事故防止の難しさ
2005.04.26
原発事故の時もそうだったが、今回の事故のようなものを見ると思い出すのが、NTTに入社したての研修期間での経験である。そこで「事故防止の難しさ」を身をもって実感することができた。
大阪吹田市の小さな電話局に3ヶ月ほどいたのだが、昼休みになると毎日のように非常ベルがなるのだ。上司によると、昼食中に顧客からの電話を受けたくない中小の事務所がいっせいに電話を「保留」状態にするため、システム側が断線事故と誤解して警告を鳴らすのだそうである。
それなら「システムを変更すべきではないですか」と私が言うと、その電話交換機は二世代前のもので、新しい機種に更新したときにはこの問題は解決するという。つまり、この電話交換機の減価償却が終わるまでは、この電話局の人たちは毎日のように昼休みには非常ベルを聞いて仕事を続けるしかないという。
当然、人間の性(さが)として、皆、昼休みに鳴る非常ベルにはすっかり慣れてしまい、誰もわざわざ立ち上がって、それが本当に無視して良い警告かどうかの確認はしていなかった。ミーティングの最中などは、(うるさいので)非常ベルのスイッチをオフにしてしまうことすらあった。幸い、私の研修期間中には何の問題もなかったが、もし偶然にも昼休みにすぐに対処すべき問題が起こっても(例えば110・119番を繋ぐシステムがダウンしても)、速やかな対応が行われる体制には無かったことは明らかであった。
今回のJRの事故も、「多少の遅れは、スピードを出して取り戻す」のが暗黙の了解として日常業務の中に組み込まれており、そこに「前回のオーバーランで警告を受けたばかりの新人が再びオーバーランをしてしまってあせっていた」という状況が重なり、事故に繋がってしまったのではないかと思える。
当然、JRはこの事故の後には、それなりの対処をするだろうが、事故の前に誰かが警告したとしてもきちんと対応できたかどうかは疑問である。NTTが不必要な非常ベルを鳴らし続けるシステムを更新できなかったのと本質的には同じ問題なのではないかと思える。
ちなみに、NTTの電話局で毎日のように警告を鳴らしながら無視されているランプが、しだいに「2001年宇宙の旅」の HAL2001 に見えてきたのを覚えている。まるで「私を無視すると後で痛い目にあうぞ」と不吉な笑いをたたえているいるように見えた。今回の挿絵は Photoshop のベクターデータのみで描いた HAL2001 風の警告ランプ。
初めまして。ガ島さん経由でやってきました。TBさせて頂きました。今後とも宜しくお願い致します。
アラームの件ですが、航空機事故でも同じように誤作動と思って放置した結果、重大事故に繋がった例があります。そこで、アラーム解除には、違ったシステムが導入されたりしました。また、チェルノブイリ原発事故でも同様にアラームが鳴っていたにもかかわらず、切ってしまったことが原因の一つとなっています。人為的ミスの重なりが重大事故に繋がるということを、全ての人が教育を受けたりする必要があると思います。これは分野を問わず、有効なことだと思っています。
まさに「オオカミ少年」状態が、日常の業務の中で起こっているのです。
Posted by: まさくに | 2005.04.26 at 19:36
コメントありがとうございます、まさくにさん。航空事故でも、チェルノブイリでも、アラームが絡んでいたとは知りませんでした。確かに、誤動作するアラームは、アラームの意味を無くしてしまうので、とても重要な問題ですね。確か、東京のどこかの私鉄でも、過密ダイヤのせいでアラームがなりっぱなしの線があると聞いたことがあります。事故に繋がらないと良いのですが…
Posted by: satoshi | 2005.04.26 at 20:34