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ソフトウェア・パテント不要論

Whitefish_sunset  今日、家に帰ってみると、Georgia Institute of Technology (ジョージア工科大学)から、Inventors and Their Inventions: Understanding the Innovation Process というアンケート型の質問状が届いていた。過去数年間に、米国・ヨーロッパ・日本でパテントを申請した人の中からランダムに抽出したサンプルだという。

 質問の内容は、なぜパテントを申請したのか・その発明にどのくらいの時間をかけたのか・その発明は実際の商品に活用したのか、などのありきたりのものだったが、最後に自由にコメントを書いてほしいという欄があったので、そこでソフトウェア・パテントに関して徹底的な批判を加えておいた。

 前にもこのブログで書いたことがあるが、ソフトウェア、ユーザー・インターフェイス、そしてビジネス・プロセスに関してのパテントは認めるべきではない。

 特許法のそもそもの目的は、苦労して何か新しいものを作り出した人に先駆者利益を与えることにより、発明に対する努力を促して文明の進歩を促進しようとするものである。

 その意味では、開発費が莫大にかかる素材や医薬品や製造工程に関しては現行の特許法が良い方向に働いているが、ソフトウェアやユーザー・インターフェイスのように「アイデアを思いつくのは比較的簡単だが、それをビジネスになる形のソフトウェアやサービスに仕上げるプロセス方がずっと大変」であるものに関しては、現行の特許法を適用すると、逆に文明の進歩にマイナスになる。

 私が知っている例としては、Amazonのワンクリック・パテント、ホンダのどのドアが半ドアかを示すパテント(これはやっと特許が切れたらしく他のメーカーも採用しはじめた)、松下がジャストシステムを訴えたアイコン・パテント、GemstarのEPGパテント。どれも、アイデア自体はすばらしいものの、これらのパテント化を認めたことによる弊害の方が、そういったものがパテント化可能であるがゆえに人類全体が受けるメリットよりもはるかに大きく、権利化が文明の進歩に役立っているとは言えない。どのドアが開いているか教えてくれない警告ランプだとか、妙に使いにくいHDレコーダーなどは、そういった弊害の典型的な例である。

 私も、マイクロソフト時代にたくさんソフトウェア・パテントを申請して来たが、マイクロソフトとしても、そうやってパテントを申請しておかなければ、他の企業にパテントを申請されて痛い目にあう可能性があるからと防御目的で申請しているだけのことである。

 そんなことをして得をするのは弁護士だけだ、ということを知りながら「申請しなければ損をする」現在の特許法。「パテントやくざが甘い汁を吸うだけで文明の進歩になんらプラスになっていない」の現在のソフトウェア・パテント。早くなんとかしていただきたい。

Comments

Ladder

はじめまして

特許法の精神としては保護と利用のバランスですが、確かに、保護に偏っている事例が多々見受けられます。

現行法下で考えられるひとつの策として、パテントを出願して、審査請求はしない。というのはどうでしょう? これなら、先進的なアイデアを紹介しつつ、誰にもパテントを取らせないという意味で防御にもなるかと。ただ、日本以外で同じ手が使えるかは勉強不足で分かりません。

methane

アイデアを思いついたら、どんどんBlogで公開するのも手ですね。
特許申請前に公開された技術には特許が認められないので。

kawayama

はじめまして。

 確かにソフトウェアの保護が米国で過熱気味だったという感はありました。ですが、

>ソフトウェア、ユーザー・インターフェイス、そしてビジネス・プロセスに関してのパテントは認めるべきではない。

 これは、そもそも企業がソフトウェアの研究開発にそれほど金をかけないように、国が舵取りをするべきだ、という意味ですよね。(もし別の意図、たとえばソフトウェアはどちらかというと著作権による保護を強化するべき、などがあればごめんなさい)

 ソフトウェアの進歩は20年前みたいに大学か趣味人だけの手によれば十分だとお考えなら仕方ありませんが、私はやはり企業は研究開発してこそ価値のある存在だと思います。

 もしよろしければソフトウェアの研究開発についての考えもお聞かせいただければ幸いです。

satoshi

>そもそも企業がソフトウェアの研究開発にそれほど金をかけないように、国が舵取りをするべきだ、という意味ですよね

 ぜんぜん違います。ソフトウェアの本当の勝負は、「アイデア」ではなく「エンジニアリング・商用化」の部分にあるのだから、ここで例を挙げたような「それなりに頭を使えば誰でも思いつくようなアイデア」の権利化は認めずにそこはオープンにし、本当に投資すべき部分に時間をお金を使ってもらいましょう、というのが私の意見です。今の特許法のままだと、ちょっとしたアイデアが簡単に権利化できてしまい、その結果特をするのは弁護士とパテントやくざだけ、という状態になってしまっています。

 数学のアルゴリズムを権利化されては人類のためにならないと同じことです。わかりやすく言えばコンピューター・サイエンスの部分は数学の方程式やアルゴリズムと同じく人類すべてが共有するものとし、ソフトウェア・エンジニアリングの部分で勝負をしましょう、ということです。

kawayama

ご回答ありがとうございます。

たしかに、10年くらい前の審査基準ではちょっとしたアイデアが特許になってしまって色々と問題になっていました。それはここ数年顕在化してきていますし、そのあたりは皆さんご存じのとおりだと思います。

ただ、前のコメントの繰り返しとなってしまいますが、ソフトウェアが全く特許化されないとなると企業がソフトウェアについて研究開発する、あるいは一般に公開するモチベーションが無くなってしまうと思うのですがいかがでしょうか。

ソフトウェアは解析も簡単ですから、商品として売ること=構造の公開に近い状態となってしまうと思います。(このことについてはネットを介すことで隠蔽は可能になるので解決できそうですが、当然全てそうできるわけではないですね。これを著作権で禁止するというのであれば現状の著作権法はあまりに保護してなさすぎます。)

研究成果を公開することが特許権を得る代償です。権利が強力すぎるなどの議論はあるべきだと思いますが、それでも公開の動機付け自体が無くなれば企業は研究成果を隠蔽しようとするのではないでしょうか?

この”企業による研究成果の公開”という点に注目した議論がネットでは見られないため、私は現状のソフトウェア特許反対意見があまりに地に足がついていないのではないかと不安を感じております。

もちろん先のコメントで述べましたとおり、大学の研究室ないし在野の進歩だけで十分だとお考えであればそれはそれで私も納得できます。RMSとか確かそうですよね。

satoshi

>この”企業による研究成果の公開”という点に注目した議論がネットでは見られないため、私は現状のソフトウェア特許反対意見があまりに地に足がついていないのではないかと不安を感じております。

もっともな不安だとは思いますが、この業界で30年近く働いてきた私の経験から言わせていただければ、この業界で働いていて”企業による研究成果の公開”によるメリットを受けたことは一度もないし、メリットを受けたことがある人の話を聞いたこともありません。

 実際、マイクロソフトなどでは、エンジニアたちには他社のパテントは読まないように指示しています。その理由は、後々で抗争になったときに、「権利化されていることを知りつつ侵害した」と相手に言わせないためです。

 こんな経験から、私は「ソフトウェア・パテントは百害あって一利なし」という考えです。特にユーザー・インターフェイスにかかわる部分は、秘匿することもできないし、お互いに良いところを学びつつ切磋琢磨して行くことこそが正しい形での進歩につながると考えています。

Maki

この数年間、特許をめぐる世界的な動きが注目されます。
例えば、2005年にEC委員会では純粋なソフトウェア特許を認める法律制定を取り消すよう投票で決定しています。これは、純粋なソフトウェア特許を認めている米国特許法律とまったく異なっていると思われます。
Opponents of software patents have been lobbying members to restart the legal procedure on legislation so that safeguards could be inserted into the legislation that would guard against the patenting of pure software.

また、米IBMは出願特許を公開し、ビジネスモデル特許はじめとした特許ポリシーの変更に取り組み始めています。さらに、米特許商標局(USPTO)は、米IBM、OSDL(Open Source Development Labs)など一緒に、オープンな特許のコミュニティーレビューを確立するなど、特許の質を向上させる取り組み(イニシアティブ)を開始しております。
Satoshiさんのご指摘、
>>  前にもこのブログで書いたことがあるが、
>> ソフトウェア、ユーザー・インターフェイス、
>> そしてビジネス・プロセスに関してのパテントは認めるべきではない。

Satoshiさんのご意見に賛成です。

>> 特許法のそもそもの目的は、
>> 苦労して何か新しいものを作り出した人に
>> 先駆者利益を与えることにより、発明に対する努力を促して
>> 文明の進歩を促進しようとするものである。

発明した技術によって、われわれの生活や文化が豊かになるよう、企業間の競争が公正なルールに基づいて促進されることこそが、特許法の狙いであった・・・・・。

現在、われわれが利用できるフリーソフトウェアやオープンソフトウェアは多数存在しており、さまざまなアイデアや工夫などをソフトウェアを活用して具現化してみたい、また、生活をハッピーにしたいと考えているはず・・・。つまり、ソフトウェア特許が技術革新のスピードを鈍らせている・・・・・?!

>> それをビジネスになる形のソフトウェアや
>> サービスに仕上げるプロセス方がずっと大変
>> であるものに関しては、現行の特許法を適用すると、
>> 逆に文明の進歩にマイナスになる。

レッドハットのCEO Matthew Szulik氏も、ソフトウェア特許が技術革新のスピードを鈍らせていると述べています。「ここ30年間を振り返ると、特許が革新を妨げているように思われる。業界の動きは、改善措置が講じられるよりはるかに速い。特許と技術革新の相互関係確立を実証する証拠はほとんどない」と。

ぶらりん

でもさあ、ソフトウェアで特許の権利行使が出来なくなったら、特許が認められる分野・業界に優秀な人材みんな流れちゃうんぢゃないの?特許の利用許諾料を$$$(たくさん)払っても儲かってるビジネスなんて他の業界にはいくらでもあるんだし。

特許の利用許諾料払ってたらビジネスにならん!とか言って特許回避ばかり考えてるソフトウェア業界の方が(行動意識的にも利益構造的にも)問題があるような気がする。

kawayama

>satoshi様

ご回答ありがとうございます。

ユーザーインターフェース特許に関しては私も同意見です。細かく見るとソフトウェアと半導体は原理的に区別がつけられない部分がでてくるためソフトウェアだけを排除することは不可能だと思いますが、それとは事情の異なるUIは意匠権なりでデザインとして別途保護する方向が有益かなと考えております。(その意味ではこないだの意匠法改正は微妙でしたが)

一方で、検索や機械翻訳、データマイニングなど、表に出にくい技術についての議論は依然必要かなとも思います。

マイクロソフトの研究者はソフト・ハード問わず多くの特許を出願されてますし、論文を発表されています。我々などはそれを公開情報として参考にさせていただくこともあります。ただ規模が話にならないほど違いますので、我々側とはものの見方が異なるのも当然かもしれません。それでも公開公報を読まないように指示しているというお話は大変興味深く感じました。

とりあえず私の最初の疑問も解消しましたし、これ以上お時間を取らせてしまうのも申し訳ありません。ここでこの話は終わりにしたいと思います。

貴重なお話をどうもありがとうございました。

higot

>数学のアルゴリズム
数学のアルゴリズムが何を指しているかはわかりませんが、研究者を雇って10年かけてやっと開発できるような類のアルゴリズムもあります。

今、問題となっているのは、短期間で開発できるものに対して、20年も独占権が与えられてしまうことですよね?従って、例えば、「研究開発にかかった期間だけ、独占権を与える」とか、「研究開発にかかった費用の倍の利益を得るまで独占権を与える」とか、そういう法律ならば良いのではないでしょうか?もちろん、現実味はありませんが。

労働の対価をビジネスモデルの上にのせて測ることは、研究開発に限らず難しいことだと感じます。つまり、特許は1つの社会歪みの具体例に過ぎません。特許よりも広い視野で問題を見ると何かが見えるかもしれません。

どんな研究も他人の研究が無ければ成り立たないのと同様に、どんな人生も他人の人生が無ければ成り立たない、だから人生面白いんですけどね。

Jourgenz

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