長所と短所は切り離すことのできないものかも知れない(と開き直ってみるテスト)
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素朴な疑問:「官僚=政治家のブレイン」という形で三権分立が成り立つのだろうか?

 数年前のものだが、Harvard Business Reviewの"What You Don't Know About Making Decisions"という記事を読んだ。多くの企業や政府で日々なされる意思決定が、関係者の努力にも関わらずどうしてしばしば間違ったものになるのかを、具体的な例を挙げて考察しているなかなか興味深い論文だ。

 この論文において、筆者が最も強く批判しているのは、意思決定のプロセスにおいて、ある特定の方向に意思決定をさせようと強く思っている人、もしくは利害関係を持つ人に資料作りをさせること。そういう立場に置かれると、自分の意見をサポートするデータを強調し、自分の意見に反するデータを隠そうとするのが人間の常だと筆者は主張する。特に「自分の意見を採用してもらう」ことが昇進などに結びつくカルチャーを持った組織に置いては、その傾向が強まり、バランスがとれた資料などは期待できないという。

 これを読んでいて頭に浮かんだのは、日本の政治家の意思決定の方法。ほとんどのエネルギーを票集めと政党間・派閥間の駆け引きに費やしている日本の政治家には、実際の政策を深く勉強する時間もなければ、自分だけのブレインを雇う余裕もない。そうすると、どうしても「専門家」である霞ヶ関の官僚たちに意思決定に必要な資料作りを頼むことになる。この手法は官僚たちが強い意見を持っていないものに関してはうまく働くが、官僚たち自身が利害関係者であるテーマ(たとえば予算のことであったり、天下りのことであったり、「これからの社会保険庁はどうあるべきか」など)になるとこの論文に書かれているように、「社会保険庁の擁護者に社会保険庁の今後はどうあるべきか」を尋ねるというとてもおかしな話になってしまい、うまく機能するとは思えない。

 別の言い方をすれば、「官僚=政治家のブレイン」という今の形では、三権分立がキチンと成り立たないのではないか、というのが私の素朴な疑問である。少なくともそれぞれの大臣の下に外部からのスタッフを数人ずつ雇って、官僚たちを徹底的に監視・監督するという体制を作るべきなのではないだろうか、と思ったりするのだがどうなんだろう。

 ひょっとしたら大臣秘書もしくは秘書官と呼ばれる人たちがそうなのかも知れないが、秘書官は官僚が出向して務めるなんて話も聞いたことがあるし(参照)、元官僚の大臣もたくさんいるし、どうもまともに機能しているように思えないのは私が日本の政治の仕組みを理解できていないせいなのだろうか。どなたかこの辺りの仕組みを分かりやすく解説した資料(書物・ウェブサイト等)をご存知の方がいたらぜひとも教えていただきたい。

Comments

a book lover

榊 東行
「三本の矢」上巻 下巻 各 1680円 (アマゾン)

という、小説があります。
今も在職かわかりませんが、執筆当時(1998年)
は、まだ財務省で、キャリアをされていたそうです。
「小説」ですけど、霞ヶ関の官僚の人と、永田町の
政治家の分業・対立のあり方が、わかりやすく
書かれていたように思います。

この著者も、このエントリーのHBR掲出の論文と
同じような問題意識をもっていたように思います。


hg

政治家が腐ってる理由ですね!

biaslook

>大臣の下に外部からのスタッフを数人ずつ雇って、官僚たちを徹底的に監視・監督するという体制を作るべきなのではないだろうか

監視は無理でしょう。第一に日本トップクラスの百人単位の官僚に伍する人材がいない。第二に、「監視」は反感を呼び、逆に寝首をかかれます。本間委員辞職しかり、社会保険庁内部リークしかり。

どこかのブログで読んだのですが、イスラエルが軍事的敗北を負った時(第4次中東戦争開戦時のエジプト・シリアの奇襲を予測できなかったこと、だったかな?忘れた)、イスラエル諜報機関が間違った情報をあげたのが敗北の原因だったため、第3者の意見を述べる新しいポストを作ったそうです。
超優秀ベテランの独立した数人の分析官を首相直下において、諜報機関があげた情報に関して、全て反論させるのだそうです。その反論と諜報機関情報を見比べて首相が最終決定を下す。首相に資質が求められるのが問題だし、国家存亡に関する事だからできたのだと思いますが、日本に一部導入することも可能ではないでしょうか。

先日、かみぽこぽこさんが立法府専属スタッフを作ればよいと提案していましたが、現実的な案だと思います。
国立国会図書館の官僚もかなり優秀だと聞きますから、そこの人員拡充から始めたらどうでしょうかね。

enka07

御要望にすべて応えるものかどうかわかりませんが、例えば、最近出た本で、
 山口二郎「内閣制度」(行政学叢書6)東京大学出版会
 飯尾潤「日本の統治構造」中公新書
あたりはどうでしょうか。また、私は読んでませんが、山口本に引用されている、
 菅直人「大臣」岩波新書
もよいかもしれません(別に支持者というわけではないですが、実体験を元にしているので)。あと
>三権分立がキチンと成り立たない
というのは「議院内閣制がキチンと成り立たない」といったほうが適切かも。

Jun

僕も行政府と立法府の分離、そしてそのための立法府の充実が現実的だと思います。
以前、ブログにも書きましたが
http://junseita.com/mt/archives/2006/12/post_62.html
現状、官僚の方は両方同時にこなしているのですから、仕事量的には可能な訳で、あとはきちんとした枠組みを設置すればよいかと。
人の移動を行政府から立法府への一方通行にすれば、インセンティブによる偏った意思決定も相当抑制出来ると思います。あとは監督責任者の国会議員の力量次第か。

楠 正憲

最近の本ですが『日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ』飯尾潤 著がお勧めです.GHQの改革がどう骨抜きにされたかにも触れられていますが,戦争に負けても変わらない構造をどう変え得るのか,暗澹たる気持ちにさせられます.
一方で,今のやり方もそれはそれで歴史的経緯があるんだよという観点では『政党と官僚の近代―日本における立憲統治構造の相克』清水 唯一朗著という本も面白いですね.
実は細川政権時の政治改革から,政治と官僚との関係が変わり始めているのですが,その辺については『首相支配―日本政治の変貌』竹中治堅著に詳しく書かれています.

Suyama

すでに推薦されていますが,飯尾潤『日本の統治構造』がお奨めです。簡単に言えば,議院内閣制を取る日本では,厳密に三権分立とは言えず,行政府と立法府が実質的に両者一体となっています。行政府と立法府の力関係でいえば,官僚を多く抱える行政府の方が強く,官僚の天下になっているのが実情といえると思います。
官僚主導国家は歴史的にみればうまくやってこれたのですが,現状の枠組みを大きく変えるような大改革(特に官僚に痛みを伴うような)は,やはり政治家主導権を取らない限り無理でしょう。

Akira

やや古い記事へのコメントですが。

上記のsuyamaさんのコメントなんかを読んでいると、知識のある人であっても日本人の政治知識というのは米英に偏っているのだなあと感じます。議院内閣制では、議会の主要な役割は内閣の設置にあり、それを信任し続ける以上は議会内での活動というのは自ずと制約されていきます。そこで、政治主導という話になると、どうしても議員の立法機能の拡大という話になりやすいのですが、議院内閣制の理念に照らすとそれほど望ましいとは思えません。

議会・官僚関係に関して、政治的任命職を増やすという案については、そもそも人材が居ないというbiaslookさんの指摘に加えて、日本のように政権交代が非常に稀な国では、導入に慎重であってしかるべきだろうと思います。政権交代が起こらない以上、同一の人物が継続してその任に当たることになるだろうと思いますが(政策知識の蓄積という観点からはそうあるべきだろうとも思います)、それで監視が上手く機能するかは疑問です。

まあというわけで、いまの民主党が良いかどうかはともかくとして、政権交代がある程度の周期で起こるような政治システムにする、というのが根本的な解決策かと思います。

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