまいます。音楽ダウンロードぐらいさせようと。

Appleは、自分たちの強み/領域をうまく生かしていますね。おそらく横並びする相手がいない中、自分たち自身の戦略を考え抜いた結果のように思います。

また、極めて妥当な展開だともいえるのではないかと思います。

iPodにしても、iPhoneにしても、全く新しいモノではない。既に大きな市場が形成されている業界です。そして、他社に対しスペック上の差はあるけれども、基本機能は全て他社に先鞭をつけられているものばかり。そこに、極めて分かりやすいユーザーエクスぺリエンスの価値で参入する。

んー どうやったら太刀打ち出来ますかね~

サンディエゴ無頼

ソニーや任天堂がPSPやDSでiPhoneと同じような機能を提供すると面白いんじゃないかなと思うな。音楽を聴きながらゲームもできる。音楽の部分はiTune形式を踏襲して、家のパソコンからPSPやDSに持って行く。となると、やっぱりゲームもiTune Storeみたいにダウンロードでいろいろ買えるという風にしたくなるなあ。それもiTune形式を踏襲して、家のパソコンから持って行くとすると。となると、ゲームと音楽の販売サイトを別々にするよりも、iTune Storeで全部揃うと楽だわねね。やはりiTune Storeを持っているというのは大きい!

しかし、まずゲームだけと特化して、お客を呼び、ついでにアップルのやっていない部分を徐々に充実させていけば、iTuneに次ぐストアとして認知されるんじゃないかな。ついでに、音楽ファイルも充実させていくと。少なくとも、まだiTune Storeが入り込んでいない国(例えば日本の邦楽とか)では、可能性はあると思うな。


smallworld

いつも楽しく拝見させていただいております.

私もshige-zoさんが指摘されているように,
『iTunes Storeが物理的に1つのPC/Mac上で動作しなくとも、一人の人が"論理的には1つ"で、"物理的には複数"のiTunes StoreへアクセスできたとしてもHUBとしての機能は果たせるのでは無いでしょうか・・』
と思っていたのですが,もしiPhoneからiTunes Storeにアクセスできたり,なんでもかんでもできるようになってしまったら,iPhoneがデバイスとしてのハブになる可能性があると思います.

そうなると,他のappleデバイス(iPod, iShuffle etc)との競合が起きてしまい,売れなくなってしまう,ということではないでしょうか.あくまでハブとしての機能を持たせるのは,ソフトとしてのiTunesにとどめておき,ハードとしてのApple製品はそれを取り巻くものにしておく.そうすれば,Satoshiさんがおっしゃられているように,

『パソコン上で動くiTunesをハブに、エクササイズの時にはiPod Shuffle、車のダッシュボードにはiPod nano、持ち歩くのはiPhoneかビデオ iPod、そして家のテレビやAVシステムにはApple TVと、TPOに応じてさまざまなデバイスを使いこなす』
というApple製品間で役割分担ができ,まさにトータルエクスペリエンスを提供することが可能になる,ということなのでは,と解釈しました.

shige-zo

『他のappleデバイス(iPod, iShuffle etc)との競合が起きてしまい,売れなくなってしまう』という点には同意します。
言い方を変えるとiTunes Storeを中心としたロックイン戦略ですが・・。
もしAppleがコンテンツホルダーと独占契約をしていないなら、他社にもつけいる隙はありそうです。今までも自社製品内でのみ相互接続性を確保、ロックインを試みて失敗した例は多いですし。
スティーブ・ジョブズという人物に夢を持つと上記はあまりとって欲しくない戦略ですが、覇道を是とする米国企業のDNAを受け継いでいるのかもしれません。

shige-zo

コンシューマーは「TPOに応じてさまざまなデバイスを使いこなすというライフスタイル」を実現するだけのお金を使わないんじゃ無いかな、と。
iPod Shuffle、iPod nano、iPhone・・は、極端に言うとカローラのレビン、フィールダー、スプリンターみたいなもので(例が良くないかも知れませんが)。
メディア・ハブを物理的に1つとする=パーソナルユースPC市場におけるMacのポジショニング確立=iTunes Storeを中心とした段階的なロックイン戦略ということであれば、iPhoneから接続させないという点は理解できます。
ただ、Appleがコンテンツホルダーと独占契約をしていないなら、他社にもつけいる隙を与えてしまいますね。今までも自社製品内でのみ相互接続性を確保、ロックインを試みて失敗した例は多いですし。その辺りはシナリオがあるのかな・・。

スティーブ・ジョブズという人物に夢を持つとロックイン戦略はあまりとって欲しくないですが、覇道を是とする米国企業のDNAを受け継いでいるのかも・・。

zin

非常に興味を持って拝見していました
少し遅くなりましたが、自分なりに考えてみました
まず考えたのは二つ、
1)の妥当性、
これは基本的にダウンロードの簡便性が、今現在では確立されてないから、と考えました
音楽はまだどうにかなるかもしれませんが、それ以上のリッチコンテンツは無理だろうという事です
まだ、動画の場合等はダウンロード中の電話の対応をどうするのか等、やっぱり実用的じゃないってのがあるのかなと考えました

で、2)で考えてみると、、、
Macの存在ですね。アップルはMacをクリエイティブ&サーバー(ストック場所)として考えているのかもしれません
ハブの構想を一段進めてるのですね
Macで生産、ストックをして、他のもの(iPod、AppleTV、iPhone)で再生する
この流れを作っているのだろうと考えます
ハブ構想でアップルはパソコンを再定義して、パソコン冬の時代を盛り返しました
そのアップルが、またパソコンを再々定義し始めてると感じています
いや、ハブ構想の進化かな?
そして、自分のブログでも指摘しましたが、その中でiTunesがあまりにも大きい存在になってきている
ハブの中心がいまやiTunesとなりましたし、、、iTunesって名前で良いのかなぁ、、、
ちなみに、このパソコンの再定義を考えていくと、
.macの30Gに拡張って噂から色々妄想出来て楽しいです

最後に質問なのですが、今のAppleにとって"i"ってなんでしょう?
で、なんでAppleTVはiTVにならなかったのでしょう?

iけがわ

>で、なんでAppleTVはiTVにならなかったのでしょう?
私も、" i "の持つ意味が良くわからないです。
Intelgenceの" i "かなぁとは思うのですが。

AppleTVの名前は既存メディアの録画が可能であればiTVだったのでしょう。
けれども、これは録画ではなく「ダウンロード」による視聴のスタイルです。
その為に、映像を見るためには必ずMacを通さなくてはならず、
一般電波の放送は直接見る事が出来ません。
Apple(iTunes Store) or Macが放送局のような状態になってると思います。

そのために、iTVだと、不適切に感じます。

TBSやFNNと「おなじ立場なんだと」という、宣言でもあるとおもいます。
Apple放送局とでもいうべき「Apple TV」なのではないでしょうか。

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