桂花ラーメン
PCのコモディティ化

IP電話 vs. NTT

041228_184417  短い間とは言え、NTTに一度席を置いた身としては、「IP電話革命」がNTTのビジネスにどんな影響を与えるのか、興味深く見守っている。SkyPe などのパソコン向けのIP電話がすぐにNTTのビジネスを脅かすとは思えないが、ヤフーBBなどが提供するブロードバンド系のIP電話は、普通の電話機をそのまま繋げば使えるようにした点が、大きな脅威である。

 IP電話を提供する側の言い分は、「NTTの提供する電話網は circuit switch という一世代古い技術を使っており、非常に高価な交換機とネットワークを必要とする、それに対して、パケット網で使うルーターは二桁以上安価で、ネットワークもインターネットのバックボーンを利用できる。そのためNTTよりずっと安価にサービスを提供できるのだ」である。それに対して、NTTの言い分は、「今のパケット交換方式では、電話に必要な安定した QoS (Quality of Service)を提供することができない。 NTTは 110番・119番も含めたサービスの安定提供のために多くの投資をしており、『安かろう悪かろう』のIP電話と値段だけ比べられても困る」である。

 どちらの言い分にももっともな部分があり、最終的にはサービスを受ける側のユーザーが、値段の安いIP電話に軍配を上げるか、サービスの質の高いNTTを使い続けるか、で勝負が決まる。NTTとしては、どこまで値段を下げられるか、IP電話側としては、どこまでサービスの質をNTTに近づけられるか、が鍵である。

 そんな戦いを他人ごとのように観戦していた私だが、今回の引越しで当事者として「IP電話にするかNTTにするか」の選択をすることになった。今度入居する新築マンションには、有線ブロードネットワークス(以下「USEN」と省略)の光ファイバーが敷設されており、ブロードバンド・インターネット・サービスはすでに管理費の一部だし、IP電話もわずか月々525円の基本料金で利用できるのだ。昔お世話になったNTTには申し訳ないが、例の電話債券の価値もゼロになることだし、ここは思い切って、IP電話に切り替える決断をした。

 しかし、IP電話の問題点は、申し込みの時点から見え始めた。申し込み用紙の記入のしかたが非常に分かりにくいのだ。そこで、カスタマー・センターに電話をしてみるが、全然つながらない。いつ電話しても、「ただいま込み合っております」というメッセージが流れ、ひたすら待たされるのだ。しかたがないので、あいまいな部分は勝手に解釈して申込書を記入し、不安を抱えながら送付したのが先週のことである。

 今週になりNTTにサービスを終了することを伝える。すると、新しい番号を教えてくれれば、メッセージを流してくれるという。USENにIP電話を申し込んでから一週間以上たつので、そろそろ電話番号も決まっているだろうと、再びカスタマー・センターに電話をするがやはり簡単には繋がらない。そこで、スピーカー・フォンにして他のことをしながら待つと、50分ほどしてやっと繋がる。この段階で、「こんな調子で、故障でもしたらすぐにサービスが受けられるのだろうか?」と少し心配になる。

 事情を説明すると、「少々お待ちください」と待たされる。しばらくして、「お客様の申込書はまだデータベースに入力されていません」との答えが帰ってくる。「そう言われても、来年の7日には新しい住所に住むのだから、それ以前に新しい番号は教えて欲しい」と言うと、「データベースに入力されていないので何とも言えない」の一点張りである。不安になり、「7日には引っ越すのですが、それまでには電話は繋がるのですよね」と聞くと、「通常申し込みから2-3週間かかりますが、いつ開通するかは保障できません。お客さんの申込書はこの段階でまだデータベースに入力されていないので、たぶん7日にはむりだと思います」という。まるで、申込書のデータベースへの入力が遅れているのは不可抗力であるかのような無責任な発言である。

 そこで、「引っ越して電話なしで何日も過ごすわけには行かない、少なくともいつから電話が使えるようになるか教えて欲しい」と言っても、「データベースが…」と繰り返すばかりである。やむ終えず、「そんなことも保障できないなら、NTTを使うしかないがそれでもいいのか」と言ってみるが、全く反応しない。マニュアル通りにしか反応できないバイト君らしい。

 しかたがないので、ひとまず役に立たないバイト君は解放してあげることにし、マンションのディベロッパー経由で、USENのマンション営業の担当者にコンタクトする。事情を説明するとさすがに恐縮しているが、もっと悪いニュースをくれた。申し込み後、2~3週間でまずIDとメールアドレスが発行され、それからさらに約一ヵ月後にIP電話が開通するそうである。「何とか早くするように手を回す」とは言ってくれたが、一連のプロセスでUSENに対する信頼度は地に落ちてしまった。

 この段階でUSENには見切りをつけ、NTTに電話をする。116にダイアルしてわずか数秒で繋がる。引越しの日を伝えると、当然のようにその日に工事をしてくれると言い、さらに、その場で新しい電話番号をくれる。非常にてきぱきした対応で、まさに「顧客サービスはこうあるべき」という訓練をきちっと受けた対応である。当然、NTT内部では書類手続きだとか、データベースへの入力、工事に必要な人員の確保などがあるだろうが、そんな「裏方の事情」を顧客には一切見せない、とても気持ちの良い対応であった。

 とりあえず今の段階での結論であるが、やはりまだIP電話はNTTに太刀打ちできていない、というのが正直な感想である。それも、IP電話の問題点は、「IPv4 のパケットネットワーク上で QoS が保てない」などの技術的な問題にあるのではなく、「顧客サービス」というもっと身近な所にある、というのが今回の経験から学んだことである。とかく「技術的な優位性」ばかりかかげて、トータルなサービスの質やコストを考えずにビジネスを考えてはいけないという良い反面教師である。

Comments

ぶらぶら

非常に参考になるエントリーでした。父もNTTのサービスの高さに好感を持っており、会社の電話はNTTに直接取り付けてもらったようです。
ただ、ケイ・オプティコムの光ファイバーサービスはネット接続料・通信料・電話アダプター料込みで、月5200円がとても魅力的です。電話番号も変えなくていいそうです。ただ、質が心配。周りにもまだ光の人がいないし。様子見している所です。

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