メディアプレーヤーが「家電」になる時
2005.08.16
今年の2月に、「米国からの日本のテレビ試聴成功」と言うエントリーを書いた通り、日本のHDレコーダーに録画した日本の番組をシアトルの家からインターネット経由で試聴できるようにしたのだが、まだまだ色々と問題がある。
まず、最初の問題はストリーミングの不安定さである。どこに問題があるのかはまだ完全には解明出来ていないのだが、日本のビデオサーバーから直接ストリーミングで試聴しようとすると、しばしば「バッファ中」になってしまい、30分番組を見るのに1時間かかってしまったりするのだ。
しかたがないので、パソコンに一度ダウンロードしてから見ているのだが、それならばテレビの近くにわざわざパソコンを設置するのではなく、専用のメディアプレーヤーだけを設置して、LAN経由でパソコンからストリーミングした方が使い勝手が良さそうだ。
そこで、この前日本に行った時にヨドバシカメラにメディアプレーヤーを見に行ったのだが、どれもまだまだ家電と呼べるレベルには至っていないので、もう少し待つことにした。
しかし、先週末に CompUSA (大手パソコン小売店)に別の用事で行った時に、D-Link 製のメディアプレーヤーを見つけて衝動買いしてしまった。日本製のメディアプレーヤーよりはずっと家電に近いデザインだし、Rhapsody や Napstar などのサービスとも繋げることが可能だと書いてあるところが気に入った。
早速家に帰って設置してみた。パソコンで専用のメディアサーバーを走らせておく必要がある点が難点だが、基本的な性能はなかなか良いし、使い勝手も悪くない。日本のHDレコーダー(Sharp の Galileo)からダウンロードしておいたVGAサイズのMPEG2ビデオが WiFi (11g)経由でなんの問題もなく視聴できる。動画の質も42インチのプラズマでの視聴に十分耐えられる。
ちなみに、この「パソコンをメディアサーバーとして使いテレビに繋いだメディアプレーヤーでLAN経由で再生する」という方向性は、一つの答えではあるのだが、どうも私にはそれが究極の答えであるとは思えない。それよりも、「全てのメディア・コンテンツはインターネット上のサーバーに蓄積しておき、メディアプレーヤーでブロードバンド経由で再生する」方が直感的に正しく思える。
まさに、前者が Microsoft と Intel を中心としたソフト・ハード企業の理想とするデバイス指向(device-oriented)な世界で、後者がGoogle や Amazon などのサービス企業の理想とするサービス指向(service-oriented)な世界であり、この戦いからは楽しくて目が離せない。
この「デバイス指向」と「サービス指向」という対立する視点からさまざまな企業を見つめなおしてみると、興味深い側面が見えてくる。
・iTunes でサービス指向のビジネスに一歩踏み出した Apple Computer
・デバイス指向ビジネスの巨人であるが故のジレンマを抱える Microsoft
・出井さんの掛け声にも関わらず、サービス指向への変革に失敗したソニー
・「テレビを制するものは家電を制す」とのゆるぎない信念の元に着実に駒を進めるパナソニック
・Microsoftに苦しめられたために、サービス指向へ変革をせざるおえなかった Real Networks
・サービスビジネスだけでは飽き足らずにネットワークビジネスに進出したソフトバンク
・あっというまにサービスビジネスの巨人となってしまった Google
・潔くパソコンビジネスを売却した IBM
・コモディティ化しつつあるISPビジネスからサービスビジネスに進出する BigGlobe、Nifty
・コモディティ化しつつあるインフラビジネスからサービスビジネスに進出する NTT
リストが無限に続きそうなので、ここらでやめて、ダウンロードしておいた大河ドラマでも見ることにする。
「メディアプレイヤーが家電になる」と言うよりは「家電にメディアプレイヤー機能が付いてくる」って方向?たとえばIP-STBの付加機能として。ストレージはパソコン-->LANストレージ-->インターネット・ストレージへと変化していく?でもストレージ・サービスでビジネスできるのかな?
サービスと言えば、リモコンのUIを統一してくらさい。ネットからアプリ・ダウンロードできるように。
another 日経エレキ愛読者
Posted by: グワッシ | 2005.08.17 at 08:11
>「メディアプレイヤーが家電になる」と言うよりは「家電にメディアプレイヤー機能が付いてくる」って方向?たとえばIP-STBの付加機能として。
十分ありうると思います。ただ、「技術的に可能」と「ビジネスとして成り立つ」にはギャップがあるので、「IP-STBにパソコンのメディアを再生する機能を付加する」というのは難しいかもしれません。STBを原価もしくは原価以下で提供するサービスプロバイダーとしては、サービスを使ってもらわないことには商売になりませんから。カメラ付き携帯電話を単なるカメラとして使われてしまっては困る通信事業者と同じロジックです。
>ストレージはパソコン-->LANストレージ-->インターネット・ストレージへと変化していく?でもストレージ・サービスでビジネスできるのかな?
単なるストレージ・サービスではビジネスは難しいでしょうね。コンテンツ配信や、アプリケーション配信サービスと組み合わせてこそ成り立つビジネスだと思います。
>サービスと言えば、リモコンのUIを統一してくらさい。ネットからアプリ・ダウンロードできるように。
おっしゃるとおりです。デバイスはもう十分にユビキタスなので、後はコンテンツをどうユビキタスにするか、増え続けるリモコンの問題をどうするか、が課題です。私個人としては、こういった問題を解決する商品なりサービスを今の自分に与えられているビジネスの枠組みで以下に実現して行くかっていうところに力を入れて行きたいと考えています。
Posted by: satoshi | 2005.08.17 at 08:40
CompUSAでの衝動買いと云う内容に反応してしまいました。
「米国からの日本のテレビ試聴成功」のエントリーを見ていたので、私もCompUSAで偶々物色していると... http://tinyurl.com/d5tp2 なるモノを見つけて惹かれていた所に今回のエントリーなので、ガジェット好きな私もこりゃ書かせて頂かなくては!!と思ってコメントしちゃいます。
まだ「技術的に可能」な代物として画に描いた餅をついた!?と云う気がしますが、http://www.slingmedia.com/what.php4 試しに遊んでみようと思います。 又の機会にご報告させて頂きます。
Posted by: シュン(珍) | 2005.08.17 at 20:24
珍さん、私もCompUSAでそのデバイスに気がつきました。ぜひとも使い心地をご報告ください。
Posted by: Satoshi | 2005.08.17 at 21:40
ユーザの問題を解決するデバイスを提供すると考えればデバイスを売ることもサービスを提供しているという視点が必要だと思ってはいるのですが、メディアプレーヤのようなデバイスを作っている身としてはサービスの比重が大きくなっている最近の傾向は厳しいものがあります。サービスを考えようとしても使い方とか用途提案あたりまでしか思いつかなくて。
Posted by: kobayashi | 2005.08.19 at 10:18
>ユーザの問題を解決するデバイスを提供すると考えればデバイス
>を売ることもサービスを提供しているという視点が必要だと思っ
>てはいるのですが、メディアプレーヤのようなデバイスを作って
>いる身としてはサービスの比重が大きくなっている最近の傾向は
>厳しいものがあります。サービスを考えようとしても使い方とか
>用途提案あたりまでしか思いつかなくて。
kobahashiさん、コメントありがとうございます。こういう悩みは、特に最近良く聞きます。サービスを考えずにデバイスを作るのは難しいのですが、逆にサービスを提供する側としては、そのサービス専用のデバイスをゼロから作ってもらうと高すぎるという悩みがあります。私は、この「鶏と卵状態」の突破口として、AJAXに代表される「次世代ウェブ・アプリケーション」の発想が役に立つのではないかと考えています。デバイス側にはUIEngineのような「サーバーからユーザーインターフェイスを送り込む」仕掛けだけを組み込んでおき、後はサービスごとに適切なユーザーインターフェイスを送り込んでカスタマイズしてしまう、というアーキテクチャーです。「オンデマンドTV」社の提供するセットトップボックスには、まさにそのアーキテクチャーが採用されています。
Posted by: satoshi | 2005.08.19 at 13:59