タミフルを普通の人にどんどん処方しているのは日本の医者だけ
12月12日に日本で講演します

日本のタミフル消費量が突出している理由

Sunset1_1 昨日のエントリー「タミフルを普通の人にどんどん処方しているのは日本の医者だけ」には、お医者さんも含めたくさん方からのフィードバックをいただいた。

 その結果、なぜ日本でこれほど多くのタミフルが消費されているかについては、お医者さんの間でも二つの解釈があることが分かった。

(1)インフルエンザにかかった人すべてにすみやかにタミフルを処方することは皆にとって良いこと。それができるシステムが整っている日本の医療の方が優れている。

(2)タミフルは本来ならば体の弱っている老人とか子供がインフルエンザにかかった時にだけ処方すべき薬。しかし、一日でも会社を休みたくない患者からの要求と、保険の点数制度上のインセンティブの働きで、本来ならばタミフルが必要でない人にまで処方してしまっている。

 なにごともそうであるように、どちらか一方だけが真実、という話ではないとは思う。(1)の方は「見解の相違」ですませる話だが(私は、風邪もインフルエンザも出来るだけ自然治癒させるべきと考えているが、私と異なる考えを持つお医者さんがいるのも理解できる)、(2)の方は「診療報酬体系の欠陥」を示しており、このまま放置しては良くないように私には思える。

 特に読んでいただきたいのは、トラックバックをいただいた「タミフルを普通の人にどんどん処方している日本の医者」と、そのリンク先の「共有地の悲劇」。特に前者の、

 最後にひとつ申し添えておくと、アメリカの医者が「薬は要らないから、家で寝てろ」と言えるのは、アメリカでは、ひとりひとりの患者さんの「診察料」が高くて、日本のように「薬を出さないと病院経営が成り立たない」ような診療報酬体系とは異なること、そして、患者さんひとりあたりの医療費が高いので、そんなに大勢の患者さんを毎日診なくてもやっていけることなどの理由があります。そして、アメリカの場合は、日本よりもはるかに「病院を受診すること」への敷居が高く、患者さんの経済状態や保険の種類によって、治療内容そのものが制限されてしまうことが多い(そして、患者さんの側も、それを受け入れている)のです。いや、Satoshiさんのような、インテリジェンスが高い、人類全体のことまで考えてくれる「理解力のある」患者さんだけだったら、日本の医者だって、そんなにタミフルを処方しなくて済むと思いますよ。むしろ、日本の医者はアメリカの医者ほど偉くないので、「タミフルを処方させられている」のです。

の部分を読むと、この「薬づけ医療」の根本の原因は診療報酬体系そのものにあるのだということが良くわかる。たとえどんなに立派なお医者さんであれ、資本主義経済の日本で経済活動を営んでいる限りは、システムに正しいインセンティブが組み込まれてていない限り正しい方向には動いてくれない。これはモラルの問題ではなく、インセンティブの問題なのである(参照)。余計な薬を処方しなくとも、本当に患者のため、人々のために良いことをしたときに経済的に報われるシステムを作らない限り、「薬づけ医療」は止められない。

【追記】 ちなみに、医者が薬を処方すると得ることのできる収入を「処方箋料」と呼ぶが、これはそもそも「医薬分業」を進めるためのインセンティブとして導入されたものらしい。しかし、それが皮肉なことにも逆に薬剤使用量を増やすことになってしまっているとのこと(「院外処方がもたらしたもの」参照)。正しいインセンティブを作ることの難しさを物語っている。

Comments

それは

トラックバック元の「アメリカでは、ひとりひとりの患者さんの「診察料」が高くて、日本のように「薬を出さないと病院経営が成り立たない」ような診療報酬体系とは異なる」に関して異論があります。
アメリカの患者さんの自己負担額は、確かに日本より高いのでしょうが、必ずしも医療機関と医者が儲かるようには出来ていません。
多くの場合、マネッジドケアで丸められたり、保険会社から支払額を減らされたりして、たいしたお金にはなりません(しみじみ)。
ところで、もしも「タミフル」の処方箋を書いても、患者さんが薬局に行ったときに、「この薬は、あなたの保険では、カバーしていません。」とか、「自己負担が100ドルになります。」とか言われて、薬をもらわないで(買わないで)帰って行くのがおちかもしれません。(←私も一度、あまりの自己負担金の高さに、薬を買うのを放棄したことがあります。)

Jun(在米・医師)

>本来ならばタミフルが必要でない人にまで処方してしまっている。
Satoshiさんも引用先のじっぽさんも、大人になってから本当のインフルエンザにかかったご経験はないようですね。それで、風邪をひいたが特に薬を飲まずに治した経験のアナロジーで、健康な大人がインフルエンザにかかった時の体験をもとに、「本来ならばタミフルが必要でない人」を設定して、「「薬づけ医療」の根本の原因は診療報酬体系そのものにある」という結論を導いてはいませんか?
「風邪に抗生剤」の場合、抗生剤は風邪の原因であるウイルスには何ら効果がないので、「「薬づけ医療」の根本の原因は診療報酬体系そのものにある」という論旨に沿うと思います。
一方、「インフルエンザにタミフル」の場合、タミフルはインフルエンザウイルスの増殖を抑える直接作用があるので、死亡するリスクの高い人の死亡を回避するだけではなく、大人のインフルエンザの症状も有意に改善します。
健康な大人がインフルエンザにかかった場合でも、高熱・関節痛・嘔吐・下痢で水分摂取もままならず、自宅安静すら難しい状態に容易に陥ります。それがタミフルにより、体内でのウイルスの急激な増殖が抑えられ症状が大きく低減し、自宅で安静にしていることが可能になります。
この様な人は「本来ならばタミフルが必要でない人」に分類されるのでしょうか?

さて、これからインフルエンザの季節。予防が最大の防御となります。
最初の段階で症状から風邪とインフルエンザを区別するのは困難なので、風邪の初期症状を自覚したら気軽に会社を休める職場環境を整備するのが、Satoshiさんの様な管理職の場合、まわりまわってご自身の予防にももっとも効果的かと思います。

Satoshi

 Junさん、本文にも書いたとおり、「タミフルは大人のインフルエンザの症状も有意に改善するから、大人にも処方すべき」という考えの医師がいても当然と思うし、それを否定するつもりもありません。当然ですが、医師の中には、「この人は十分健康な体だから、薬に頼らず、家で安静にしていた方が良い」と考える人もいて当然です。

 問題は、後者の考えを持つ医師までが、今の診療報酬体系ゆえに(つまり、薬を処方箋を書かないと経営がなりたたない、客が来なくなる、という理由で)、必ずしも患者のためにベストだとは思えない薬を処方せざるをえない状況におかれている点にあると思います。

 ちなみに、私の会社では、風邪をひいた人にはすぐに休んでもらっています。そんな状態では良い仕事ができるわけがないし、他の人にうつしてしまう可能性もありますから。それよりも、早期にしっかりと治して、早めに復帰して欲しいとの考えです。あと、私自身は、インフルエンザの予防接種は毎年受けているし、他の人にも薦めています。

mas.

体験談を少し。

いきなり40度の高熱が出たことが2度ほどあって、2度は別の医者でしたが、どちらもインフルエンザを疑い、検査をしました。
検査の結果、インフルエンザではなく、タミフルは処方されませんでした。(ちょっと医者が処方したそうに見えたのは気のせい?)

クスリそのものは、どこの薬局で買ってもよいので、それが病院自体の経営にどう寄与するのか、一般人の私には不明です。
(処方箋を出すだけで病院の収入になるのでしょうか)

もしインフルエンザだったとしたら、家に小さな子供もいるし、家に帰るまでに電車にも乗ります。
(医者は、家の中で風邪などが他の家族に感染するのは避けられない、といいました)

自分はインフルエンザの高熱を我慢したとして、家族や周囲の人への感染を止めるには、効果的なクスリ(タミフル?)を飲むような気がします。

Satoshi

>処方箋を出すだけで病院の収入になるのでしょうか

 私も不思議だな、と思って調べたのですが収入になるそうです。薬の処方箋を書くだけで処方箋料(80点=800円らしい)というものが医者の収入になるそうです。もともとは、医薬分業を推し進めるためのインセンティブとして始まったそうです。確かに医薬分業は進んでいるのですが、医薬分業の本来の目的だった「薬づけ医療対策」の効果は上がっていないようです(逆効果だという意見もあるぐらいです)。

Mori

処方箋料は基本が68点(680円)です。後発医薬品が処方薬にあれば70点(700円)になります。後発医薬品は先発品(最初にでたブランド医薬品)に対してかなり安価になりますので国としては「処方箋料を20円も高くしてあげるから、安い薬を出してね」というインセンティブを与えています。

ついでに言わせてもらいますが「処方箋料というものが医者の収入になるそうです」については病院勤務医師については医師の収入には全く関係ありせん。病院の収入にはなりますけど。

これもついでですが、そもそも薬を出せば儲かる時代は10年以上前に無くなり、今では薬剤管理費、人件費、消費税分を入れると逆ざや(出せば出すだけ赤字になる)になる薬剤もある程なんですよ。薬局部門は「病院のお荷物部門」なので外の薬局薬店に処方箋で追い出している訳です。

更に言わせてもらいますが、「薬づけ医療対策」なんて患者サイドの問題の方が深刻です。「風邪に抗生剤」、「膝の痛みに鎮痛薬(体重が90-100kgもあるのに!)」なんて言う患者が多過ぎて、また、開業医の場合(特に小児科、整形外科)、薬を出さないと悪評が立ってしまい経営に支障がでるほどです。
本来、専門家が薬の要、不要を判断しているのに患者、国民の頭が「薬至上主義」で汚れているから日本の薬剤投与が異常な状況になっているのです。

肉娘

薬づけ医療と批判しても病気を治すためにはそのまま寝てろというわけいはいかんのでは?タミフルの場合薬の副作用が精神異常→マンションから飛び降りという、かなりセンセーショナルな死に方を引き起こすのでこれだけ騒がれているだけでは?薬服用時はベッドに縛りつけとくか、隔離部屋に入れとけばよい。(要するに入院。)アメリカの医療制度は参考しならん。飲む飲まないはケースバイケース。制度のせいにするのはどうか。ようするに、へんな副作用が悪いのであってもっとよい薬を製薬会社は早く作りなさい。

ゆう

薬に関係する仕事をしていますが、そもそもの前提として世界のタミフル使用量のうち、日本が占める割合は1割か2割くらいかと思われます。それでも割合として高いのかもしれません。
しかし、2003年の一時期にのみ生じた「世界の7割8割を日本で消費」という状況を一般化して何かを言うのはやや違う気がします。

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