私の関わっているプロジェクトの一つに、「全く今まで存在しなかった形のデジタル・エンターテイメントを実現しよう」というとても楽しいプロジェクトがある。この手の大きなプロジェクトを成功させるには、「大きな夢を共有しつつ、同時に一つ一つ着実に駒を進めていくこと」が大切なのだが、なかなか簡単ではない。特に、まだ「最終的に目指すもの」のイメージがちゃんと共有されていないので、各チームの動きがちぐはぐなのだ。
そこで、私が「プロジェクトメンバー向けに、目指すライフスタイルのイメージ・ビデオを作ろう」と提案しているのだが、なかなか理解してもらえない。「プロジェクトが立ち上がったばかりなのに、そんなものはまだ作れない」とか、「もう少し見えてきてからにした方が良いのではないか」という否定的な意見が出るのだ。今日は、そんな人たちへのメッセージ。
私がもの作りをするときは、常にユーザー・インターフェイスのプロトタイプから入る。単なるスケッチの時もあれば、一見動いているように見えるプログラムの場合もあるし、イメージ・ビデオの場合もある。とにかく、それを見た瞬間に、「どんなユーザーがどんなシナリオで使うか」がはっきりと実感できるようなものを作るように心がけている。
大切なことは、「何を作るか」を十分に考えた後でプロトタイプを作るのではなく、「何を作ったら良いかよく分からない」段階でプロトタイプを作り始めることである。プロトタイプを作るというプロセスそのものを利用して、自分の頭の中に漠然と存在していたアイデアを目に見えるものにまとめ上げる作業を行うのである。
サンプルとして、「世界中全ての携帯電話にGPSが組み込まれ、その位置情報をリアルタイムでサーバーに集めることができればどんなことが出来るか」を目に見える形にしてみた(添付図)。想定するユーザーは、これからディズニーランドに行こうとしている、もしくは既にランド内にいる人たちである。このサービスを使えば、チケット売り場がどのくらい混んでいるか、どのアトラクションの行列が長いのか、パレードの席取り合戦は既に始まっているのか、などが一目で分かる、というサービスだ。
この絵は30分ぐらいで描いたのだが、それなりに発見があった。まずは、人をドットで表すだけで結構何とかなってしまうこと。ドット同士がくっつきすぎてダメかと思ったが、アンチエリアス処理を施せば何とかなる。次に、携帯電話の画面サイズ(240x320)で十分なこと。これなら、既にランド内にいる人達にも使ってもらえる。後は細かな話だが、データの送り方に注意が必要なことに気が付いた。サーバー側で位置情報も重ねてしまってビットマップを送ればデバイス側の処理は軽くて済むが、サーバーが重くてしかたがないだろう。それよりは、AJAX的な技術を使って(例えばUIEngine^^)、位置情報をデバイス側でスーパーインポーズした方が良いだろう。
一枚の絵を描いただけで、これだけのことが分かる、もしくは意識できる、という点が重要なのである。絵を描いたりプロトタイプを作ることにより、色々と細かなことを意識せざるおえなくなり、それまで気が付かなかったことが見えてきたり、後で決めれば良いと思っていたことを前倒しで決めなければならなくなるのだ。
ということで、これからも新しい商品やサービスのアイデアが浮かんだら、出来る限りプロトタイプや画像の形でここでどんどん公開していくことにしようと思う。…と自分の趣味を正当化してしまった私であった。