先日、ひょんなことから悪徳マルチ商法の被害者(24才、男性、四大卒、現在ニート)をインタビューする機会があった。社会人になりたての若者を餌食にする巧みにしくまれたワナ。表面上は合法的なマルチ商法を装っているが、その実質はねずみ講だ。この手の悪徳商法は決して今に始まったものではないが、これだけ教育が充実し、ネットに情報があふれる時代になったにも関わらず被害者が続出するのを放置しておくのは、このブログで常日頃から発言をしている身としては許せない。そこで、今日は、そんな被害者を一人でも少なくするための私なりの試み。
その青年と話して何よりも驚いたのが、彼自身が被害者だということにまったく気付いていないこと。現在ニート生活中の彼いわく、「自分が本当にやりたいと思う仕事をするためには、生活の基盤が必要。その基盤作りのためにこのネットワークに参加した。もう少し傘下の会員を増やすことができれば、何もしなくても黙って月70万円の収入が入ってくるようになる。」
その青年は数ヶ月前にネットワークに参加し、すでに20人の会員を傘下にリクルートしたという。その青年の恋人、後輩、友人に始まり、さらにすでにその人たちの知人にも広がっているという。それぞれの会員は、2万円弱の入会金を払ってネットワークに入会し(2万円以上だと違法)、各種セミナーに参加してさまざまな教育(別の言い方をすれば「マインドコントロール」)を受けた後、35万円の浄水器・サプリメントからなる「スターターキット」を自由意志で購入した後に(これを義務化すると違法になる。かなり優秀な弁護士をかかえた組織のようだ)、今度は自分の傘下の会員集めに走るという。
彼に言わせると、その40万円近い投資も、「自分の傘下の会員を集めることさえできれば、すぐに元が取れるようになるし、実際、月々70万円を稼いでいるシニア会員もいる」らしい。
私が、「君自身は、月々幾ら稼いでいるの?」とたずねると、「来月には30万円はもらえるはず。今月は後一人入る予定だし。来月に三人増やすことができれば、ランクが上がって30万円もらえることになっている」と少し歯切れの悪い答えが返ってくる。
「じゃあ、今月はいくらもらったの?」と尋ねると、「約15万円」だという。「じゃあ、元はもう取ったんだね」と言うと、「お金をもらい始めたのは先月からなので、まだ元は取れていない」と言う。
さらに聞き出すと、上流の会員から買わされた色々なものを含めると出費がトータルで45万円、ネットワークから受け取った額は、トータルで30万円弱だという。数ヶ月懸命にリクルート活動に励んだあげく、差し引き15万円の損だ。買わされた浄水器はもちろん使ってもいない。
「よくそれだけのお金があったね。」と尋ねると、ニートになる前の仕事でためた貯金を使ったという。「みんな若いのに、良く35万円も出せるね」と指摘すると、「貯金がない場合には、消費者金融から借りてもらう」という。私が顔をしかめると、「フリーターやニートにとっては、安定した収入を確保することはとても重要。そのための投資だと思えば、35万円は安いもの」だとの返事が返ってくる。彼は、本気でこのネットワークが会員のためになると信じているのだ。ある意味で、「自分だけが儲かれば良い」と思って他人に入会をすすめる確信犯よりもたちが悪い。
私が「ねずみ講って何か知ってる?」と尋ねると、「聞いたこともない」という(学校ではいったい何を教育しているのだろう)。私が「これって、一見合法的なマルチ商法の形をとっているけど、実質はねずみ講と同じだ」と指摘しても理解できない様子である。「こんな風に、無限に会員が増えないかぎりなりたたないものをねずみ講って呼ぶんだ。こんなシステムはいつか必ず破綻する。経営者たちは、たぶん会員が十分に集まったところで、お金だけ持って計画倒産させるから、その時に損をするのは、君がリクルートした末端の会員たち。そして、その時にせめられるのは君だよ。」と厳しく指摘をする。
結局のところ、彼自身がこのシステムの異常さに気が付いて目を覚ましてくれることを願うしかない。増え続けるニート・フリーターをターゲットにしたこの手の悪徳商法。法改正をいくらしたところで、いたちごっこで、「ねずみ講が本質的になりたたない」をことを理解できない青年たちが社会に送り出され続ける限りなくならないのだろう。こういう場を使って、社会にはどんな危険が待ち構えているかを彼らに知らせることが、ブロガーとしての私にできる精一杯のことだ。