菅直人 vs. 経済産業省の戦いが壮絶になって来た

福島第一原発での事故以来、私も含めてあまり一般の人たちに知られていなかった数々の問題点が見えて来たわけだが、一番注目すべきなのは、今回の事故の、そして事故後の政府と東電の対応のていたらくの諸悪の根源は東電でも管政権でもなく、霞ヶ関の官僚たちだ、という事実である。

そもそも日本の原発を中核においたエネルギー政策は、米ソの冷戦時代に、日本国民の「反核」感情が「反米→共産主義」という方向に傾きかけたとき、米国が「毒をもって毒を制す」と読売新聞の正力松太郎を利用して日本の世論をコントロールして無理矢理押し付けたもの(参照)。「保守=原発推進、革新=反原発」という日本特有の図式が作られたのもその時期だ。

最初は政治指導で原発を押し進めて来た霞ヶ関の官僚たちは、少しづつ「天下りの甘い罠」に陥り、電力業界と癒着し、星の数ほどの「天下りのための原発関連法人」を作り、「いまさら原発を辞めたら自分たちの将来が危ぶまれる」領域にまで踏み込んでしまったのだ(参照参照)。

さすがに今回の事故で、官僚連中も少しは反省しただろうし、政府も官僚の暴走を止めねばならないと認識していただろうと期待していたのだが、そこで出されたのが海江田大臣の「原発安全宣言」(参照)。本来なら「官僚を監督・指導」すべき役割の大臣が、傀儡(かいらい)に過ぎないことを証明する、何とも情けない話だ。こういうビジョンのかけらもないような政治家ばかりだから、国民は政治不信になり、官僚が好き勝手を許してしまうのだ。

ただ、一つだけ希望が持てることは、この「原発安全宣言」は菅総理の了解を得ずに海江田大臣が勝手に発表したものだということが、国会での質疑応答で明らかになったこと(参照参照参照)。菅さんは、海江田さんの顔をつぶしたり、経済産業省の役人の神経をわざわざさかなでするようなことを避けるためか、色々とはぐらかした言い方をしているが、彼の返答を要約すれば、

「今回の『原発安全宣言』は、(経済産業省の言いなりの)海江田大臣が勝手に発表しただけのもので、政府として正式な見解ではない。私としては、今までの法律・組織のままでは原発を安全に運転できるとは考えていないし、国民に納得していただくことは不可能だと考えている。そこで、(原発の危険から国民を守る役目の)細野大臣と(原発を推進する経済産業省の言いなりの)海江田大臣にお願いして、経済産業省の外に「原発の停止命令」も含めた強い権限を持つ組織を作り、そこで新しい基準に基づくストレステストなどを行った上で、現在停止中の原発の再稼働、および運転中の原発の継続許可を与える(もしくは停止命令を出す)というプロセスと法律の枠組みを作ってもらっているところだ(なので、何もあわてて今すぐ原発を再稼働する必要はない)。万が一私が知事に原発の再稼働をお願いすることになるとしても、そういう仕組みが出来た上でのことでなければ筋が通らないと考えている。」

となる。

直接的な言葉は使っていないとは言え、ここまで政治家が官僚に「反旗を翻す」ことは非情にまれであり(外務省に楯突いた結果更迭された田中眞紀子以来?参照)注目に値する。自民党はもちろんのこと、民主党の中や財界にまで「菅おろし」の声が高まっているのはこれが理由だ。政権交代劇で視聴率が稼げる大手マスコミも大喜びで菅さんの足を引っ張っている。

菅さんの狙い通りの組織と仕組みと法律の改正により経産省の権限を抑制することができれば、菅さんの勝ち。その前に原発が再稼働してしまったり、早期の「菅おろし」が成功してしまえば官僚の勝ち。

このまま「官僚主導、政治不在、民意軽視」の世の中が続くのか、本当の意味での「政治主導」の世の中に変わる事ができるのか、日本の将来がかかった重要な局面だ。


ホリエモンを有罪にしておきながら、この東電の粉飾決算を見逃すことは許されない

毎日新聞に「福島第1原発:東電が政府側に渡した文書の全文」という記事が載っているが、それを読んで少し驚いた。まさに東電と保安院がどんな形で、情報の隠蔽(正確には「原発事故の意図的な過小評価」)をしてきたかが良くわかる確固たる証拠だ(こんな文章が表に出る様になっただけ、日本も捨てたものではない)。

とくに驚愕なのは、以下の部分。

(1)地下水の遮へい対策は、馬淵補佐官のご指導の下、『中長期対策チーム』にて検討を進めてきているが、「地下バウンダリ(発電所の周りに壁を構築し遮水するもの)」は現在、最も有力な対策と位置づけ。ただし、対策費用は現状不確定であるものの、今後の設計次第では1000億円レベルとなる可能性もある。

(2)今回の検討の過程で、政府側から国プロジェクト化の示唆(当初は国交省予算)があり、その前提で、設計着手と工事着工の前倒し案が浮上。ただし、現状では、担当府省がどこになるかも含め、国プロ予算の具体化に目途が立っているわけではなく、経産省(原子力政策課)でも最近になり検討を始められたとの認識。

(3)こうした中で、速やかにプレス発表をすべきとの馬淵補佐官のご意向を踏まえ、14日の実施に向け準備中であるが、工事の実施を前提とするプレス発表をした場合は、その費用の概算および当社負債の計上の必要性についてマスコミから詰問される可能性が高い。

(4)また、現在、22年度の有価証券報告書の監査期間中であり、会計監査人から、当該費用の見積もりが可能な場合は、その記載を求められる虞(おそれ)が高い。しかし、極めて厳しい財務状況にある現下で、仮に1000億円レベルの更なる債務計上を余儀なくされることになれば、市場から債務超過に一歩近づいた、あるいはその方向に進んでいる、との厳しい評価を受ける可能性が大きい。これは是非回避したい。

つまり、福島第一原発の放射性物質を安全に閉じ込めるためには「地下バウンダリ」と呼ばれるコンクリートの壁を地下に作る必要があるが、その見積もりコスト(1000億円)を正直に公開してしまうと、それを債務として計上しろと会計監査人に指摘される可能性が高い。それを避けるために「コストも工事の時期も未定」だと説明したい、と言っているのである。

ライブドアの件で知る事になった人も多いと思うが、上場企業の経営者が、会社の財務状況を悪いニュースも含めてすべて公開することは義務であり、それを怠ることは「粉飾決算」にあたり、有罪である。たとえコストが見積もりに過ぎないとしても、ひょっとしたら国から補助が受けられる可能性があるとしても、そういう情報も含めて、企業として背負っているリスクをすべてをちゃんと公開するのが上場企業の経営陣の義務。

1000億円とも見積もられる「地下バウンダリ」のコストと緊急性の公開を怠ることは、まさにこの「粉飾決算」に値する。特に「市場から債務超過に一歩近づいたと思われたくない」という動機に基づいた情報の隠蔽は、まさに「会社の財務状況を実際よりも良く見せよう」という行動であり、決して許してはならない重大な犯罪である。

ライブドアの堀江氏が粉飾決算で実刑判決を受けたことに関しては、「既存の大企業には甘く、ベンチャー企業には厳しいダブルスタンダード」との批判の声も聞くが、もしこれが粉飾決算扱いされないとしたらそれこそダブル・スタンダードである。市場には、原発事故発生後(株価が暴落する前に)すぐに自社株を売り抜けた東電の経営陣がいるとの噂も流れているが(こちらはインサイダー取引疑惑)、そのあたりもふくめた公平で厳正な調査・処罰を期待したい。