最多安打に続いてノーベル賞
2004.10.05
イチローの最多安打記録更新の興奮のまだ冷めないシアトルに、もう一つすばらしいニュースが届いた。シアトル出身で、現在もシアトルのフレッド・ハッチソンがん研究センター(Fred Hutchinson Cancer Research Center)で働くリンダ・バック博士(Dr. Linda Buck)がノーベル医学賞を受賞したのだ(正確にはリチャード・アクセル博士と共同受賞)。
興味深いのは、日本では日本人がノーベル賞を受賞すると「日本人が」受賞した部分をことさら強調して大騒ぎするが、アメリカの場合、「アメリカ人が」という部分はあまり強調されない。珍しくもないからだろう。ところが、それが「シアトルの人が」ということになると、がぜん地元の放送局が張り切りだすのが、すごく田舎っぽくて楽しい。
ちなみに、受賞は「動物の嗅覚システムの解明」だ。要約するとこんな内容である。
人間は1万から10万種類もの匂いを嗅ぎ分ける力を持っていることは知られていたが、どうやってそれほど膨大な種類の匂いを嗅ぎ分けることが出来るかは、全く解明されていなかった。そこで、バック博士とアクセル博士は、そこに何らかの匂いの受容体(receptor)のようなものが絡んでいるに違いないと予想し、システマチックな実験を繰り返した。
その結果、人間には約350種類、マウスには約1000種類の受容体があることを突き止めた。ただし、一つの受容体が一つの匂いを嗅ぎ分けるわけではなく(それでは人間は350種類の匂いしか嗅ぎ分けることができない)、一つの匂いが複数の受容体を刺激し、その信号の組み合わせによって受容体の種類よりも遥かに多くの種類の匂いを嗅ぎ分けることができるのである。
バック博士は受賞インタビューにおいて、「受容体で匂いを嗅ぎ分ける仕組みは、ちょうどアルファベットの組み合わせのように働きます」と言っている。つまり、受容体それぞれにアルファベットで符号をつけ、受容体 r, o, s, e が反応すれば「バラ」の香りと感じる、というようなものである。
さらに、バック博士らは、反応した複数の受容体からの信号が、それがちょうど「辞書」のような仕組みを持つ組織で一つの神経細胞へのシグナルにマップされ、それが脳の上層におくられるというところまで解明したそうだ。「ただし、その信号を脳の上層でどう処理しているかはまだ全く解明できていません」というバック博士の言葉は、現代医学において、脳が最後のフロンティアーであることを思い出させてくれる。映画解説者の水野晴夫さんではないが、「科学って本当にすばらしいですね」とつくづく思う。
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