オンライン・ゲーム・ビジネス
2004.07.07
仕事のために始めたとはいえ、FFXI にハマってしまい、このブログの記事も滞りがちである。ならば、FFXI に関してのことを書けば良いとは思うのだが、このブログをよくある「FFXI 日記」にしてしまうのも悔しい。そこで、今回は、FFXI を通して学んだ、「オンライン・ゲームとはいったい何か?」をソフトウェア・ビジネス業界に働く人間として書いてみようと思う。
オンライン・ゲームが今までのゲームを大きく違う点は3つある。
1.ユーザー自身がコンテンツの一部である
2.オンラインの世界は24時間存在し変化しつづける
3.オンライン・ゲーム・ビジネスはサービス・ビジネスである
1.ユーザー自身がコンテンツの一部である
従来のオフライン型のゲームは、ゲーム端末にカートリッジやCDを入れて走らせれば、どのユーザーも同じコンテンツを体験することができた。つまり、ユーザーが体験する仮想世界の100%がそのゲーム・カートリッジ/CDの中に書かれている0と1の集まりで記述されているのである。画面に出てくるキャラクターやモンスターなどは、全てコンピューターが作り出したものである。
それに対して、オンライン・ゲームは、ユーザー自身が仮想世界を構成する重要な一員である。上のスクリーン・ショットは FFXI のものだが、真ん中にいる私の分身であるキャラクターの後ろに見えるキャラクターは、同時にログインしている他のユーザーの分身である。FFXIというゲームは、そのキャラクターを通して、他のユーザーと会話をしたり、一緒にモンスターを退治に行ったりする所にゲームの本質がある。その結果、FFXIで遊ぶ人たちは、もっぱら「他のユーザーたちと一緒に遊ぶ」ためにログインしてくるようになっている。その結果として、当然友達関係が生じ、コミュニティーも作られてくる。
つまり、「コンテンツ製作者」が作るのは、オンライン・ユーザーのための「遊び場」である。ユーザーが経験する仮想世界は、「遊び場+他のユーザー」であるところがオフライン型のゲームを大きく違う。言い換えると、ユーザー自身およびユーザーの集まりで作られるコミュニティーが(他のユーザーから見て)コンテンツの一部として重要な役割を果たすのである。
2.オンラインの世界は24時間存在し変化しつづける
オフラインのゲームにおいては、その仮想世界はユーザーが実際に遊んでいる間のみ(ゲーム端末上のメモリー上に)存在し、遊んでいないときはメモリーカード上にデータとして格納されているだけである。当然のことながら、メモリーカード上に格納されている間には何の変化も起こらない。「一時停止ボタン」で止めたビデオのようなものである。
それに対して、オンライン・ゲームは、(サーバー側に)24時間常に存在しており、私がログインしていようがいまいが、お構いなしにどんどん変化し続ける。私が狩ろうとしていたレアなモンスターは他の人に狩られてしまうかもしれないし、私が苦労して達成したハイスコアは次にログインする前に破られてしまうかもしれない。
つまり、オンラインの世界は、決して止まることはなく、ユーザーがログインしていようがいまいが、存在し続け、変化し続けるのである。
3.オンライン・ゲーム・ビジネスはサービス・ビジネスである
オフライン型のゲームにおいての「コンテンツ製作者」の役割は、原則としてゲームが完成したときに終わる。ビジネスの成功は、製作者の作り出した仮想世界そのもの市場性と、営業・マーケティングできまる。実際に、そのゲームがビジネスとして成功するかどうかは、ほとんどの場合、発売後数週間の売れ行き(もしくは発売前の予約状況)からおおかた予想できるという。つまり、勝負は「発売の前日」まででほぼ決まるのである。
これに対して、オンライン・ゲームの場合は、発売してからが本当の勝負である。「どうやって健全なコミュニティーを育てるか」、「初期にユーザーの数が非常に少ない時期をどうやってしのぐか」、「どんな方法でユーザーたちを引き止めるておけるか」、などといった「サービスの運営」が、ビジネスの成功の鍵となる。発売直後にユーザー数がピークを迎えるオフライン型のゲームと違って、オンライン・ゲームの場合、(1)ユーザーが数ヶ月から数年という長い期間遊ぶ傾向があり、(2)ユーザー数が発売後少しずつ増えていく、という特徴がある。コミュニティーが確立されてからの方が面白くなるというオンライン・ゲームの特性、既存の会員が知り合いを「いっしょに遊ぼう」と誘う伝染的マーケティング(viral marketing)の結果である。
ちなみに、私がマイクロソフトにいた最後の2年(退社したのは2000年の一月)は、"Sotware is service" (ソフトウェアはサービス)というキャッチフレーズの基に、さまざまなプロジェクトやイニシアティブが作られた。インターネット時代における、ソフトウェア・ビジネスのあり方として、(月々の課金の形で使用料を徴収する)サービス型のビジネス・モデルを真剣に考えるべきとの判断であった。あれから4年過ぎたが、いまだにマイクロソフトのソフトウェアの大部分は従来のアーキテクチャーのままで、CDからのインストールを必要とするし、ビジネス・モデルもほとんど変化していない(Windows や Office を無理やりサービス型で売ろうという試みはあったが成功しているとは聞いていない)。
オンライン・ゲームのビジネス・モデルは、まさにマイクロソフトがこの "Software is service" のキャッチフレーズで目指しているものであり、それがパソコンではなく、「携帯」や「ゲーム」という市場で最初に起こっているのは、なんとも皮肉なことである。
以上が、私から見た「オンライン・ゲーム・ビジネス」である。今までのオフライン型のゲームと作り方もビジネス・モデルも違い、マイクロソフトが参入したくてしかたがない、「サービス型のソフトウェア・ビジネス」を先んじてしまっている、という点が非常に興味深い。
こうなったら、もっと理解を深くするためにも、しばらくFFXIを続けるしかない(笑)。今日は、どこにモンスターを狩りに行こうか…
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