経済後進国ニッポン
2005.02.18
先日書いたライブドアのニッポン放送株の買収の件であるが、大方の予想通りリーマン・ブラザーズは堀江氏から借りた株を大量に売り出し始めた。
この「ニッポン放送買収騒動」で最後に笑うのが誰かを予想するのはとても難しいが、最初に笑うのがリーマン・ブラザーズであることは明確である。どうしても買収の資金が必要だったライブドアに、株価の変動に応じて自動的に転換価格の変動する特殊な転換社債(MSCD)を発行させ、堀江氏個人の株を大量に空売りして株価を下げた所で社債を株に転換して返却することにより、800億円の払い込み(24日)の前に数十億円(株価しだいでは100億円以上の)利益を確定させてしまうのだから、みごととしか言い様がない(MSCDに関しては18日付けの毎日新聞速報に良い解説記事がある)。
今回のリーマン・ブラザーズの動きに関して、「海外のはげたかファンドは許せない」だとか、「合法なら何でもして良いのか」というリーマン・ブラザーズに対する批判の声が上がっているが、とんだ「お門違い」である。批判すべきは法的準備を速やかに進めることの出来ていない日本政府である。
国民の貴重な税金を使って救済した新生銀行の上場で「濡れ手に粟」の利益をリップル・ウッドに持っていかれたときも、世論の主な批判はリップル・ウッドに対してのものだったが、これも全く同じで、非難すべきはあんな条件で銀行を売却してしまった100%政府である。
リーマン・ブラザーズにしろ、リップル・ウッドにしろ、投資銀行のインベストメント・バンカーやヘッジファンドのマネージャーの仕事は、こういった「法律の整備の整っていない国の法律のはざま」や、「株価のひずみ」を利用して投資家の資金を増やすことである。彼らはハーバードなどの世界の頂点の学校で、ノーベル賞級の経済学者から最新の経済学・統計学を学び、世界中のマーケットに目を光らせて、こういったチャンスをうかがっているのである。
これは(またも野球を使った比喩で申し訳ないが)、一塁ベースにいるランナーがピッチャーのわずかな隙をうかがって盗塁を試みようとしているのと全く同じである。厳しい練習の末に得たテクニックと脚力を使って盗塁王になった選手に対して、「盗塁はずるい」と言ってもしかたがないのと同じく、法律の隙を突いて巨額の利益を得るヘッジ・ファンドのマネージャーに対して「合法ならば何でもしていいのか」と言うのは子供のたわごとである。
こういうことをされたくないなら、早急に法律を整備し、この手の手法(この場合はMSCDを持っている投資家が空売りにより株価を人為的に下げること)をはっきりと禁止する法律を整備すべきである。日本の株式市場は、法律の面でもそれを取りしまる組織の面でも、米国と比べ大幅に遅れており、このままでは海外のヘッジファンドの餌食になることは目に見えている。
シアトルに住む知り合いのMBA取得者にこの件を話すと、「その手法は明らかに米国では違法だと思う。でも、日本の法律がそれを禁止していないのなら、その方法でヘッジファンドが儲けようとするのは当たり前だよな」とのコメントをくれた。リーマン・ブラザーズにとってみれば、日本の株式市場での取引は、「手を使っても何の罰則もないサッカーの試合に出る」みたいなものなのだろう。彼らにとってみれば、そんな国で試合をするときに手を使ってゴールにボールを運ぶのは「当たり前」のことなのだ。
こんな米国人のメンタリティーを理解せずに、「投資家のモラルが必要」などと検討違いの話をしているから日本人は痛い目にあうのだ。早急に法律を整備しないと、日本の株式市場は海外の投資家の餌食になってしまう。日本政府の人たちには、ぜひともこの事件を教訓にいち早く法律の整備をしていただきたい。
(ちなみに、今日の写真は息子が作ってくれたオリジナルのスイーツである。バニラアイスクリームに溶けたダークチョコレートと、みじん切りにしたイチゴを乗せて冷やして作っただけだが、とてもおいしかった。反抗期のまっただなかでかなり苦労させられているのだが、この辺りのセンスだけは天下一品である。)
Comments