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トルコ原発受注の舞台裏

(注)このエントリーはあくまでフィクションです。実在する人物・企業とは一切関係ありません。

3月XX日 霞ヶ関経産省本館会議室

経産官僚A: 皆さん、本日はお忙しい中お集りいただきありがとうございます。総理と経産大臣は国会質疑中なので参加出来ませんが、私が代理人として、5月の安倍総理の中東訪問の関して、ご同行いただく皆さんにその目的と手順を確認させていただきたく思います。お手元にの資料には...

...福島第一での事故以来のヒステリー状態から国民が目を覚ますには、まだ数年はかかると見ております。そのため、既存の原発の再稼働はまだ良いとして、国内での原発の新設に関して国民の理解を得るのはかなり難しいと考えております...

...その意味では、日本の原発産業の維持、原発技術の保持という観点からも、海外の原発の受注によりそのギャップを埋めることが何よりも重要と考えております...

...そのためには、日本政府としてもあらゆる外交手段を使って協力をさせていただく所存でございます。そこで、別途もうけさせていただく、企業別のヒアリングの席にて、何がボトルネックになっているかを出来るだけ具体的な形で教えていただきたく存じます...

 

同日 霞ヶ関経産省本館小会議室

外務官僚B:すると、カナダ、韓国がトルコの原発から手を引いたのは、トルコ政府が原発の設置コストまで彼らに負担しろと主張しているから、ということなんですね。

三菱重工専務C:そうなんです。トルコ側はとしては原発は欲しいが設置コストは出せない。電力の買い取りは保証するから、設置コストはそこから回収してくれ、と主張しているのです。

外務官僚B:実際のところ、EU加盟を望むトルコとしては、これ以上財務状態を悪化させるわけにはいかず、そこがネックなんだと思います。ちなみに、三菱さん側ではいくらぐらいまでなら投資して良いと考えているんでしょうか?

三菱重工専務C:私どもとしては、6000億円までの投資は覚悟しています。フランスの GDF Suez からは4000億円引っ張って来れるので、合計で1兆円。総工費が2兆円なので、残りの50%をトルコ政府に負担して欲しいと提案していますが、受け入れてもらえません。

外務官僚B:了解しました。つまり、残りの1兆円をトルコ政府が調達できさえすれば、受注は可能だということですね。考えてみましょう。

三菱重工専務C:よろしくお願いします。ファイナンスリスクをどこまで日本側が負えるかがこのディールの鍵になると思います。

外務官僚B:このミーティングの後、NEXI の板東一彦理事長と会う予定になっているので、この件に関して相談してみます。坂東理事長は、大臣官房審議官も務められていた通産OBなので、このあたりの事情は良くご理解いただいております。

 

4月1X日 トルコ日本大使館会議室

経産官僚D:つまり、国のバランスシートにこの1兆円が借金として記載される点が一番のネックだということですね。

トルコ政府要人E:その通りです。トルコ政府としても、後々電気料金を払うことには何の抵抗もありませんが、巨額な借金を今の段階ですることだけは出来ないのです。

経産官僚D:しかし、 カナダと韓国がこの件から手を引いたのは、そこがネックだったんですよね。少しは譲歩していただけませんか?

トルコ政府要人E:難しいと思います。そもそも、1兆円もの資金の調達は簡単ではありません。

経産官僚D:株式市場から調達というのはいかがでしょうか?

トルコ政府要人E:私たちもそれは考えました。4000億円程度であれば調達は可能だと思います。

経産官僚D:すると問題は残りの6000億円ですね。もし、この6000億円の調達を日本側がお手伝いする、と言ったらどうします?

トルコ政府要人E:日本政府が貸す、ということですか?

経産官僚D:日本政府が直接というのは世論が許さないので、独立行政法人である日本貿易保険 NEXI がファイナンシャル・リスクを追う形を取ることにより、低金利での資金調達をすることは可能だと思います。

トルコ政府要人E:それは助かります。しかし、その場合でも、いきなり6000億の借金を国として抱えるのはリスクが高すぎます。

経産官僚D:というと?

トルコ政府要人E:「プラントが完成し、予定通りの発電が出来る」ことが確認できた点で、株式の買い取りの義務が発生する、という形にしていただきたい、という意味です。工事が遅れたり、何らかのトラブルで発電出来ないとなった時のリスクをトルコ政府としては負えない、という意味です。

経産官僚D:分かりました。そこは契約しだいで何とでも出来ると思います。

トルコ政府要人E:ありがとうございます。

 

4月2X日 総理官邸にて

総理秘書G:トルコは使用済み核燃料の引き取りまで要求しているのか

経産官僚E:ロシアが建設したアキュユ原発の場合には、使用済み核燃料はロシアが引き取っているという前提があるため、日本にもそれをして欲しいとのことです。

総理秘書G:それは難しいな。当初考えていた、六ヶ所で再処理してプルトニウムを取り出して送り返すプランには、米国政府がストップをかけたのは知っているだろう。

経産官僚F:その件に関しては「とりあえずは中間貯蔵施設をトルコ国内に作って保管しておき、最終処分地に関しては両国で協議して決める」という曖昧な表現にしておくのが良いと思います。例のモンゴルの最終処分地の話が決まれば、そこに引き取ることも可能になりますから。

経産官僚E:もう一つの課題としては、売電価格があります。トルコ側は1キロワットアワーごとに 11 セントを主張しており、まだ三菱側が提示している数字とは開きがあります。

総理秘書G:ロシアはアキュユ原発はいくらだったっけ?

経産官僚E:12.35 セントです。

総理秘書G:ロシアより安くしろと言っているのか。

経産官僚E:最新式の原発だから安く作れるはずだ、と主張しているのです。

総理秘書G:落としどころはどのあたりだと君は考えているんだ?

経産官僚E:11 セントの後半だと思います。

総理秘書G:よろしく頼むよ。首脳会談までにはすべてクリアにしておく必要がある。

 

5月X日 トルコ日本大使館にて(総理へのブリーフィング)

経産官僚E:総理、今回のディールのサマリーは以下の通りです。

  • 日本側は日本から三菱重工と伊藤忠、フランスからはアレバとGDFスエズ、という座組ですが、プライム・ベンダーはあくまで三菱重工です。
  • 原子炉は三菱重工とアレバの合弁会社であるアトメアが作りますが、原発の運営はフランスの GDFスエズ社 が担当します。
  • 総工費は220億ドル、約2兆1800億円になります。
  • 工事の開始は2017年、原子炉の営業は2023年を予定しています。
  • 開発資金は70%を日本側が、30%をトルコ側が負担することになります。ただし、トルコ側の資金は原発が実際に電力を提供できることを証明してから入金という契約になっているので、それまでの間は日本側がファイナンスすることをトルコ側は期待しています。
  • 原発事業会社の株式に関しては、51%を日本側が、49%がトルコのEUASが持つことで合意しています。ただし、トルコ側はその半分までは株式市場で売却すると言っています。日本側は31%を三菱重工が、20%をGDFスエズが持つことになります。
  • この事業への巨額と投資は、かなりリスクの高いものとなるため、大半のリスクは独立行政法人である日本貿易保険 NEXIが引き受けることになります。これにより三菱重工は低金利での資金調達が可能になります。
  • 売電価格は 11.8 セントに決まりました。ロシアのアキュユ原発の 12.35 セントよりも 0.55 セント安くなっています。トルコは、その価格で15年間電気を買うことを約束しています。稼働率は70%を想定しています。
  • 使用済み燃料に関しては、トルコ内に中間貯蔵施設を作ることで合意しています。

ちなみに、今回の発表は、最終契約ではなく「排他的交渉権」の獲得です。最終契約までにはファイナンスの細部を詰める必要がありますが、トルコ政府のバランスシートを汚さない形でのファイナンスを日本側が提供しさえすれば契約は取れます。首脳会談で先方がファイナンスの話を持ちかけて来た場合は、出来るだけ曖昧に答えておいてください。あと、使用済み核燃料の最終処分場の問題についても今回は触れないでいただきたいと思います。

 

【参考資料】

 

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