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ビルゲイツの面接試験―ドラゴン桜編

Dragon1 今年のしめくくりのエントリーは、久しぶりの頭の体操。今回は、mixiの「幾何学おもちゃ」コミュニティーから仕入れた図形問題。先週の「ドラゴン桜」で紹介された問題だそうだ。

  問題はいたってシンプル。平面上に大きさの異なる二つの円と直線が左の図ような関係に配置されているときに、二つの円と直線のいずれにも接する円はいくつかけるか、という問題である。

 「ソフトウェア・エンジニアにとってもっとも大切なことは知識ではなく考える力」と言いつづけている私としては、この手の「中学生にも解ける問題でありながら、しっかりと問題を把握した上で論理的に考えなければ正しい答えにはたどりつけない問題」は大歓迎。「ビルゲイツの面接問題シリーズ」に取り上げる価値のある良問だ。

 ソフトウェアのバグの原因は色々とあるが、その一つが、設計者が想定していなかった状況でプログラムが実行されてしまうこと。しかし、後になって考えてみれば、設計時にちゃんと考えておけば十分に予想できはずだったと後悔することもしばしばである。そんな事故を未然に予防するには、常日頃から与えられた問題をしっかりと把握した上で、筋道立ててどんな可能性があるのかをきちんと洗い出しておく、という習慣を身につけることが一番。この問題は、その意味でもとても良い予行練習だ。

【追記】 模範解答を別エントリーとして書いたので、そちらもご覧ください。


あなたは実は「簡単に引きちぎることのできるロープで繋がれているだけ」なのかも知れない

Snowroad 今年の年末年始は、休みを利用して、前々から気になっていた「数学的にありえない」の一気読みの予定。まだ読み終わっていないのだが、下巻の中ごろになかなか含蓄の深いフレーズを見つけたのでメモ。はたから見て「明らかにした方が良い転職」に踏み切れない友人の背中を押してあげるときにでも使えそうだ。

 ナヴァはふと、子供のころにサーカスではじめて象を見たときのことを思い出した。象はぜんぶで三頭いた。どれも体重が六トン以上もあり、太い足の一本に巻かれた細いロープで杭につながれていた。それを見たナヴァは不思議に思い、父に訊いた。なぜあの象はロープをひきちぎってしまわないのかと。

「そんなことはできないと思いこんでいるんだよ」と父は説明してくれた。「象は赤ん坊のころ、重い鎖で杭につながれて育つ。その最初の数ヶ月のあいだに、どんなにがんばっても鎖が壊せないことを教えこまれるんだ」

「でもロープは鎖なんかより、ずっと切れやすいじゃない」とナヴァはいった。「象なら簡単にひきちぎれるのに」

「そうだ。でも、調教師がロープを使うのは、ぜったいに逃げられないことを象が学んでからなんだよ。わかるかい、ナヴァ。象が逃げられないのはロープのせいじゃない。象の思いこみのせいなんだ。頭に刷りこまれた思いこみがいかに大きな力を持っているかといういい証拠だな。自分にはできると思えば、人はふつうならできるはずのないことだってできることがある。でも反対に、自分には無理だと思いこんでいることは、ぜったいにできない。なぜなら、試してみようともしないからだ」

 小説を読む時に大切なのはもちろんストーリーであり人物描写なのだが、こんなふうに、登場人物の口を借りて作者が語る人生観のようなものが垣間見える瞬間がまた楽しい。「マフィアの親分が語る人生哲学」というエントリーで紹介した、ワイルド・ソウルの中に読み取れる稲垣涼介の人生哲学と同じく、この部分にも作者(アダム・ファウアー)の人生哲学が色濃く出ている。


ブログアート:誰もがアーティストになれる時代がやって来た

 私が最近凝っているのが、「ブログ用プチ芸術写真」。小さいころから写真などに興味も持ったこともないし、写真雑誌や一眼レフカメラなどには全く縁のない生活をしている私だが、文字ばかりだと殺風景になってしまうブログに挿絵代わりにと撮り始めた写真の撮影が結構楽しいのだ。普段の生活や旅行中などに、ふと目にとまった面白い物や、感動した風景、おいしかった食べ物、それを「これ面白いじゃん!」と自分が感じたエッセンスの部分だけを引き出すように撮影するのだ。

 コンテストに応募するわけでもないし、万人に評価される必要もないので、構図だとか光線の具合だとかにそれほどこだわる必要はない。なによりも大切なことは、「自分がどんな視線で世の中のものを見ているか」をとらえること。それさえ出来れば「世界に一つだけの写真」を撮影することができる。

 そこで、今回はモンタナへのスキー旅行中に撮影した、私なりの「プチ芸術写真」展。

Art1

 まずは「モンタナの空」。ひとすべりした後に、雪の上に仰向けになって休憩しているときの空があまりにもきれいだったので撮影。雲ひとつない空だけを撮影してもさまにならないので、あえて横に立ててあったスキーを含めてパチリ。

Art2

 「雪のトンネル」。スキー場のエスプレッソ・スタンドでラテを注文して待っているときに何気なく目に入った雪のアート。屋根に積もった雪を溶かすために電熱線が作り出す神秘の世界。「こんな写真を一生懸命手を伸ばして撮影するのはブロガーぐらいだろうな」と思いつつパチリ。

Art3

 「親子スキー」。晴れた日に外にいると、良く目に入るのが自分の影。父はスキー、息子はスノーボードというのが時代を良く表していると感じたので、すかさずパチリ。

Art4

 「暖炉の火」。レンタルした山小屋での楽しみの一つが暖炉で薪を燃やすこと。火をつけて最初のうちはメラメラと炎を上げて燃えるのだが、しばらくするとこんな感じに遠赤外線を発し始めるのだが、それが実に暖かくて気持ちが良いのだ。

 ちなみに、こんなことをしていると、もう少し性能の良いデジカメが欲しくなる。知り合いのブロガーたちに尋ねてまわった結果、ブロガーたちには「Panasonic Lumix」と「Fujifilm Finepix」の評判が良いことが判明したのだが、まだ決めかねているし、具体的なモデルに絞り込めていない。ブロガーとしては、解像度よりも「暗いところでのフラッシュなしでの撮影」「接写」「広角」「ポケットに入るコンパクトサイズ」が大切なのだが、まだまだ「これだ!」というものが見つからないのだ。


モンタナ、スキー旅行記(1)

 丸一週間ほどブログの更新が滞っていたのは、モンタナ州までスキー旅行に行っていたため。下の息子がモンタナのボーディング・スクール(全寮制の高校)に入って以来、妙になじみができてしまったモンタナだが、今回は、カルフォルニアの大学で寮生活をしている長男も呼び寄せ、久しぶりに一家4人と一匹が集まってのスキー・バケーション。

 モンタナと言えば、「広い空とまっすぐな道」。それが冬になると、こんな感じだ。

Monana_road

 犬を泊めても良いホテルが見つからなかったので、今回は一軒家をレンタルすることにしたのだが、2ヶ月前に手配したにもかかわらず、スキー・リゾート(Big Moutain)やふもとの町(Whitefish)にあるレンタルハウスはどこも予約が一杯。しかたがないので、Whitefishからさらに20分ほどドライブした山の中にある家をレンタルした。

 案内にある通りにドライブしていくと、どんどんと山の中に入って行く。管理人の「絶対に四輪駆動の車で来てくださいね」という忠告を無視して前輪駆動の車で来てしまったことを少し後悔しながら雪の道を進むとやっと見えて来たのが家の門。

Lodge

 この道をさらに登った先に目的の家があったのだが、不覚にも家の写真の撮影を忘れてしまった。しかし、山の中の一軒家だけあって、窓からの景色は絶景。自然しか見えない。

View

 到着時間の都合上、町にある管理人事務所には立ち寄らず、レンタルハウスに直接向かったのだが、驚いたのは鍵の扱い。ドアの鍵は私たちのために開けておいてくれたし、鍵はドアの横の石の下に隠してある、というおおらかさ。モンタナには空き巣狙いはいないのか?

Risk

 家は森に囲まれており、家から一歩出れば自然のハイキングコースだ。「Hike at your own risk(管理している人はいないので、リスクを覚悟でハイキングしてください)」とか、「熊に注意」などの看板を横目で見ながら、「もう冬眠しているよ、きっと。」などと気楽なことを言いながら歩きまわる私たち一家。道路以外は雪が深く、スノーシューズ(かんじき)が欲しいぐらいだ。

Footstep

 熊は見かけなかったが、いたるところに見かけるのが鹿の足跡。雪の中でも冬眠せずに元気に歩き回っているらしい。そこで、鹿をなんとか写真に収めようと試みた。逃げ足が速いので結構苦労してしまったが、なんとか撮影に成功したのが、この二枚。

Deer1Deer2

 ちなみに、最近思うのだが、ブログを書き始めたおかげで、この手の旅行中に写真を撮るのが楽しくて仕方がない。昔よりも色々なものをずっと真剣に観察するようになったし、新しいものを見たり、新しい体験をしたりすることが本当に楽しくなった。まさに「書くように生きる」そのものである。


Singboxでのテレビ視聴成功

Hanamaru シアトルに戻ってさっそく試したのが、日本のマンションに仕掛けてきたSlingboxを使ったインターネット経由でのテレビの視聴。

 ダウンロードしたパソコン用クライアントソフトをテレビに繋いであるメディアセンターPCにインストールし、控えてきた「Finder ID」を入れると、あっさりと繋がってしまう。セットアップがやたらと難しく、パソコンとのペアリングが必要なソニーのロケフリとは大違いだ。これならば、(IPアドレスとは何か、ダイナミックDNSとは何かなどを知らない)普通のユーザーでも十分に使いこなせる。

 画質はさすがに42インチのプラズマテレビに映すとあらが目立つが、少し離れて見れば十分に楽しめる。VHSテープの3倍モードぐらいの画質だ。帯域は、700Kbpsぐらいしか使っていないが、これは下り(ADSL)の制限によるもの。日本のネットカフェで試したときは、3Mbps使っていた(画像ももう少しきれいだったように思うが、その時はノートパソコンの画面でしか見ていないので、単純には比較はできない)。

 ちなみに、こうなるとあまりにも便利なので、テレビに繋いだメディア・センターPCを、Slingboxの専用クライアントにしてしまいたくなる。常に日本からの画像をストリーミングでフル画面表示しておき、テレビの入力切替一つで、日米のテレビを切り替えるのだ。しかし、そんな贅沢な使い方をすると、私の家だけのために日本とシアトルの間に365日24時間、常に700Kbpsのデータが流れ続けることになる。どちらも従量課金ではないからできる芸当だが、ネットインフラを思いっきり無駄づかいしているようで、少し気が引ける。こんなことを皆がやり始めたら、ISPのビジネスが破綻してしまうのではないか心配になる。


クリスピー・クリームに行列を作る前に知っておくべきこと

Krispy 一昨日の夕方に新宿の南口から紀伊国屋書店に向かって歩いていると、200人ほどの人だかりができている。何かと見てみると、クリスピー・クリームがオープンしたらしい。

 私の暮らすシアトルでは、すでに数年前にクリスピー・クリームがオープンしているが、その時にはやはり長い行列ができていたことを覚えている。

 クリスピー・クリームは確かにおいしいのだが、こうやってある都市に進出するたびにこれだけの熱狂を作り出す力は「マーケティングの芸術」とも呼べるレベルだ。

 どうせ半年も経てばこの行列も消え、「あの熱狂っていったい何だったの?」ということになるのだが、「そうは言っても、これだけ話題になっているのだから、今のうちに自分で味を確かめたい」という人もたくさんいるからこその行列である。

 ちなみに、以前からクリスピー・クリームを食べてきたドーナッツ・ファンとして一言。初めて買うのであれば、バラエティセットではなく、オリジナルセットを買わなければだめ。クリスピー・クリームの特徴は、この「異常なまでの口どけの良さ」のオリジナル・ドーナッツにあるので、バラエティセットを買っても、ダンキンドーナッツとの違いは分からない。もう一つ大切なことは、出来たてをすぐ食べること。出来立てホヤホヤのオリジナル・ドーナッツを口に入れれば、「ミスタードーナッツやダンキンドーナッツとどこが違うのか」が一瞬にして理解できる。


紀伊国屋書店のおもてなし

 昨日はめずらしく仕事が早く終わったので、その足で紀伊国屋へ。トラックバックで知った「ナニワ金融道」を例の青年にプレゼントするために買いたかったこともあるし、悪徳マルチ商法に関する書物にどんなものがあるものか知りたかったのだ。

 紀伊国屋のサービスカウンターで「悪徳商法関連の本を探しているのですが」と尋ねると、店員は親切に検索してくれる。「たくさん出版はされているんですけど、あまり在庫が…」と言いながらも持ってきてくれたのが、この二冊。

Akutoku1 Akutoku2

 「悪徳商法撃退 77の秘密」は探していた類の本だが、「究極のセールス教本」は正反対の本。「悪徳商法関連の本」というあいまいな言い方をした私も悪かったのかも知れないが、こう質問された店員は、「この人は、悪徳商法を撃退したいのかな、それとも自分で悪徳商法をやりたいのかな?」と悩んだあげく、両方の本を持ってきてくれたのだろう。すばらしい「おもてなし」だ(少しキズついたけど^^;)。

 その後も色々と見てまわったのだが、結局のところ、日本で有数の床面積を持つ紀伊国屋書店に悪徳商法撃退の本は「悪徳商法撃退 77の秘密」一冊しかないことが判明。この手の本は全く売れないらしい。

 「ネットワーク・セキュリティの本の方がよほどたくさんある。人々の生活のセキュリティの方がよほど大切なはずなのに…」と考えながら、近くの書棚を何気なく見ると、「株でぼろ儲けをする手法」の類の本が書棚一杯に並んでいる。

 つまり、この世には「悪徳商法に引っかからないようにするための準備をする人」よりも、「楽して金儲けをする方法を知りたい人」の方がはるかに多いということだ。先日紹介した「悪徳マルチ商法」も、人のそんな弱さにつけこんだ詐欺。人間に煩悩があるかぎり、あの手の犯罪はなくならないのだろう。

 ちなみに、悪徳マルチ商法に関して勉強するために「ナニワ金融道」を読むのであれば、文庫版の第8巻がおすすめ。マンガ世代には、堅苦しいノウハウ本よりも、こんな形の方がずっと効果的だ。成人式を迎える子供に、こんな本を買い与えるというのも、なかなか粋なはからいではないだろうか→全国のお母さん・お父さん。


年間ベストセラー発表

 私がこんなエントリーを書くと、追従する人が出てしまうだろうな、と思いつつ発表する、「life is beautiful 書店、2006年度 年間ベストセラー」。なぜこんなことをするかについては、「アマゾン・アフィリエイトの売り上げを一時的にだが数倍にする裏技」参照。

 まずは、ベストセラーブックから。

1.文章表現400字からのレッスン
2.イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき
3.発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法
4.理科系の作文技術
5.誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論
6.フェルマーの最終定理
7.新訳 経営者の条件
8.イノベーションの達人!―発想する会社をつくる10の人材
9.頭の良くなる「短い、短い」文章術―あなたの文章が「劇的に」変わる!
10.ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる

 ビジネス書、文章の書き方本、デザイン関連書物、が売れるのは例年と同じ。2005年のトップだった「イノベーションのジレンマ」が僅差で二年連続のトップの座を「文章表現400字からのレッスン」に譲る。3位と8位にIDEO関連の本が二冊も入って来たのが今年の特徴。私が大好きな企業ということもあり、その気持ちが読者に伝染してのことか。

 続いて、本以外のベストセラー。

皇帝ペンギン プレミアム・エディション
ライフ・イズ・ビューティフル
Star Wars - Bobble Buddies Mini: R2-D2
アンパンマン らくがき教室ミニミニ
TDK CD-RW音楽用 80分 [CD-RWXA80N]
コンセプトF標準キット
いぬのサプリ 骨と関節 29.7g
EUPA ピザストーン (オーブントースター対応) TSK-PZ2835
クックマイン ふっ素樹脂加工 フタ付 親子鍋 16cm H-1790

 ピザストーンとか親子丼用の片手鍋は、このブログでも紹介しているので理解できるが、「アンパンマン らくがき教室ミニミニ」や「コンセプトF標準キット」などはいったいどんな経由で販売されることになったことやら、想像するだけで楽しい。ちなみに、「ライフ・イズ・ビューティフル」は、私が大好きな映画の一つ。この映画を見ていただければ、なぜこのブログのタイトルが「life is beautiful」なのかをご理解いただけると思う。


書評、ヒューマン2.0

 出版記念パーティでいただいた渡辺千賀さんの「ヒューマン2.0」。さっそく「未読の本に関するエントリーを書いてみるテスト」というエントリーで紹介してみたところ、4日で6冊を販売。未読のままで「5冊販売」の義務を果たしたのは私ぐらいではないだろうか…。

 そんな不謹慎な実験をした私も、ようやく妻とのショッピングの時間を利用してこの本を一気読みすることができた(どうして夫婦でショッピングに行くと読書の時間が確保できるかに関しては、身近にいる既婚者に尋ねていただきたい)。ユーモアにあふれた軽いタッチの本書、米国で暮らす私としては「そう、そう」とうなずく部分も多く、楽しませていただいた。

 しかし彼女の毒舌はすばらしい。「アメリカ人にとって『爪に火を点して生活する』とは、クレジットカードで借金をしてバケーションに行くこと」などは、私の「ユーモア琴線」と激しく共振を起こしてしまい、不覚にも声を出して笑ってしまった。


悪徳マルチ商法の被害者をインタビューしてみた

Yoyo 先日、ひょんなことから悪徳マルチ商法の被害者(24才、男性、四大卒、現在ニート)をインタビューする機会があった。社会人になりたての若者を餌食にする巧みにしくまれたワナ。表面上は合法的なマルチ商法を装っているが、その実質はねずみ講だ。この手の悪徳商法は決して今に始まったものではないが、これだけ教育が充実し、ネットに情報があふれる時代になったにも関わらず被害者が続出するのを放置しておくのは、このブログで常日頃から発言をしている身としては許せない。そこで、今日は、そんな被害者を一人でも少なくするための私なりの試み。

 その青年と話して何よりも驚いたのが、彼自身が被害者だということにまったく気付いていないこと。現在ニート生活中の彼いわく、「自分が本当にやりたいと思う仕事をするためには、生活の基盤が必要。その基盤作りのためにこのネットワークに参加した。もう少し傘下の会員を増やすことができれば、何もしなくても黙って月70万円の収入が入ってくるようになる。」

 その青年は数ヶ月前にネットワークに参加し、すでに20人の会員を傘下にリクルートしたという。その青年の恋人、後輩、友人に始まり、さらにすでにその人たちの知人にも広がっているという。それぞれの会員は、2万円弱の入会金を払ってネットワークに入会し(2万円以上だと違法)、各種セミナーに参加してさまざまな教育(別の言い方をすれば「マインドコントロール」)を受けた後、35万円の浄水器・サプリメントからなる「スターターキット」を自由意志で購入した後に(これを義務化すると違法になる。かなり優秀な弁護士をかかえた組織のようだ)、今度は自分の傘下の会員集めに走るという。

 彼に言わせると、その40万円近い投資も、「自分の傘下の会員を集めることさえできれば、すぐに元が取れるようになるし、実際、月々70万円を稼いでいるシニア会員もいる」らしい。

 私が、「君自身は、月々幾ら稼いでいるの?」とたずねると、「来月には30万円はもらえるはず。今月は後一人入る予定だし。来月に三人増やすことができれば、ランクが上がって30万円もらえることになっている」と少し歯切れの悪い答えが返ってくる。

 「じゃあ、今月はいくらもらったの?」と尋ねると、「約15万円」だという。「じゃあ、元はもう取ったんだね」と言うと、「お金をもらい始めたのは先月からなので、まだ元は取れていない」と言う。

 さらに聞き出すと、上流の会員から買わされた色々なものを含めると出費がトータルで45万円、ネットワークから受け取った額は、トータルで30万円弱だという。数ヶ月懸命にリクルート活動に励んだあげく、差し引き15万円の損だ。買わされた浄水器はもちろん使ってもいない。

 「よくそれだけのお金があったね。」と尋ねると、ニートになる前の仕事でためた貯金を使ったという。「みんな若いのに、良く35万円も出せるね」と指摘すると、「貯金がない場合には、消費者金融から借りてもらう」という。私が顔をしかめると、「フリーターやニートにとっては、安定した収入を確保することはとても重要。そのための投資だと思えば、35万円は安いもの」だとの返事が返ってくる。彼は、本気でこのネットワークが会員のためになると信じているのだ。ある意味で、「自分だけが儲かれば良い」と思って他人に入会をすすめる確信犯よりもたちが悪い。

 私が「ねずみ講って何か知ってる?」と尋ねると、「聞いたこともない」という(学校ではいったい何を教育しているのだろう)。私が「これって、一見合法的なマルチ商法の形をとっているけど、実質はねずみ講と同じだ」と指摘しても理解できない様子である。「こんな風に、無限に会員が増えないかぎりなりたたないものをねずみ講って呼ぶんだ。こんなシステムはいつか必ず破綻する。経営者たちは、たぶん会員が十分に集まったところで、お金だけ持って計画倒産させるから、その時に損をするのは、君がリクルートした末端の会員たち。そして、その時にせめられるのは君だよ。」と厳しく指摘をする。

 結局のところ、彼自身がこのシステムの異常さに気が付いて目を覚ましてくれることを願うしかない。増え続けるニート・フリーターをターゲットにしたこの手の悪徳商法。法改正をいくらしたところで、いたちごっこで、「ねずみ講が本質的になりたたない」をことを理解できない青年たちが社会に送り出され続ける限りなくならないのだろう。こういう場を使って、社会にはどんな危険が待ち構えているかを彼らに知らせることが、ブロガーとしての私にできる精一杯のことだ。