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いかにもアメリカらしい石油危機の対処法

050915_183701 ハイブリッド車を含めた低燃費車の開発では日本に大幅な遅れを取っていたアメリカだが、ここ数ヶ月の石油の値上がりを受け、ついに眠れる巨人が立ち上がる時がやってきたようだ。しかし、それは「GMがトヨタに対抗して独自のハイブリッド車を開発する」だとか、「政府が電気自動車の普及のために助成金を出す」などと言った中途半端なものではない。

 答えはいかにも『キャピタリズムの聖地アメリカ』らしく、「代替燃料ビジネスに対するベンチャー投資」である。VC(ベンチャー向けの投資会社)の動きに敏感な知り合いから仕入れた情報だが、ガソリンの小売価格が1ガロン3ドルを超えたのを受け、VCのお金がついに大きく動き始めたらしい。特に注目を集めているのがバイオディーゼル(biodiesel)らしく、彼の知り合いにも一人IT企業を辞めてバイオディーゼルのベンチャーを立ち上げた人がいるそうだ。

 その起業家は、遺伝子工学の最先端の科学者を集め、最新の遺伝子工学で改良を施した植物油の取れる作物(たとえばトウモロコシ)を米国中西部にあまっている広大な土地を利用して栽培し、バイオディーゼルとして石油より安く販売するビジネスモデルで会社を立ち上げたそうだ。人間が食べるわけではないので、遺伝子は改良し放題だし(!?)、人体に悪影響のある農薬だろうと化学肥料だろうと思いっきり使えるので、今よりも数倍の出来高は実現できる見込みだと言う。

 アメリカの中西部に地平線見渡す限りの無人のトウモロコシ畑が広がり、そこには遺伝子改良によりいびつに巨大化したトウモロコシがなっており、それを巨大なトラクター型ロボットが収穫しているという姿を想像して欲しい(^^;)。SFじみた話だが、このストーリーを買って資金を入れた投資家がいるというところがアメリカのすごさである。

 今までは、「人類は2040年ぐらいまでに地球上の石油を全部使ってしまうらしいが、その後はどうするのだろう」と結構心配になっていたが、こんな桁外れのベンチャー企業を立ち上げる起業家がいて、かつそこに資金を提供する投資家がいる限り何とかなってしまいそうな気がしてきた。キャピタリズム万歳!

【追記:参考文献】
作物による植物油の収量と特徴


CTIA 一日目

050928_071007 CTIAの第一日目、今回のハイライトは、何と言っても会社の創業以来始めてのブース。社員達の努力のおかげで、なかなか良いものができた。申し込みが遅れたためにメインフロアに場所が取れずに、二階になってしまったのだが、それが逆に幸いして二階で一番目立つブースになっていた。まさに「鶏口となるも牛後となるなかれ」である。

 午後一のパネルディスカッションは、予想した通りの展開。司会役の人が「3Dはモバイルゲームに必要か?」などとやたら細かなことに時間を費やすのだ。3Dでも2Dでもいいから、アプリケーションを開発する立場としてはもう少しデバイスの仕様を揃えて欲しい。そんな意味では一気に端末の世代交代を起こしてくれる日本の通信事業者は偉い。しかし、端末の仕様がばらばらだからこそ UIEngine がより魅力的になるので、複雑な気分だ。

 ちなみに、今年のCTIAでの一番のニュースは、Treo の Microsoft OS への乗換え。可能性は少し前から噂されていたが、やはり現実になるとインパクトは大きい。Sony の PDA マーケットからの完全撤退もほぼ確実なので、「これで Palm OS の命は完全に絶たれた」というのがCTIAに来ている業界の人たちの一般的な見方だ。PalmSource が Access に身売りをせざるおえなかったのもうなずける。


CTIA 開幕

050927_022723 今週は、米国のワイアレス業界で最大のイベントCTIA(Cellular Telecommunications & Internet Association)がサンフランシスコで開かれる。今回は UIEvolution として初のブースも持つし、新しいプロダクツの発表もあるので、会社の連中は大忙し。

 私自身は明日の朝一の飛行機でサンフランシスコに飛び、午後一のパネルディスカッションにパネラーとして参加。タイトルは、”Games: Taking Wireless Gaming to the Next Level: Platforms, Devices and Graphics...What's Coming Next?”

 Nokia、Sony Ericsson などの携帯機器メーカーを交えて、「次世代の携帯電話に必要なのはどんな機能か?」とディスカッションをするのだ。「まずは NTT ドコモの 900 シリーズに追いついてよ」と冷たく言い放ちたくなるところをグッと我慢して、「建設的な意見」を言わなければならないのが辛い。

 ちなみに、この写真は会社の廊下のホワイトボードに書いてあった落書き。今回、Media Viewer というアプリケーション(iTune Music Store の OEM 版のようなもの)を発表するのだが、それの担当者が準備の合間に書いたものだ。新しいオフィスに引っ越す時に、廊下一面に張り巡らせてもらったホワイトボード。ミーティングのメモから落書きまで、社員の間のコミュニケーションの場として、とても有効な使われ方をしているようだ。


トウモロコシ狩りに思う首都移転計画

Corn  近所の農場で「トウモロコシ狩り」をさせてくれるとの情報を仕入れたので、さっそく行って来た。

 看板を見ながらたどりつくと、誰もいないトウモロコシ畑(corn field)の横に、「とうもろこし一本20セント(約20円)。お金はこの箱に入れてね」(U-Pick 20cents/ear, money in mailbox)と書いてあるだけ。信頼関係の成り立つシアトルならではの商売だ。【英語うんちく:U は You の省略形。看板や携帯メールとかには良く使われるが、レポートやビジネスメールには使ってはいけない。ear はトウモロコシを数える単位。日本語の「穂」に相当する意味だが、日本ではトウモロコシを1穂2穂とは数えないのはなぜだ?】

 革靴が汚れるといやなので、トランクの中にいつも入っているゴルフシューズに履き替え、背の丈ほどに伸びたトウモロコシの畑に入る。少し探し回らねばならないかと覚悟していたが、案外あっさりと見つかる。

 8本採ったところで駐車場の脇の箱に戻り、お金を入れようとしてハタと気が付いた。1本20セントなので、8本だと1ドル60セント。しかし、細かいお金は持ちあわせていない。後2本採りに戻るのも面倒なので、2ドルを箱に押し込める。釣りは取っとけ、だ。

 家に持ち帰ってすぐに茹でる。調味料は塩のみ。採りたてのトウモロコシほど「生きてて良かった」と実感させてくれるものはない。

 しかし、こんな所がわずかマイクロソフト本社から車でわずか10分のところにあるのが、シアトルのすばらしいところである。東京やニューヨークではこんな楽しみは味わえない。東京も嫌いではないが、人が多すぎる。防衛庁を御殿場に、他の省庁と国会を名古屋方面にでも移転すれば、東京ももう少しは暮らしやすくなるのではないか、と思いつつ採れたてのトウモロコシを食べた私であった。


ラテアートで伝える恋心

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 先日、ラテアートを初体験した。それもハートの形!もちろん、バリスタは若い女性。

 ラテの泡にコーヒーで模様を描くラテアートのことは知っていたが、実は今まで一度も本物を見たことが無かった。スタバの本拠地シアトルに住み、一日に少なくとも一杯はラテを飲む私が、である。ワシントン大学界隈のおしゃれな個人経営のカフェにでも行けば作ってくれるのかも知れないが、スタバやタリーズといったチェーン店でしかラテを飲まない私には縁がないと思っていた。

 そんな私に、初めてのラテアートを作ってくれたのが、なんと新宿のオフィスビルの一階にある、なんの変哲もないカフェの可愛いバリスタ。普段は持ち帰り用の紙コップに入れてもらうのだが、たまたま時間があったので店内用のカップに入れるよう注文すると、出て来たのがハートマークのラテアート。

 バリスタがひそかに私に抱いていた恋心を伝えようとしている可能性も完全には否定できないが、たぶん単に「ラテアートの練習中で、たまたま店内用カップでラテを頼んだ私に試してみた」だけだろう。どちらにせよ、とても気分は良い。次から日本に行った時は、必ずこのカフェでラテを飲むことにしよう、と心に誓った私であった。


丸山さん、mF247 Mix ってどうでしょう?

050921_111100 最近、とても興味があるのが、ブログだとかソシアルブックマークとかのネットカルチャーを利用したバイラルマーケティング。何かすぐ目の前に宝物があるような気がして仕方がない。面白そうな商品やサービスを見つけると、それをネタにユニークな宣伝方法を考えたりすると楽しい。

 ちょうど、丸山茂雄氏の昨日のブログに、「最近は、『どうやってmF247の存在を宣伝するのか?』に関心が移って来ています。」という記述があったので、今日はそれをネタに、一人ブレストをしてみる。

 mF247 のユニークな点は、まだ「作品」として認められていない音楽データそのものを単なる「情報」と位置づけ、無料でユーザーに聞いてもらうことにより認知度を上げる、という今までの音楽レーベルとは全く違うアプローチにある。

 それならば、この「無料で聞いてもらってもかまわない」という特徴を最大限に生かして、音楽ファンに独自のアルバムを作ってもらい、Podcast などの形で配信してもらう、というのはどうだろうか?題して 「mF247 Mix」 だ。

 mF247 のサイトに行くと、音楽ファンは単にアーティスト達の曲が無料で聞けるだけでなく、自分の気に入った曲を集めて、オリジナルのアルバムが作れてしまうのだ。それを自分のブログから公開しても良いし、Podcast の仕組みを使って配信することもできるのだ。iTune Music Store の iMix と一見似ているが、iMix は単なるプレイリストに過ぎず他のユーザーはリスト内の曲をすべて購入しなければ聞くこともできないのに対して、mF247 Mix の場合はそのまま全曲無料で聞けてしまうのだ。

 こうすることにより、mF247 のファンが作ったアルバムを聞いた人が新たなファンとなり、あっという間に mF247 の認知度が上がる、という作戦である。既存のレーベルは決して真似の出来ない戦略だし、人の話し声ばかりの Podcast に新風を吹き込む意味でも、iPod ユーザーの間で評判になることは確実だ。

 ちなみに、私のアイデアが良いと思う人もそうでない人も、ぜひとも一度、丸山氏の「mF247を始めるにあたって」を読んでいただきたい。こうやってブログやブックマークを通じて mF247 のことを書く人が増えるだけでも、結構な宣伝になるはずだ。


パイロットジョーク

050920_190353  米国人はジョークが好きなのは前から知っていたが、米国に住むようになって発見したのが、業種ごとに自分達の職業をネタにした「内輪受け」的なジョークを持っていること。エンジニアジョーク、弁護士ジョークなど、それぞれの職業の特徴を皮肉ったジョークを聞くと、そういった職業の人々の仕事に対する姿勢とか独特の価値観のようなものが伝わってきて楽しい。

 今日披露するのは、最近 United Airline のパイロットから仕入れたパイロットジョーク。

 「…、それでは皆さん、空の旅をお楽しみください。」

 機長は、そうアナウンスをすると、オートパイロットのスイッチを入れて副機長に話しかけた。

 「いやー、オートパイロットは楽だね。僕らはここに座っているだけでいいんだから。贅沢を言えば、かわいいギャルでも膝に乗せて、ブランデーの一杯でも飲みながら運転したいもんだ」

 この軽口がパイロット室だけにとどまっていれば良かったのだが、ついうっかりマイクのスイッチを切り忘れていたために、機内に放送されてしまい、客室内は大騒ぎだ。

 あわてたスチュワーデスの一人が、機長に知らせようとパイロット室に向かって走る。

 それを見た乗客の一人が声をかける。

 「おねーちゃん、ブランデー忘れてるよ!」

 このジョークを聞くと、「マイクをついうっかり切り忘れて副機長との雑談を誤って放送してしまう」というミスをしないように、パイロットたちは結構神経質にマイクのオンオフをしているのだ、ということが分かって楽しい。人の命を預かる職業はストレスも多いのだろうが、こんなジョークでストレス解消をしているのかも知れない。

 ちなみに、このジョーク、パイロットから教わったバージョンはもう少しきわどいものだったので、少し修正を加えさせていただいたことを付け加えておく。それが何だったかは、読者の想像にお任せする。


プレゼン専用、平置き液晶モニター

Flat_lcd  背面電子ペーパー付きノートパソコンをこのブログで提案してからずいぶん経つが、まだ実用化してもらえない。まだ電子ペーパーのコストが高すぎるのだろうか?アイデア料など請求しないので、心配せずに作って欲しい。このアイデアはクリエイティブコモンズだ。

 懲りずに今回提案するのは、プレゼン専用の液晶モニター。少人数の会議でプレゼンをするときに、プロジェクターの代わりに机の上に斜めに置いて使うのだ。視野角の広いタイプの液晶を使い、机に置く角度は自由に調節できる。

 なぜこんなものが欲しいかというと、私はプロジェクターが大嫌いだからだ。冷却ファンがうるさい、部屋を暗くしなければならない、皆で壁の方向を見て話さなければならない、と欠点だらけだ。

 多くの人が勘違いをしているのだが、プレゼンの主役はパワポのスライドではなく、プレゼンをしている本人である。社内の企画会議であれ、顧客に対するセールスであれ、一番強く印象付けるべきは、提案する企画や商品ではなく、プレゼンをする自分自身なのだ。もちろんプレゼンの中身も重要なのだが、本当に重要な情報はどのみち文書で別途提出することになるので、プレゼンの段階で重要となるのは、とにかく自分を印象付け、「こいつの提案する企画に社運を賭けてみよう」、「こいつを見込んでこのテクノロジーを導入してみよう」などと思わせることである。やたらと文字ばかり並べたスライドを読み上げるだけの人がいるが、それでは、貴重な時間を使ってプレゼンをしている意味がない。スライドにはわずかなキーワードと画像データ(商品の写真、グラフ、ブロックダイアグラムなど)だけを置いておき、大切なことは自分の口でしゃべる、というのが正しいプレゼンの方法だ。それも、話す内容をあらかじめ丸暗記などしてはだめで、相手の理解度や興味に応じて、適切に言葉を選んだり重要なポイントを繰り返したりしながら進めなければいけない。

 そんなプレゼンをする際には、相手には出来るだけ私の顔を見て欲しいし、私の話に集中して欲しい。そんな私にとってはプロジェクターは敵以外の何者でもない。プロジェクターのファンのノイズはじゃまだし、薄暗い部屋では相手の表情が読み取れないし、皆で壁の方向を向いていては目と目のコミュニケーションが取れない。

 そこで提案するのが、このテーブルに少し角度をつけて平置きする液晶モニター。これを私のノートパソコンと背中合わせになるように相手との間に置いてプレゼンすれば、相手はこちらを見てくれるし、部屋を暗くする必要もない。ぜひとも商品化していただきたい。 


一度も会ったことのない恩師

050920_212440  成田エクスプレスに乗る前に、駅のキオスクで何気なく手に取った「週間ダイアモンド」に多湖輝氏の名前を発見。一度も直接合ったことはないが、私の大の恩師である。

 多湖輝氏の『頭の体操』を片っ端から読みあさったのは小学生の高学年のころだ。解けない問題の答えを見るのが悔しくて、一冊読むのに何ヶ月もかかってしまったのを覚えている。

 知的ゲームの楽しさ、既成概念に捕らわれない発想法、難しい問題に取り組む姿勢、柔軟な頭の使い方、など今の私を形作る上で幾つもの重要なレッスンを与えてくれたのが、この『頭の体操』シリーズだ。私は何につけても出来るだけ人と違う発想をしようと試み、誰も思いついたことがない事をすることに喜びを感ずるが、そのルーツは『頭の体操』にある。

 ソフトウェアの開発効率は、開発の過程で生ずるさまざまな問題をいかに効率よく解決して行くかにかかっているが、『頭の体操』で鍛えられた頭の柔らかさに何度助けられたか分からない。私は常々、「大半のソフトウェアの開発には中学生程度の数学で十分」と言ってきたが、今度からそれに「ただし、『頭の体操』で柔軟な頭の使い方をトレーニングしておくこと」を追加しよう。これからソフトウェアエンジニアを目指す学生ならば、微積分の問題を解く能力よりも、金貨問題を解く頭の柔らかさの方が、実戦では何倍も役に立つことを覚えておいた方が良い。

 今の日本の小学生は、低学年のころから塾で受験勉強をさせられるらしいが、そんな詰め込み型の教育が本当に日本の将来のためになるのだろうか、と不安になる。脳の発育にとって一番大切な時期を、極度にゆがんだ教育システムの中で過ごした子供達は、柔軟な発想が出来る大人になれるのだろうか?

 そもそも、今の受験システムは「勉強して一流大学に入れば、一流企業や役所に就職できて、そこが退職後の天下り先まで世話してくれる」という社会構造を前提として作られてきたわけで、その社会構造そのものが崩壊しつつある今、そんな受験勉強で子供の頭脳を疲弊させるより、『頭の体操』でも読ませてどんな時代が来ても柔軟に対応できる大人に育ててあげた方が良いような気がする。


「ビットの集まりを売る時代」の次に来るもの

050919_170504  映像、音楽、ゲーム、パソコンソフト、などさまざまなコンテンツをデジタルデータ(ビットの集まり)としてネットワークを介して流通することが可能になった現代において、「消費者のモラル」の低下を嘆く声や、不正コピーを防止する「DRM技術」の一層の進歩と標準化の必要性を訴える声をよく聞く。しかし、オープンソースやクリエイティブコモンズの発想、丸山茂雄氏が立ち上げた247MUSICなどを見ていると、コンテンツを作る側としても、そろそろ少し発想を変えてもの作りをしなければいけない時代が来ているのでは、と思えてくる。

 「mF247を始めるにあたって」で丸山氏は「リスナーにとって音楽は〈作品〉ではなく〈情報〉として捉えられているのではないだろうか…(中略)…しかし、感動した人には大切な〈作品〉に昇華し、心に残るのである」という表現で、なぜユーザーはデジタルコンテンツを違法コピーするのか、しかし同時に、なぜ相変わらずメガヒットアルバムが生まれ続けるのか、を的確に説明している。

 私はこれを「簡単にオリジナルと同じクオリティの複製が作れてしまうデジタルコンテンツの時代に、単なるビットの集まりに対価を払わせるのはどんどん難しくなっている。それよりも、単なるビットの集まりには変換しようのない『ライブコンサート』や『ファンとの繋がり』などでファンを感動させることが出来て初めて対価をもらえる時代になりつつあるのではないか。」というコンテンツ業界全体に対する警告として受け止めた。

 デジタルコンテンツの違法コピーがいつまでたってもなくならないのは、そこに「ものを盗んだ」という直感的な罪悪感が生じにくいからである。「パンをお店から盗むことは、そのパンの価格に相当する被害をお店に与えることになる」、という理屈は小学生でも直感的に分かる。ところが、デジタルコンテンツを違法コピーしても、オリジナルが消えてしまうわけでもないし、目の前に被害者がいるわけでもないので、それが犯罪だということを直感的に認識しにくいのだ。これを「ユーザーは勘違いしている。モラルが低下している」と一方的に非難してきたのがこれまでのコンテンツ業界であったが、「ユーザーは単なるビットの集まりには価値を見出さなくなっている」とはっきりと指摘してしまった丸山氏は本当にすごい人だ。

 消費者のモラルの必要性を叫んでも、DRMの技術を進化させても、ユーザーにとって「単なるビットの集まり」の価値が減少の一途をたどることは避けられない潮流なのかもしれない。私も含めて多くの人達が、マイクロソフトの旧来型のソフトウェアビジネスよりも、グーグルやはてなのウェブサービスビジネスに魅力と将来性を感じているのは、その辺を直感的に感じているからである。ライブコンサートで観客を酔わせることの出来ないミュージシャン、オンラインゲームの作れないゲーム会社、ウェブサービスを提供できないソフトウェア会社は食っていけない時代が来つつあるのかも知れない。

[追記] 偶然にも、このエントリーを書いてすぐ、CNet に「マイクロソフトの組織改編:ソフトウェアサービス重視でグーグルに対抗へ」という記事が発表された。マイクロソフト内では、私がいた90年代の後半から "Software is service" という名の下に、ウェブサービスビジネスへのシフトを試みはあったのだが、Windows や Office といったメインストリームのビジネスが足かせになってなかなか思い切った戦略が取れていなかった。Google の成功を見て、「やっとお尻に火がついた」感がある。

[追記2] またまた偶然だが、ほぼ同じようなテーマのブログエントリー(セミナーをブログで公開する価値と、非公開にする価値)がFPN に同時期に書かれたことを KAI_REPORTさんのトラバ経由で発見。追記と同時にトラックバックを送っておく。