パッケージビジネスの終焉
2005.03.08
開発のエンジニアたちにはずいぶん無理をしてもらったが、何とかオン・デマンド・ティービー社の VOD(video on demand)サービスの発表にこぎつけることができた。「ユビキタスなユーザー・インターフェイス・テクノロジー」をうたい文句にしながら携帯電話でしかビジネスが成立していなかった弊社としては、とても重要なマイルストーンだ。ここを借りて、関係者の皆様にお礼を申し上げたい。全てのユーザーインターフェイスがサーバー側からオンデマンドでダウンロードされて動くという「ブラウザー的」なウェブ・アプリケーションでありながら、使い心地はC++ などで作りこんだ組み込み型のソフトウェアに劣らない、という UIEngine の利点を十二分に生かしたものに仕上がっており、今後のサービスの展開が楽しみである。
これで、2005年は名実ともに「VOD元年」となったわけで、今後のVODマーケットの展開からは目が話せない。ドコモの iMode サービスが始まったのが1999年末であるから、そのパターンを踏襲すれば、2006年にはほとんどの人の知るところになり、2007年には「クラスのほとんど全員のうちにVODがあるのに、なぜうちにはないの?」と子供たちが騒ぎ始めることになる。普及率が20-30%ぐらいになったときに、「皆が持っているから」という心理状態が(子供にも大人にも)働き、一気に60-70%ぐらいの普及率まで駆け上がるのが、日本のマーケットの特徴である。その意味では、オン・デマンド・ティービーの「2100円で映画見放題」というプランが起爆剤になって市場が一気に立ち上がってくれるのではないかと期待している。
ちなみに、新聞や雑誌では「映像コンテンツの時期メディアは Blue-ray と HD-DVD のどちらになるか」などという議論がよくされているが、そんなことよりも、「5年後・10年後にコンテンツを『物』として流通させる形のパッケージビジネスがそもそも存在するのか」という心配をしたほうが良いと思う。あらゆるところにネットワークと端末のある、「ユビキタス・ネットワーク」、「ユビキタス・デバイス」、の時代になると、VODに代表されるサービス型のビジネスへのシフトが加速され、従来型のパッケージ型ソフトのビジネスモデルにしがみつく過去の勝ち組が、負けてもともとの意気込みの新規参入組みに淘汰されてしまう可能性があるから要注意である。
音楽に関しては、Winny のような違法なものはさておき、iTune に代表されるダウンロード型のビジネスモデルへのシフトがすでに始まっている。しかし、私はこの形は過渡的なものでしかなく、ある時点で RealNetworks の提供する Rhapsody のような、「聞き放題サービス」(古くからある「有線放送」の形)に落ち着くと信じている。その際には、ユビキタスなデバイス・ネットワークで安心して使えるユーザー認証や課金の仕組みだとか、オフラインでの視聴を可能にする著作権保護付きキャッシュの技術などが当然必要になるが、それさえ実現すれば、「月々ある一定の料金さえ払っていれば、どの端末でも音楽が聞き放題」という「コンテンツがユーザーに帰属する」時代の実現が可能になる。
ゲームに関しても同じで、「FFXI」クラスのヘビー・ユーザー向けのMMORPGから、東風荘に代表されるカジュアルなオンライン・ゲームまで含めた、大きな意味での「オンライン・ゲームへのシフト」はすでに始まっている。それに加えて、「膨大な開発費をかけてゲームを作り、数百万本以上売って一気に回収する」という従来型の「売り切り型」のコンテンツ・ビジネスが、さらなるゲーム端末の進化についていけるかどうかはゲーム業界にとっては大きな課題である。たとえ次世代のゲーム端末が、実写と見間違えるばかりの3D空間を再現する性能を持っていたとしても、その性能を引き出すコンテンツを作るのに現状のコンテンツ作りの10倍のコストがかかるとしたら、ビジネスとしては成立しないのである。それよりは、月額課金により安定した収入を確保しつつ、サービスとしてコンテンツを提供するオンライン・ビジネスの方が、ビジネスとしては遥かに安定しており魅力的である。
こうやって考えてみると、映像・音楽・ゲームという従来CDやDVDの形の「パッケージ」の流通により成立していたビジネスが、(ダウンロード流通などというなまやさしいものではなく)月額固定額で「見放題」、「聞き放題」、「遊び放題」というビジネスにシフトするのも遠くないような気がして来る。そんな意味でも、他社に先駆けて「見放題」、「聞き放題」のサービスを提供しているオン・デマンド・ティービー社とRealNetworks社にはエールを送りたい。
OnDemandTVスタート、おめでとうございます!
この前テレビを買ったときにXMBというデスクトップ環境が使いやすいと実感してソニーの液晶テレビにしたのですが、テレビのライフタイムを考えると、こちらのアプローチの方が数段上ですね(もちろんネットワーク化が前提になりますが)。
Posted by: nob seki | 2005.03.09 at 14:56
関さん、お久しぶりです。デバイスの顔(ユーザーインターフェイス)を誰が持つのか-デバイスメーカーかサービスプロバイダーか、ひょっとするとその先のコンテンツプロバイダーか-という問題点は、こんごデバイスがネットワークに繋がって来れば来るほど出てくる問題点だと思います。目が離せませんね。
Posted by: satoshi | 2005.03.09 at 15:32