社員向けの英語ブログ開始
「Software is service」の心構え

パーベイシブ・アプリケーションという世界観

051028_075147 先日、社員向けの英語ブログでPervasive Applicationというタイトルのエントリーを書いたのだが、今日はそれについての解説(翻訳したものをここに載せようと試みたのだが、どうしても翻訳調になってしまうのが耐えられないので、解説という形を採ることによりいつもの文体で書くことにした)。

 パーベイシブとは「浸透する」という意味の形容詞で、IT業界には「偏在する」という意味のユビキタスとほぼ同じ意味合いで使っている人が多い。ユビキタス・アプリケーションと呼んでも良いのかもしれないが、私としては「ユビキタスになってきたデバイスとネットワークを通じて、どんなデバイスを使っていようと、いかなるネットワークに繋がっていようと、ユーザーにコンテンツやサービスを届ける」という意味合いで、ネットワークを通じてユーザーに染み込んでいくようなイメージが出るパーベイシブの方がしっくり来る。

 アプリケーションがパーベイシブになった世界とは、Microsoft Officeのような業務用アプリケーション、ファイナル・ファンタジーXIのようなオンライン・ゲーム、iTunes Music Storeのようなメディア流通アプリケーションなど、今この世の中にソフトウェアとして流通しているあらゆるアプリケーションが、全てAJAXスタイルのウェブ・アプリケーションとして、あらゆるデバイスを通じてユーザーに届けられるようになった世界をさす。そんな世界では、例えば、早朝に自宅のMacで友達と始めたチェス・ゲームを、車の中ではカーナビを通じて、スタバでは携帯電話を通じて、そしてオフィスではWindowsパソコンを通じて、途切れなく遊び続けることが可能になる。

 そんな時代のアプリケーションは、デバイス上のCPUの種類や性能、搭載されているOSやVM、入出力装置などに関わらず、ユーザーが必要とするときに、アクセス可能な全てのデバイスで走る。そんなアプリケーションは、今のAJAXをはるかに進化したさせたようなテクノロジーを使い、デバイスの能力が高ければ最大限に利用し、デバイスの能力が低い場合もそれなりに活用して、ユーザーのおかれた状況に最も適したユーザー・インターフェイスを提供する、本当の意味での次世代型のウェブ・アプリケーションである。

 例えば、上にあげたチェスの例だと、パーベイシブなチェス・アプリケーションは、パソコン上で走らせると3D描画機能を最大限に生かし、カーナビ上で走らせると音声認識を利用したハンズ・フリーでのプレーを可能にしながらも、ローエンドなJava端末(例えばDoCoMoの700シリーズ)上でもそれなりのユーザー・インターフェイスを提供して走るのである。ユーザーは、自分が持っているデバイスにどんなCPUやOSが搭載されているかなど一切知る必要も意識する必要もなく、単に「早朝始めたチェスゲームの続きをしたい」との指示さえすれば、その時たまたまユーザーが持ち合わせているデバイスやネットワークの性能に応じた最適なユーザー・インターフェイスをアプリケーション自身が提供してくれるのである。

 私がマイクロソフトを退職して、UIEvolutionという会社を創業したのは、そんな世界を実現したいと強く思ったし、出来ると思ったからである。2000年の創業から5年が過ぎて、まだ目標の10%も達成できていないが、毎日少しずつ前進はしているつもりだ。年末には世界中の300種類の端末で動くUIEngineを使ったアプリケーションが某社から発売される予定だし、最初は携帯電話でしか動かなかったUIEngineも、セットトップ・ボックスなどの組み込み端末、Mac、Linux上でも動き始めたし、これからが一番面白い所だ。そんな意味で、「なぜUIEvolutionという会社が存在するのか」をもう一度社員に見つめなおしてがんばって欲しいと思って書いたのが、このPervasive Applicationというエントリーである。

Comments

snowbees

Peteさんの英文コメントがおもしろいですね。

snowbees

2005/oct/12Newsweek日本版より。成功の主役はパソコンから家電に切り替わった。パソコンメーカーは相次いで、この成長市場に参入している。英国の調査会社U&Sによれば、「今いちばん求められているのは、テレビとブロードバンドと電話の「トリプルプレー」を同時に実現できる製品だ」と。「3つのプラットフォームが一つになる」I-podは、その先駆け的な成功例だ。携帯電話で、300万画素以上のカメラ付きの出荷台数は、04年の130万台から09年には1.4億台に激増し、デジカメと「共食い」になると、U&Sは予測する。キャノンとMSなど、生き残りのための戦略提携も加速していると。

YamaPing

 もしも「透過的」に使えるサービスがあるとしたら、ユーザ−は使えるうちで一番軽い端末(携帯?)を常用してしまうのではないでしょうか?

 私は今 Mac の Powerbook を常用していますが、Windows や携帯、ひどいときには Mac の desktop(ノートと微妙にキーボードの配列が違うのです)を使おうとするだけで混乱します。もちろん、ヒトは私の頭が単純すぎると言います...。
 Chess のように熟考出来て操作にかかる手間が比較的小さなものは問題にならないでしょうけれど、アイディアが消えないうちにワープロで書き留めて、というときには鞄の中からパソコンを出すことになってしまうと思います。私としては、標準サイズのキーボードと必要な機能が揃った、スリープからの回復が早い PDA があれば一番なのですが...。

satoshi

snowbeeさん、コメントありがとうございます。iPodが他の携帯側音楽プレーヤーより優れているのは、デバイスそのものではなくて、iTunesというアプリケーションを通してユーザーが所有するコンテンツをパソコンとiPodという2種類の端末からものすごく簡単にアクセスできるようにした点にあるのですが。そういった戦いになるとソフトに弱い家電メーカーは弱いですね。かといって、ソフトが強いマイクロソフトに頼ると一番おいしい所を持っていかれてしまうので、そこが悩みですね。

>もしも「透過的」に使えるサービスがあるとしたら、ユーザ−は使えるうちで一番軽い端末(携帯?)を常用してしまうのではないでしょうか?

YamaPingさん、確かにそんなユーザーもいるとは思いますが、そういう使い方を前提にデバイスやアプリを設計するのと、デバイスに依存しないサービスを前提にデバイスやアプリを設計するのとでは、全然出来てくるものが違いますよね。前者のアプローチだと、ビジネスモデル的に、どうしても各端末メーカーが特定のサービスやアプリとタイアップしてクローズドな形でしか進化しないので、(1)ユーザーがサービスを自由に選べない、(2)デバイスを切り替えると今まで使ってきたサービスが使えなくなる、などの問題が生じます。

kobayashi

10年ぐらい前、大学院でモバイルコンピューティングだとか、移動計算機環境だとかいって実行環境に適応して動作するプログラムだとかシステムだとかを考えていました。プロセスマイグレーションで移動した先の性能とか機能が異なっていても違いを検出して動作を変えられるようなことをやっていました。別の研究室では異なる環境でも適応して動作できるような言語と実行環境を作っていました。今考えてみるとパーベイシブなチェスアプリケーションを目指していたのだと思います。ほかにも通信メディアを切り替えてもネットワーク接続を維持してどこに移動しても通信を続けられるようなネットワークシステムとかを考えていました。現在では当時想定していたネットワークや機器とはずいぶん異なっていて、求められることも変わってしまったように思っていました。
考えようによってはAJAXスタイルのウェブアプリケーションは当時目指していたものの今日的な解かなとも感じました。ひょっとすると当時考えていたことがようやく本格的に求められるようになったのかもとか。

abc

Pervasive Applicationとは面白いコンセプトだと思います。しかし、色々なデバイスで同じコンテンツ(アプリケーション)を利用したいというニーズは、そもそも低いのではとも思います。

8年前位前に、「ワンコンテンツ/マルチデバイス」というアイデアがありました。携帯電話でWebブラウジングが可能となり、cHTML、WAPなど様々な記述言語が登場して、それまでPCインターネットで見せていたコンテンツを、各記述言語(≒携帯端末)ごとに作り直すのは非効率なので、元のコンテンツは何も加工することなしに様々なデバイスで見れるようにしよう、というものだったと思います。
ちょうどXMLやXSLTとかが普及し始めた頃でもあり、コンテンツはXMLで(一つだけ)作って、レイアウトはXSLTを用いてデバイスごとに記述する、といった対応で「ワンコンテンツ/マルチデバイス」を実現しようとしていたサイトもありました。
しかし、現在では、各コンテンツ配信者(Webサイト等)は、それぞれのメディア/デバイスごとに別々のコンテンツを企画・作成しているように見えます。結局、フルブラウザで見るコンテンツや、そのコンテンツの見え方は、携帯の小さな画面には適しないし、利用者もそれを求めていないように思えます。逆に、現在のコンテンツ配信の考え方としては、一つのコンテンツでも、各メディア/デバイスの特長を考慮した上で、それぞれにカスタマイズして見せる、また、異なるメディア/デバイスのシナジー効果により、コンテンツを一層"面白い"ものにする、というものではないでしょうか。

ここから推察されることの一つには、「コンテンツは、それを表示/利用するのに適するメディア/デバイスがある」ということではないでしょうか。現在、一般的に利用されるメディア/デバイスでもこれだけ違い/特長があります。

-テレビ:大画面、受動的(リラックスして見る)、画面までの距離が遠い
-PC:中画面、インタラクティブ、操作性が高い(キーボード入力、マウス)、能動的
-携帯電話:小画面、操作性悪い、アクセシブル(いつも持ってる)
-携帯音楽プレーヤ、携帯ゲーム機:小画面、特殊機能に特化(非汎用的)、アクセシブル

上記メディア/デバイスに横断的に利用できるコンテンツを企画・開発・配信することは可能だと思いますが、そのコンテンツは結局のところ使いづらい、また各メディア/デバイスに特化したコンテンツと比較すると魅力がない、ということになるのではないでしょうか。

satoshi

 最もな指摘ですが、少し誤解があるようです。ここで言う「パーベイシブ・アプリケーション」とは、サーバー側にあるコンテンツやデータがあらゆるデバイスからアクセス可能になった状態を指し、当然ですが見せ方・表示の仕方は各デバイスの入出力デバイスに適したものを選ぶ必要があります。携帯電話用のUIとテレビ用のUIが同じで良いわけはありませんから。「コンテンツ」と「表示の仕方」を切り離して考えるべきだと思います。

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