RailsがRubyで作られた本当の理由
初音ミクに感じた「それ」

ソフトウェアの資産計上に関する素朴な疑問

 会計の勉強をしはじめてから、今まで見過ごして来たようなことが気になるようになった私だが、最近一番気になったのが、日経エレの8月13日号に書かれていた、Aplixの76億円の特別損失の計上の件(参照)。要約すると、過去2年の間「ある顧客が買う予定」と言う名目で(経費としては報告せずに)資産として計上してきたソフトウェア資産を、「やっぱりすぐには売り上げにはつながらなそうだから」と一気に特別損失として計上した、というニュースである。

 建物や原料のようにはっきりと形のあるものを資産として計上することは会計上もっともなことだが、自社で開発したソフトウェアやパテントのようなものを資産として計上することには非常に大きな危険がともなう。Aplixのケースのように社内で開発したソフトウェアが将来売り上げに繋がらないということはしばしばあるわけで、そんなにあやういものを資産計上されてしまっては、投資家はどの数字を信じれば良いか分からなくなってしまう。

 もっと興味深い例としては、ドリコムがある。去年の12月の段階での内藤社長のインタビューが公開されているが(参照)、そこの最初の方に、

今期の中間に関して言えば、数字の面ではほぼ予想通りになりました。予想では売上高5億円、経営利益0円という数字でしたが、結果としましては、売上高5億円、経常利益5,700万になりました。

と書いてある。この数字だけ見ると立派なものだが、さらに読み進んで行くと、こう書いてある。

BSについては、研究開発への積極的な投資の結果、ソフトウェア仮勘定の項目が大きくなっています。弊社自身が開発系の会社ですので、研究開発をPLにつけていることもあるものの、商品として収益性の見えているものは、資産に計上しています。

 今までの私であれば、ここの部分はサラッと読み飛ばしていたかも知れないが、今は「商品として収益性の見えているものは、資産に計上しています。」という部分に思いっきりひっかかってしまう。「一体いくら計上したんだ?」「どこまで見えているんだ?」「もしそれを経費として処理したら、赤字なんじゃないか?」という疑問が頭に浮かぶのである。

 そもそもの問題は、会計上、ソフトウェアの開発のために必要とした人件費の一部を「この部分は、商品として収益性が見えているから」という理由で、当期分の研究開発費として計上せずに、「未来のための投資として資産計上」することが可能という点にある。言い換えれば、上の経常利益5,700万円という数字は、ソフトウェア開発コストのうちの何パーセントを資産計上するかどうかによって、意図的に操作できる数字なのだ。

 たとえば、ある企業の当期の売り上げが5億円で、同期のソフトウェア開発費を100%経費として計上すると1億円の赤字が出るとする。慎重な経営者であれば、ソフトウェア資産が将来の売り上げに繋がるかどうかは不透明なので、正直にそのままの数字を報告する。しかし、多くの経営者はここで、開発費の一部を資産計上することにより会計上黒字にする、という誘惑にかられることになる。極端な話、開発費のうちの2億円を資産計上すれば、会計上1億円の黒字にすることすら可能なのだ。

 もちろん、そんなことを株主たちをだますためだけに意図的にやれば不正会計だが、経営者たちが本気で将来の売り上げに結びつくと過信していたとすれば、単なる「判断ミス」である。

 株主にとって見れば、意図的であろうとなかろうと、経営者の裁量だけで赤字を黒字に見せかけることが可能になるこの「ソフトウェアの資産計上」はいささか迷惑なものである。

 まあWarren Buffetであれば、「ソフトウェアを資産計上するようないかがわしい会社には投資するな」という話でしかないのかも知れないが、実際には「ソフトウェアを資産計上すること」の意味が分かるどころか、決算書もろくに見ずにソフトウェア企業やWeb2.0企業に投資をする人がたくさんいるのが現状である(私も第一次ネットバブル時にはそうだったので他人のことはとやかく言えないが)。

 ちなみに、そのWarren Buffetととても仲の良いBill Gatesは経営者としては非常に慎重・保守的で、マイクロソフトのR&D費用は常に100%その期の経費として計上されている。とかく評判の悪いVistaだが、5年もの間何千人ものエンジニアをVistaの開発に従事させ、発売までその費用を経費として計上しつつも毎年莫大な黒字を出し続けて来たマイクロソフトという企業はやはり大したものだ、と思った私である。

【参考文献】
Software Capiliztion Clouds Comparisons

Comments

so

税務署が、開発中のソフトウェアについて、
資産計上することを求めてくるという話をきいたことがあったので、
ちょっとしらべてみました。
# 資産計上しないとすると、利益を圧縮できる、つまり、脱税ができるため。

http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/hojin/kaisei/001120/01.htm
きちんと調べたわけではないですが、
>特定の研究開発目的にのみ使用するため取得したソフトウエアは、原則として研究開発費(期間費用)として処理することとされていますが、税務上は、当該ソフトウエアも資産であることから、減価償却資産として計上する必要があります。
と、あるように
どうも税務署は資産計上することをすすめているようです。

投資家としては、利益を粉飾している、という視点もあるとおもいますが、
一方では、コンプライアンスをとっている、という視点もあると感じました。

ソフトウェアの評価はなかなか難しいものですね。

例えば開発途中のものであろうと、
MSが作成中の次期OSのソースコードを売るといった場合、
これには値段がつくであろうことを考慮すると、
このソースコードは資産計上すべきということもできませんか?
# 日本では

contradiction

自分のいた会社では、ソフトウェア開発中の人件費は資産として計上し、そのソフトが売りに出されると、それまでの開発費を経費として計上していました。したがって開発が長期にわたったり発売されるソフトが少ないと売り上げがあがり、それにより株価も上がります。逆にソフトが多く売られた年は開発費の関係で赤字になるという感じでした。ソフトが発売されることで売り上げ・株価が落ちるので、社員としてとても不思議な感じでした。

心は萌え

すでに出ていますが、
日本では、税金の関係上ソフトウェアは資産として数え、減価償却の対象+固定資産税の対象になるという考え方の方が一般的だと思います。

前の会社では、経費扱いすると脱税の疑いをかけられるということで一律 資産化していました。

satoshi

 日本の事情は詳しくは知りませんが、米国では税金の計算上の資産と、株主向けの会計報告における資産は、本質的に異なるものとして別個に扱います。

 例えば飛行機会社が飛行機を買った場合、税法上はどの飛行機会社も同じ年数で消却することが義務づけられていますが、会計上はビジネスプランに応じた消却をすることが奨励されています。例えば常に最新機種でおもてなしを提供するシンガポール航空の場合、古くなった機種はどんどんと新しい機種に買い替えます。そのため、会計上は10年で消却する、という処理をしています。

投資初心者

前の方が書いていると通り資産として計上するのが一般的なようです。
 有価証券報告書を見ると、ソフトウェアが無形資産として計上されています。普通は工場などで作っている途中の商品等である棚卸資産として積み上げるのが適当なのでしょうが、珍しいケースですね。商品になるものは販売されるまでに1年以上かかっても流動とするのが普通だと思います。無形固定資産の方のソフトウェアは、わかりやすく言えばソフトウェアを作るための開発環境を整えるソフトウェアを載せる場所と理解しています。
 確かに、文章中にあるようにソフトウェアはどこまでPL上の開発費で、どこからが商品の作成費なのかは外から判断付かないですね。

>会計制度
日本では、(少なくとも)有価証券報告書は会計基準に基づいて作成するように金融商品取引法で決まっているので、あまり自由度がないのではないでしょうか。

arn

>「もしそれを経費として処理したら、赤字なんじゃないか?」という疑問が頭に浮かぶのである

ソフトウェアの開発費が経費として処理されてしまったら逆に誤った判断になってしまいます。損益計算書はその期間にいくら企業が利益を上げたかを求めるのが目的ですから、売上と売上原価を一致させることが重要です(むしろ費用になる販管費の方が考え方としては例外に近い)。もし経費扱いにしてしまうと、売上が起こった月の損益を見ると、費用ゼロの売上が発生しているように見えることになりますので。これはソフトウェアではない通常の製品でも同じことです。

R&D費用のような研究開発費は現在の日本の会計基準でも原則費用扱いです。これは売上との結びつきがあやしいためで、まさにエントリで書かれている理由のためです。

むしろ問題なのはソフトウェアには物理的な個数がないので売上と償却される費用の間の関係が明確に決められないためなのです。

バフェット信者

バフェット的には、「だからキャッシュフローをみて投資しよう」ってとこでしょうか。
PLもBSも恣意的に操作できますが、キャッシュフローだけは嘘つきませんからね。
投資家とすれば、究極的にはR&D費用がPLとBSのどっちに計上されようが、本業からのキャッシュフローが読めればOKでしょう。

satoshi

>キャッシュフローだけは嘘つきませんからね。

だと良いんですが、最近は偽装する側もキャッシュフローを見られていることを知っているので、色々と悪さをしてくるそうです。売掛金(account receivable)を年度末に売っぱらってキャッシュに変換することにより、来期のキャッシュフローを犠牲にしながらとりあえず今期のキャッシュフローだけ良くする、などのテクニックです。

humu

この例とは関係ないですが,エンロンも将来見込めるであろう予測の売上を計上してたような?
予測だからいくらでも計上できて結局破綻しましたが・・

satoshi

>エンロンも将来見込めるであろう予測の売上を計上してたような?

エンロンの場合は子会社を使ってもっと複雑なことをしていました。ちなみに、"Financial Reporting & Analysis" という授業を受けているんですが、教わることは基本的には「不正会計の見破り方」。エンロン以来、米国のファイナンスの授業はもっぱらこれです。

Erasumus

出てもいない利益を計上させて税金を取ろうとする国税庁の態度に、基本的な問題があると思います。どこの企業でも、税法上の収益は、会計法上の収益よりもはるかに大きいのが普通です。「所得税」なら、得た所得に課税すればいいのに、税法は、ありもしない「所得」を計上させて、課税するんです。税法上の所得と、会計上の所得が同じなら、そこの企業も「保守的」、つまりできる限りの出費を経費として計上するはずです。ソフトウェア開発費のように、税法上は経費として認められないのに、会計上経費にしてPLを悪くする理由はありませんよね。

とむとむ

ソフトウェアの資産計上は、税務と会計とで扱いが異なります。
会計上は「開発費用をすべて経費として計上(=利益圧縮)するよう」会計基準で求めています。
一方で税務上では「資産計上し(=利益計上)償却負担すること」を求めています。
これに類するものとして、何年かにわたって建設する建物のような資産が引き合いに出されることがあります。建設途上の経費をどのように計上するのか、と言う扱いです。
建物のように「有形」なものは、見た目にわかりやすいので会計も税務も「資産計上するよう」求めています。
ソフトウェアのように見た目ではいくらかかっているのかが把握しにくいものが議論になることが多いのが実情です。
実は、アニメや映画も無形資産として本来は計上されなければならない(ソフトウェアと同じような扱いになるのであれば)はずですが、制作費用は一切計上されていないはずです。
となると、PLとは何なのか、資産の定義とは何なのかということまで話を広げなければならないはずです。。。よって、資産の多少にかかわらず、会社の財務実態を示すものとしてキャッシュフローが注目されることとなります(当然、キャッシュフロー計算書も万能ではありません。すべての財務指標をつぶさに見る必要が当然あります)。
会社の経理状態は、いくら開示制度を精緻にしたところで把握しきれるものではなくかつ、そんな単純な経営をしている会社はどこにもありませんから。。。

ちなみに、前述した建設に数年かかる建物の場合は、「仮勘定計上」が義務付けられています。ソフトウェアにもこの仮勘定科目はありますが、一旦仮勘定計上し(益出し)した翌年に収益見込みがないので資産から落とすと言う手口もまま垣間見ます。

shige-zo

会計に自然科学のような絶対的真実を求めても得るものは無いかと。ルールにのっとることを求めてるだけ(相対的な真実)なので。
ただ会計ルールもまた完全では無いので恣意性が混入する要素が多分にあって、そこを悪用するのか善意に則り運用するのかが経営者として問われる部分ですよね。善意も誰目線(株主・経営者・社員・社会等々)かによって変わりますが・・言い替えれば現実的なバランスをとる、何を優先するか、ですかね。

そういう意味で、Bill Gatesさんがもし資金を必要としていたら資産計上をして(市場に期待をさせて)資金調達すると推測します。

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