ゲーム業界のジレンマ
2006.03.24
今まで何度か間接的に指摘して来たゲーム業界の抱えるジレンマ、私自身がスクエニの内部事情を知りすぎていることもあり少し遠慮してきたのだが、やっとおおっぴらに話せるネタが発表されたので、今日はそれに関するエントリー。そのネタとは、
スクエニ、松下電器の「Tナビ」向けにカジュアルゲームなどを提供
キングタム・ハーツII、ファイナル・ファンタジーXIIなど超大作と比べたら、業界へのインパクトもファンの反応も微々たるものだが、実は「ゲーム業界の抱えるジレンマ」を乗り切るためにこれからスクエニが(そしてたぶん他のゲームメーカーも)着手するリスクヘッジ戦略の一つであるという意味ではとても重要な意味を持つ、「明日のための一手」である。
ゲーム業界の人であれば誰でも、ゲーム機の世代交代がおこる今年から2008年の前半ぐらいにかけてがゲーム業界にとって正念場であることは知っている。しかし、残念なことに業界の大半の人たちは、相変わらず「次の世代のゲーム端末は、Sony、Microsoft、任天堂のうち誰が握るのか」、「最新のハードウェアの能力をどうやったら極限まで引き出すことができるか」、「ますます高騰するゲーム開発費をどうするのか」などといった的外れなことばかりで悩んでいる。
つい先日もGDC(Game Developers Conference)がSan Joseで開かれたが、そういったコンファレンスで基調講演を見たり(ただし、任天堂の岩田社長の基調講演は例外)、今の売れ筋のゲームを研究したり、ゲーム好きの人たちからのフィードバックを聞いたり、そういった一見「正しいマーケットリサーチ」をすればするほど、そっちの方向に行ってしまうのである。まさに、絵に描いたような「イノベーションのジレンマ」である。
今、ゲーム業界が目を向けるべきところは、次世代ゲーム端末やゲーマーたちではない。本当に目を向けるべきところは、ゲームをしない人たち、ゲーム端末を買うことを考えもしない人たち、テレビ・携帯などのゲーム端末ではない端末である。そういったゲームをしない人たちに対して、今までの「ゲーム端末向けのゲーム」とは違う形で、どんなエンターテイメントを提供すべきか、どんなビジネスを展開すべきかを真剣に考えるべき時代が来ているのである。
私も一昨年ぐらいからスクエニの若い人たちと会う機会が増えたが、彼らのほとんどが、ゲームが大好きで、ファイナル・ファンタジーやドラゴン・クエストのクリエーターたちにあこがれて入社した人たちである。そんな彼らに向かって「これからはそういった超大作ばかりを作るのではなく、カジュアル・ゲームとか、シリアス・ゲームとか、ゲーム端末以外へのエンターテイメントをWeb2.0の考えを適用してサービスとして提供することを真剣に考えるべき時代だよ」と突然言ったところでなかなか理解してもらえない。「そんな小難しいことはどうでもいいから、早くPS3の開発キットを触らせてよ」というのが当然の反応である。
しかし、去年の後半になってやっと彼らの反応が少しづつ変わって来た。私が言っていることを理解してくれる人たちが、だんだんと増えてきたのだ。一つは、今までの「ハイリスク・ハイリターンなゲーム作り」がごく一部の超大作を除いてはビジネスとして成り立たなくなってきたことが、彼らの目にも見えるようになってきたこと。もう一つは、低予算で作られた「脳トレ」「ニンテンドッグス」などの成功により、任天堂が「次世代のゲームは必ずしも今のゲームの延長上にあるものではない」ことを売り上げで証明したこと、である。
もちろん、業界のリーダーであるスクエニが、次世代機に対してコア・ゲーマーが期待するような超大作を作るのを辞める必要は全くない。ただし、リーダーであるが故にこそ、資金的に余裕のある今だからこそ、きちんと時代の変わり目を読み、カジュアルゲーム、シリアスゲーム、非ゲーム端末向けのゲームサービス、といった今までとは大きく異なる方向でのビジネスにおいてもリーダーシップをとって市場を開拓して行く立場を採るべきなのである。そういうことをしない企業は、次の時代のリーダーにはなれない。
そういった危機感を、私や経営陣だけでなく個々のクリエーターたちが心のそこから理解して日々の行動に反映することこそが、このゲーム業界全体にのしかかっているジレンマを乗り越える鍵である。今回のTナビ向けのゲームサービスは、スクエニの経営陣のそんな思いがやっと通じ始めた証拠であり、私としてはとても歓迎している。
せっかくなので、ここを借りて、オンデマンドTVも含めたこういったスクエニの「新しい試み」に関わっている人たちに一つお願いしたいことがある。これからしばらくは、「そんな子供だましのゲームを作るためにスクエニに入ったんじゃないだろう」、「ぜんぜん儲からないのに、なぜそんなことをやるんだ」という社内外からの揶揄(やゆ)が聞こえてくるだろうけど、そんなものに決して屈せずに成功するまで頑張り続けて欲しい。スクエニの将来は、そしてゲーム業界の未来は、君たちが作って行くのだという強い意志を持って。
同感です。時代の流れ soft および 知識こそ 資源であること
を 踏まえて 進んでほしいと思います。
Posted by: ひろし | 2006.03.24 at 21:34
これからのゲームの流れは
次に紹介するゲームの方向でしょう。
単純明快な操作方法、短時間で最高の面白さを
味わえるゲームです。
Maid Marian Entertainment
http://www.maidmarian.com/Tank.htm
Posted by: 318 | 2006.03.25 at 00:54
まさに私がジー・モードという会社で戦ってきたのも
「ゲーム業界のジレンマ」でした。
ゲーム会社は「斬新な…」「これまでにない…」といった
業界のフラグシップ的なモノばかりを狙いすぎていて
本来あるべき「遊び」の姿を忘れてしまっていると思っています。
それだけに、この文章には強く感じ入るものがありました。
ゲームは技術博覧会ではないと思います。
誰でも遊べるゲームでなければ意味がありません。
技術はアイデアを活かすための道具です。
それだけにUIEのテクノロジーには期待しています。
私のアイデアを簡単に形にできる仕組みが欲しいのです。
どうか頑張ってください。それでは。
Posted by: kuga | 2006.03.25 at 07:41
<< きちんと時代の変わり目を読み、カジュアルゲーム、シリアスゲーム、非ゲーム端末向けのゲームサービス、といった今までとは大きく異なる方向でのビジネスにおいてもリーダーシップをとって市場を開拓して行く立場を採るべきなのだ
Satoshiさんに同感です。そこで記憶に蘇ってくるが、クリステンセン教授の『Innovator`s Dillemma』である。同著によると、常に、消費者はメーカーが提供する最新技術を必要としない場合があるという。
困った時は、百聞は一見にしかず・・・。
昨日、久しぶりに秋葉原に足を運んでみた。
小学生の夏休みの工作では大変お世話になった場所である。
歩道は、まるでお祭りような混雑で、よそ見すると人間どうしが正面衝突するくらいな盛況ぶりだ。『ひと観察』には最適な場所である。そこで、消費者行動に新たな変化が見られた。
・「任天堂 DS Lite在庫なし」
・「iPod堅調、価格下げる気配なし」
・「PC中古本体よりPC部品販売店に関心高い」
・「キャラクターグッズ販売するお店が増えた?」
・「萌え系コンテンツは断然に元気」・・・・・。
・「デジカメやカーナビ・コーナーは人まばら」
・「店舗前のデモコーナー、PS3最新ソフトにまばらな人」
・『勝ち組、負け組が明確に分かれ始めた・・・』
世界のエレクトロニクス・マーケットの『現実』の姿である。まさに、時代の転換点にあることに気が付く。これからは、全く新しい世界が始まるに違いない。消費者はイノベーションに飢えている・・・。
Posted by: Maki | 2006.03.25 at 15:08
ファミコンブーム当時に出版社にいましたが、複数の次世代機に移っていくときにいちご世代から下がついてきていなかったんですよね。アンケートなどを見ていてまずいなと思っていました。任天堂は玩具メーカーらしく、子供が手の届く価格のGameBoyとポケモンなどで種をまき続けている一方で高機能ハードに映画のようなゲームでその時点で収穫することだけ考えていたのが段々ユーザー数が減っていった原因の一つだと思います。
参加型映画みたいなゲームやるよりは映画観た方が面倒がないので、今はもうメトロイド、ゼルダ、ドラキュラシリーズ以外には一切やらない私もファミコンミニは一応買い揃えてしまい、80年代の備蓄米がまだ食い扶持になることを考えると、簡単で時間を食いすぎないゲームというのはアリだと思います。
ただ、月額いくらというサービスをまったく使ってない(どうせ使わずに契約を続けて無駄にするので、1回いくらの方が良い)ので、駅でダウンロードしたパズル系で、解いたら沿線のお店で500円の割引に使えるポイントになるとかいった、楽しい&お得な広告みたいな展開もあれば良いのになと思います。
Posted by: akion | 2006.03.26 at 21:01
初めまして。
別件でふらふらしてたらこちらに辿り着いたのですが、なかなか興味深く読ませていただきました。
ファミコンイヤーに生まれ、物心ついたころにはゲーム機がある生活が当たり前になってた私にとって、これからのゲーム業界は超大作物を含めてとても楽しみ半面、心配半面といった感じです。
ただ、昨今のゲームは慣れるまでにやたら時間が掛かるので(FFXIIも同じような感想をよく聞きますが・・・)段々ゲーム離れが始まっているのは確かです。
そういったコンシューマーに向けてもやっぱりシンプルで、でも長く遊べるようなゲームの開発があるといいな、とは常々思います。
今回話題になっているカジュアル&シリアスゲームについては結構目から鱗でした。確かにスクエニがシリアスゲーム(所謂教育ゲームとか、そのような類ですよね?)に力を入れる、というと色々楽しみは増すかもしれませんね。
学生の頃・・といってもまだ学生ですが、たとえば、中学とか、高校生ぐらいの頃よく『勉強もゲームみたいに楽しめればー』と思ったものです。 RPGとかにかける集中力って半端ないものがありますものね。今でもそれだけ集中できればもっと早く勉強が終わるのにー!!と日々嘆いてます。。
そういった意味で、世界でも名高いスクエニが教育ゲームに携わるっていうのは面白いかなーと思います。 映像技術や、システム技術ではぴか一ですので、それを最大限に利用した、でもゲーマー向けじゃないゲームってどんなのだろう?
そんな例えば学習ソフトがあったら是非やってみたい。。。と切に思います。
それとAkionさんがおっしゃってるような広告の仕方って目の付け所がいい!と思ったり。 そうやってクーポンの類Getできるならかなりがんばってやっちゃいますwたまにフラッシュとかでそう言うのを見かけますが、意外にはまって、暇つぶしにやったりとかしちゃうんですよねw
長々と下らない事を申し訳ありませんでした。
お仕事のほうがんばってください。
それと、Bellvue在住って言うのを見て勝手に親近感覚えてしまいました(笑) 今はPortlandにいますが、元Seattle民なので、余計に楽しくブログ拝見させていただきました。
これからも覗きに来させて頂きますm(_ _)m
Posted by: yume | 2006.03.26 at 22:47
私もスクエニの方針に同感です。ただ、個人的には、松下のTナビより任天堂のレボリューションの方がずっと将来性があると思います。松下も任天堂もリモコン操作という点では同じですが、発想が違います。松下はあくまでテレビのリモコンです。ゲームを楽しめるのか、疑問大です。
Posted by: ぶらぶら | 2006.03.27 at 19:52