ソニーの「イノベーションのジレンマ」について一言
建物と違って、一見簡単に修正が利きそうなのがソフトウェアの問題点かな、と

Amazon ec2のエコノミー、月72ドルでレンタルするのと、999ドルのマシンを買うのはどちらが得か?

 最近、私のまわりにもAmazonのレンタル・バーチャル・サーバーであるec2を使用している人、もしくは使用を真剣に検討している人が増えて来た。「自分でサーバーを用意するのとどっちが得か?」という話は、ビジネスにもよるのでさまざまだが、ごくシンプルな「事務所サーバー」(もしくは「マンションサーバー」)を比較対象のモデルとして簡単に損得勘定を計算してみた。

 もっとも安価な Small Instance (1.7 GB of memory, 1 EC2 Compute Unit, 160 GB of instance storage, $0.10/hour)だと、一日24時間使い続ければ月に720時間、つまり月に72ドル必要となる。

 同じようなマシンを事務所(もしくはマンション)に置く場合、Dellのエントリーレベルのサーバー(Dual core Pentium, 1GB memory, 160GB HD)を買ったとすれば、現在の価格は$999(定価は$1695だが今はキャンペーン中)。

 問題は、同じようなウェブ・サービスを運営する場合どちらが得か、である。

 多くの人が直感的に「999/72 は約14。たった14ヶ月でもとが取れるんだから、買った方が得じゃん」と思うだろう(こういう考え方を「ペイバック期間に基づいた損得計算」と呼ぶ)。

 「サーバーは2年半で買い替えると想定して30ヶ月でいくらかかるか計算して比べる」という方法もあるのでそれをやってみるとこうなる。

Amazon ec2: $2160 ($72 x 30ヶ月)
自前サーバー: $999

 ec2の方が倍以上かかる。しかし、この計算方法にはいくつか穴がある。

 まず一番大きな問題は、「現在のお金」と「将来のお金」の価値を同じとみなしていまっていること。特にまだ売上げのないベンチャー企業の場合、とにかく今出て行くお金を少なくすることがビジネスを成功させる秘訣。その意味では、「現在のお金」の方を「将来のお金」よりもずっと価値のあるものと見なして計算する必要がある。

 その場合に使うのは、「DCF、discount cash flow」と呼ばれる方法で、将来のお金をある特定の金利で割り引いて計算するのだ。その金利の決め方には色々とあるが、市場の金利にビジネスのリスク分を上乗せしたものを使う。米国の場合、安定して収益のある大企業だと9〜15%、リスクの高いベンチャー企業の場合25%〜60%と幅広い(なぜリスクが高い企業の方が金利が高くなるのかに関しては別途書く予定だが、理屈は「ジャンクボンドが金利が高い」のと全く同じ)。

 日本の場合、公定歩合は米国よりも数パーセント低いので、DCFに使う金利もそれに応じて少し下げて考えても良いが、ここえはベンチャー企業の場合の最低線である25%からさらに5%を引いた20%を使ってみよう(ExcelにはNVPという便利な関数があるので、それを使うと簡単に計算できる)。 

Amazon ec2: $1688 (=NPV(0.20/12, 72...72))
自前サーバー: $999

 まだ自前サーバーの方が安い。しかしこれでもまだ不十分だ。サーバーをオフィスやマンションに置く場合、電気代や通信費は通常のオフィス費用に含まれてしまうので、直接的なコストとしては見えて来ないが、実際にはサーバーの消費する電気代、余計にかかるクーラーの費用、ネットワークのアップグレードにともなうコストなどが必要となる。これはとても計算が難しいのだが、一般的なマンションの電気+通信費を月2万円と見積もってその15%(3千円=$30)程度がサーバーのために必要になると想定して計算しなおすとこうなる。 

Amazon ec2: $1688 (=NPV(0.20/12, 72...72))
自前サーバー: $1703($999 + NPV(0.20/12, 30, 30...30))

 自前サーバーのコストがec2を超えてしまった。もちろん、金利をどのくらいに設定するか、ハードウェアをどのくらいの頻度でアップデートするか、オフィスサーバーに必要とされる電気・通信費用をどう計算するか、などによって結果は大きくちがってくるが、最初の「14ヶ月でもとがとれるんだから買った方が得」という直感は必ずしも正しくないことは分かってもらえると思う。

 自前サーバーの場合、それに加えて、故障した部品の交換コスト、それにともなう人件費(=ソフトウェアを開発する手を止めてハードの故障に対応する時間)が「隠れたコスト」として内在する上に、停電やハードディスクの故障でサービスが止まってしまう可能性を考えれば色々な予防措置(無停電電源、ミラーサーバーなど)をほどこさねばならず、そのコストもバカにならない。それに加えて、自前サーバーの場合「万が一サービスが大成功した場合」への迅速な対応がとても難しいので(資金の調達、ハードウェアの購入、データセンターへの引っ越し、...)、せっかく成功しかかったのに「あそこのサービスはレスポンスが悪くて使えない」ということになりかねない。

 こうやって見てみると、小規模なサービスをまず立ち上げようという場合には、自前サーバーよりもec2の方がコスト的にもビジネスリスク的にも正しい選択ではないか、というのが私なりの結論である。もちろん、ビジネスは常にケース・バイ・ケースなので、必ずしもどっちが正しい、ということは言えないが、少なくともこのレベルまで踏み込んだ計算をしてからではないと、経営判断はできない、ということは覚えておくと良いと思う。

【追記】

 ちなみに、ここでは計算すらしなかったが、初期費用が必要な専用レンタルサーバーというのもあるので、それらも同じ方法で計算できる。もちろん、その手のサービスを使う場合に一番注目しなければならないのは初期費用。自前サーバーと比べた時のレンタルの利点は、出費を出来るだけ先送りしてスケーラブルなビジネスを手っ取り早く立ち上げることにある。初期費用の高いレンタルサーバーを借りるほど馬鹿げた話はない。Sakura internetとかが専用レンタルサーバーの価格見直しにかかっているのは、やはりAmazon ec2の影響が大きいのか、と。

Comments

ぶらりん

「追記」」へのコメントですが、Amazon S3で日米比較してみるともっとスゴイですよ。日本のストレージサービスがどれだけぼったくりか。。。。1GBあたりのコストで1,500yen(これでも安い方) vs $0.30とかね。もうね。どう計算したらこれだけの格差が生じるのか分析してくだせえ。

kou

これってどうなんだろう、と思っていたので、為になりました。

あと、細かいようですがタイプミスかと。
>別途各予定だが、

masuidrive

ちょっとしたサーバだと、電気代だけで3,000円行っちゃいますね。

事務所(家)サーバは個人的な趣味だといいですけど、なんかサービスしようとすると、難しいですね。
Bフレッツもプロバイダも時々止まりますし、UPS、HDDの多重化を考えると、いい値段になりますから。

あり得るとしたら、Googleの様にサーバの多重化の仕組みを自作し、2万円ぐらいでサーバ作る場合で、回線に関する問題には目をつぶるってときでしょうかね。

でも、家にマシンを山ほど置いて、Railsのアプリを自立分散させるような仕組みを作る事には萌えを感じますw

たかしっと

>停電やハードディスクの故障でサービスが止まってしまう可能性
上記に、何らかの理由でカーネルパニックを引き起こし、SSHからもログインできず、
やむなくサーバルームまで行って再起動しないといけないコストも加味して検討したいですね。
もし担当者が車で1時間、2時間もかかる場所にいたら最悪です。

masuidriveさんもおっしゃってますが、
個人的な趣味でやるなら自前サーバのメリット
(金銭うんぬんではなく、サーバに関する細かな知識、トラブル対応など)
も享受できそうですが、
やはりビジネスでサービスを提供するなら最初はレンタルサーバの方が良さそうですね。

ただ、選んだレンタルサーバによっては、
自社でサバ建てした方がよかった、
若しくはそれ以下だった、なんて事にもなりかねませんが。
まぁ、そこは自己責任という事で^^;

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