「おまかせ」文化論
2004.10.08
最近、日本とのやりとりが増えたので、専任の通訳の人を雇ってメールや掲示板でのやり取りを翻訳してもらっている。その通訳の人が、「どうしても適切な英語の訳が浮かばない」と困ってしまったのが、「おまかせ」という日本語である。
レストランが旬のお勧め料理を出してくれる「おまかせコース」、ユーザーの見たいだろう番組を予想して録画してくれる「おまかせ録画機能」など、「おまかせ」という言葉は日常良く使う言葉で、決して難しい言葉ではない。では、どうしてプロの通訳を持ってしても「適切な英語の訳が浮かばない」と言わしめてしまうのか考えてみた。
一つは、日本語特有の「自明な主語は言わなくとも良い(もしくは言わない方が良い)」という特徴である。上の二つの例では、「シェフ」と「機械」にまかせているわけだが、そんな自明なことを言わないのが日本語である。しかし、英語だと "up to ○○" だとか、"○○'s choice" などと明示的にまかせる相手を指定しないと文法的に正しくないという欠点がある。そのため、レストランの「おまかせコース」なら、"chef's choice" と翻訳できるのだが、「おまかせ」だけだと翻訳不能なのである。
もう一つは、日本独特の「あいまいさがあっても相手を信頼する」文化である。アメリカのレストランでは、"Today's special"、"Chef's choice" などと、一見「おまかせ」に相当するものがあるが、ほとんどの場合、それが実際には何があるか(差込の)メニューに書いてあるか、ウェイトレスが説明してくれる。日本の「おまかせ」のように、何が出てくるか分からないまま注文するアメリカ人はほとんどいないと言っていい。色々な人種やバックグラウンドの人たちが集まってできたアメリカでは、原則としては相手を信頼せずに全てを契約書ではっきりさせる、という習慣が日々の生活にまで浸透しているのである。日本人が「おまかせ」を頼む時は、「『おまかせ』って言うぐらいだから旬のおいしいものが出てくるに違いない」と期待に胸を膨らませるものだが、アメリカ人だと「何が出てくるか分からないのに高い金が払えるか」と思うのである。
日米間のビジネスにおいても、すごく細かな点まで指定してくる米国の企業に併行する日本企業や、「おまかせ」的な契約書を交わしてしまって後で思いっきり足元を見られてしまう日本企業などが沢山いるはずだ。米国の企業と契約を交わすときは「あいまいさ」は禁物である。相手に「おまかせ」してしまうのは、もっての他である。
ちなみに、「おまかせ」という言葉を聞くと、「プロポーズ大作戦」を思い出してついほくそ笑んでしまうしまうのは私だけだろうか。公開合コンのような形式で番組が進み、見事にカップルが誕生すると、男の子が女の子の指定した場所にキスをするという儀式がある。すぐに「おでこ」とか「ほっぺ」とか言ってしまえばいいのだが、女の子がモジモジしていると、司会者の西川きよしが、「おーまかせ」とはやしたてるのである。そこで女の子が、「おまかせします」というと、男の子は口にキスをするというのが「しきたり」となっていた。私は結構この番組を見ていたが、一人として「口にお願いします」という女の子もいなければ、「おまかせします」と言われて口にキスしなかった男の子もいなかった。この辺も、今になって思えば思いっきり日本人らしい行動である。
アメリカ暮らしが長いこそからかもしれないが、こんな日本の「おまかせ」文化が妙に良く思える今日このごろである。
たしかに、「おまかせ」というと"Chef/Today's Special"というのが一番に思い浮かびますね(メニュー付)
アメリカで、「おまかせ」をするときは、相手に服従/降伏したとき、それ以外の時は自分に意思がない人がする行動なように取られるような気がします。
やはり、寄せ集めの人で出来ている国だからこそ、お互いの関係をはっきりさせないといけない文化なのでしょうね。
おまかせ料理といえば、SF(正確には San Mateo)の Brasserie Tomo がお勧めです。飛行場から近いので、ベイエリアによる際、是非一度お試しください。
Brasserie Tomo
140W. 25th Av., San Mateo
tel:(650)578-0880
Posted by: shun | 2004.10.14 at 18:41