一枚の絵に命を賭けて…
2005.01.09
今日は、久しぶりに「本気モード」で大工仕事をしてしまった。一昨年の誕生日に妻にプレゼントした絵を、ついに壁に掛けたのだ。
ここまでのびのびになってしまったのには、さまざまな事情があるのだが、私がシアトルに置きっぱなしにしていたのが一番の原因である。足掛け2年でついに日本に上陸した絵を、妻が「ここに掛けて欲しい」と指定した場所は、なんと家の中でも最も困難な場所であった。ここまで待たせた手前、指定の場所に絵を掛けるぐらいのことはしなければ男がすたる。
なぜ困難か、というと壁がレンガだからである(マンションなのだが、建築家がこだわってそこだけレンガの壁があしらってある)。釘が打てないし、何も張り付けることが出来ない。その上、マンションの規約上「共用部」にあたるため、ドリルで穴を開けるわけにも行かない。
そこで、今はやりの「ピクチャー・レール」という仕組みで取り付けようと東急ハンズに行くと、どのピクチャー・レールも壁に向けてねじ止めしなければならないタイプだ。店員に相談すると、強度的な都合上、天井に向けてねじ止めするタイプのものは無いそうである。代用品を一緒に探してもらうが、使える物が見つからない。天井がよくある「プラスター・ボード(石膏ボード)」であるため、どれも強度的に問題があるのである。
私が困った顔をしていると、その店員は親切にも別のベテラン店員を連れてきてくれた。その店員はさすがにベテランだけあり、すらすらと「お客様の必要としているようなものは置いていませんが、『ねじくぎ』よりも垂直方向の引っ張り強度の強い特殊な『留め具』があるので、それと他の部品を組み合わせれば可能かも知れません」と、その『留め具』のところに連れて行ってくれた。
その『留め具』はなかなかの優れもので、小さな釘を三つ互いに異なる角度で打ち込むことにより、2.7キロまでの垂直加重に耐えられるのである(「ああ、あれか」と思い浮かべてくれる人は多くないかもしれないが、ちょうど遺伝子を細胞内に打ち込むタイプのウィルスのモデル図に似た形をしている)。それを4つ使えば十分な強度が得られそうである。後は、4つ穴のプレートでピクチャーレール用のワイアを引っ掛けられるようになっているものさえ見つければ良い。
ベテラン店員にお礼を言い、そこからは一人で探したのだが、かなり苦労してしまった。通常のフック類を全て見たのだが、私の必要としている形のプレートは存在しないのである。半ばあきらめ気味に捜索範囲を広げると、「耐震装置コーナー」というところがあり、家具を地震でも倒れないようにする仕掛けなどを売っているのである。かすかな期待を持って見てみると、ワイアで家具を壁に固定するタイプの仕掛けがあり、その部品の一つが私のイメージしていたフック付き4つ穴プレートにぴったりなのだ。
そこで、その「耐震装置」、「ウィルス型留め具」、「ピクチャー・レール用ワイア」を購入し(4000円近くかかってしまった)、早速家に帰って取り付け始める。するとまるでその3つの部品は、あたかも最初からそう使われることを前提に作られていたかのようにしっくりと組み合わさり、私のイメージ通りに絵を掛けることができるではないか。
もちろん妻には喜んでもらえたが、一番喜んでいるのは、この「難しいエンジニアリング・チャレンジ」を解決できた私である。ソフトウェアのプロジェクトでも、複数の部品を組み合わせて動かさなければならないことが多いのだが、ほとんどの場合が計画通りには行かない。それだからこそ、たまにこのケースのように「一発でうまく行く」とものすごく気持ちが良いものである。
[追記:2月21日]
絵を壁にかける方法について解説してある良いページを発見。このページによると、この「ウィルス型留め具」は一般には「Xフック」と呼ばれているらしい。このページには石膏ボード向けではないと書いてあるが、私の買ってきたパッケージには、「石膏ボード向け」と書いてあった。どちらが正しいのだろう。一ヶ月経った今でも絵は無事に吊るされているので、とりあえずは問題なさそうだ。
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