Viral Marketing(バイラル・マーケティング)は、直訳すると「ウィルス型マーケティング」になるが、より正確に表すには「伝染型マーケティング」だとか、「自己増殖型マーケティング」とでも呼んだほうが良いだろう。Viral Marketing とは、テレビや新聞などを使った「マス・マーケティング」をする資金のないベンチャー企業や、それだけの投資リスクを負いたくない企業が低予算で一気に大量の顧客を確保したい時に使う「裏技的」マーケティング手法である。「バイラル=口コミ」と勘違いしている人が多いので要注意である。
米国では hotmail が、全くの無名のベンチャー企業でありながら、viral marketing の手法で、わずかの期間に数百万人のユーザーを確保した例が良く知られている(その結果、マイクロソフトに買収され、創業者と投資家に数百億円の利益をもたらした)。日本では、ドワンゴが他の企業よりも2年以上も遅れて着メロサービスを始めたにも関わらず、やはり viral marketing の手法で、わずか一年半で100万人超のユーザーを確保し、一気にトップ3に躍り出たことが良く知られている。
Viral marketing の本質は、「顧客・ユーザーがその商品を使うことにより、意識しないうちに自然に他の消費者にその商品を紹介・宣伝してしまう」という自己増殖の仕組みを商品そのものに埋め込んでおくことにより、倍々ゲームで顧客・ユーザーを増やしていく点にある。
Hotmailは「無料のメール・サービス」であるが、ユーザーがそのサービスを使ってメールを送ると、メッセージの最後に、「このメールは無料メール・サービス hotmail を使って送られました。興味がある人は www.hotmail.com へどうぞ」という一言が追加される仕組みが組み込んである。これにより、ユーザーがhotmailを使ってメールを送るたびに、そのメール・メッセージが間接的に広告としての役割を果たすのである。その結果、ほとんど宣伝コストをかけずに指数級数的にユーザーを増やすことが出来たのである。Hotmailの創業者の偉いところは、設立当初からメール・サービスの viral 性に気がついており、「ほとんどマーケティング・コストをかけずに、短い期間に大量のユーザーを確保する」というマーケティング・プランを設立当初からの戦略として持っていた点である。
ドワンゴは、既に着メロ市場というものが確立してしまっている市場に後発組として参入する際に viral marketing の手法を使った。それまでの着メロサービスが「自分のために着メロをダウンロードして楽しむ」サービスだったものを、「着メロを人にプレゼントすることのできる」サービスとして提供したのである。この仕組みにより、「ドワンゴの着メロサービスに加入したユーザーが、他のユーザーに着メロをプレゼントするたびに、結果的にサービスを宣伝する」という viral marketing の効果が加わり、数ヶ月で30万人、1年半後には100万超のユーザーを抱え、トップ3に躍り出たのである。
どちらにも共通しているのは、商品そのものが人と人のコミュニケーション(メールを送る、着メロをプレゼントする)を促す商品である点である。そのため、「商品を使うこと」そのものが「商品の認知度を高める」ことに直接貢献することができるのである。ここが、「満足したユーザーが他のユーザーに薦める」というユーザー側の能動的な行動を必要とする「口コミ」との根本的な違いである。アマゾンや楽天のアフィリエイトの仕組み、もしくはアムウェイのようなしろうと販売員の仕組みを viral marketing に含めて考える理論家もいるが、私はやはり「ユーザーの能動的な行動が必要」という理由から viral marketing には含めて考えない。あくまで「商品を使う」という自然な行動そのものが商品の認知度に繋がらない限り、指数級数的な伸びは期待できない。
Viral Marketing は上手に使うと非常に効果的だが、必ずしも全ての商品に適用できるわけではない点を注意すべきである。例えば、原則として一人で食べるカップ・ラーメンに応用しようとしても難しい。ただし、双方向通信を可能にするインターネット関連の商品にしか適用できないかと言うわけではない。広義で捕らえれば、(ずいぶん古いが)松田聖子を使った「ポッキーでおもてなし」というキャンペーンも、「既存のポッキー・ファンが友達を『ポッキーでもてなす』ことにより、他の消費者にポッキーを食べてもらう」という viral marketing の一手法と見ることも可能である。
Viral marketingの手法が一番効率良く適用できそうな分野が、モバイル・コンテンツとオンライン・ゲームだと私は常々思っている。一昨日のブログに書いた、「資金もなく、社員も二人しかいない会社がとても良い対戦型チェス・ゲームを作ったとします。どうやって売るのが良いでしょう?」という質問に対する私なりの答えは、「チェス・ゲームのサービスを加入者(=購入者)間だけの閉じたものにせず、加入者が非加入者と対戦できるような仕組みを作ることにより、viral marketing 効果を狙う」である。
任天堂DSには、「近くにあるDSからゲームをダウンロードしてきてマルチ・プレーヤーで遊ぶ」ことを可能にする仕組みが組み込んであるが、これも全く同じ viral marketing 効果を狙ってのことである。この機能を使うことにより、(カートリッジを一つ買えば複数の子供たちが遊べてしまうので)売り上げが減るのではないかと勘違いしている人たちが業界にはまだいるらしいが、全く逆である。そんなカートリッジを持って歩き回る子供たちが「歩く広告塔」となってくれる効果を考えれば、プラスの効果の方が遥かに多い。