なぜ日本企業による米国企業の買収がしばしば失敗に終わるのか
2007.02.14
日本で「会社は100%株主のもの」と言い切ってしまうと、「従業員はどうするんだ?」「社会的責任は?」という話になるが、それとこれとは話が別、というのが多くのアメリカ人の考え方である。「会社は100%株主のもの」と割り切った上で、それぞれが「自分の時間」と「会社の与えてくれるもの」を天秤にかけて、「今の会社に残るべきか、別の会社に移るべきか」を毎年とは言わずとも少なくとも2~3年に一回は真剣に考える、というのは彼らにとってごく当たり前のことである。優秀であればあるほどこの傾向が強い。
アメリカで会社を経営する時に一番難しいのは、そんな環境でどうやって優秀な人たちを会社に雇い、かつ、会社のために一生懸命働いてもらうか、である。給料をたくさん払って繋ぎ止めるというのももちろん一つの方法だが、よほど儲かっている会社でなければそんな方法では経営が成り立たないし、へたをすると仕事もしない単なる給料泥棒を作り出してしまう。そこで、給料以外の部分の「ストックオプション・福利厚生・やりがい・夢の共有・キャリアップ」などなどを、それぞれの人に適した形で提供して「会社のために一生懸命に働くに十分なインセンティブ」を与えなければならないのだが、これがとても難しいのだ(実際にアメリカ人の部下を抱えて苦労している私が言うのだから本当だ^^;)。
今まで日本の会社による米国の企業の買収をたくさん目撃してきたが、ほとんどの場合、これが原因で失敗に終わる。インデックスが買収したMoblis、サイバードが買収したAirborne Entertainment、フォーサイドによるZingyなどが良い例で、せっかく買収しても、日本の経営陣が現地の経営陣や従業員たちがどんな立場で会社と自分自身の関係を見ているかをそもそも理解できていないので、正しいインセンティブ作りができず(というか、インセンティブ作りが必用だとは想像もしていないので)、優秀な人たちから先にどんどんと辞めてしまうのだ。
そんな日本人に「アメリカでは優秀な人にはちゃんとしたインセンティブを与えないとだめですよ」と言うと、必ず返ってくるのが「アメリカ人は欲張りだ」という言葉である。それを欲張りと思おうと思うまいとかまわないのだが、少なくともそれがここでは常識だ、ということを理解した上でなければアメリカで優秀な人は雇えないし、会社の経営はできない。もちろん、「そんな連中を雇うつもりはない。会社と従業員は運命共同体だ!」という経営方針も日本企業としては許されるのだろうが、そんな考え方ならアメリカの会社など決して買収してはいけない。
私も優秀な人にインセンティブを与えるのは賛成です。
Posted by: 団長 | 2007.02.14 at 01:20
そりゃ、インセンティブは当り前の話でしょう。問題は、キャリアアップ、やりがいの共有という「インセンティブ」を実際に考慮できるか、という話で。個人的な印象ですが、日本だと、「会社は会社、プライベートはプライベート」という区切りがあって、個人の夢に対して会社が干渉(?)したり、補償したりすることが無い感じがあります。時々「中国人を育てても、一人前になったところで他の会社に移ってしまう」なんて話を聞きますが、これも同根なのかも知れませんね。
Posted by: yukichi | 2007.02.14 at 03:19
全く同感です。
私も海外で10人規模のソフトウェア開発部隊を管理しています。以前日本のヘッドクォーターに、「開発者のやる気によって、生産性は5倍も10倍も変わります。開発者のやるきを引き出すために、仕様の細かい部分について裁量権をもらえませんか?」とお願いをしたことがあります。そのときの日本側の反応は、「言われた通りの方法で言われた通りのモノを作りなさい。」というものでした。それでいて優秀な技術者が辞めると「管理がなってない」と言われる。困ったものです。
Posted by: n | 2007.02.14 at 04:22
欧米では、普通の労働者はステップアップ意識を持って働いています。ステップアップの方法は、(1)会社の業績が上がってそれに伴って自分の地位の価値が上がるか、(2)今の会社での実績をネタにして自分にとってベターな会社に転職するか、のいずれかです。中島さんもご指摘の通り、これは欧米での常識であり、異文化の人間が良いとか悪いとか言える類のものではありません。
このことは、裏を返せば、会社が提供しているインセンティブに見合った人材を即戦力として採用できるチャンスもあるわけです。人材が流出しやすい反面、中途採用も容易なのです。
状況が違うのに同じ方針を押し通そうとするのは、愚の骨頂。それなら海外進出などしないほうが良い、という意見に激しく同意します。
(連続コメント、すみません)
Posted by: n | 2007.02.14 at 05:25
日本企業によるMAではないですが、日本企業が海外企業と提携する場合も難しさを感じています。
こちらのスピード、あちらのスピード。。。〃カーブを曲がるのにもブレーキとアクセルのタイミングが合わない。。。そんな気がしています。
忍耐と度量が試される、そんな気がします。
Posted by: とむとむ | 2007.02.14 at 05:55
はじめまして。たまたま面白い話題と読ませていただきました。どうしても日本の経営者には西洋の価値観が理解できないがためにそのような結果になると見受けます。特に、日本人が基本とする「和」とか「努力」「根性」を求めても通じない世界です。もっと本格的に多国籍企業化し、若い人達にも権限を与え、柔軟な本部組織(日本側)とならない限り、同じ過ちを繰返すケースがまだまだ続くであろうと想像します。西洋の中でもアメリカはどちらかと言うと、まだやりやすい国と思います。
Posted by: AO | 2007.02.14 at 13:10
日本の会社のマネジメント不足に尽きるのではないでしょうか?
何のために買収するのかを経営陣が議論や思考しつくしていないと思います。
自社会社と買収会社の位置付け(外国市場参入の足がかりか、足りないものを補うためなのか、)と従業員のやる気付け(金銭や仕事の達成、勉強・昇進などによるモチベーション獲得)
がしっかりできていないのだと思います。
ところで、「会社は100%株主のもの」という考えは、アメリカでは主流の考えなのでしょうか?私の知る限り、従業員・株主・社会的責任のバランスの取れた利益配分こそが、会社の価値
を高めるというのが、考えの本流でであったと思います。
声高の株主や物言う株主は「食わせ物」であったことはアメリカでも日本でも証明済みだとおもいますが....
Posted by: hamham | 2007.02.15 at 23:25
こんな当たり前のことが判ってない経営者が日本に多い、という事に愕然とする。
それでは理系離れも当然の結果だろう…
Posted by: ばく | 2007.02.17 at 01:29