ユーザーに尋ねても必ずしも正しい答えは返ってこない
2007.09.14
今日はたまたま「ユーザーからのフィードバックを集めることの難しさ」が話題になったので、それに関連するエントリー。
もの作りにおいて、「ユーザーが何を必要としているか」を知ることは大切だが、だからと言ってユーザーに尋ねれば正しい答えが返ってくる訳ではないところが難しいところ。具体的な例としては、こんなものがある。
1. サイレント・マジョリティの声は聞こえてこない
これはMicrosoftで実際にあったことだが、Outlookのチームではユーザーから寄せられる機能追加のリクエストに従って色々な機能を足していた時期があったが、その結果不必要な機能ばかり増えて、単純な作業が逆にやりにくくなってしまった(たとえばカスタム・フォームが良い例)。このケースでは、ごく一部のヘビー・ユーザーばかりが声がでかく、「今の機能で十分、これ以上複雑にしないで欲しい」というユーザーは何も言ってこない(こういう人たちのことをサイレント・マジョリティ)という状況にあったからこんなことになってしまったのだ。「使い方が分からないのは自分が勉強不足だからだ」と勝手に思い込んでしまって文句も言わないというユーザーも結構いる。
2. ユーザーは既存の考えに捕われているだけかも知れない
以前このブログでも取り上げた話だが、ユーザーは必ずしも本当に必要とするそのものをリクエストせずに、それを得るために必要だとユーザーが思い込んでいるものをリクエストしてくるケースがしばしばある。「もっと早く走る馬が欲しい」と言っているユーザーは、実は単に「より早い移動手段が欲しい」だけなのかも知れないし、「電気ドリルが欲しい」言っているユーザーは、単に「穴が欲しい」だけなのかも知れない。
3. ユーザーは理想に浸っているだけかも知れない
「こんな機能が欲しい」と言ってくるユーザーは、本当はそんな機能が欲しいのではなく、そんな機能を使いこなしている自分を想像して満足に浸っているだけかも知れない。心理学の実験で有名な話が、黄色い帽子と白い帽子の実験。被験者の女性に、黄色と白の二色のつばの広い帽子を見せ、「どちらかの帽子がもらえるとしたらどちらが欲しいですか?」と尋ねると「黄色の帽子」を選んだ人が多かった。しかし、そのインタビューの最後に「どちらの帽子でも良いので持って帰ってください」と言うと白い帽子を持って帰った人の方が多かったという。最初の質問に黄色と答える人が多いのは「はでな色の帽子を着こなしている自分」に憧れているからであり、持って帰るとなると白い帽子を選ぶのは、実際に自分が持つとなると、どの服にも合いやすく無難な白の方が扱いやすいからだという。
私が尊敬するIDEO(「発想する会社」参照)では、こんな勘違いをしないように、とにかく「ユーザーを徹底的に観察すること」に重点を置いているという。ユーザーを丁寧に観察して、彼らが本当に必要としているものを見つけ出す。それがIDEOなりのもの作りの仕方だ。
私も細々とマイナーなツールを配布しているのですが、私は「開発者自身が一番のヘビーユーザーであること」がイチバンだと思います。
Posted by: nuts | 2007.09.14 at 22:57
ほぼ日刊イトイ新聞連載の岩田さん(任天堂社長)の話では、宮本さんが、開発中のゲームをまったく知らない人にプレイさせて、それを肩越しから観察する様子が紹介されています。
http://www.1101.com/iwata/2007-09-03.html
こうやって、ユーザーの立場に立った、世界的なゲームが生み出されていったのですね。
Posted by: nori | 2007.09.14 at 23:11
特に1は肝に銘じておかないといけないと,よく感じます。「自分たちが欲しいと思う商品か」を考えれば,ずれていることに気づくはずなんですが,なかなかそうはいかないみたいです。商品を企画する側にも「自分が勉強不足だからだ」が作用しているのかしら。
Posted by: すずき | 2007.09.15 at 05:01
私も細々とマイナーなツールを配布しているのですが、ユーザが要望してくる機能は的外れなことが多いですね。そのまま実装してもあまり上手くいきません。
ユーザが機能を要望してきたら、それをヒントにユーザが直面している問題について考え、それからそのベストな対策を考え、そしてその対策を実装する、とやると上手く行くように感じています。
Posted by: M | 2007.09.15 at 09:59
なのでブログ、掲示板の役割は終わったと言えるかもしれません。
Posted by: ぶらりん | 2007.09.16 at 05:54
岩田社長のインタビューで出てくる、宮本茂さんの「肩越しの観察」はIDEOの徹底した人類文化学者のような観察と同じことですね。どちらも直接に聞いて得る答えに頼るのではなく、ユーザーが自然に反応してしまう「行動」に真実があるという哲学に基づいているということでしょうか。
「自分が欲しいもの」もそこそこ使える指標ですが、製品によってはそれも気をつけないと独りよがりになりますね。かつコーラだかペプシだかのマーケティングマネージャーが新商品開発のチーム全員に"I'm not the target market"とかかかれたTシャツを配った話を思い出します。
まぁこれは「機能」はほぼ完全に成熟したと思われる消費材的な商品だとライフスタイル的なメッセージが重要性を増すので、ちゃんとそれなりにリサーチをしないといけないということかもしれません。機能が大事なまだ発展途上の商品・サービスは「自分たちが欲しい物」をスピーディーに開発するほうが市場調査でリサーチをとろとろやっているより勝てるのかな?
Posted by: ken | 2007.09.16 at 18:48
わがままをゴリ押ししてくる客は言ったことをそのまま反映すればいいんじゃん?というスタンス。どうせこっちが正論言っても受け入れる器がなけりゃー。
Posted by: 淘汰されたSE | 2007.09.17 at 18:22
白を魅きたたせるためには、黒い点を落とすもの。
観察を受け止めたあとに何を行うべきか、
また何を行えば観客はどう感じるのか(目的)を定めた後、
ふたたび観客を観察すべきなのかも知れませんね。
Posted by: Naotake | 2007.09.18 at 07:09
はじめまして、質問があります。
記事中の心理学の実験:
『黄色い帽子と白い帽子の実験。被験者の女性に、黄色と白の二色のつばの広い帽子を見せ、「どちらかの帽子がもらえるとしたらどちらが欲しいですか?」と尋ねる』について。
この実験のエピソードの出典は何でしょうか。(ネット上を検索しても関連記事が見つからなかったので質問でした)
Posted by: commentsan | 2007.09.27 at 09:45