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図解、イノベーションのジレンマ

 私がマイクロソフトをやめるキッカケを作ったのが、「イノベーションのジレンマ」という本だということは、以前にも書いた。IT業界でビジネスをしている限り、大きな会社にいようと、小さなベンチャー企業にいようと、この本に書いてあることを日々意識しながら仕事をするかどうかは大きな違いを生むはずだ。

 このブログでも何度も引用しながら、一度もちゃんと解説を書いたことがなかったことに気が付いたので、今日のエントリーは、この本に書かれているコンセプトの解説。

 そう思っていつもの様に書き始めたのだが、文字だけではとても伝えにくいコンセプトだ。しかし、図解と言えばパワポ、というのもありきたりすぎるので、会社の廊下にあるホワイトボードに手書きで描いた図を、携帯電話で撮影したものを使うことにした。通りがかった社員にも見てもらえるので、一石二鳥である。

Dilemma

 上の図は、この本に書かれたコンセプトを一般化したもの。ブルーのラインは、あるテクノロジーがユーザーの要望を聞きながら進化していくうちに、(声がでかいパワーユーザーの声ばかり聞こえてくるために)その要求を通りこして必要もなく肥大化してしまうことを示している。そうしているうちに、赤い線で示したdisruptive technology (破壊的テクノロジー)と呼ばれる、機能的には遥かに劣るが、格段に小さかったり安かったりするテクノロジーが現れ、市場を奪ってしまう、というセオリーである。この本は、5インチハードディスクに対する3.5インチハードディスクに始まって、さまざまな例を挙げて、なぜ勝者が必ずしも勝ち続けることが出来ないかを丁寧に説明している。

 このコンセプトを、今の音楽・ビデオの配布媒体、ゲームを走らせる端末、プロダクティビティ・アプリケーション、のそれぞれのマーケットに関して描き、私の一言コメントを付けたのが以下の三つのグラフである。

Media

 「次世代メディアの規格が、Blueray と HD-DVD に分かれてしまったけど、そもそも次世代メディアなんて必要なの?ネット配信のビジネスを育てる方が大切なんじゃない?」

Game

 「本当に次世代ゲーム端末なんて必要なの?携帯電話とか、ネットに繋がった他のデバイスに提供する新しいデジタル・エンターテイメントの方が面白いんじゃない?」

Apps

 「Microsoft Office って進化し続ける必要があるの?それよりも、サイボウズやSalesforce.com が提供しているウェブ・アプリケーションを AJAX の技術でも使って進化させた方がよっぽど役に立つんじゃない?」

 ちなみに、この本の唯一の欠点は、大きな会社でこの本を社員に配ると、私の様に辞めてしまう人が出る可能性だ。大企業の経営者は、そのリスクを覚悟した上で社員に読ませる必要があるかも知れない。


ソニーBMGの「rootkit」事件は「旧メディア産業」の最後のあがきか

051115_013003  今回のソニーBMGの起こした「rootkit事件は、たぶん10年後か20年後には、「旧メディア産業の最後のあがき」として象徴的な歴史の一コマとして扱われることになるかも知れない、と思った。

 旧来型の音楽やビデオをCDやDVDといった媒体に焼き付けて配布するというビジネス・モデルは、インターネットを介したiTunes Music StoreやRhapsodyのようなビジネスに取って代わられることは既に時間の問題であることは明白である。

 そこで、ソニーBMGに代表されるような「旧勢力」としては、何とか今のビジネスの延命をしつつ、新しい形のモデルを模索せざるをえないのだ。今回の「rootkit」事件は、まさにその象徴だ。若者達の間の違法コピーによる売り上げの落ち込みを何とかストップしようと、「藁(わら)にもすがる」思いで採用したのだろうが、こんない騒ぎになってしまい、イメージ・ダウンもなはだしい。これも、まさに失うものが大きすぎる故に起こる「イノベーションのジレンマ」の代表例である。

 そう考えてみると、番組の企画段階からネット配信を可能にした形での契約を俳優達と結んでおき、iTunes Music Storeを介したテレビ番組のネット配信に一番乗りしたディズニーは、本当にすごい(参照)。ちゃんと先が読めるリーダー達が揃っているに違いない。


スティーブ・ジョブズ・偶像復活

051114_132107  日本に出張する時は、片道9時間以上かかる飛行機での中の時間を有効に使うために、何か課題を持っていくのだが、今回はこの本、iCon Steve Jobs: The Greatest Second Act in the History of Business (和訳の題名は「スティーブ・ジョブズ・偶像復活」)。

 あまりにも面白くて、一気に読んでしまった。日本行きの飛行機に乗ってノートパソコンの電源を入れなかったのは初めてだ。

 マイクロソフトばかり見て過ごしてきた私にとって、アップルの歴史を振り返って見ることはとても新鮮だったし、何と言っても勉強になったのは、ジョブス(ジョブズ?)がピクサーを買ったいきさつから、米ディズニーとのパートナーシップを結ぶまでの経緯。私の会社も米ディズニーと親密に仕事をさせてもらっているだけに、臨場感がありとても楽しめた。

 スティーブ・ジョブスという魅力的な男を中心に置きながら、アップル、ピクサー、ディズニーという米国のトップブランド3社の盛衰を描く本書は、ビジネス書としても、ドキュメンタリー・ドラマとしてもとても読み応えのある本である。

【追記】ちなみに、この本は、アップル側が出版社に対して出版の停止を求め、それに応じなかった出版社への制裁としてその出版社が発行している全ての書籍をアップル・ストアから撤去した(参照)といういわく付きの本である。確かにジョブスのネガティブな面を取り上げたセクションもあるが、全体としてはポジティブな仕上がりに出来ており、それほど過剰反応する必要も無かったのではないかと思う。逆に、それが話題となって売り上げに貢献したりするものだから、皮肉なものだ。


XBox360 と iPod、クリスマスにもらえるとしたらどちらを選びますか?

051104_124113 XBox360 の発売日が近づいている。マイクロソフトの思惑通りに売れるのか、ソニーのPS3に一歩先んじて市場に投入することにより「次世代ゲーム機」のリーダーとしての地位をいち早く確立することができるのか、とても興味深い所である。

 しかし、十代の後半の息子を二人持つ親として、彼らの行動を見ていると「果たして彼らがそもそも次世代ゲーム機なんてものを欲しがっているのだろうか?」ということが疑問に思えてきた。そこで、下の息子の友達(シアトルに住む日本人の高校生)に簡単なアンケートを実施してみた。

 「クリスマス・プレゼントとして XBox360 か Video iPod のどちらかを選べるとしたらどうしますか?」

 ほぼ男女比半々で21人に尋ねたところ、XBox360 が 3人、Video iPod が18人という結果になった。XBox 360 が欲しいと答えたのは男2人、女1人だったので、男女ともに圧倒的に Video iPod の方を欲しがっているという結果である。

 この結果を見て、2年ほど前にソニーの出井氏に会った時の、彼の「ソニーの一番の敵は松下電器でもサムソンでもない、NTT ドコモだ」という印象的なセリフを思い出した。ソニーにとって一番重要な購買層である若年層が、今までエレクトロニクス製品を購入するのに使っていたお金を携帯電話の通話・通信料金として使い始めたことを嘆いてのことである。

 そう考えてみると、PS3 の本当のライバルは XBox360 ではなく、アップルの iPod や NTT DoCoMo の通話・通信料金だと見るのが妥当なのではないか、と思えてくる。「次世代ゲーム機間の戦い」という局所的な戦いにばかり注目せずに、もっと広い意味での「デジタル・エンターテイメントの戦い」を考えた上でビジネスをして行くことが要求されている時代になっているように思える。


ゲームの開発も Web2.0 的にやっても良い時期かも知れない

051108_163935  先日の「Web2.0時代らしいエンジニアのクリエイティビティの引き出し方」というエントリーに対しては、色々なフィードバックをいただいた。その中に、私のスクエニでのポジションを意識してか、「ゲームの開発にも適用出来ないだろうか」という問いかけもあったので、それに対する返答の意味も含めて私なりの考えを書いてみようと思う。

 答えから先に言ってしまうと、「ぜひとも適用してみたい」と考えている。

 従来型の「数千万~数億円の開発費をかけて、ハードウェアの性能を最大に生かしたゲームを作り、ミリオンセラーを狙う」というゲーム作りは、そのビジネス・リスクの高さ故に、どうしても「実績のあるプロデューサー」に任されることとなり、なかなか若いクリエーターたちにチャンスは巡ってこない。もちろん、そういった大プロジェクトに開発スタッフとして参加して経験を積むのも大切だが、それだけで彼らのモチベーションを保ち続けるのは難しいし、せっかくのアイデアが埋もれてしまうことも数多くあると思う。

 そこで、インターネットの力を最大限に生かして、若いクリエーター達のクリエーティビティを最大限に引き出すようなゲーム開発プロセスを試してみるべきではないかと考えている。ざっとこんなイメージである。

1.2~5人程度のミニチームを複数作り、それぞれのチームに、「指定した期間(例えば3ヶ月)でプレイヤブルなベータ版を作れ」と指示を出す。この際、前もって「企画書の作成」とか「プロジェクトの承認」とかは一切する必要はなく、自分達が良いと思うものを作れば良い。

2.ゲームはどんなジャンルのものでもかまわないが、(1)ハードウェアの性能を最大に引き出す部分で勝負するのではなくゲームの面白さそのもので勝負する、(2)マルチ・デバイスでのビジネス展開を前提として移植しやすさを重視する、(3)ベータ版は無料配布を前提にまずはパソコン向けのものを作る、の点に注意して作らねばならない。

3.作られてきたベータ版に関しては、会社として「そのゲームが面白いかどうか」の判断は一切せずに、倫理・著作権法上問題がないことだけを確認した上で、インターネットで無料配布する。その際、ゲームごとの掲示板を作り、ユーザーからのフィードバックを受けられるようにしておく。掲示板の管理者は、クリエーター自身が行う。

4.一定の期間(例えば6ヶ月)をトライアル期間とし、その間にクリエーター達はファン(=コミュニティ)を集めなければならいない。もちろん、会社はネットを通じてベータ版の存在のプロモーションはするが、トライアル期間中の、ユーザーのフィードバックを受けての改良・機能拡張、掲示板を通じたサポート・企画、などは全てクリエーター達が自分自身で行う。
 
5.トライアル期間の終わりに、コミュニティの大きさともり上がり方に応じて、経営陣がそのプロジェクトを正式なものにするかどうかを決定する。正式承認されれば、必要な予算と人員が割り当てられる。そうでなければ、プロジェクトはその時点で終了する。

6.正式なプロジェクトとして承認された場合でも、ベータ版はそのまま提供し続け、コミュニティのフィードバックを受けつつ製品を作り上げて行く。そして、サービスの有料化、パソコン以外のデバイスへの展開などでビジネスとして立ち上げつつ、引き続きコミュニティからのフィードバックを受けて、機能追加などして行く。

 こう書いてみて気が付いたのだが、もしこんな方法での開発が可能なら、ターゲットを社内のクリエーターに限る必要はないかもしれない。一般公募も含めて、社内外のクリエーター達にチャンスを与えてどんどん新しいものを作ってもらえれば、ゲーム産業そのものが今までとは違う盛り上がり方をするかもしれない。


ブロッケン現象、初体験

Adjusted_4 「二重虹(ダブルレインボウ)」というエントリーに寄せられたコメントのおかげで「グロッケンブロッケン現象」のことを知って以来、「死ぬまでに一度は肉眼で見たいものリスト」に入れておいたのだが、今日、以外とあっさりと見ることが出来たのでここに報告。

 ブロッケン現象は、雲とか霧に映した自分の影の周りに見える小さな虹色の輪のことである。原理は通常の虹とは大きく異なり(説明はこちらを参照)、それを見るための条件は虹よりもずっと厳しい。太陽を背にして、自分の影を雲か霧に映さなければならないのだから大変だ。しょっちゅう山に登っている登山家ならまだしも、私のような生活をしている人には、雲や霧を見下ろす位置に自分を置くチャンスはめったにやって来ない。ブロッケン現象を見るためだけに山に登ってみることも考えてみたが、登山家ですらめったに見ることの出来ない希(まれ)な現象を、一度や二度山に上っただけの私に見せてくれるほど山の神様は甘くない。

 そんな私に突然チャンスが到来したのが、「シアトル→東京便」に乗ったわずか数時間前のこと。この時期のシアトルらしく、低く雲が垂れ込めた飛行場を飛び立ったNW7便が雲の上に顔を出したとたん、窓際に座っていた私の席に太陽が差し込んできた。いつもなら、ノートパソコンを画面を見やすくするために日よけを下げる私だが、その時はまだパソコンを開いていなかったので、何気なく外を見たのだ。すると、飛行機が旋回するにつれ、雲に映った飛行機自身の影が見えて来るではないか。

 ブロッケン現象を見るための絶好の条件だ!既にほぼ離陸後の旋回は終えているので、少なくとも数十分はこの絶好の条件が続くはずだ。

 そこで初めて飛行機に乗った子供の様に窓におでこを押し付けて雲に映った飛行機の影を見つめていると、以外にあっさりと「ブロッケン現象」を観察することが出来た。飛行機がかなりのスピードで動いているため、なかなか安定した形では見えてくれないが、数秒から数十秒に一回、丁度良い厚さの雲の上に影が来た時に、かなりはっきりとした虹色の輪が見える。

 あわててカバンから取り出した携帯電話で撮影したのが、この写真(【注】良い子はまねしないように。飛行機の中では携帯電話の電源は切っておくのが規則。)。ジェットエンジンのすぐ前にうっすらと赤みがかって見える円形のものがグロッケン現象だ。肉眼だともっとはっきりと虹色の輪に見えるのだが、携帯電話の受光素子ではこれが限度なのだろう。

 太陽の相対位置が変わって見えなくなるまでの20分ほど観察して分かったことだが、雲と飛行機の距離はあまり遠くない方が良いようだ。つまり、離陸後すぐの高度があまり高くない時期が観察には適している。また、雲が厚すぎても、薄すぎても見えない。写真のようにとぎれとぎれになっている雲の上に飛行機の影が来た時に一番良く見える。

 今の時期に、NW7便に乗る人には、ぜひとも窓際の「J」の席をお勧めする。離陸後の旋回の終わったころに雲に映った飛行機の影を見つけることが出来れば、たぶんかなりの高い確率でその周りに「ブロッケン現象」を観察することができるはずだ。


Web2.0時代らしいエンジニアのクリエイティビティの引き出し方

051028_103551  Foxnews の "Lerning From Google" という記事を読んだ。特に目新しいことは書いていないのだが、その冒頭に書いてある、

The top executives at Google recently admitted that they kind of let their employees invent and develop whatever they think is cool and the company has no problem putting it online to see what happens.
【意訳】Googleの重役たちは、エンジニア自身がカッコいいと思うものであれば、何であれ(誰にも了解を取らずに)作ってしまって良く、会社としてもそれをそのままサービスとして公開してしまってユーザーがどう反応するかを試してみる、というやり方が全然かまわないと思っていることを、最近公に認めた。

という文に目が止まった。何気ないステートメントだが、実はこれこそがGoogleをこれほどGoogle内外のエンジニア達にとって魅力的にしている一番の理由ではないだろうか、と思った。

 エンジニアのクリエイティビティを最大に引き出すには、彼らが作りたいと思うものを作らせるのが一番なのは当然なのだが、従来型のパーケージ・ソフトのビジネスモデルの会社にとっては、それを商品開発戦略の中核に置くことはどうしても難しかったのである。

 一番の障壁がマーケティングと流通のコストである。どんなソフトウェアであれ、パッケージ・ソフトの存在を多くのユーザーに告知し、それをユーザーのマシンにまで流通させるには相当のコストがかかる。それを考えると、エンジニア達が思いつきで作った売れるかどうか分からないソフトウェアをそういったコストをかけて流通させるのは、あまりにもビジネスリスクが高いのである。それに加えて、「ソフトウェアをユーザーのパソコンにインストールしてから走らせる」形で使われるパッケージ・ソフトは、アップデートを届けるにもそれなりのコストがかかるため、「リリース前のテスト」にコストをかけざるをえなく、それがさらにビジネス・リスクを高くする。

 もう一つの問題はビジネス・モデルである。パッケージ・ソフトはユーザーに買ってもらってこそビジネスになるのだが、「お金を払ってまで手に入れたい」ソフトウェアと思ってもらうのは簡単ではない。それに加え、マーケットリサーチとバグ探しのためにベータ版をリリースしても、そんなものにお金は払ってもらえないので、ベータ期間中は一切収入が入って来ない。つまり、いつまでもだらだらとベータ版を提供し続けることは出来ないのである。

 ところが、ソフトウェアをウェブ・アプリケーションという形で提供しているGoogleにはそれが出来てしまうのである。マーケティング・コストは、Google が既に持っているページ・ビューと知名度が使えるので、ものすごく低い。流通コストは、Googleの持つ莫大なサーバー・リソースとネットワーク帯域をを考えれば、やはりものすごく低い。ベータ版にバグが見つかっても、ウェブ・アプリケーションなのでアップデート・コストは一切かからない。それに加えて、ビジネス・モデルが広告モデルなので、ベータ・サービス期間中であってもそこから広告収入が入ってくるのである。Google Mapがいつまでもベータ版であってもかまわないのは、これが理由である。

 これだけがGoogleの強さとは言わないが、ある意味でとても「Web2.0時代らしい」エンジニアのクリエイティビティの引き出し方であり、見習うべき部分は沢山ある。


マイクロソフトがついにオンライン版の Windows と Office を作ると発表

051003_045041  社員の一人が、「マイクロソフトが遂にオンライン版のWindows と Office を発表」というセンセーショナルなタイトルの記事へのリンクを送ってくれた(参照)。

 「発表って、もう出来ているのか!オンライン版のWinodwsってなんだ?」と記事を読んでみると、厳密には「そういうものを作ることにしました」というイニチアチブの発表に過ぎない。少しはデモがあるらしいが。うーむ。

 さらに読み進めると、Windows Live はメッセンジャー、オンライン・メール・サービス(hotmailとは別のものを作るようだ)、ストレージ・サービスなどを組み合わせたサービスだそうだ。どこが新しいんだろう?Yahoo、Google との戦いに本気になったと宣言したいのだろうが、これを Windows Live と呼ぶのはかなり強引だ。MSN ブランドではもう戦えないととうとう観念したのだろうか。

 Office Live は、中小企業向けの色々なビジネスタスクをこなすウェブ・アプリと、メール・サーバーのホスティング・サービス(日本の「サイボウズ」のようなもの)。これは、Salesforce.com との戦いなどを考えれば当然力を入れなければならない部分だが、既存のMicrosoft Office の売り上げが下がっても良い覚悟で、簡単なワープロ機能やAJAX版のパワポ機能などを無料で提供してくる度胸があるかどうかが見ものである。マイクロソフトが提供しなとも、必ず他がやってくるので、そこが面白い。

 記事の前半に、Ozzie の"Our dream is to deliver a seamless experience where all the technology in your life and business comes together in a way that 'just works' for you," というセリフが書かれているが、これは、仕事関係のタスクは Office Live で、プライベートなタスクは Windows Live で全てインターネットを通してシームレスにして使える環境を提供したい、という意味だ。

 「Windows と Office のビジネスをいきなりつぶすわけにはいかない」というイノベーションのジレンマを抱えるマイクロソフトがどこまで本気でこの2つのサービスを立ち上げることが出来るのか、Ozzie 氏のお手並み拝見である。失敗に終わってしまったNetdocs というマイクロソフトの最初の「オンライン版オフィス」の開発に関わった私としては、「やるなら別会社を作って本気でやるべきだ」というのが正直な感想だ。Microsoft Office と共存しようなどというなまやさしいアプローチではうまく行くはずがない。

[追伸] CNetの記事を読むと、Office Live の General Manager として Rajesh Jha の名前を発見。Rajesh は Netdocs 時代の同僚。Netdocs プロジェクトの火は完全には消えずに、ほそぼそと生き残って来たようだ。

[追伸2] メディアの反応はまちまちだが、eWeekの Microsoft 'Live Era' Meet Dead Air はなかなか興味深い。"If you get the idea that Microsoft didn't show anything incredibly new, you're right. What was shown were feature enhancements and repackaging.(あなたがもし、「マイクロソフトは何も新しいものを見せてないじゃん」と感じたとしたら、それは正しい反応です。これは単に既存のものを少し機能拡張して、パッケージを新しくしただけのものです)とスパッと技術的な新規性がないことを指摘しながら、 "Indeed, an advertising price war could do far more to hurt Google and Yahoo than it would Microsoft, for whom advertising will be a minor revenue source for the foreseeable future. This is a fight Microsoft is wise to be picking right now."(広告の値段競争が激化すると、困るのは Google と Yahoo の方である。広告収入に頼っていないビジネスモデルを持つマイクロソフトとしては選ぶべき戦術だ。)との指摘がするどい。