宮崎アニメを飼い殺しにしている米国ディズニー
2004.10.15
この本「宮崎アニメの暗号(青井汎著 新潮新書)」も、先の「人間の証明」と同じく、先月成田空港の書店で買った。宮崎アニメは、「少年コナン」から「千と千尋の神隠し」まで全て見ている私なので、つい題名に引かれて買ってしまった。今日まで読む機会がなく、たった今、「シアトル→東京便」の中で一気に読んだ。
「どうせ『宮崎おたく』がうんちくを書いているだけだろう」とあまり期待せずに読み始めたのだが、結構真面目に勉強して書いてあり、「こんな解釈のしかたもあったのか」と思わせる箇所が幾つもある、なかなかの良書であった。宮崎ファンにはお勧めの一冊である。
宮崎アニメのすごいところは、あっという間に視聴者をその世界に引き込んでしまう「世界観」の作りこみの巧みさだと、私は常々思ってきた。著者は、そのバックグラウンドに宮沢賢治の作品への思いだとか、一神教以前の古代宗教への崇拝とかが色濃く出ており、だからこそ宮崎駿の「世界観」に見る人の心を揺さぶるほどの力があると主張しているのである。著者の言うこと全てに納得が出来たわけではないが、これを読んでもう一度ゆっくりと宮崎アニメを見直したいと思ったし、宮沢賢治の作品も少し読んでみようかと思った。
ちなみに、常々思って来たことだが、宮崎の作品の全米での独占配給権を持ちながら、ちゃんとロードショーもしないで飼い殺しにしている米国ディズニーが私には許せない。「千と千尋…」がアカデミー賞を受賞したときに、私の周りのアメリカ人ですら「どうして上映してくれないんだろう、見に行きたいのに」と言っていた。日本の人たちには信じられないかもしれないが、全米ロードショーをしなかったのだ。完全に足元を見られてしまっている。
多分、ディズニーとどうしようもない「契約」を結んでしまったのだろうが(前に「おまかせ文化論」で述べたように、「ディズニーにまかせておけば安心だ」などと「おまかせ契約」を結んでしまったに違いない)、そんな契約はさっさと解約して別の配給会社を探すべきだ。例えば「全ての作品において、全米少なくとも100の映画館で最低でも2週間は上映し、広告・宣伝費には200万ドル以上使い、売り上げが1000万ドルを超えなかった場合は、こちらから一方的に契約を破棄してよい」ぐらいの条件を複数の配給会社に突きつけて、一番良い条件を提示して来たところと契約する、ぐらいのことをしなければだめだ。ボランティアでも良いから、契約交渉の席に立ち会って、誇るべき日本のアニメ文化の頂点の作品を世界の人々に広めるのに協力したいぐらいだ。
ディズニーの怠惰と傲慢さには同感!でも、その裏には宮崎作品の持つ精神性に対しての危惧がある気もします。考えすぎかなあ・・・。アメリカに暮らしていると、この国がいかにキリスト教支配の国であるかがよくわかります。人種の坩堝なんて言われているにもかかわらず。彼の作品はその一神教的な世界観をゆるがせにしかねないインパクトがあるから、それらを見て育った少年少女たちの時代になったとき、「逆らうものはねじ伏せる」的な従来の「強いアメリカ」ではなくなってしまうのでは?なんて、考えちゃってるんじゃないかしらん?一種の情報操作かも・・・なんて書いていて、アメリカだったらやりそうなことかもしれないなんて薄ら寒くなったりして・・・。もしくは、ディズニー作品低迷の昨今、作品の質があまりにも違いすぎて、嫉妬の末、飼い殺しにしているのかも・・・。
Posted by: sumie | 2005.02.12 at 03:19
sumie さん、コメントありがとうございます。ディズニーとしてもピクサーとの件もあるし(ピクサーが契約更新に応じなかったために今後はディズニー以外がピクサーの作品を配給することになる)、かなり危機感を持っているのではないかと思います。宮崎アニメに関しては、あえて大きなリスクを負ってまで全米ロードショーをして、ピクサーのようなディズニーから独立した形のブランド力を持たれてしまっても困るというのが本音に近いところではないでしょうか。
ディズニーとしても、単なる配給会社には成り下がりたくないはずで、いかに内部のクリエーターを育ててブランド力を維持して行くかが大きな課題になっていると思います。
Posted by: satoshi | 2005.02.12 at 04:51