
久しぶりのブログ・エントリーである。私が(そして私の回りの人たちが)予想したとおり、FFXI にすっかりハマってしまった。特に最初の2週間はほぼ廃人状態であった。やっと廃人状態を脱して、日本出張で(日本出張中はなにかと忙しい)ブログを書く時間が無く、またシアトルに戻ると FFXI ばかりやっているというのを6月いっぱい繰り返してしまった。一昨日再びシアトルに戻ったのだが、今回は「通常の生活を撮りもどす」ことを硬く心に近い、「これとこれが終わるまでは FFXI はやらない」という課題を毎回自分に課すことにした。今回の課題は、「スポーツクラブに行く、出張中にたまっていた請求書を全部払う、冷蔵庫を食べ物でいっぱいにする、ブログ・エントリーを一つ書く」の4つである。最初の3つが終わったので、4つ目の課題をこなしているのである。
昨日、「International Racing for Executive」というイベントに参加し、初めてレーシング・コース(英語では racing track)で運転するという機会を得た。地元の小児科専門病院 Children Hospital のための基金集めのイベントであるが、レース好きの友人に、半ば強引に誘われ、2ヶ月ぐらい前にサインアップしたのである。
朝8時15分の集合であったが、時差のため5時前に目が覚めてしまう(日本から戻ったのはその前日)。時差特有の頭痛がするし、妙に気分が悪い。何とか寝ようとするのだが、なかなか眠れない。仕方ないので、メールをしたり日本に電話をしたりするが、どうも気分が悪い。仕方が無いので、もう一度ベッドに戻り、とりあえず横になって体を休めたのが6時半である。
そうしているうちにいつの間に眠ってしまったのか、まぶしい朝日で目を覚ますと、既に7時半である。これでは、間に合わない。シアトルより南にあるレース場に行くには、ハイウェイ405を通らればならず、この時間は大渋滞中である。45分で着くはずが無い。
気分も悪いし、行くのはやめようかと思った。しかし、それでは応援に来てくれるはずの友人に申し訳が立たない。そこで苦肉の策として、一度ハイウェイ90を東に向かって走り、そこから南西にハイウェイ18を下るという作戦を立てた。距離は2.5倍ぐらいだが、渋滞は無いはずだ。
食欲が無いので、オレンジジュースを一杯だけ流し込み、時差ぼけでフラフラする体にムチを打ち、車に乗り込む。ハイウェイ90まで裏道を走ると、もう7時45分である。後30分で着くのだろうか、そう思いながら、ハイウェイ90をまっしぐらに東に走る。予想したとおり、片道4車線の道はがらがらで、法廷速度を少し上回る80マイル(約128キロ)での巡航。約15分でハイウェイ18への分岐に着き、そこからは今度は南西に向かう。この道は、片道1車線の部分も多いし、トラックも走っているので、あまり速くは走れないが、とにかくがんばって走る。
もう少しでレース場に着くというときに突然吐き気が襲ってくる。道路わきにあわてて止め、朝飲んだオレンジ・ジュースを土に返す。「こんな状態でレーシングなんて出来るんだろうか?」そう考えながら、時計を見ると既に8時15分である。遅刻だ。
幸い、そこからレース場はすぐで、8時25分にはレース場に着く。目的のテントが見当たらずにうろうろと車を走らせていると、突然目の前にこのレースに誘ってくれた友人ピートが立っている。私の車を見つけて呼びに来たのだ。ああ、さぼらなくて良かった。
テントに着き、レジストレーションのデスクに行くと、ヘルメットを渡され、Release Form にサインしてくれという。この手の危険なスポーツを米国でする時の常だが、「万が一怪我をしても訴えません」、「私の責任で器物を破損した場合は弁償します」という書類である。ろくに読まずにサインする。
テントの中に入ると既に人が沢山着ており、バッフェスタイルの朝飯を食べている。何も食べないと体に悪いと思い、パンと果物をとり、コーヒーで流し込む。やっと人心地が着いたころに、インストラクターが前に出て、今日のイベントの説明をする。私を含めた10人の参加者のために、10台のスポーツ車(ベンツの新車)と10人のインストラクターが用意されており、午前中はレッスン、午後はレースをするという。ずいぶん贅沢なイベントである。もちろん、全てボランティアである。車はベンツのディーラーが無償提供しているという。
「レースの心得」の説明(集中、スムーズな操作、正確な繰り返し)の後、車に向かう。ピカピカのベンツのスポーツタイプが10台並んでいる。創刊である。「器物破損の場合は弁償」の器物ってこれのことか(汗)。まずは助手席に乗り込み、インストラクターが模範運転をする。コース取り、ブレーキのタイミング、などを事細かに説明しながら運転してくれる。全長2Kmぐらいの本格的なレーシング・コースである。第一コーナーの前の直線はしっかりとあるし、ヘアピンコーナーもある。ブラインド・コーナーも幾つかあるので、しっかりと頭に叩き込まないと良い運転は出来ない。
次は私が運転席に座って、初めてのレーシング・コースの体験である。最初はゆっくりと運転をして、コース取りの練習である。外側を走るべきところ、内側を走るべきところ、ブレーキをかける場所が、コース上の赤いコーン(日本語では何て呼ぶのか忘れてしまった。「三角すい」の形をしたプラスチックの表示である)で示してあり、かつ、インストラクターが事細かに指示を出してくれるので、大まかなコース取りはそれほど難しくはない。ただし、インストラクターは、「コーンの30センチ横をタイヤがかすめるように」というのだが、なかなかそんな近くは通れるものではない。
3週目にの直線に入ると、インストラクターが、「アクセルを踏み込んで」という、私がたじろぎながら少し踏み込むと、「全部(all the way)」と言う。車がどんどんと加速を始める。60マイル、80マイル、コンクリートの壁が目の前に迫り、思わずアクセルを緩めると、「そこで緩めては危ない、コンクリートの壁までずっとアクセルを踏み続け、そのままゆっくりとハンドルを右に切り、コンクリートの壁ぎりぎりを、アクセルを踏見続けて続けて第二コーナーに向かうのです」と言う。
ヘアピンカーブを過ぎると、再び「アクセルを全部踏み込んで」という。目の前は道が盛り上がっているのでブラインドになって先が見えない。アクセルを踏み込む気にどうもなれない、「大丈夫だから踏み込んで」といわれ踏み込み、盛り上がりを超えると、「ここで思い切りブレーキを踏んで」という、一瞬遅れて踏むと、そのまま第4コーナーに入ってしまい、ハンドルを切りながら、さらにブレーキを踏むと、インストラクターが怒る。「ハンドルを切りながらブレーキを踏んではだめだといったでしょう。」
「そんなことを言ったって、こんなスピードでカーブに突っ込ませたのはあなたでしょう。」という気持ちを抑えながら、第5コーナーを過ぎると、再び、「アクセルを全快にして」と言う。加速し始めると、「そのままあそこに見える杉の木に向かって加速を続けて」と第6コーナーの先の木を指差して言う。言われた通り加速をしていくのだが、体が言うことを聞かず、第6コーナーの手前でアクセルを緩めてしまう。そのままハンドルを切りながらコーナーに入ると、「アクセルを緩めたら駄目じゃないか。アクセルを緩めたままカーブを切ると、車が不安定になると教えたでしょう」と怒られる。
その後何回かは、同じ失敗を繰り返してしまった。特に第1コーナーのコンクリートの壁が迫ってくると、どうしてもアクセルを緩めてしまうのだ。しかし、あるタイミングで、第6コーナーでやっと成功することができた。加速をしながらハンドルを切って第6コーナーに入り、車がまっすぐになった瞬間に思いっきりブレーキを踏むのである。そして、ハンドルを切る寸前にブレーキを離し、加速しながらカーブを乗り切るのである。頭では分かっていながら、体にそれを言い聞かせるのは大変であった。
自身をつけて、第1コーナーに向かう。物理の法則と、車の性能を信じて、コンクリートの壁に向かって加速しつづける、60マイル、80マイル、100マイル(約160キロ)、壁が左に迫る。歯を食いしばってアクセルを踏み続け、ハンドルを少しづつきり始める。車は、アクセルを緩めた時よりも、明らかに安定した走りで、さらに加速し続ける。110マイル、120マイル(192キロ)、第2コーナー前の直線に入り、そこでブレーキを踏み込む。「出来ましたね。今の走りの方がずっと安定していたことが分かりましたか?」と言う。やっと褒められた。「でも、次は第2コーナーに入るとき、もっと右の壁ぎりぎりに切り込んでいってください。」注文が多い。
そんなこんなを繰り返しながら、午前中のレッスンも終わりに近づく。4人目のインストラクターにヘアピン・コーナーのこなし方を教わっている最中に、突然吐き気がする。あわてて、コース脇の芝生に止め、今度はコーヒーとパンを地面に返す。インストラクターは心配そうである。「大丈夫か。休んだ方がいいぞ。」夢中で運転していて、体調が最悪なことを忘れていた。そこで、リタイアし午前中の練習は終わりにしてもらった。
幸い、その後2周ぐらいで午前中のレッスンも終わり、ランチの時間である。またもビュッフェ・スタイルだが、今度は遠慮して、果物と水だけにしておく。何人かのインストラクターが、「大丈夫か」と声をかけてくれる。一人のインストラクターは、「こんなときは、分厚いステーキに限る。焼き方はどうする。ミディアムか?」と言う。アメリカ人らしいジョークである。日本人がアメリカで暮らし始めて、最初にとまどうのがこの手のジョークである。そもそもそれがジョークだとは分からず、かつ、聞き取りが上手でないので、「何と言いましたか?もう一度ゆっくりと繰り返してくれませんか?」と言って、相手に気まずい思いをさせるのが常である。
午後になると、午前中の成果の評価が始まる。同じようにインストラクターが隣に座るのだが、いっさい指示は出さず、私が教わったことをきちんと実行しているかどうかを評価するのである。教習所で、仮免を取ったときのような緊張感である。なかなか、満足する走りはできなかったが、最後の2・3回は、結構思ったとおりに走れた。特に最後の第一コーナーは、壁ぎりぎりを綺麗に加速しながら第2コーナー前の直線に突っ込めたと思ったので、インストラクターにたずねると、「アクセルとハンドルさばきは良かったが、壁からは7フィートぐらい(約210センチ)ぐらい離れていた。2フィート(60センチ)ぐらいに近づかなきゃだめだと言う。そんなこと言ったって、160キロのスピードでコンクリートの壁の60センチ脇を走れって言うのは無理ですよ。加速し続けるって体に言い聞かせるだけで大変なんだから。
そんな内に、午後のセッションも終わり、最後にゲスト・ドライバーたちによる模範運転である。朝の模範運転とは違って、最高速で走ってくれると言う。たまたま乗った車のドライバーは、米国人で最初にF1グランプリに勝ったフィルという人である。たぶん、F1ファンには憧れの人なのだろうが、私にはさっぱり分からない。フィルはもう60は過ぎていると言うのに、さすがにすごい運転を見せてくれた。F1ファンに申し訳ないと思いながら楽しむ。
その後、表彰式があり、私は most improved award (最も運転が上手になった賞)をもらう。「これって、私の運転がそんなに下手だったっていうことか?」と思いつつ、とにかく表彰状を受け取る。ここで、正式なイベントは終わりだが、サービスとして、本当のレーシングカーに乗せてくれると言う。私には、F1とF2の違いも分からないので、それが何だったかは不明だが、とにかくレーシングカーに乗せてもらう。ベンツとは大違いで、エンジンの音はバカでかく、スピード感が全然違う。第一コーナーの直線でスピードメーターを見ると160マイル(256キロ)である。そのままコンクリートの壁の横をすれすれに横切っていくスリルといったら、ジェットコースターの比ではない。ドライバーのちょっとしたミスで、木っ端微塵になるスピードだ。
帰り際に、インストラクターの親分にお礼の挨拶に行く。すると、「車に酔うっていうことは良くあることだ。普通は助手席の人が酔うんだが、運転手が酔うこともあるんだ。心配するな。」と言う。「いや朝から気分が悪くて」と否定するのだが、「気にするな、かっこ悪いことじゃない」と慰めてくれる。思いっきり勘違いされてる。まあいいか。
なかなか貴重な体験をさせてもらった。インストラクターは、「またぜひ来てくれ。BMWを持っているならちょうどいい。自分の車で運転すれば良い。」というが、また行くかどうかは分からない。確かに、うまくカーブを乗り切れたときに快感はスキーでうまく滑れたときに10倍ぐらい気持ちがいいが、とにかく神経の擦り切れるスポーツである。体調が悪かったせいもあるかも知れないが、とにかく疲れた。何時間もの耐久レースをこなせるレーサーは、とにかく強靭な精神力と耐久力の持ち主である。
ちなみに、おかげで時差がすっかりと取れた。家に帰って風呂に入り、9時半にはベッドに入り8時間じっくりと眠った。おかげで、体調もすっかり戻り、今日は元気に仕事も出来たし、このブログも書けた。結構刺激的な1日であった。