ユビキタス羊[1] まえがき
ダ・ビンチ・コード

ユビキタス羊[2] 「端末は窓」の意味

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これは、このブログを利用して執筆中の「ユビキタス・コンピューターは電気羊の夢を見るか」の第2章である。以前の章は、以下のリンクからアクセス可能である。
 1.まえがき

 従来型のアーキテクチャーがユビキタス時代に適さないのであれば、いったいどんなアーキテクチャーが適しているのであろう。その答えは、前の節で述べた、「端末はネットワーク側にあるアプリケーションやコンテンツにアクセス可能にするための『窓』である」、という発想を理解すればおのずと見えてくる。

 そうは言っても、従来の「アプリケーションとはパソコンにインストールして走らせるプログラムのこと」という既成観念にとらわれている人にはなかなか理解しにくいことかもしれない。そこで、パソコン以前からあるコンテンツの代表例である、「プロ野球の試合」を例として、「端末は窓」の意味を明確にして行こう。

 プロ野球の好きな人がプロ野球の試合を楽しむ方法は、幾つかある。

(1)野球場に行って観客席に座って観戦する。
(2)テレビで観戦する。
(3)ラジオで聞く。
(4)新聞で結果を読む。
(5)携帯電話で「野球中継アプリ」を走らせ、リアルタイムで試合の進捗状況を知る。

 このうち、実際に観客席に座って観戦する、という場合をのぞいては、ユーザーと実際の試合との間に、コンテンツをユーザーに届けるための何らかのネットワーク(VHS電波、新聞配達の少年、など)と、ユーザー側でコンテンツをユーザーにアクセス可能にするデバイス(ブラウン管、スピーカー、新聞紙など)が存在する。もちろん、ネットワークごとに伝送スピードに違いがあるし(新聞配達の少年は光のスピードでは走れない)、デバイスの機能もさまざまである(動画を新聞紙に印刷する技術はまだ開発されていない)ため、ユーザーに届けられる情報の量や質、即時性はそれぞれことなる。この場合、「プロ野球の試合」というコンテンツが、それぞれのメディアに適した形でユーザーに届けられるという意味では、まさにTV、ラジオ、新聞、携帯電話、というそれぞれの端末(新聞を端末と呼ぶのには抵抗があるかも知れないが、ユーザー側の「端」でユーザーにユーザーインターフェイスを提供しているという意味では、まさに端末である)が、コンテンツにアクセスする「窓」の役割を果たしている。

 これと全く同じことを、オンライン・ゲームからビジネス・アプリケーションまで全てひっくるめて、「コンテンツ・アプリケーションはネットワーク側にあるもの、端末はそれにアクセスするための窓」という考えを当てはめると、ユビキタス時代のアプリケーションのあり方が見えてくる。

 例えば、オンラインゲームの代表格であるFFXI (ファイナル・ファンタジーXI)を考えてみよう。現在、このゲームはパソコンとPS2のみからログインして遊ぶことができるのだが、携帯電話からログイン出来るようにしても当然のコンテンツである。このゲームの全ての「状態」は、各端末のメモリーカードではなく、サーバー側に保管させてあるため、全く別の種類の端末からログインしても、そのままゲームを続行することが可能なのである。もちろん、現時点の携帯電話の性能ではパソコンやPS2と同等の3次元世界を表現することも無理であるし、現行の従量課金式の通信料金ではお金がかかって仕方が無い。そこでコンテンツを提供する側は、その端末性能・ネットワーク性能の限界を理解した上で、それに適した見せ方でコンテンツを提供してあげれば良いわけである。ちょうど、ラジオ局のプロデューサーが、「音声だけしか送れない」という制限のなかで、いかに聴取者にプロ野球中継を楽しんでもらおうかと頭を絞るのと全く同じである。

 同じように、ワープロや表計算などのオフィス・アプリケーションも、オンライン・サービスとして生まれ変わるべき時代が来ていると思う。メールに添付されてきたプレゼンの資料が、マイクロソフトのPowerPointのインストールされていないパソコンでは開くことも出来ないというのは、全く馬鹿げている。つい数時間前に、パソコン上で私自身が書いたばかりの文書に、私の携帯から簡単にアクセスすることが出来ないのはどう考えてもおかしい。既存のユーザーに何とかバージョン・アップして欲しいという理由だけのために、年々肥大化しかえって使い難くなって行くマイクロソフトのオフィス・アプリケーションにうんざりしているのは私だけではないはずだ。どんな添付ファイルも、アプリケーションをインストールすることなく、かつ、ウィルスの心配も無く、どんな端末からも開くことが出来る時代、複雑なアプリケーションもユーザーにとって必要な機能だけ簡単に呼び出して使える時代、こそが、ユビキタスの時代である。

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