江戸時代から続くクローン技術
粕鮭(カスジャケ)ブレーク中

Cell の美学

050410_084603  少し前の日経エレクトロニクス(2・28号)にソニーの Cell チップに関しての久多良木氏のインタビューが載っていたが、そこに興味深い発言を見つけた。

日経エレ Cell に内蔵される「SPE」といわれるCPUコアは8個ですが、この数の根拠は何でしょうか。
久多良木氏 「2のべき乗だから」、この一言に尽きる。これは美学です。コンピュータの世界においては、2のべき乗が大原則になっています。それ以外にはあり得ない。実は開発の途中で、米国のホテルで、それこそ徹夜状態で侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を展開したことがあります。IBM社のチームも、6個にしようと提案してきた。でも僕の答えは単純、「2のべき乗」。この美学にこだわった結果、チップ寸法が221平方ミリになってしまった。この大きさは、半導体を作る立場からは好ましくない。なぜなら1ショットで露光できる面積を考慮すれば185平方ミリよりも小さくしたかった。この面積を超えたことで2倍の手間がかかってしまうのは分かっていましたが、チップ寸法やコストはいずれ時間が解決する。でもコンピューティングの歴史を変えようという勝負の中で、2のべき乗のルールから外れることは、僕には許せなかった。(以下略)

 この発言に関して、一人ディベートをしてみた。

A.賛成意見 この「エンジニアの美学」こそがソニーの創業時から伝わるソニー・スピリッツである。ソニーという会社は単に株主のものだけではなく、そこで働く技術者、世界中にいる「ソニー・ファン」のものである。久多良木氏の言うとおり、コンピューティングの歴史を変えようというほどの革命的なことをしている時に、チップの製造コストや歩留まりなどの小さなことのために妥協すべきではない。

B.反対意見 大学の研究所ではないのだから、美学などという理由でチップの設計を決めるのは間違っている。そもそもCell チップは、SPEを偶数個なら幾つ持っても良いように設計されているのだから、製造コスト・歩留まり・消費電力・市場のニーズなどを見据えた上で、「その段階でSPEを幾つ乗せるのが最適か」をビジネス面から見て柔軟に決めて行くべきである。せっかく革新的なチップを作っても、市場でビジネスとして成功しなければ意味が無い。

 ライバル会社から「悪の帝国」とも呼ばれるぐらいに「市場で勝つこと」を最優先にして突っ走ってきたマイクロソフトに長くいた私は、9:1ぐらいでBの気持ちの方が強い。そのせいか、こんな発言を聞くと不安になってしまうのだ。

 良い例が、GUI(グラフィック・ユーザー・インターフェイス)を最初に作ったゼロックスである。大学の延長のような環境を研究者に与えているゼロックスの研究所は、今のウィンドウズやマックの基礎になる技術やアイデアを数多く生み出したのだが、ビジネスとして成功させたのはゼロックスではなくアップルやマイクロソフトだったのである。

 これを「たとえビジネスとしては成功させることが出来なかったとしても、業界の人たちはGUIを発明したのはゼロックスの研究者だと知っているから良いのだ」という見方もあるかも知れないが、私は株式会社のありかたとしては間違っていると思う。せっかく自分の会社の研究者が発明したものをビジネスに結び付けられなかった当時のゼロックスの経営者は、株主に対する責任を果たしていないと思う。

 一介のエンジニアが言うならいざしらず、SCEの経営者である久多良木氏が、「Cell のSPEの数は、当面の製造コストよりも『美学』を優先して8個にしました」と堂々と言ってしまうところがすごいと思う。そのSCEが、「とにかく勝負に勝つこと最優先」という正反対のカルチャーを持つマイクロソフトと次世代ゲームマシン市場の覇権を目指して戦うのだから目が離せない。

Comments

野狐禅

なんか適当な数字を言ってみてと言われると、なぜだか128とか256などと言ってしまいます。

Cyberoptic

はじめまして、勝手にトラックバックさせていただきました。
コメントをつけていただいてありがとうございます。

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