今朝になって、話題のgPhoneがアナウンスされた(参照1)訳だが、大方の予想を裏切ってそれはデバイスではなくてソフトウェア、それも2005年にGoogleが買収したandroidという会社の作っていたLinuxベースのマイクロ・カーネルと、バーチャル・マシン。androidの買収とともにGoogleに入ったAndy Rubinがandroidの前に作ったSidekick (Danger Inc.)の中身を良く知る私としては、「これってDanger OSとどこがちがうんねん?」という感じ。
ほぼ同じ時期に会社をスタートしたこともあり、Dangerの連中とはスタートアップ当時から一緒に仕事をし、サードパーティとしてSidekick向けのソフトウェアを作った数少ない会社の一つがうちの会社UIEvolution Inc.だ(資料2)。
Javaに似てはいるが微妙に異なるバーチャル・マシンを持ち、独自のAPIを提供するDanger OS向けにアプリケーションを作る企業はなかなか見つらなかったようだ。そこでうちの会社が、UIEngineをポーティングした上で、UIEngine上で走るゲームを5つばかり提供した、という経緯がある(T-Mobileから発売されたSidekickにプリインストールされた)。
結局のところ、Sidekickというデバイスはメインストリームにはなれなかったし、Danger OSもサードパーティによるアプリケーション・マーケットができるまでには育たなかった。Andyとしてはそれが悔しくて、今度はデバイスではなく純粋にソフトウェアを作る会社、androidを作ったのだろう。
そこに目をつけたGoogleが2005年8月に買収し(資料3)、ここまで密かに育てたあげくに「オープン・プラットフォーム」として提供することにしたのである。「モバイル向けのバーチャル・マシンなら、うちの方がはるかに老舗(しにせ)なのに、何でうちを買収しなかったんだろう」と一瞬憤慨したが、考えてみれば、うちはその1年以上前(2004年3月)に買収されていたぞ、と。タイミングは大切だ。
Andyのことだから、Sidekickと似たようなバーチャル・マシンを作った可能性は十分ある。モバイル・デバイスに要求されるセキュリティを考えれば、アプリをサンドボックスに閉じ込めることができるバーチャル・マシンは必須だ(ここが、QualcommのBREWの致命的な欠陥だが、本題から外れるので今日はここまで)。
Androidのバーチャル・マシンがまたまたJavaのVMライクなものかどうかは何とも予想しがたいが、Googleがモバイル向けのウェブ・アプリケーションのプラットフォームと位置づけるのであれば、Javascript向けVMであることも十分に考えられる。ちまたでは、GoogleがWebkit陣営に加わるとの噂もあり、そこから推理すると、gPhoneのブラウザーはWebkitベースで、そこにAndyの作ったJavascript VMが組み合わされる、というのはとってもありそう。まあ、そのあたりの情報はおいおいと明らかにされるだろう。
Androidの正式なアナウンスと同時に公開されたのが、"open handset alliance"という組織のサイト(資料4)。まだまだ参加企業の数は少ないが(このエントリーを書いている時点で8社34社)、この「オープン」というキーワードを武器にパートナーを集めようと言うのがGoogleの戦略。
ちなみに、このandroidとほぼ真っ向から戦うことになるのが、(1) MicrosoftのWindows Mobile、(2) Nokia+Symbian、(3) Ericsson+Motorola+UIQ (資料5)、(4) Qualcomm BREW。少し番外で追いかけるのが、SavaJを買収した (5) Sun Microsystems (資料6)。そして、マイペースで我が道を行くのが(6)アップル(資料7)。すごいメンツだ。
日本のアプリックスも同じようなものを作る試みはしていたようだが、主要な顧客(うわさではSamsung)を逃して特損67億円を計上したばかりだ(資料8)。PalmSourceを300億円以上かけて買収(資料9)したアクセスも当然ここを狙っているわけだが、さすがにここまでのメンツが揃ってくると戦うのも楽ではない。
これに加えて、ドコモなどの携帯電話事業者も黙ってはおらず、「キャリア主導」のプラットフォーム(資料10)を作ろうとするから、マーケットはますます混乱するのは目に見えている。モバイル・プラットフォーム戦国時代の幕開けだ。
【追記】続々と新しい情報がブログ等で公開されている。Googleからの公式情報ではないが、VMに関してはDangerと同じくJava VMライクなものであること、それに加えてskiaというやはりGoogleが買収した会社のベクター・グラフィック・スライブラリが提供されるだろうことが書かれている(資料11)。ベクター・グラフィックスに関しては、オープンをうたう限りは、HTML5.0でも標準となるcanvasにAPIを合わせるのが当然と思うんだがどうなんだろう。
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え?UIEvolutionは指を加えて見ているのかって?いやいや、うちはもう一つ上のレイヤーなので。UIEngineは既にJava, BREW, Flash, Symbian, Linux の上で動いているし、Android VMの上にだろうと、iPhoneの上にだろうと簡単に移植できるのがUIEngineの強み^^。