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優秀なナースがいるとシステムがなかなか改善されないという話

 「Why hospitals don't learn from failures(なぜ病院は失敗から学ばないのか)」という論文を読んでなるほどと思う部分があったので、ここにメモ代わりに書いておく。

 この論文の筆者(TuckerとEdmondson)は、医療ミスがなかなか減らない原因を探るために、全米の10の病院を長期間に渡って調査・研究したのだが、その結果判明したのは、「システムの改善」という観点からは、ナースの優秀さと勤勉さが逆効果になっているという皮肉な話。

 「優秀なナース」の定義はどこでも同じで、「目の前の患者が必要としているものを、あらゆる障害を乗り越えていち早く提供する」こと。取り替えるべきシーツが不足していれば別の階に走って行って調達してくるし、新米のナースのミスにはいちいち噛み付くこともなくそのミスを取り繕う。そんなナースたちにとっては、その手の「不具合」や「障害」は避けられないもの。「そんなものにいちいち文句を言っている暇があったら、患者の世話をするべき」というのが彼らの考え方だ。

 調査によると、ほとんどのナースは一日の30分から1時間をそんな「障害を乗り越えるための工夫」に費やしており、そのために残業をしたりすることは日常茶飯事。彼らは、口をそろえたように、「大きな問題があったけど何とか患者さんには迷惑をかけずに解決することができた」日にもっとも充実感を覚えると言う。

 問題は、ナースたちが優秀であればあるほど、システム上の問題点が病院の経営側に伝わって来ないこと。ナースたちにとってみれば、システムの欠陥を指摘する・他人のミスを指摘する・ミスの原因を徹底究明する・経営陣に改善を申し出る、などは彼らの仕事ではなく、そんな暇があったら一分一秒でも患者のためになることをすべき。

 病院の経営陣が、そんなナースたちの「問題解決能力」に大幅に頼って病院の運営を続けているために、いつまでたってもシステムそのものの改善が出来ない、というのがこの論文の要旨である。論文は病院を題材にしているが、筆者が伝えたいのは、この手のことは病院に限らずいろんな職場で起こっているという点である。

 筆者は「だから病院の経営陣は、ナースの日々の活動に常に近いところにいてどんな問題を彼らが解決しなければならないのか、どんなところに余計な時間を費やしているのか観察し、積極的に手を差し伸べてシステムを改善しつづけなければならない。そして、他人のミスを指摘することが個人攻撃にならないような文化を作り、誰もがオープンに自分や他人のミスを語り合える場を作るべき。」と結論付けている。

 いくつか思い当たる点もあるので、自分の経験に照らして反省してみたりした私だが、この手のことは本当に難しい。「あいつはものすごく口うるさいけど、仕事もものすごく出来る」と言われるのが理想なんだが...。

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Comments

bob

「いいシステム」とは「誰が使っても同じ結果が得られるシステム」ですよね。「熟練者が使わないといい結果が得られないシステム」はシステムとして欠陥があるのでしょうが、システムの熟練者は「そのシステムを使って出来ること」に興味があるのであって、システムの作成そのものに興味がある訳ではないのでシステムの改善にはなかなか協力してくれないのでしょう。システムの改善にかける時間があるのなら、その時間を使って出来ることをしたいと思う人が多いでしょうし。

うーん

スキルが必要な困難な事に立ち向かってる自分に酔っちゃって、逆に誰でも出来ちゃうシステムを嫌う事があるのが難しい所ですねぇ。

とおりすがり

>「いいシステム」とは「誰が使っても同じ結果が得られるシステム」ですよね。
明らかに間違いだと思います。
「同じ結果を出す」ことは目的ではありません。

「誰が使っても同じく『良い』結果が得られるシステム」
なら良いシステムと言えるでしょう。

「人によって出る結果は異なるが、平均的により良い結果が得られるシステム」
も良いシステムと言えるでしょう。

時には「最悪の結果に繋がらない」ことが最も重要な場合もあります。


熟練者がシステムの構築に興味がない理由の一つはインセンティブです。特に日本企業は熟練者の技能に対価を支払おうとしないので、熟練者が自分の報酬を引き下げるであろう、そのようなシステムを構築する理由がないのです。

to-risugari

コレ面白い。確かにそうだ。大企業であればあるほどシステムがしっかりしている→社員が働かない→さらにシステムが改善/効率up→社員が働かない→さらに・・・という好循環?になって、一部の秀才、天才が才能を伸ばせるようになっている。
一方、ダメ企業では、一部の秀才、天才がなんとか切盛り→システム改善されない→一部の人間の頑張り次第→ブラック企業化→とにかく頑張り次第・・・という恐ろしいスパイラルに突入する。

心は萌え


システムを作る人間が、
新人としてナースの仕事を2-3ヶ月程度実際に体験して
体験から新システムの要件を作れば良いだけなので問題ないのでは?

ナースさんの仕事は問題点を上げることではなく、
経営者の仕事は問題点を見つけることではなく、
SIerの仕事は問題点を聞くことではなく、問題点を見つけること。

SIerが、経営者に問題点は何でしょう?
とヒアリングする段階で今の構造が誤りだと思う。

現場に立って、自ら手を汚して、体験すれば自ずとわかることだと思う。
さすがに医療システムだといろいろ難しいかもしれませんが
SIerの基本は、現場に立って自ら手を汚すだと思っています。

shibacow

今年の、Cedecでも同じような話がありました。

メインプログラマーはボトルネック?
http://cedec.cesa.or.jp/contents/r18.html

優秀なメインプログラマーが仕事を抱えすぎてしまい、それでもなんとか切り盛りしてしまうが故に、大変であると言う話です。

コンテンツの世界は、属人的な要素が多いので、じゃあ、システムを導入しようと言う話になっても難しいのかも知れません。

hg

「運用でカバー」はどこまでがいいのかバランスの見極めが難しいって感じですね。
ま、運用者の許容量オーバーして死人が出ないとカイゼンされませんけど。

UHOHO

システム構築側としては開発を依頼する前に
経営側と現場で話をしておけといいたい・・・

sati

現場の者としては常日頃からシステムの不具合を感じているのに、いざそれを書面化して改善要求を上に出してみても、「だって今までそれで問題なく運用できてたんでしょ?」と言われて却下されてしまう、なんていう場合もありますね。
問題がおきてからじゃ遅いとか、運用にコツが必要な部分が多いので新人に引継ぎができないとか、そういう"曖昧な未来"を想定して、システム改良に手間隙とお金をかける、という発想ができる組織・経営者、というものにはなかなかお目にかかれません…

naotake

コメント欄のいちばん下が「転職は慎重に。」神がかって面白いです。

さておき、非常に示唆に富んだ指摘ですね。
客観的に合理性の判断できる批判と、そうでない批判では取り扱いが全く異なることに注意して真剣に考えて行きたいと思います。

Dyun

私はテクニカルサポートの経験がございますが、その様な、何らかのトラブルや不満を抱えている顧客に接する職場においては、相手が「今」何を欲しているかを知ることが先決で、後回しにするにしても、まずは対話を通した理解が求められます。顔が見えず、融通も利かないシステムよりも、担当者の親身で臨機応変な対応の方がよほど顧客の満足度に繋がり、しかも結果としてそれが最も低コストというケースもあったりします。
病院など、判断の遅れが人の命に関わる現場では尚のこと、ある意味、経営判断をも超えた判断と言えるのではないでしょうか。梅田望夫さんのブログの最近のエントリーで、Webで外科手術の映像を共有し、互いに評価し合うことで技術を向上させるアイデアが紹介されておりました。システムというと、とかく人的資源の代替としてのシステムを考えがちですが、人間の経験や叡智そのものをよりよく積み重ねるシステムというものも、これからの時代には求められると思った次第です。

i

「優秀なナースがいるとシステムがなかなか改善されない」というのは間違いです、「問題解決を記録、公開しない優秀なナースがいる」と改善されないわけで、そんな中途半端な優秀さは当然中途半端な結果しか出せません

すずき

欠陥に気づいているのに指摘しない,だけではない気がします。
どこまでシステム化できて,どこまで自分で何とかしなければならないか,の線引きは,システムを構築できる人(エンジニア)でないと難しいのではないでしょうか。エンジニアなので「エンジニアでない人の目線」が実感できないんですけど,使いにくいシステムでも別に不満にも思わずに,そういうもんだと自分で何とかしてしまう人たちもいます。機会を与えるだけでは,彼らに欠陥を指摘させるのはムリというもんでしょう。

humu

優秀なナースは優秀なエンジニアではないので,今のやり方は「どこかマズイ」
手順や時間が掛かるのに得られる結果の成果に隔たりが大きい,と感じていたとしても
では具体的にどこ?といわれるとそれを分析するのは本来の適正能力ではないので上手く説明できないし文章にまとめることも難しい

結果「コレをこういう結果になるようにしてほしい」「けど,何をどう直すのかは知らん」ということになる
エンジニアのほうは独自に調査すると直さなければいけないところは大量に出てくるが
どこが優先なのかは分からない,結果的に無駄な修正を延々と繰り返す

10の作業が減ったけど,8の管理作業が必要になったので改善されたけど効率悪いことになったりしがち・・・

Yukio Urano

システム内で効率よく働く人とシステムをつくる人の問題ですよね。日本の場合、問題はもっと深刻だと思います。看護婦は決してトップにはならないけど、日本のサラリーマンは看護婦のように悪いシステムでも実績をあげる人が偉くなる。そういう人には時代にあったシステムをつくる力は無い場合が多い。当方は昔、商社にいましたが、何時も”一流の商社マンが商社を駄目にする。”と言っていました。一流の商社マンは経済原則に逆らうようなこと(ミドルマンが必要ないところでも利益を出してしまう。これは悪いシステムでもこなしてしまう、看護婦と同じ。)を実現してしまう。結局、システムを時代にあったものに変えようとする人よりも、それにうまく適合する人が出世する。これは昭和50年以降、日本の大企業が変わりえなかった原因だと思うのです。 YU

Yukio Urano

システム内で効率よく働く人とシステムをつくる人の問題ですよね。日本の場合、問題はもっと深刻だと思います。看護婦は決してトップにはならないけど、日本のサラリーマンは看護婦のように悪いシステムでも実績をあげる人が偉くなる。そういう人には時代にあったシステムをつくる力は無い場合が多い。当方は昔、商社にいましたが、何時も”一流の商社マンが商社を駄目にする。”と言っていました。一流の商社マンは経済原則に逆らうようなこと(ミドルマンが必要ないところでも利益を出してしまう。これは悪いシステムでもこなしてしまう、看護婦と同じ。)を実現してしまう。結局、システムを時代にあったものに変えようとする人よりも、それにうまく適合する人が出世する。これは昭和50年以降、日本の大企業が変わりえなかった原因だと思うのです。 YU

asu

PGは能力が無くても時間で補ってます。

youmei

私は看護師ですが、この論文に非常に興味を覚えました。優秀なナースがシステム改善を阻むと結論づけているようですが、病院という特殊な場所をシステム化するのが困難であるから、ナースを優秀にさせてしまう・・・ということがあるかも知れません。
例えば、患者の食事に関してですが、一人一人の状態に応じてカスタマイズする必要があるのですが、大病院となれば大量生産をしないことには間に合いません。システム化するには単純化しないとダメなのでしょうが、それには限界があります。
また情報量が大きければバッチジョブで処理されるはずですが、バッチで処理された後にオーダーが変更になることは頻繁にあります。それでも落ち度なく配膳しようと思えば、プロセスの最終段階において”優秀なナース”を配置し、運用でカバーする他ないのではないでしょうか?
「カスタマイズ⇔大量生産」を矛盾なく同時に満たせるシステムはありますか?
病院のシステム開発での成功事例を知りたいです。

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