図解、イノベーションのジレンマ
2005.11.16
私がマイクロソフトをやめるキッカケを作ったのが、「イノベーションのジレンマ」という本だということは、以前にも書いた。IT業界でビジネスをしている限り、大きな会社にいようと、小さなベンチャー企業にいようと、この本に書いてあることを日々意識しながら仕事をするかどうかは大きな違いを生むはずだ。
このブログでも何度も引用しながら、一度もちゃんと解説を書いたことがなかったことに気が付いたので、今日のエントリーは、この本に書かれているコンセプトの解説。
そう思っていつもの様に書き始めたのだが、文字だけではとても伝えにくいコンセプトだ。しかし、図解と言えばパワポ、というのもありきたりすぎるので、会社の廊下にあるホワイトボードに手書きで描いた図を、携帯電話で撮影したものを使うことにした。通りがかった社員にも見てもらえるので、一石二鳥である。
上の図は、この本に書かれたコンセプトを一般化したもの。ブルーのラインは、あるテクノロジーがユーザーの要望を聞きながら進化していくうちに、(声がでかいパワーユーザーの声ばかり聞こえてくるために)その要求を通りこして必要もなく肥大化してしまうことを示している。そうしているうちに、赤い線で示したdisruptive technology (破壊的テクノロジー)と呼ばれる、機能的には遥かに劣るが、格段に小さかったり安かったりするテクノロジーが現れ、市場を奪ってしまう、というセオリーである。この本は、5インチハードディスクに対する3.5インチハードディスクに始まって、さまざまな例を挙げて、なぜ勝者が必ずしも勝ち続けることが出来ないかを丁寧に説明している。
このコンセプトを、今の音楽・ビデオの配布媒体、ゲームを走らせる端末、プロダクティビティ・アプリケーション、のそれぞれのマーケットに関して描き、私の一言コメントを付けたのが以下の三つのグラフである。
「次世代メディアの規格が、Blueray と HD-DVD に分かれてしまったけど、そもそも次世代メディアなんて必要なの?ネット配信のビジネスを育てる方が大切なんじゃない?」
「本当に次世代ゲーム端末なんて必要なの?携帯電話とか、ネットに繋がった他のデバイスに提供する新しいデジタル・エンターテイメントの方が面白いんじゃない?」
「Microsoft Office って進化し続ける必要があるの?それよりも、サイボウズやSalesforce.com が提供しているウェブ・アプリケーションを AJAX の技術でも使って進化させた方がよっぽど役に立つんじゃない?」
ちなみに、この本の唯一の欠点は、大きな会社でこの本を社員に配ると、私の様に辞めてしまう人が出る可能性だ。大企業の経営者は、そのリスクを覚悟した上で社員に読ませる必要があるかも知れない。