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理科系人間にも分かる郵便貯金の問題点

050908_003856 先日、「理科系人間にも分かる『小泉改革の本質』」を書いてから、コメントなりトラックバックの形で沢山の方々からフィードバックをいただいた。おかげで、今まで目を通していなかったさまざまな資料を読むことができ、とても良い勉強になった。政治音痴の私が、ブログを通して「自分なりの解釈」を発表するだけで、これだけの有意義な情報が集まるのだから、すばらしい時代になったものだ。一昔前までは、(マスコミから消費者へと)一つの方向にしか流れていなかった情報が、ブログのおかげでさまざまな方向に流れ始めたゆえのメリットをこんな形で実感すると、本当にワクワクしてしまう。「ブログという道具が人類のライフスタイルに与えるインパクトは、電気、電話、テレビ、に匹敵するインパクトを持つのでは」と本気で思ってしまう私である。

 そこで、ここ数日間で新たに学んだもののうち、特に重要と思える「郵便貯金の問題点」に焦点を当てて、私なりの解釈を書いてみようと思う。前回と同じく、「細かな部分を除いて究極まで絞り込むことにより、問題の本質を浮き彫りにする」という、理科系の私ならではのアプローチである。

 (郵政の民営化賛成派によれば)郵便貯金の一番の問題点は、「日本の経済を大きくゆがめている」点にある。その「ゆがみ」のために、政府や特殊法人の無駄使いや利己的な資金運用がいつまでたってもなくならないのである。

 我々日本人の貴重な財産のうち、320兆円という巨額なお金が郵便貯金という形で郵便局に預けられている。なぜ多くの人々が郵便貯金を選ぶかというと、(1)出し入れが自由なわりに金利は低くない、(2)「政府が保障してくれる」という安心感がある、からである。「安心で、便利で、金利も悪くない」のであれば当然である。

 なぜ、「出し入れが自由なわりに金利は低くない」なんていう魔法のようなことが出来るかというと、郵便局には、一般の銀行に課せられたさまざまな義務(税金、保証金、従業員のための年金の負担など)から免除されているからである。一般の銀行や証券会社から見れば、それだけでも郵便局は「不当に有利な」競争をしているわけで、それに「政府の保証」という安心感がついているため、鬼に金棒である。しかし、「いざ危なくなれば税金で補填してもらえる」という護送船団状態の日本の銀行も他人のことは言えないので、文句を言うのは外資系の銀行と米国政府ばかり、となるのである(参照)。

 これだけでも、既にかなり日本の金融システムをゆがめているのだが、それに加えてもっとゆがみを大きくしているのが、この郵貯の形で集めた大量の資金の運用の仕方である。

 民間の金融機関であれば、その資金の運用先は、市場に星の数ほどある株や債権などの投資物件から、クレジットリスクと金利の両方を吟味した結果、運用先を選ぶことになる。その際、リスクが低い割りに金利の高い商品があれば、多くの人が買うために値段が上がり、結果として金利が低くなる。逆に、リスクが高いわりに金利の低い商品があれば、誰も買いたがらないために値段が下がり、結果として金利が高くなる。これが市場原理である。

 しかし、政府の機関である郵便貯金は、市場原理を無視して国債、地方債、財投、財投機関債、などの政府自身、もしくは政府が作った特殊法人の発行する債券を買う、という形で運用されてきたのだ。この市場原理を無視した郵便貯金の運用のために、政府や特殊法人が経営努力をろくにしなくとも、不当に低い金利で資金を調達できる、という状態が長年続いて来たのである。(追記、この資金の流れは表向き2000年に止まったことになっているが、実際は財投債という形の国債の購入に使われ、そのお金を政府が特殊法人に貸し付けているため、実質的にはあまり変化はない。)

 米国でベンチャー企業を立ち上げて、運営資金の調達のために投資家たちにビジネスプランのプレゼンをして全米を駆けずり回った経験を持つ私としては、そんな状態がいかに異常なものか身にしみて分かる。市場原理がフルに機能している米国で資金を集めるには、ものすごくしっかりとしたビジネスプランと説得力のある差別要因を持っていなければならず、その段階での「ふるい落とし」に生き残ったわずかな企業だけ(ある統計によると1000社のうち6社)が資金調達を許されるのだ。

 この「経営努力をろくにしなくても、不当に低い金利で資金を調達できる」という異常な状態を長年放置しておいたために出来てしまったのが、道路公団に代表される「天下りと利権の温床である特殊法人とその関連団体」なのである。

 これだけでも、とても先進国で起こっている話とは信じ難い話だが、もっと恐ろしいのは、この「経営努力をろくにしていない特殊法人に低金利で貸し出しているお金」のどのくらいが既に不良債権化してしまっているか(=特殊法人の事業が経営破綻状態にあり、借金を返せる状態に無いか)を誰もきちんと把握出来ていない、と言う状況である。郵政を民営化して、郵貯の運用先をきちんと把握して不良債権を処理したら、実は100兆円が焦げ付いていた(つまり、100兆円を税金で補填しなければならない)、という可能性も十分ありうるのである。

 分かりやすく言えば、郵貯の運用状況というのは、開けると大変なものが出てくるかも知れない巨大なパンドラの箱なのである。開けるとたぶんものすごいものが出てきて痛みを伴うが、空けずにほっておくと将来もっとすごいことになってしまう可能性があるから、パンドラの箱を開けるのは今しかない、と主張しているのが小泉首相である。

 以上が、郵政民営化賛成陣営の主張を私なりにまとめたものであるが、私は経済の専門家でも政治の専門家でもないので、残念ながら以上のロジックが全て正しいデータに基づいて作られたものかどうかを検証する道具を持ち合わせていない。しかし、もしこれが本当に正しいデータに基づくものであるならば、例え痛みを伴うとしても、今のうちにパンドラの箱を開けて不良債権を処理し、構造改革により無駄遣いをなくすのが、我々の責任であると思う。小手先の景気対策だけをして問題を先送りして、我々の子供や孫の世代に莫大な借金を背負わせたまま逃げ切る権利は我々にはない。

[参考文献]
ぐっちーさんの金持ちまっしぐら:再び郵政民営化について
山崎拓 Blog、郵政民営化解散総選挙施行へ
マーケットの馬車馬: 郵貯:改革の理由(3) 世界最大のデタラメ商品
マーケットの馬車馬: 郵貯:改革の理由(2) 収益源のタイムリミット

Comments

stereo_eye

確かこの構造はまずいと思います。
しかしこの民営化に際しての枠組みのずさんさが、小泉政権を信用できない点なんですよね。
民営化によって、たとえば住人数十人の村落に金融機関は支店をまず作りません(採算に合わないでしょう)。

それに、新聞の配達さえこない地域もあります。(郵便で運ばれてくるそうです)。
そのような地域での郵便、金融をどのようにすれば民営化したときに維持できるのか、といった議論が全く聞こえてこない。
国民にサービスをいかに行き届かせるかを考えるのも、政治の重要な点ではないでしょうか?
市場主義だけでは難しいのではないかと思います。民営化に際して何らかの法的な拘束条件を付けるべきなのでは? 大丈夫ですと言われても市場は利己的に動くものです。

satoshi

 stereo_eye さん、コメントありがとうございます。実は私も、郵便事業そのものに関しては必ずしも民営化はする必要はないのでは、と考えています。世襲制をなくして、地方郵便局の窓口の権利を入札制にしさえすれば良いと思います(もちろん、都心ではコンビニが権利を買うでしょうね)。

babie

stereo_eye さんも言っている通り、田舎では郵便局が銀行の代わりをしています。無くなって困るのは郵便だけじゃなく郵貯もです。

郵政民営化に拘りすぎじゃないでしょうか。自民党の広報戦略の中でだけ思考を巡らせているように思います。「郵政民営化、是か非か」以外もご意見を伺いたいです。

snowbees

郵政民営化に関する疑問点:
1)約300兆円の資金運用について。
完全民営化ならば、日本国債の利子1.5%よりも、例えばオーストラリア国債の利子5%の方が有利だが、赤字国債に悩む日本の財務省が、それを許すのか?
2)日本の民営化案は長期展望に欠けていると。すなわち、
民営化の成功例である、ドイツ・ポストは15年を掛けて制度改良して、また国際業務(DHLの買収など)を追加している。
3)失敗例:拙速主義では、NZが高価な犠牲を払い、国営に戻したと。英国も失敗と。
4)要するに、亀井派ツブシの政争で、拙速主義であると。

satoshi

まずは babie さんに回答します。

>田舎では郵便局が銀行の代わりをしています。無くなって困るのは郵便だけじゃなく郵貯もです。

この部分に関しても、田舎にどうしても必要なのは「郵貯」ではなく「銀行の窓口業務」ですよね。もしそこを国としての「ユニバーサルサービス」として責任持つべきであるなら、国として(私は郵便サービスの民営化は必要ないと思っています)郵便サービスの窓口業務を民間に委託する際に、「人口何人以下の市町村の場合、必ずどこかの銀行の窓口業務も同時に提供しなければならない」という条件を付けるなどすれば良いのではないでしょうか。

>郵政民営化に拘りすぎじゃないでしょうか。自民党の広報戦略の中でだけ思考を巡らせているように思います。「郵政民営化、是か非か」以外もご意見を伺いたいです。

 私は必ずしも自民党支持ではないし、小泉首相の在任中の仕事がすばらしかったと言うつもりもありません。ただし、方向性としては「小さな政府」構想には賛成です。もちろん、国が責任を持つべきユニバーサルサービスと弱者の保護は国がすべきですが、今の日本は民間や地方に任せれば良いものまで国や特殊法人でやりすぎ、という点に関しては小泉首相と同じ意見です。

 郵政に関して私の意見をまとめると

(1)郵便サービスだけを切り離し、ユニバーサルサービスに関しては国として責任を持ちつつ、窓口業務のみ競争入札で民間に委託。
(2)郵貯と簡保は民営化。ただしユニバーサルサービスとして銀行窓口業務を過疎地に提供する部分に関しては、国として責任を持つが、その場合の「銀行」は、民営化された郵貯である必要は全く無い。

ですね。

satoshi

snowbee さんに対する回答、

>1)完全民営化ならば、日本国債の利子1.5%よりも、例えばオーストラリア国債の利子5%の方が有利だが、赤字国債に悩む日本の財務省が、それを許すのか?

 これこそまさに、「不当に低い金利」と私が指摘した点です。日本の財政状態を考えれば、利子がもっと高くなる可能性は十分にあります。そこを郵貯などを使ってむりやり低く抑えても、結局はどこかでツケは払わなければなりませんから。

>2)3)日本の民営化案は長期展望に欠けていると。

 私も同感です。小泉首相の「なぜ民営化しなければいけないか」は理解できましたが、「どう民営化する」の部分に関しては不透明です。

>4)要するに、亀井派ツブシの政争で、拙速主義であると。

 今回の解散が「亀井派の自民党からの追い出し」だったことは100%明確です。これで「自民党は小さな政府を目指す党」という路線が明確になりました。

tpaipai

郵政民営化について今回このブログを読んではじめて理解できました。
私としてはNHKを民営化して欲しいのですが・・・

元、郵便局アルバイト

郵政事業の賛成反対は人それぞれだと思うけど、知っておいてほしいのは、今の時点でも、郵便局の窓口がない(特定局も存在しない)集落というのは、いくらでもあるんだよってこと。

じゃあ、その人たちはどしているのかというと、郵便局(特定局じゃなくて本局)の方から着てもらうんですね。(年金ももってきてもらえるし、振込みも出来る、時間はかかるけどね)
都会でも、貯金とか保険とかの郵便局員の人回ってくるでしょ?


だから、本質的には、特定局が潰れることと、ユニバーサルサービスが行えなくなることには繋がりは、あんまりないんです。(そして、本局に関しては、郵便事業を商売として行うなら、潰れる事はありません。都会から荷物を送ったら、受け取り側に局が無いので配達できませんでは、商売にならないでしょ)
もちろん、特定局が潰れることで不便になる場所もあるでしょうが、そういうところには、窓口は雑貨屋さん、酒屋さん等に兼務してもらって、ATMを設置するという方法にするだけでも、ずっとコストは下がって、窓口業務を実質存続出来る可能性を高められるわけです。

また、地方の集落に特定局だけで銀行・信用金庫が無いというのには、既に郵便局が存在し、完全にその地域の固定客を持っているところに、無理して進出しない(進出しても顧客が取れないのでそもそも勝負にならない)ということもあるのを知ってもらえると嬉しい。

odr

実は今回の郵政民営化を急いでやるのはアメリカの年金改革の為でもあり
郵便局に預けられている日本の国債を運用するファンド(半分以上が
アメリカ)が既に決まっていているから急いでいると言うことがある。
また、現在の日本の債権を一気に返す最後の手段として郵便貯金を原資に
して日銀がお金を刷りまくる方法があるがそれが使えなくなってしまうと
いう日本経済の本当の最後の切り札を失ってしまう。
あと、民営化するのはいいが税収が確実に5兆円減り、不良債権化するので公民負担も増える。
340兆円のうと既に304兆円が国債などの債権なのでアメリカが考えるように年金運用を
するためには日本の国債を売らないといけない。
となるとアメリカや日本の国債を買ってくれるところが年金資金しかなくなり国債の金利が上がって
国債費が増え日本の財政がより悪化する。
しかし、前述したように債権を返す切り札は無くなっている。
それでいいのなら郵政民営化するのもよかろう。

ぐっちー

こちらで取り上げて頂いてるのですね。駄文で申し訳ない。今後ともよろしくお願い申し上げます。

satoshi

 ぐっちーさん、駄文なんてとんでもありません。とかく感情論での小泉批判が多い中、冷静で論理的なぐっちーさんのブログは、とても参考になりました。

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