Previous month:
February 2009
Next month:
April 2009

単なる「低コストの外注先」ではなくなりつつあるインドのIT産業

 今週はMBAの授業の一環でインドのいくつかの企業を訪ねてまわっているのだが、今日行ったのはInfoSys。

 InfoSysは、Fortuneマガジンが"Top Companies for Leaders 2007' list"の10位に選んだ、インドの「IT産業」の花形。

 単なる表向きの宣伝ではなく、会社としての経営理念だとか、人の採用のしかたまで踏み込んだとても有意義なディスカッションができた。

 日本のIT産業と大きく違う部分をハイライトしてみると、以下のようになる。

1. 日本のITゼネコンのように下請けを使うことは一切せず、すべて社内のエンジニアが顧客のためのプログラムを直接作る。エンジニアの数はちょうど10万人を超したところ。

2. InfoSysにとっての一番の財産はエンジニアたち。社員教育にとても力を入れている。新入社員は数週間の合宿で基礎知識を徹底的に叩き込まれ、その後も6ヶ月はトレーニング期間。

3. 新入社員の年収は日本円にして50〜60万円。それが2〜3年後に一人前の仕事ができるようになると250万円程度になる。シニアエンジニアだと1000万円クラスもいる。絶対値だけだと日本よりも低賃金だが、昼ご飯を60〜80円で食べることができるインドの物価(ちょうど日本の10分の1ぐらい)を考えると、悪くない数字だ。

4. 基本給与に加えて、顧客の要望する品質のものをスケジュール通りに開発するエンジニアには、基本給の最大50%までのボーナスが支給される。このシステムにより、顧客の満足度を高めることを会社の理念の核に置いていることを全社員に徹底的に知らしめている。

5. 日本のようなSE/PGのような分け方はせず、顧客のビジネスの領域(例えば金融業)に詳しい「ビジネス・コンサルタント」とJ2EEとか.Netという個別の技術力を持つ「テクニカル・エキスパート」がチームを組んでプロジェクトを担当する。どちらの職種が偉いなどということは決してなく、キャリアパスとして、特定のビジネスの領域の知識で勝負するのか、特定の技術力で勝負するのか、を選ぶだけのこと。

6. InfoSysの売り上げの90%以上が海外(60%が米国)。「官庁からの受注でおいしい思いをする」なんてことはできず、すべて実力で顧客を勝ち取らなければならない厳しい環境に常に置かれて鍛えられて来たのがインドのIT業界。

 なぜInfoSysがここまで急速に成長できたかが良く理解できる話だ。国全体としてはまだまだ発展途上のインドだが、ことIT産業の外貨獲得額という話で言えば、すでに日本を大きく抜いている。エンジニアの待遇も労働環境も決して悪くない。インドのことを「単に値段が安いだけの外注先」と見下していると痛い目にあう。

「深いところにいる何か」を捕まえに行ってこそ大きなビジネスになる

 David Lynch がTwitterのアカウントを持っていることを知り早速フォロー。このクラスの人が情報を発信してくれるようになるとメディアとして本物だ。

 David Lynchは大好きな監督の一人だが、Twin Peaksなどのフィルムに現れている彼の表現の独特さは、次のインタビューでも見て取れる。

 
 創作活動に関する議論だが、それを釣りにたとえて「深いところにいる何かを捕まえに言ってこそ大きなビジネスになる」と表現するあたり、話を聞いているだけで映像が浮かんで来てぞくぞくしてしまうから不思議だ。

 iPhone向けのアプリのビジネスをしていると、さまざまなアイデアが次から次に浮かんできて、いろいろなものを作りたくなってくるし、実際にそれにもとづいたプロトタイプを作ることも日常茶飯事だ。しかし、クオリティの低いものや関連性のないものをただリリースするだけでは、浅いところにいる小さな魚を釣っていることにしかならず、小銭稼ぎはできるかも知れないが大きなビジネスには結びつかない。

 時間がかかるかも知れないが「PhotoShareを中心に据えたビジュアルなコミュニケーションで人々のライフスタイルを変える」という大きなビジョンを忘れずに、忍耐力を持って「深いところにいる何か」を捕まえに行かなければならない、と自分に再度言い聞かせた私である。