アップルにして欲しい次の革命
2005.10.12
うわさされていた通り、ビデオ iPod を発表したアップルだが、はっきり言ってどうでも良い(もちろん私は買わない)。あんな小さな画面でミュージック・ビデオを見せる、なんていうことがスティーブ・ジョブスの本当の狙いではないことは明白だ。
今回のアナウンスメントでもっとも重要なのは、ディズニーがiTunes 向けの動画配信のパートナーとなったことある。ディズニーは、ABC、ディズニーチャンネル、ESPN などの主要なテレビ局を持つ巨大コンテンツ会社。そのディズニーのCEOの Iger 氏が自ら舞台に上がってアナウンスをしたのだから、これの意味することはビデオ iPod なんかよりも桁違いに大きい。
私がなぜこのパートナーシップに特に注目しているかというと、iTunes Music Store で音楽業界に革命をもたらしたアップルには、ぜひともこれをテコにしてもう一つして欲しいことがあるからだ。
「放送革命」である(「放送と通信の融合」と言った方が分かりやすいかも知れないが、私はその呼び方はどうも好きになれない)。
日本でも本格的な「地上波デジタル」へのシフトが始まっているが、これが大変な税金の無駄遣いだということをおおっぴらに指摘する人は少ない。光ファイバーがここまで普及した今、電波で映像を送るのは離島などの僻地だけにしておき、人口密集地域には光ファイバーで送るほうがはるかに経済的でサービスとしても良いものが提供できることは明白である。そんな時代に、莫大な税金を費やして日本中の中継アンテナを立て替えるほど馬鹿らしい話はない。
デジタル放送へのシフトが100%終わる2011年には、「面白い番組は光ファイバーを通したビデオ・オンデマンド・サービスでしか見られない」時代になっている可能性は十分に高い(それが証拠に、来年以降の主要なスポーツの放送権を買っているのは既存の放送局ではなく、ソフトバンクやインデックスといったインターネット・コンテンツ企業である)。その時になって、「あの地デジのために費やした税金はいったい何だったのか」と騒ぎ出してももう遅いのである。
放送局の人たちも役人たちもこの事実を漠然とは認識してはいるのだが、ここまで話が進んでしまった段階では後戻りが出来なくなっているのだろう。特に放送局側としては、「割り当て電波」という既得権の存在しない光ファイバー上へ主戦場を移すことは出来るだけ遅らせたい、という事情もあるので、簡単には方針を変えられない。梅田望夫氏的な見方をすれば、今の経営陣は「どうせ放送と通信の融合が起こるのは自分達が引退した後のこと」と割り切って逃げ切るつもりなのかも知れない。
こんな税金の無駄遣いをやめさせる一番手っ取り早い方法は、既存の放送ビジネスの価値観を一気にぶち壊すぐらいの力を持ったサービスを立ち上げるしかない、と私は考えている。国民の多くが、「こんなサービスがあるなら、地デジなんて必要ないじゃん」と納得してしまうようなすばらしいサービスである。
「日本には既にVODサービスがいくつもあるが、コンテンツも不十分だし、ユーザーにも認知されていないじゃないか」という声も聞こえてきそうだが、iTunesで音楽業界に革命をもたらしたスティーブ・ジョブスなら、ひょっとしたら一気に流れを変えることが可能ではないか、と私はひそかに期待している。
もちろん、私がアップルに期待しているのは(そしてたぶんディズニーが最終的に狙っているのも)、iPod向けのQVGAサイズのビデオ配信なんかではない。テレビにつないだ Mac 向けのDVD・HDTVクオリティのビデオ配信である。各家庭にハードディスクレコーダーを置く代わりに、コンテンツ配信者にはビデオデータを置いたサーバーからpodcast の仕組みで配信してもらい、いつでも見られる状態を実現するのである。こんなサービスが一度立ち上がってユーザーに認知されれば、最終的には既存の放送局もコンテンツを提供せざるをえなくなり、光ファイバーでのコンテンツ配信の時代への移行が一気に進むことになる。
来年の今頃には、私の家のテレビにはビデオ視聴専用の Mac が繋がれており、podcast で落としてきた映画を見ているのかも知れないと考えると、ワクワクしてくる。
地デジは携帯端末とか車載テレビとかで、きれいに受信できるのがメリットではなかったでしたっけ。
日本人はテレビよく見る国民ですから、そういうところも狙ってるのではないでしょうか。
Posted by: test_31331 | 2005.10.13 at 05:57
まさにこのエントリーと呼応するような形で、「楽天、TBSに経営統合申し入れ」というニュースが出てきましたね。
楽天+TBS(まだ仮定ですが)が、「放送革命」を起こすのか。三木谷さんなら、と何かしら期待させられるものがあります。
アップルの動向も気になりますが、こちらもなかなか楽しみですね。
Posted by: s_kanda | 2005.10.13 at 09:09
>地デジは携帯端末とか車載テレビとかで、きれいに受信できるのがメリットではなかったでしたっけ。
それも理由の一つだったとは思いますが、私としては podcast のような仕組みで、好きなコンテンツを好きな時間に楽しめる方がずっと価値があると思い始めています。最近、iPod を車につないで、podcast で取得したコンファレンスのスピーチなどを通勤中に聞いているのですが、すごく時間が有効に使えます。現代人の生活パターンを考えると、従来型の「放送」は時代遅れではないかと思えてきた今日この頃です。
Posted by: satoshi | 2005.10.13 at 09:11
>まさにこのエントリーと呼応するような形で、「楽天、TBSに経営統合申し入れ」というニュースが出てきましたね。
本当に面白くなってきましたね。まさに「コンテンツ配信の戦国時代に突入」です。
Posted by: satoshi | 2005.10.13 at 09:14
http://www.randdmanagement.com/c_shuju/sh_178.htm
地上デジタル放送は中止ではないかという観測記事です。
Posted by: snowbees | 2005.10.13 at 15:22
地デジに関しては、何とかする必要がありますね。少し調査してから、別のエントリーに書く必要があるかも…
Posted by: satoshi | 2005.10.13 at 16:40
地デジはパラダイムシフトにはなれないけど、Podcasting はパラダイムシフトになる可能性が高いと私も思います。
国策として取り組むなら、「これが実用化できればパラダイムシフトになるけど開発コストや各業界との調整が困難」という分野に取り組んでほしいです。
Podcasting は視聴したいジャンルと時間の長さを選んでダウンロードできるとうれしい。
「今日は取引先まで1時間の移動だから、経済ニュース15分と、落語15分、ワールドサッカー30分を持って行こう」
となったらいいですね。
Posted by: passageiro | 2005.10.13 at 21:47
すみません。またやらかしました。TBの一方の削除お願いします。
Posted by: kai | 2005.10.14 at 03:26
アメリカでは日本ほどネットのインフラが発達しているわけではないので、現時点から言えば、HDクオリティの動画を配信するのはまだまだ現実的でない気がします。しかし、いつの日かAppleが映像の分野でも革命を起こしてくれると信じています。
Posted by: zahrky | 2005.10.14 at 08:37
>「今日は取引先まで1時間の移動だから、経済ニュース15分と、落語15分、ワールドサッカー30分を持って行こう」となったらいいですね。
ですよね~。新幹線での移動とかが楽しくなります。
>アメリカでは日本ほどネットのインフラが発達しているわけではないので、現時点から言えば、HDクオリティの動画を配信するのはまだまだ現実的でない気がします。しかし、いつの日かAppleが映像の分野でも革命を起こしてくれると信じています。
確かにHDクオリティはまだまだですが、今のケーブル・インターネットでDVDクオリティには十分です。Verizon(電話会社) が Comcast(ケーブル会社)と対抗するために、光ファイバーを各家庭まで持っていくと宣言しているので、それに期待しています。
Posted by: satoshi | 2005.10.14 at 09:31
去年だったか耳にしたConsumer Generate Mediaという概念が、従来の視聴者側にどこまで染み渡るかに掛かるのかな思ったり。こう書くと抵抗勢力みたい。
もちろん個人的には一日も早く来てほしいし、付随して番組表に忍び込む広告合戦もきっと楽しいはず!
Posted by: imaggio | 2005.10.16 at 05:41
早くもPodcastingによる放送サービスが始まるようです。
日本でもこんなことをやる人がいるんですね。
あまりに先走りすぎてないかと、ちょっと心配ですが。
http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0510/18/news024.html
Posted by: Baatarism | 2005.10.18 at 01:46
深い洞察に簡単ばかりです。ただ、テレビの操作に今のリモコンではキツイのでは?
Posted by: burabura | 2006.01.10 at 02:45
私はアップルではなく、任天堂がこの役割を果たすのではないかと期待する。ゲーム機はテレビに直接つながっているため、実現しやすい。しかも、任天堂は新型のゲーム機に無線LANを搭載してインターネットとつなげやすくする方針だ。つまり、このゲーム機をテレビにつなげれば、簡単にテレビをインターネットにつなぐことができるようになる。また、コントローラーもテレビと同じリモコン型に変わるので、今までのテレビライフのまま、ゲームやネットを楽しむことができるようになるわけだ。どうだろう?アップルよりも任天堂の方が、実現する確率は高いと思う。まあ、素人なので、技術的な可能性はまったく分からないんですがね。></"
Posted by: ぶらぶら | 2006.04.10 at 19:46
後半、
「最終的には既存の放送局もコンテンツを提供せざるおえなくなり、」
について、
せざるおえなく>>>せざるをえなく
ではないでしょうか?
ちょっと気になりました。
Posted by: special_ex | 2006.06.29 at 17:42
ですね。修正しました。ご指摘ありがとうございます。
Posted by: satoshi | 2006.06.29 at 21:55
勝ってな想像だけどアップルはそっちの方向に行かない気がする。。
Posted by: パク | 2006.12.20 at 11:45
初めてコメントいたします。
友人にsatoshiさんのブログを紹介しようと思って
おすすめのエントリーを久しぶりに読み返してたら、
今年のMacworldの発表はまさにこの内容そのまま(Apple TV+iTunes Movie Rental)でしたね。
2年と3ヶ月後のAppleの戦略を正確に読み切るなんてさすがです。
他のエントリーの未来予測の部分も調べていけば、
結構な確率で当たっているかもしれませんね。
これもブログの醍醐味と言ったところでしょうか。
これから世の中がどんな風に変わっていくかとても楽しみです。
Posted by: misakin | 2008.03.09 at 08:02
HTML5関連の記事を検索してたどり着きました。
アップルにして欲しい次の革命が
2010年にして、やっと始まりそうですね。
Posted by: taxi | 2010.02.18 at 21:03