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交渉の場にのぞむ前にしておくべき心の準備

 ネゴシエーション(交渉)に関するテクニックにはさまざまなものがあるが、その多くが「いかに自分の欲する条件に近いものを勝ち取るか」をゴールとしたもの。それはそれで役に立つのかも知れないが、私としてはどちらかというと、今読んでいる「Getting to YES(日本語訳:ハーバード流交渉術)」という本に書いてあるアプローチの方がしっくりと来る。

 この本の筆者(Roger FisherとWilliam Ury)は、一般に良く使われる「交渉は勝つか負けるか」「相手に手の内を見せない」「自分はできるだけ譲らずに相手に譲らせる」などのテクニックは交渉を長引かせるだけだし、その過程で相手との信頼関係を損ねかねないと警告する。

 この本にはいくつかの有効な提言が含まれているので何回かに分けて紹介したいと思うが、まず最初に紹介したいのは、交渉の場にのぞむ前に自分がしておくべき心の準備の話。

 多くの場合、人は交渉に先立って「これ以上は絶対に譲れない線(英語でbottomline)」を引いて望む。例えば給料の値上げ交渉であれば、「絶対に8%以上の値上げを勝ち取る」などというもの。こういう心構えで交渉に望む人のほとんどは、交渉が決裂した場合にどうするのかを全く考えていなかったり、考えてはいたとしても「給料を8%以上値上げしてもらえなかったら辞表を突き付けてやる!他にも職はあるはずだし、しばらくは充電期間を持つのも悪くない」ぐらいの漠然とした思いだけで交渉にのぞむ。

 このアプローチには幾つかの問題点がある。

・交渉が「こちらの要求を勝ちとるかどうか」という二者択一の勝負になってしまう
・「なかなか譲らない」ことが「勝ち」への道につながるため、どうしても交渉が長引いてしまう
・最初に設定した「絶対に譲れない線」が一人歩きしてしまい、それだけが勝敗の判断基準になってしまう
・その判断基準から外れたことを提案されてもどう判断して良いか分からなくなってしまう
・交渉が決裂しそうになった時に「本当に決裂してしまったらどうしよう」と動揺しまう
・動揺したあげくに「絶対に譲れない線」以下で同意してしまう
・「絶対に譲れない線」以下で同意してしまったときに、敗北感を味わうことになる

 筆者が強く勧めるのは、「もし交渉が決裂した場合にはどうするのがベストか」という代替プランをしっかりと考えた上で、それを比較対象のための指標として頭において交渉に望むこと。

 例えば上の給料の値上げ交渉の場合であれば、「他にも職はあるはずだし、しばらくは充電期間を持つのも悪くない」などといったあいまいな考えではなく、「今の貯金額を考えれば、半年は給料がなくても食って行ける。その期間を利用して、今まで勉強したかったけど仕事が忙しくて手がつけられなかったRuby on Railsを徹底的に勉強し、それからネット・ベンチャーの一つに就職する。今よりはたぶん3割ぐらい給料が下がるだろうけど、やたらと金がかかる車の改造とスキー旅行をしばらく我慢すれば良いだけのこと。そのベンチャーが上場でもしてくれればラッキーだし、たとえそうでなくても、ベンチャー企業で自分で企画からプログラミングまでのプロセスに関わるという経験ができれば、長い目で見て自分のキャリアに必ずプラスになるはず」ぐらいの出来るだけ具体的で現実的なプランを立てた上で交渉に望むべきなのである。

 そうすれば、交渉が決裂しそうになった時にも常に冷静でいられるし、予想もしていなかったような提案(たとえば「昇給は5%しかあげられないけど、20%ルールを適用して、その時間は好きなことをして良いことにしてあげる」)を相手が投げかけて来た場合にも、前もって用意しておいた「交渉が決裂した場合の代替プラン」と比べることにより、その場の感情に左右されずに、より現実的で包括的な判断が可能になる。

 私の経験に照らしてみれば、確かに「どうしても交渉を成立させなければ自分が困る」という心理状態の時は相手の言いなりになってしまう傾向があり、「交渉が決裂したらしたでこうすれば良い」と心の準備が出来て交渉にのぞんだ時の方が自分の理想に近い形で交渉を成立させることが出来る傾向があるように思える。

 交渉の場において、相手より有利に立つための小手先のテクニックはたくさんあるが、「(交渉が決裂したときに自分が選ぶべき)魅力的な代替プランを持って交渉に望むこと」に勝る武器はない。前持って用意した「代替プラン」が現実的であればあるほど、自分にとって有利であればあるほど、交渉が決裂することを恐れる必要がなくなり、しいてはそれが交渉の場におけるパワーとなる。

【余談】このエントリーを書いていて思ったのは、例の「男は彼女がいた方が逆にモテる」という人類の永遠の謎(^^)の答がここに隠されているかも知れない、ということ。でも、その話を本文に混ぜると文章の流れが支離滅裂になってしまうので、ここに余談として書いておくことにする。

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Comments

Hiroaki

目から鱗です。

hg

>魅力的な代替プランを持って交渉に望むこと

往々にして代替プランの計画を立てると交渉自体の意味がなくなったりしてしまいます。

ken

BATNAですね^^)
best alternative to a negotiated agreementでしたっけ?忘れてしまった。。。

当然、勝つか負けるかのone offな交渉の場ということも世の中には存在するだろうけど、ビジネスマンとして圧倒的に多いのは交渉後の相手との関係をもある程度考慮しなければいけないロジカルな交渉ですよね。自分もあまり切ったはったが得意じゃないので、後者がメインの方がありがたいです。。。ちなみに前者のパターンはドラマの「24」が何気に勉強になったりすると思いました(笑)。相手を説得するためのレベレッジの使い方(例:「大統領特赦をくれれば、核ミサイルのあるところを教えてやる」みたいな)が極端にせよ、響きます(笑)

HALion

参考になりました。というのも今年度末に会社を辞めようと思ってるのでそこでの交渉時に参考にしようかと思いまして。

会社を辞める理由なんですが、待遇も悪くないし上司もいい人ばかりなので会社とはリンクを張っときたいんですが僕は金と時間のために個人事業主になりたいと考えてます。どう説明しようかと悩んでます。社の人間に言うのは来年1月頃にするんでそれまでにいろいろ考えつつ交渉術の本も読んでみようと思います。

yohmei

BATNAは
best alternative to negotiated agreement
交渉以外の目的達成方法
だそうです。
決裂した後のことも具体的に考えておく、というのは思いもよりませんでした。この前ブックオフで100円で買ってそのままになっていた「決定版 ハーバード流“NO”と言わせない交渉術 (知的生きかた文庫) (文庫)」を読んでみようと思いました。

i

「代替プランの計画」という行為そのものが問題に対する多面的な考え方を促進する事になるのでは?そのことにより問題へのより深い理解が可能となり、そのことが結果的に折衝を続けている期間中の合意点を増やす方向へと働いてるに違いありません

fumi

これ、本当に同感です。
小心者なのでアルタナティブなしで交渉の場に向かえない、というのもありますが。決裂するにしろポジティブに交渉を終わらせないと橋も燃やしてしまう上に相手が再考する場も失われてしまいますよね。
私の経験からしても、いい条件を持ってこられるのは一見(にこやかに)決裂してしまった後だったりしました。

蛇足ですが、仕事にしても、他にフリーランスなどさせてくれる会社なら外に世界を持っているほうが「やらされてる感」が少なく、不満も少ない気がします。「昇級が少なくてもそのくらいならそとでちゃちゃっと稼げるし、この会社でしか出来ないことをやりたくてやっているんだから」という風に。

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