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動物行動心理学のケチャップのパッケージへの応用

050531_104736 日本ではどうか知らないが、米国ではここ数年の間に condiments (ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシングなど、食べ物に味を付けるもの総称。英和辞書では「薬味」と訳されているが、少しニュアンスが違うと思う)のパッケージが大きく進化した。

 本体が squeezable (=中身を絞り出すことが出来る)なペットボトルになったのは当然だが(日本では考えられないが、米国では数年前まではガラス瓶に詰めて売られていた)、ここ2~3年は、フタを下にして置くことを前提にしたパッケージが主流になりつつある。

 使おうとしてすぐ出るようにするために、もしくは最後まできちんと使うために、ケチャップなどをフタを下にして冷蔵庫に入れておく行為は多くの人が既にしていることだ。そういったユーザーの声を反映し、最初からそれを前提にし、フタを大きくして座りを良くし、かつ、商品名の印刷も逆さにしてしまったのだ。

 このパッケージは主婦たちに大評判だが、一つ問題がある。私も含めた男たちは、ここまでしてもらっても、つい今までの習慣でフタを上にしてしまってしまうのだ。「フタがあるものを置く時は、フタを上にして置く」という行動を何十年もしてきた私にとっては、フタが大きくなったり、印刷が上下逆になったぐらいでは、幾ら妻に文句を言われようと、行動を変える事は不可能なのだ。特に冷蔵庫に何かを戻す時は、脳の大半は(仕事だとか、ゴルフだとか)他のことを考えているケースがほとんどなので、こんな細かなことに注意を払うのは不可能に近い。

Fish_eye  この問題は、動物の行動心理学を応用すれば簡単に解決出来ると私は思う。ヒントは、熱帯魚に良くみられる、眼状斑だ。後ろから近づこうとする敵を混乱させるために、小さな魚が体の後方に持つ目玉模様の斑点のことである(左の写真参照)。

 それを応用し、本当のフタは中身と同じ色(ケチャップであれば赤、マヨネーズであればクリーム色)にしておき、底の方の何センチかをわざとフタっぽい色(例えば青)に塗ってしまうのである。そうしておけば、私のような人間が、特に何も考えずに冷蔵庫に戻しても、きちんとフタが下になって置かれる、という仕掛けである。

 「動物の行動心理学を人間に応用するなんて不謹慎だ」と思う人もいるかも知れないが、ユーザー・インターフェイスを開発をしている現場の人間は、常にこんなことばかり考えているものだ。

 (と、単なる「科学うんちく」を、一見仕事に関係があるように見せかけてきれいに終わらせた最後の段落が、実は眼状斑そのものだっていうことに気づく人は何人いるだろう…)


フレンチ・ドレイン

050531_084528 Memorial Day Weekend も今日で3日目。今日は、庭の一部の水はけが悪くなっているのを解消するために、フレンチ・ドレイン(French Drain)を作った。

 水はけの悪くなっている部分から、水を逃がしたい方向に向かって幅20センチぐらいの溝を掘る。水がきちんと流れるようにスロープをつけ、そこに フレンチ・ドレイン専用の小さな穴の沢山空いたパイプを砂・砂利などで埋め、その上にピート・モス(乾燥腐葉土のようなもの)と芝生の種を混ぜたものをかぶせれば出来上がりだ。

 なぜ、フレンチ・ドレインと言うかは不明である。以前、知り合いのアメリカ人何人かに尋ねたことがあるが、誰も知らなかった。ついさっき、インターネットで少し調べてみたが解は見つからない。たぶん、最初にこの技術をアメリカ(もしくはイギリス)に伝えた技術者がフランス人だったなどという他愛のない理由なのだろう。

 ちなみに、写真の右手前に写っているのは、この手の作業をするときにとても便利な「ひざ置き」。ズボンが汚れなくて良いし、硬いところでも痛くない。材質はたぶんウレタンで、マウスパッドを分厚くしたみたいなものである。


メモリアル・デー・ウィークエンド

050529_095447 今週末は、Memorial Day を含んだ Memorial Day Weekend と呼ばれる3連休。シアトルの長い雨季もそろそろ終わりである。庭用品や植木を売る hardware store は、夏支度を始める人たちでごった返し、食料品を売る grocery store は、バーベキュー・パーティの準備に大忙しな人たちであふれかえる。

 我が家も土曜日は、知り合いを集めてバーベキュー・パーティ。天気はラッキーなことに最高で、これでパーティ・ホストの責任は8割がた済んだようなもの。

 コスコで買ってきた特大のリブ・アイのステーキ(8枚で約5キログラム)を焼く役割は私。アメリカには「ステーキを焼くのはお父さんの役目」みたいな伝統があるが、我が家の場合、たまたまステーキの焼き方に最もこだわっているのが私なので、都合が良い。

 強火の直火で一気に表面に焦げ目を付けて肉汁を閉じ込め、その後は間接の火でオーブン全体を暖めるようにしながらゆっくりとミディアム・レアに仕上げるのがコツ。切った時に、切り口全体が肉汁をたっぷりと含んだピンク色になっていれば成功。先月買ったばかりのバーベキュー・セットはバーナーが三つ付いているので、細かな焼き加減の調整がしやすく、ほぼ思い通りの焼き方が出来る。やはり道具は大切だ。

 肉がうまく焼けた時点で、私の役目はほぼ終わり。外が暗くなるまで(この時期は9時すぎまで明るい)庭で飲み食いをしていると、一人のカップルが帰ることに。「そろそろお開きかな?」と思う私の期待をよそに、一同は家の中に移り、宴会続行。一層の盛り上がりを見せる。「ご主人は先に寝ちゃってもいいわよ」と言われるが、そうは行かない。結局宴会は夜の一時近くまで続き、その間に気が遠くなること2~3回。

 少し寝不足だが、天気も良かったし、皆にも喜んでもらえたのでパーティとしては大成功。でも、Memorial Day Weekend は始まったばかりだ。今日も天気がよさそうなので、色々とできそうだ。


Nokia インターネット・タブレット

Nokia_770 インターネット・バブルのまっさかりに、Sony、Gateway Computer、WebTV などが一斉に「家庭用インターネット専用端末」を売りに出したが、ことごとく失敗した。失敗の原因は複数あるが、一番の原因は、「インターネットをするのに一番適したパソコンが低価格化した」ことにある。

 2005年の今になって、その市場に Nokia がポータブルなインターネット専用端末「Nokia 770」を出してきたことは興味深い。家庭にブロードバンド・WiFiが普及してきたことを考えれば、ライフスタイルとして、ソファーに腰掛けてテレビを見ながらインターネット、という図は十分考えられるので、その市場の開拓という意味合いを持つのだろう。そんな場面では、キーボード付きのノートブックは大きすぎるし、値段も高いし、ハードディスクの動作中に持ち運ぶのは良い考えではない。そこで、タブレット型のハードディスクなしのインターネット専用端末を実験的に投入して、市場が立ち上がるかどうかを見ようという戦略だろう。

 新しいもの好きの私としては、少し欲しいような気もするのだが、買ったところで、(買って2ヶ月で使わなくなってしまった )Sony の Clie のような運命をたどることは目に見えている。息子に買い与えたところで、MSN のメッセンジャーや iTune が動かないのでは全然使い物にならないと捨てられるだけだろう。

 では、どうやったらこんなデバイスを普及させることが出来るのだろう。私が Nokia の担当者だったら、音楽・ゲームなどのコンテンツを配信するサービスと絡めて売ることを考えるだろう。ちょうど、DoCoMo の iMode や、Apple の iTune に相当するサービスだ。言い換えれば、「汎用のインターネット専用端末」としてではなく、「コンテンツ配信サービス向けの専用端末」としてサービス込みで提供するのである。

 「汎用のインターネット専用端末」として売ると、どうしてもパソコンと比較されてしまい、「少し高いけどワープロも出来るし、ゲームも遊べるし、メッセンジャーも走るからパソコンを買おう」ということになってしまう。それに対して、サービスを絡めて「月々2000円で音楽聞き放題、ビデオ見放題、ゲーム遊び放題の新世代ネット家電」として売りに出せば、消費者にはとても分かりやすいし、パソコンとの差別化を強く出せる。

 売る側からしても、ビジネスモデルを「売り切り」のものから、「月額課金」のサービス型ビジネスモデルに切り替えることが出来るのでメリットは大きい。その上、消費者との継続した関係を結ぶことができるので、マーケティング面での利点も非常に大きい。

 ただし、Nokia というハードウェア企業が、そんなサービスを提供するべきかどうか(もしくは出来るかどうか)は大きな疑問である。サービスの提供は、ネットワーク事業者(NTTやComcast)、ISP(NiftyやAOL)、もしくはメディア・コンテンツ会社(Walt DisneyやSony Pictures)のどこがやってもおかしくないのだが、もしそこが今後の「ネットに繋がった組み込み機器ビジネス」において最もおいしい部分になるとしたら Nokia としても簡単に明け渡したくはないだろう。

 ハードウェア企業の中でも、Nokia、Sony、Apple のような「ブランド力重視」の企業にとっては、ユーザーとの関係で主権を取ることは必須であり、本来得意でないはずの「サービス事業」への進出は不可避のようにも思える。Sony の新CEOにコンテンツ・ビジネス出身の人が選ばれたことも、Apple がiTune Music Store を始めたのも、そんな方向性の現れと解釈しても良いだろう。

 この見方からすれば、NTTがOnDemandTVというビデオ配信サービスを始めたのも、ESPNがMVNO(Mobile Virtual Network Operator)ビジネスに進出するのも、全て関連している。来たる「ユビキタス・ネットワーク/デバイス」の時代に、ネットワーク・デバイスの垣根をまたいだコンテンツ配信サービスの主権を握るのはいったいどの企業になるのだろうか。目が離せない。


手作り鮭フレーク

050525_104128 シアトルはサーモン(鮭)の産地として有名だが、実は一番おいしいのはもう少し北のアラスカ産のサーモンである。特に「カッパー・リバー」のサーモンは最高である。

 毎年、この時期になるとごく短い間だけ「カッパー・リバー」でのサーモン漁が解禁になり、限られた量のサーモンが、シアトル各地のレストラン、スーパーに入荷するのである。

 昨日、コスコに行った妻が目ざとく見つけ、丸ごと一匹買ってきた(コスコは切り身では売ってくれない)。一匹32ドル(約3200円)の高級魚である。

 昨日はそれを3枚におろし、一部をバター焼きにして食べたのだが、当然一日で食べきれる量ではない。そこで、残りは「塩鮭」と「鮭フレーク」にした。

 この「鮭フレーク」がものすごくおいしいのだが、なぜ妻が「鮭フレーク」を作り始めたかの理由が洒落ている。サーモンをきれいに3枚におろすのが難しく、どうしても中骨のまわりに肉が残ってしまうのだ。最初は色々とおろし方を工夫したのだが、どうしてもうまく行かない。そこで苦肉の策で、作り始めたのが中骨に残ってしまった「中落ち」の肉を使ったフレークだったのだ。しかし、あまりにもその「鮭フレーク」がおいしく家族にも評判が良いので、今は無理にきれいにおろす必要もなくなってしまったのだ。


続・CELLの美学、歩留まり編

Cell_spe8 少し前に、このブログでソニーがCellのSPEの数を(製造コストを無視して)「美学」のために8個にしたことを批判した記事を書いたが、それに対する解決策をソニーが発表した。CELLチップ上の8個のSPEのうち7個だけを使うことにしたのだ。

 なぜそうしたかに関しては、日経エレクトロニクスの記事に書いてある通り、「歩留まりを勘定した結果」だそうである。「エンジニアの美学はどこへ言ったんだ!」とツッコミを入れたくなってしまうが、「美学」より「ビジネス」を優先にするのは公開企業としては当然のことで、私なりに納得。

 ちなみに、この記事を読んでいったいどのくらいの人が「歩留まり」の意味を本当に理解できているのか疑問になったので、ここでうんちくを展開。

 「歩留まり」とは、一口で言えば、「CPUなどのチップを複数製造した時にそのうち幾つが商品として売ることの出来る品質に至っているかを100分率で表したもの」である。つまり、100個のうち70個がきちんと動けば「歩留まり70%」と言い、30個しか正常に動作しなければ「歩留まり30%」と言うのである。

 この数字は、半導体の製造企業にとっては、その数値が悪ければ莫大な損失を出しかねないほど重要な数字である。例えば、月産100万チップの生産能力のある半導体工場を1000億円かけて作るとしよう。歩留まり70%を実現できれば、月産70万チップ、一年で840万チップが生産可能である。この製造ラインを5年で償却しようとすると、原価とランニングコストを除いた後の利益をどんなに悪くとも1チップあたり1189円は確保しなければならない。それが確保できなければ赤字である。

 しかし、いざこの工場を稼動させてみたら30%しか歩留まりがでなかったらどうなるだろう。計画料の7分の3しかチップを製造できなければ、工場の償却分の7分の4、すなわち571億円が中に浮くことになる。そうなると利益を出すどころか、数百億円の赤字をこうむることになるのだ。

 以前半導体メーカーの人と話をしたことがあるのだが、実際の半導体ラインの歩留まりは各企業のトップ・シークレットで、業界の平均的値がどのくらいというデータもないらしい。その人によると、初めから70-80%の歩留まりできちっとしたビジネス・プランを立ててやっている企業もあれば、最先端のチップをいち早く市場に出すために30%ぐらいの歩留まりで見切り発車して、しだいに歩留まりを上げて行く戦略を取る企業もいるらしい。

 そこで問題のCELLチップだが、どうして8個のSPEのうち、7個のSPEしか使わないと歩留まりが良くなるのだろう。それは、ソニーの半導体ラインから作られるチップのうち、8個のSPEが全て動くチップと、少なくとも7個のSPEが動くチップの数が大きく違うからである。

 例を挙げて計算すると良く分かる。計算の便宜上、SPE1つを見た時にそれの歩留まりが90%だった仮定する。すると、「8個全てが動く確率」は0.9の8乗=0.43、すなわちSPEの部分で43%の歩留まりとなる。それに対して「少なくとも7個が動く確率」は、それに0.9の7乗×0.1×8を足したもの=0.81、すなわち81%の歩留まりとなる。ここで仮に残りの部分(PowerPCやL2キャッシュ)の歩留まりが85%だったとすると、CELLチップ全体ではそれぞれ37%、69%の歩留まりとなる。

 CELLチップ用の 65ns テクノロジの半導体製造ラインのために、ソニーは半導体工場には2~3000億円をつぎ込む必要があると言われている。すると、CELLチップの歩留まりが37%か69%かという違いは、その設備投資の減価償却だけを考えても1000億円以上のコストの違いとなって来るわけで、これは死活問題である。

 そこで、エンジニアにとっての「床屋の満足」に過ぎない「美学」は捨てて、7個のSPEしか動かさない(すなわち、8個のSPEのうち7個のSPEしか動かないものも品質検査をパスさせてしまう)という技術的妥協(engineering compromize)を選択したのである。ソニーのハイリスク・ハイリターン過ぎるCELL戦略がすごく心配になっていた私としては、少し安心した、というのが正直な感想である。


Star Wars, Episode III

Episode_iii [ネタバレ無しです。ご安心してお読みください。]

 米国では今週から Star Wars Episode III が開幕。メディアも一斉に騒ぎ立て、お祭りムード。週明けまでに見てないと話題に乗り遅れてしまうので、早速見に行く。6作目ともなると、ほとんど「寅さんシリーズ」のノリだ。

 一部のの映画館には2ヶ月前から並んでいる人がいると聞いていたので、念のため昨日のうちに fandango で前売り券を申し込んでおいてのだが、実際に映画館に行ってみると、当日券も残っているし、行列もたいしたことはない。余裕で良い席に座れた。スクリーンが8個ある近所の映画館だが、そのうち4つで Star Wars を上映している。全米ではいったい幾つのスクリーンで同時上映しているのだろう。ものすごい数に違いない。

 映画の内容は良くも悪くもスター・ウォーズであり、それなりに満喫。一つだけ難点を言えば、パロディものを見すぎているせいか、せっかくの本物がパロディーに見えてしまう点だが、これは作り手の問題ではなく見ている私の問題。

私が第一作を見たのは高校生の時だったから、ジョージ・ルーカスは20年以上にまたがってこのシリーズを作っていることになるから驚きだ。ストーリーだとか映像そのものよりも、ブランドの確立のさせ方、資金調達のさせ方、映画以外の2次収益モデルの作り方などに本当に関心してしまう。日本発のコンテンツで Star Wars に匹敵できるブランド力・収益力を持つブランドはいったい幾つあるだろう。


Viral Marketing

Mariners_01  Viral Marketing(バイラル・マーケティング)は、直訳すると「ウィルス型マーケティング」になるが、より正確に表すには「伝染型マーケティング」だとか、「自己増殖型マーケティング」とでも呼んだほうが良いだろう。Viral Marketing とは、テレビや新聞などを使った「マス・マーケティング」をする資金のないベンチャー企業や、それだけの投資リスクを負いたくない企業が低予算で一気に大量の顧客を確保したい時に使う「裏技的」マーケティング手法である。「バイラル=口コミ」と勘違いしている人が多いので要注意である。

 米国では hotmail が、全くの無名のベンチャー企業でありながら、viral marketing の手法で、わずかの期間に数百万人のユーザーを確保した例が良く知られている(その結果、マイクロソフトに買収され、創業者と投資家に数百億円の利益をもたらした)。日本では、ドワンゴが他の企業よりも2年以上も遅れて着メロサービスを始めたにも関わらず、やはり viral marketing の手法で、わずか一年半で100万人超のユーザーを確保し、一気にトップ3に躍り出たことが良く知られている。

 Viral marketing の本質は、「顧客・ユーザーがその商品を使うことにより、意識しないうちに自然に他の消費者にその商品を紹介・宣伝してしまう」という自己増殖の仕組みを商品そのものに埋め込んでおくことにより、倍々ゲームで顧客・ユーザーを増やしていく点にある。

 Hotmailは「無料のメール・サービス」であるが、ユーザーがそのサービスを使ってメールを送ると、メッセージの最後に、「このメールは無料メール・サービス hotmail を使って送られました。興味がある人は www.hotmail.com へどうぞ」という一言が追加される仕組みが組み込んである。これにより、ユーザーがhotmailを使ってメールを送るたびに、そのメール・メッセージが間接的に広告としての役割を果たすのである。その結果、ほとんど宣伝コストをかけずに指数級数的にユーザーを増やすことが出来たのである。Hotmailの創業者の偉いところは、設立当初からメール・サービスの viral 性に気がついており、「ほとんどマーケティング・コストをかけずに、短い期間に大量のユーザーを確保する」というマーケティング・プランを設立当初からの戦略として持っていた点である。

 ドワンゴは、既に着メロ市場というものが確立してしまっている市場に後発組として参入する際に viral marketing の手法を使った。それまでの着メロサービスが「自分のために着メロをダウンロードして楽しむ」サービスだったものを、「着メロを人にプレゼントすることのできる」サービスとして提供したのである。この仕組みにより、「ドワンゴの着メロサービスに加入したユーザーが、他のユーザーに着メロをプレゼントするたびに、結果的にサービスを宣伝する」という viral marketing の効果が加わり、数ヶ月で30万人、1年半後には100万超のユーザーを抱え、トップ3に躍り出たのである。

 どちらにも共通しているのは、商品そのものが人と人のコミュニケーション(メールを送る、着メロをプレゼントする)を促す商品である点である。そのため、「商品を使うこと」そのものが「商品の認知度を高める」ことに直接貢献することができるのである。ここが、「満足したユーザーが他のユーザーに薦める」というユーザー側の能動的な行動を必要とする「口コミ」との根本的な違いである。アマゾンや楽天のアフィリエイトの仕組み、もしくはアムウェイのようなしろうと販売員の仕組みを viral marketing に含めて考える理論家もいるが、私はやはり「ユーザーの能動的な行動が必要」という理由から viral marketing には含めて考えない。あくまで「商品を使う」という自然な行動そのものが商品の認知度に繋がらない限り、指数級数的な伸びは期待できない。

 Viral Marketing は上手に使うと非常に効果的だが、必ずしも全ての商品に適用できるわけではない点を注意すべきである。例えば、原則として一人で食べるカップ・ラーメンに応用しようとしても難しい。ただし、双方向通信を可能にするインターネット関連の商品にしか適用できないかと言うわけではない。広義で捕らえれば、(ずいぶん古いが)松田聖子を使った「ポッキーでおもてなし」というキャンペーンも、「既存のポッキー・ファンが友達を『ポッキーでもてなす』ことにより、他の消費者にポッキーを食べてもらう」という viral marketing の一手法と見ることも可能である。

 Viral marketingの手法が一番効率良く適用できそうな分野が、モバイル・コンテンツとオンライン・ゲームだと私は常々思っている。一昨日のブログに書いた、「資金もなく、社員も二人しかいない会社がとても良い対戦型チェス・ゲームを作ったとします。どうやって売るのが良いでしょう?」という質問に対する私なりの答えは、「チェス・ゲームのサービスを加入者(=購入者)間だけの閉じたものにせず、加入者が非加入者と対戦できるような仕組みを作ることにより、viral marketing 効果を狙う」である。

 任天堂DSには、「近くにあるDSからゲームをダウンロードしてきてマルチ・プレーヤーで遊ぶ」ことを可能にする仕組みが組み込んであるが、これも全く同じ viral marketing 効果を狙ってのことである。この機能を使うことにより、(カートリッジを一つ買えば複数の子供たちが遊べてしまうので)売り上げが減るのではないかと勘違いしている人たちが業界にはまだいるらしいが、全く逆である。そんなカートリッジを持って歩き回る子供たちが「歩く広告塔」となってくれる効果を考えれば、プラスの効果の方が遥かに多い。


消えたフォークの先

Safeco 以前、妻に「あなたな時々コメディードラマの主人公のような行動をする」と言われたことがあるが、今日もまたしてしまった。フォークの先っぽを食べてしまったらしいのだ。

 会社の近所で買ってきたサンドイッチを仕事をしながら食べようとしたのだが、マヨネーズが沢山ついており、手で食べるとキーボードがベトベトになりそうだ。そこで、プラスチックのフォークで食べ始めたのだが、これが良くなかった。

 最初の一口で、フォークの先を折ってしまったのだ。サンドイッチをかじった瞬間に「ガリッ」という感触が前歯に来たので、すぐ分かった。間違って飲み込まないように、フォークのかけらを探しながら丁寧に噛んだのだが見つからない。空腹に耐えかねて喉をコントロールして飲み込もうとする胃袋と戦いながら探すのに、すごく苦労してしまった。ミスター・ビーンにでもなった気分だ。それにも関わらず見つからなかったのだ。

 「たぶん、かけらはパンに残ったのかな」と、二口目も同じように丁寧に噛むが、それでも見つからない。フォークを見ると確かにちょうど5ミリぐらい欠けているのだが、皿の上にも机の上にも落ちていない。しかたがないので残りも用心しながら食べるのだが見つからないまま、食べ終わってしまう。気になるので机の下も見るが見つからない。…食べてしまったようだ。

 家に帰って、この事件を家族に報告し、「たぶん大丈夫だと思うけど、もし今夜血を吐いて倒れて意識を失ったら、『フォークのかけらを飲んだ』と医者に伝えて」と言う。妻はあまり相手にしてくれなかったが、次男が「これで入院でもしたら、コメディだね」と笑ってくれたのがせめてもの救いだ。

 ちなみに、今日の写真は、シアトル・マリナーズの本拠地、Safeco Studium からの昨晩の夜景。ニューヨーク・ヤンキーズとの試合を見てきたのだ。初回にいきなり4点も取られるものだから、半ば負けを覚悟して見ていたのだが、珍しく下位打線が活躍して逆転勝利。大満足。


E3、パネル・ディスカッション

Panel_2005_e3 「パジャマがない」事件のために寝不足の目をこすりながらE3の会場に向かう。助かったことにスピーカー専用のしっかりした控え室があり、そこでコーヒーを飲みしゃっきりとさせる。

 自分の出番まで時間があるので、面白そうなセッションを一つ選んで見る。タイトルは「Why Networked Media Matters to Gamers」(なぜネットの繋がったメディアがゲーマーに重要なのか?)。スピーカーの Jim Baniser はものごとをカテゴライズして話すのがとても上手な人で、参考になる。その中で彼が、「ブログなどのツールにより、今までメディアのバリュー・チェーンの中で『消費』のみを担当していた消費者が、『製作』、『流通』、『販売』というバリュー・チェーンのさまざまな部分に広がり始めた」と言っていたが、まさに的を得た言い方で、感心してしまった。

 それに続くセッション、「Mobile Games: Taking Advantage of What's New in Handset Technology」(携帯ゲーム:携帯端末のテクノロジーの応用)が、私がパネラーとして参加したパネル・ディスカッションである。Nokia、Motorola、Vodafone と、なかなかのメンバーなので、会場は超満員。

 司会が慣れない人なのか、ワーク・ショップにも関わらず、前もって準備しておいた質問に、順にパネラーが答えるというありきたりの形を延々と続けるので、少し飽きてくる。観客も寝てしまいそうだ。そこで、司会には申し訳ないが、私が会場に来ている人に逆に質問をして場を盛り上げる。

 「資金もなく、社員も二人しかいない会社がとても良い対戦型チェス・ゲームを作ったとします。どうやって売るのが良いでしょう?」

 これが呼び水になり、やっと対話型のパネル・ディスカッションが始まる。こうでなきゃいけない。良い質問がどんどんと飛んでくるようになり、それに答えつつ、さりげなくこっちから伝えたいことを発言する、などをしているうちにあっという間に二時間が経つ。

 セッションの終わりに15人ぐらいの人が私の前にならび、名刺交換を願い出てくる。そのうち5人ぐらいの人が、「あなたの話が一番面白かった」と言ってくれた。そんな暖かい言葉がとてもうれしい。