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YouTubeはメディアビジネスに対する進化圧

 劇場公開時に、会社のエンジニアの一人に強く薦められていたのだが、ついつい劇場まで足を運ぶ機会を失ってしまった「March of Penguin (邦題:皇帝ペンギン)」。やっとDVDになったので、さっそくNetflix(月々17ドル99セントでDVDが駆り放題になるサービス)で注文し、鑑賞。色々と考えさせられた。

 極寒の南極で、激しい進化圧(注)に何万年も何十万年もさらされたあげくにペンギンがたどりついた繁殖のための長距離ハイク。壮絶である。「政府による国内産業の過剰保護は逆に企業の国際競争力を奪う」というピーター・ドラッカー氏のことばを思い出した。何兆円もの税金で延命措置をほどこされた日本の銀行は、とうてい南極(=天敵のたくさんいるグローバル経済圏)では生きていけない。

 その意味では、YouTubeは既存の著作権法とメディアビジネスにかかる絶好の進化圧。生き残りをかけたメディアビジネスの進化と自然淘汰が始まろうとしている。

【注】進化圧とは、自然淘汰による進化をうながす方向にかかる自然の圧力。生存が難しい環境ほど進化圧は強くなる。「虫を食べる鳥」は虫にとっての進化圧。虫達の保護色や擬態は、すべてその進化圧の結果である。

Comments

Shu Matsuura

最近日経新聞(朝刊)でYouTubeに関連した記事を見かけることが多くなりました。日本のマスコミが同社を注視し大きく報道することに関して、YouTubeファンとしては多少複雑な心境です。正直私はGooleよりもYouTubeの将来の方が興味深々です。中島さんの視点をお借りすれば、NBC(米国3大ネットワークの一つ)は進化圧に敏感だと言えますね。

satoshi

 そうですね。「決まった時間に電波で放送される番組を見る」スタイルが既に若い人たちのライフスタイルとは大きくずれ始めている。DVDレコーダーに蓄積して見ることすら時代遅れになりつつある。そんな大きな潮流に短期的には逆らうことは出来ても、長期的には無理でしょう。
 そこで、そんな潮流とどう折り合いを付けていくか、どの辺りが落としどころか、を見つける必要があります。YouTubeと提携することにしたNBCにしろ、iTunesでコンテンツを販売することにしたABCにしろ、そのための努力や試みは惜しまないようです。

Maki

Satoshiさん、"YouTube"は 『YouTubeは既存の著作権法とメディアビジネスにかかる絶好の進化圧』 にはとても関心があります。なぜならば、『技術イノベーションがもたらす脅威』以上に、『マーケットがもたらすビジネス変化』に大きなイノベーション・ドライバーが移動しているからです。これまでのIT(情報技術)のイノベーションとは、ITベンダーによる"技術開発"や"新規技術"が契機となり、市場シェアや競合力の差異をもたらしていた。ところが、"YouTube"は違う。"YouTube"の場合は、ITベンダーではない。また、攻撃のターゲットは、何と『現行のメディア・サービス』に・・・・・。いったい全体、何が起きているか?! WSJのコラムニストである Thomas L. Friedmanは、同氏の執筆した『The World is Flat』の中で、「Globalization 3.0」が訪れていると述べています。この「Globalization 3.0」によって、"情報"に関して世界は水平的にフラット化した。ところが、この「Globalization 3.0」には注意が必要。すなわち、すでに訪れていることに、"気が付いている人"と、"気が付いていない人"が、社会に、組織内に、混在している。果たして、企業経営者が後者であったとしたならば、時として、ビジネス・ショック死につながる可能性を含んでいるかもしれません。きっと、これまでの数値だけを中心とした"マーケット分析"や、MOT(Management of Technology)だけでは理解することが難しくなっている・・・。まさに『新しい種類のマーケット・リサーチ』とか、『ストラテジスト』といった"新しいスキルを持った専門家"が求められてきているのではないでしょうか。技術も、ビジネスモデルも、そして、将来起こるであろう未来をも推測できるスキルが・・・・・。いま、まさに『ビジネス・イノベーション』が注目されます!

Maki

Satoshiさん、言葉が不足しておりました。ここに追記させて頂きます。以前、『PullからPushへ』についてコメントさせて頂きました。この時の主体は "個人" を意味していました。しかし、今回、敢えて、『時代はPushからPullへ』の重要性が高まってきていると思います。主体は 『企業経営者』です。すでに、"個人"は自ら情報発信を、意見を、インターネット上にプッシュしています。そして、YouTubeに見る通りに、彼らは発展し、自分たち自身を成長させて、さらに競争相手(旧ビジネス主体)に対して強いポジションを主張を開始しています。すなわち、"個人"はそのような新しいマーケットに簡単に移動ことができる時代へ転換していると思われます。そこで、次のような仮説を立ててみました。『企業は、積極的に、"個人"の声に耳を傾ける必要があるのではないか・・・』。いま、まさに、時代は『PushからPullへ』・・・。

うたまろ

いつも楽しく読んでます。ところで進化圧という言い方は聞いたことがありません。普通は淘汰圧というと思います。Googleで調べても進化圧442件対淘汰圧17600件と圧倒的です。おそらく進化圧という語は誤用なのだろうと推測されます。こういう使い方ができるのもGoogleの面白いところですね。

satoshi

 確かに、淘汰圧(selection pressure)の方が、進化圧(evolution pressure)よりも多く使われるようですね。ちなみに、selection pressureには、選択圧という訳語も使われることがあるようです。

snowbees

http://www.blonnet.com/2003/11/02/stories/2003110201140100.htm
ベル研究所の所長を務めた、インド出身のアル・ネトラバリ博士(60)は、圧縮技術の世界的な権威であると。同氏は、現在、通信技術の起業家に投資するファンドを運営する一方、1日10時間の研究に打ち込むと。「私は、世界のすべての人々を、もっと自由に結びつけられると信じている。そのための新しい技術を開発することが、私の本当の成功なのです。」(朝日新聞の取材に応えて)

UIEngineだ

現在のYouTube等を含めた新しいサービスに対しては「進化圧」と表したほうが感覚的になじみ易いかなぁと思いました。このブログを起点にして「進化圧」という用語がWEBサービスの世界で普通に使われるようになる、そういう用語の産み出し方も日本語に対する「進化圧」なのでしょうか?

うたまろ

すみません。書き方が不十分でした。現在の理解では、生物を進化させるに至る圧と言う考えはなく、淘汰しようとするエネルギーに対する反作用の結果が進化だと言うようなイメージです。生物を積極的に淘汰することは出来ても、積極的に進化させることは出来ませんよね。淘汰される流れの中でその流れに逆らって生まれた新規の形質を進化と呼ぶのであって、進化は結果論に過ぎない、というのが現在の進化論では定説とされているようです。

極寒という淘汰圧がある環境で生き抜くために脂肪を蓄えねばならなくなり、結果として飛翔力を失ったペンギンとして進化した、というイメージを持っていただくとわかりやすいかもしれません。

進化圧というと一定方向に進化させようと言う何らかのフォースがあるように聞こえてしまうので、生物学者のはしくれのみみくそとしては、なんだか違和感があるのでした。

こちらの業界でたとえるなら、著作権保護を訴える既得権所持者という外圧が淘汰圧となってナップスターが敗訴したけど、その結果としてwinnyなどの匿名P2Pという技術が生まれた、という感じかな?

satoshi

 うたまろさん、丁寧な解説ありがとうございます。進化は淘汰圧の結果であり、進化圧と書くと誤解が生じると。そう聞くと、確かに淘汰圧の方が理にかなっていますね。でも一般の人たちには、やはり進化圧の方が直感的に分かりやすいかも…。

yuki

はじめまして。いつも勉強させてもらってます。

僕みたいな”一般”の大学生には、進化圧の方が直感的で分かりやすいですね。Youtubeの存在自体、既存のメディアに対して、
「一定方向に進化させようと言う何らかのフォースがある」
ような印象を受けます。

ただ、うたまろさんの説明を読むと淘汰圧の方が正しいのかな、とも感じます。
初見の印象が強いのは進化圧ですね。

うたまろ

なるほど。淘汰圧という言い方はちょっとファミリアじゃなさ過ぎて、進化圧というほうがわかりやすい、と言うことですか。

淘汰圧というコトバそのものに、「語彙の理解しにくさという淘汰圧」がかかっちゃってるんですねぇ(笑)。

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