なぜオンラインで注文したMacBookが中国の工場から直接送られてくるのか
2008.02.18
今回の分解結果から判断できるのは,Apple社はハードウエアの設計の出来映えや徹底的なコストダウンに,さほど気を遣っていないことである。それよりも外観のデザインやソフトウエア,ユーザー・インタフェースなど,同社が得意とする側面に力を注いだのだろう。この姿勢は,iPodやiPhoneなど同社の他の製品にも共通すると見られる。MacBook Airの不可思議な作りは,ハードウエアの細部まで手を抜かない日本的なものづくりに対する,強烈なアンチテーゼなのかもしれない。【【MacBook Air分解その5】「外は無駄なし,中身は無駄だらけ」 - モバイル - Tech-On!より引用】
これこそがまさにAppleが別の次元での勝負(=おもてなしでの勝負)を目指していることが良く分かる証拠。
ちなみに、これを見て「やはり垂直統合型の企業の方がコストが安くできるんだな」と決めつけるのは必ずしも正しくない。確かに、設計部門と製造部門が密に結びついて「製造コストのことをちゃんと考慮した設計」をするやり方は日本企業が得意とするところだが、節約すべきは製造コストだけではないところが話を複雑にしている。
部品の価格が急激に低下している今の時代、いかに部品や完成品が社内に滞留する期間を短くするかがコスト削減の大きな鍵を握る。トヨタのカンバン方式をさらに進化させたDellがハードディスクなどが社内を滞留する期間がわずか3〜4日という驚異的なJust-in-time方式での部品調達をしてコスト削減をしているのはまさにこの「在庫コスト」削減のためだ。
先日私がMacBookをオンラインで注文したときにも、MacBookが中国の工場から直接Fedexで送られてきて驚かされた。わざわざ一台づつを個別配送するなんて一見無駄な話だが、生鮮食料品なみに値段が急激に下がるパソコンのようなものは船ではなく飛行機で配送しなければならないし、まとめて飛行機で送るとなるとアップル自身が大量の在庫を抱えなければならなくなってしまう。その在庫コストのことを考えれば、ぎりぎりまでアウトソース先の工場に彼らの在庫として抱えさせておき、ユーザーからの注文と同時に個別配送させる、という方法がアップル側の在庫期間を最小にする。
特にアウトソース先の立場が弱い場合は、アウトソース先への払い込みの条件を「出荷の45日後」などのアップルにとって有利なものにして、「ユーザーから購入代金を受け取ってからアウトソース先にその製造コストを払う」という「逆ざや金利」状態を作り出すことまで可能なため、運転資金を極力にまで節約できる。
自社で工場を抱え、製造工程でのネジ止め工程一つにもこだわってコスト削減をすることによって差別化してきた日本の会社にとって、こんな風に製造はすべてアウトソースしながらソフトウェアとデザインによるおもてなしで勝負してくるアップルは実に戦いにくい相手である。
手元にある本によれば、トヨタ高岡工場は自動車一台の組立時間18時間・平均部品在庫2時間だそうです(もちろん車・部品の種類によるでしょうが)。テキサス工場では、広大な自社工場敷地内にサプライヤーを囲い込み流通・在庫コストの圧縮を図っています。今では工場の製造コストよりもその前段階での調達コストの方に力を振り向けていると記事で読んだことがあります。
確かに、日本の電機産業が工場での製造コスト削減にいかに力を注いでも、
サプライヤーに対しては後払いを顧客に対しては先払いさせる米国の全体コスト管理方式に対して、製造コストうんぬんでは勝負するところを間違えているのかなと思います。入口(製造)からかそれとも出口(販売)からかどれだけ顧客の視点に近づいて物事を観察するかの違いが、製品と商品のレベルの違いを生みおもてなしの差につながっているのかなと考えています。
中国の工場から直接Fedexで送られてきて驚かされたのならアップルのおもてなし作戦は大成功なのでしょう。
Posted by: shigeki | 2008.02.19 at 02:55