ここの所モバイルの世界ではすっかりGoogleとAppleにおいしいところをもっていかれてしまっているMicrosoft。そろそろ「撤退」か「全力投球」のどちらを選ぶ時期だと思っていたのだが、ついに「全力投球」を決めたそうだ。
今までは「Windows CEビジネスの延長上」程度にしか力を入れて来なかったWindows Mobileビジネスだが、Steve Ballmerが「開発者の心をAppleに奪われるなんて由々しき事態」と宣言し、主戦力をWindows部隊のトップクラスのエンジニアにごっそりと入れ替えての「体力勝負」に出る事にしたとのこと。
意気込み・人材・資金力のいずれも驚異的ではあるが、いくつか大きな問題も抱えている。
1. OSが時代遅れなこと
AppleがOSXベースの最新のiPhone OSを使っているのと比べて、Windows Mobileはメモリが数メガバイトしかなかったPDA向けに設計されたまだWindows CEベース。これでは戦えない。もちろん、そこはMicrosoftも理解しているのだが、何をするにも時間がかかるため、今年の端末に載るWindows Mobile 6.5だけでなく、来年度以降の端末向けのWindows Mobile 7.0もWindows CEベースのものになってしまうという。つまり、OSレベルで今のiPhoneに追いつくのは、(OSのコアをWindows NTベースのものに入れ替える)Windows Mobile 8.0になってから。これだけでiPhoneよりも4年以上遅れている計算になる。
2. ブラウザーが時代遅れ
先日のブログにも書いたが、WebKitがスマートフォンのブラウザーのデファクト・スタンダードになることはほぼ決まり。それに加えて、HTML5の標準化に関してもAppleとGoogleにリーダーシップを取られてしまっている今、Microsoftがモバイル版のInternet Explorerを開発続けるの理由がどんどんと薄れているのも事実。一生懸命作ったところで、賢いOEMは(Microsoftが何と言おうと)WebKitベースのブラウザーを載せて来るだろうから、そこがまた戦いをいっそう苦しい物にする。
3. 何をするのにも時間がかかること
これはMicrosoft内部にいる知り合いから良く聞く話だが、「最近は何を作るにも昔の2〜3倍はかかる」らしい。ソフトウェアの性質として関わる人間が増えれば増えるほど生産効率は急激に落ちて行くので、3000人を抱えるWindows Mobile部隊の開発効率がどのくらいかは想像が付く(Windowsグループが2000人に増えた時の生産効率はエンジニア一人あたり一日1.5行だったそうだ)。
4. ビジネスモデルが違いすぎること
これは良く知られた話だが、iPhoneの粗利(売り上げから製造原価を引いたもの)は一台あたり300ドルを超えるという。それに対して、Windows Mobileが一台売れた時にMicrosoftが受け取るロイヤリティはわずか数ドル。この差は大きい。パソコンの世界の様に寡占状態を作ることができればこのビジネスモデルも悪くはないが、MicrosoftからOSを決してライセンスしないApple、RIM、Nokiaがスマートフォンのシェアの大半を握る今の状況で戦い続けるには、WindowsやOfficeから得た収益を何年間にもわたってつぎ込む必要があるのが現状。Microsoftがキャッシュに困ることはまずあり得ないが、あまり何年にも渡ってモバイル部門が赤字を出し続けると、株主から「そんな無駄遣いをするぐらいならもっと配当をよこせ」とプレッシャーがかかる。
5. Google Android
聞くところによると、2010年度にはAndroidを搭載した携帯を発売する会社が50社はあり、その多くが中国・台湾からの新規参入企業だという。つまり、Androidのおかげで携帯の開発費が下がったのは良いが、そのおかげで新規参入組が殺到し、競争原理で一気にスマートフォンの低価格化が進むのだ。これにより、OEMによるWindows MobileからAndroidへの乗り換えが増える、Windows Mobileのロイヤリティへの価格圧力が高まる、Windows MobileをライセンスしているOEMのビジネスがなりたたなくなる、などの悪影響が出ることは避けられない。
いずれにしろ、「iPhoneに追いつけ追い越せ」の号令とともにWindows Mobileを戦略兵器として育てる、というMicrosoftの戦いは始まったばかり。人々のネットへの接点がパソコンからスマートフォンへと大きく変わろうとしている今、この戦いは本当の意味で「社運を賭けた」戦いだ。