「書くように生きる」ことのススメ
一度も会ったことのない恩師

「ビットの集まりを売る時代」の次に来るもの

050919_170504  映像、音楽、ゲーム、パソコンソフト、などさまざまなコンテンツをデジタルデータ(ビットの集まり)としてネットワークを介して流通することが可能になった現代において、「消費者のモラル」の低下を嘆く声や、不正コピーを防止する「DRM技術」の一層の進歩と標準化の必要性を訴える声をよく聞く。しかし、オープンソースやクリエイティブコモンズの発想、丸山茂雄氏が立ち上げた247MUSICなどを見ていると、コンテンツを作る側としても、そろそろ少し発想を変えてもの作りをしなければいけない時代が来ているのでは、と思えてくる。

 「mF247を始めるにあたって」で丸山氏は「リスナーにとって音楽は〈作品〉ではなく〈情報〉として捉えられているのではないだろうか…(中略)…しかし、感動した人には大切な〈作品〉に昇華し、心に残るのである」という表現で、なぜユーザーはデジタルコンテンツを違法コピーするのか、しかし同時に、なぜ相変わらずメガヒットアルバムが生まれ続けるのか、を的確に説明している。

 私はこれを「簡単にオリジナルと同じクオリティの複製が作れてしまうデジタルコンテンツの時代に、単なるビットの集まりに対価を払わせるのはどんどん難しくなっている。それよりも、単なるビットの集まりには変換しようのない『ライブコンサート』や『ファンとの繋がり』などでファンを感動させることが出来て初めて対価をもらえる時代になりつつあるのではないか。」というコンテンツ業界全体に対する警告として受け止めた。

 デジタルコンテンツの違法コピーがいつまでたってもなくならないのは、そこに「ものを盗んだ」という直感的な罪悪感が生じにくいからである。「パンをお店から盗むことは、そのパンの価格に相当する被害をお店に与えることになる」、という理屈は小学生でも直感的に分かる。ところが、デジタルコンテンツを違法コピーしても、オリジナルが消えてしまうわけでもないし、目の前に被害者がいるわけでもないので、それが犯罪だということを直感的に認識しにくいのだ。これを「ユーザーは勘違いしている。モラルが低下している」と一方的に非難してきたのがこれまでのコンテンツ業界であったが、「ユーザーは単なるビットの集まりには価値を見出さなくなっている」とはっきりと指摘してしまった丸山氏は本当にすごい人だ。

 消費者のモラルの必要性を叫んでも、DRMの技術を進化させても、ユーザーにとって「単なるビットの集まり」の価値が減少の一途をたどることは避けられない潮流なのかもしれない。私も含めて多くの人達が、マイクロソフトの旧来型のソフトウェアビジネスよりも、グーグルやはてなのウェブサービスビジネスに魅力と将来性を感じているのは、その辺を直感的に感じているからである。ライブコンサートで観客を酔わせることの出来ないミュージシャン、オンラインゲームの作れないゲーム会社、ウェブサービスを提供できないソフトウェア会社は食っていけない時代が来つつあるのかも知れない。

[追記] 偶然にも、このエントリーを書いてすぐ、CNet に「マイクロソフトの組織改編:ソフトウェアサービス重視でグーグルに対抗へ」という記事が発表された。マイクロソフト内では、私がいた90年代の後半から "Software is service" という名の下に、ウェブサービスビジネスへのシフトを試みはあったのだが、Windows や Office といったメインストリームのビジネスが足かせになってなかなか思い切った戦略が取れていなかった。Google の成功を見て、「やっとお尻に火がついた」感がある。

[追記2] またまた偶然だが、ほぼ同じようなテーマのブログエントリー(セミナーをブログで公開する価値と、非公開にする価値)がFPN に同時期に書かれたことを KAI_REPORTさんのトラバ経由で発見。追記と同時にトラックバックを送っておく。

Comments

ringo

「ビットを売る」から「ビットの変化を売る」時代になる、ということですね〜

satoshi

 そうですね、「変化すること」そのものに価値がありますから。特にユーザーがコンテンツの一部になってしまうところが、ライブコンサートとMMORPGの共通点だな、と書いていて気が付きました。

Baatarism

ユーザーをコンテンツの一部にしてしまう仕掛けは、成功したネットビジネスにも多く見られますね。
日本の場合、古くはNiftyServeから2ちゃんねる、Blog、はてな、mixiなどのコミュニティサービスもそうですし、amazon、Yahooオークション、価格.comなどでもユーザーの意見はサイトの重要な要素です。
音楽も単に配信するだけでなく、ユーザーによるアレンジや自作コンテンツへの利用を積極的に認めた方が、より大きなビジネスになるかもしれませんね。「恋のマイアヒ」のような例も出てきていることですし。

fumi

Sorry, I can't type in Japanese here for some reason.

I think the music industry is hanging on to the rights and values of information because their previous model was too profitable to let go ( probably it seemed easier to change the perspective of user thn to change the system). It is coming to the point where they need to get out of the defense model though...

Maybe "access" can be the next profitable value also? Live music and performance has the physical limitation to be profited beyond it, but the access can be expanded beyond the limitation of capacity and time. Regardless, the industry need to understand that they need to give up the profit and value of actual musical piece (information) and use it as a tool to sell something beyond it!

daniel

2重TBすみません。

音楽業界について言えば、ユーザー(音楽を買う人)、作り手(音楽を創作する人)、代理店(音楽レーベル)の3者がいて、これまでは代理店の取り分がやたら出かかったと思います(所得の不公平な分配構造)。

日本における著作権論争では、本来の意味での著作権(作曲家、作詞家、歌手の権利)ではなく、代理店である音楽レーベルが儲け続けられる権利、のように語られていると感じます。既得権益を守りたい大手レコード会社がもがいていている印象を受けます。

satoshi

fumiさんもshunsukeさんも、「音楽レーベルの既得権」の問題点を指摘されていますが、それに関して言えば、iTune Music Store のような動きもあるので、抵抗はあるとしても、徐々に解決をして行くと思います。そんな時代が来た時には、ユーザーがクリエーターの距離が今よりもずっと縮まるわけですが、そこで強さを発揮できるのは「ライブコンサート」や「ユーザーとの対話」でユーザーとの強いつながりを作ることの出来るクリエーターなのでは、というのが今回の主題です。

 例えば「浜崎あゆみ」のプロモーションに年間数億円をつぎ込んでいるのは彼女自身ではなく、音楽レーベルです。そんな浜崎あゆみのレコードの売り上げの大半をレーベルが持っていくのも当然ですよね。そのビジネスモデルが壊れた時には、アーティスト自身その責任が回って来ることになるし、一曲100円も払ってもらえないかもしれない。そんな時代に備えて、今何をしなければならないかを考えると、実はものすごく古典的な、「魅力的なライブ」に答えがあるような気がします。

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