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アップルの30年ロードマップ

 昨日、日経BP主催のAndroidに関するセミナーで講演+パネルディスカッションをしたのだが、パネルディスカッションを一緒にさせていただいた、日本通信の福田尚久氏との話(特に、楽屋に戻ってからの非公開の話)が興味深かった。

 福田氏は、スティーブ・ジョブズがAppleに戻り、Microsoftからの資金調達、iPodのリリース、アップル直営店の展開、という今のAppleの成功の基盤となる「奇跡の復活」を遂げた時期にジョブズの側近として活躍した人。

 彼に言わせると、今のAppleのビジネス戦略は、倒産寸前だった97年当時に作った「30年ロードマップ」に書かれた通りのシナリオを描いているという。

 もちろん、具体的な内容は企業秘密でもあるので直接聞き出すことはできなかったが、ここ12年の間にアップルが出して来たもの(iPod, iTunes, iPhone, Apple TV, Safari, OS-X, iLife, Final Cut) と、彼の話を繋げれば、そのロードマップの姿は自ずと見えて来る。

 ひとくちで言えば、「映像・画像・音楽・書籍・ゲームなどのあらゆるコンテンツがデジタル化され、同時に通信コストが急激に下がる中、その手のコンテンツを制作・流通・消費するシーンで使われるデバイスやツールは、従来のアナログなものとは全く異なるソフトウェア技術を駆使したデジタルなものになる。アップルはそこに必要なIP・ソフトウェア・デバイス・サービス・ソリューションを提供するデジタル時代の覇者となる」である。

 そう考えると、iPodの成功にはiTunes+iTunes Storeが必須だったことが分かるし、2007年・2008年のMacWorldがiPhone一辺倒だったことも納得できる。それに加えて、Final Cutが着実に画像編集ツールとしてのプロフェッショナルの間でのデファクトの地位を取りつつある部分だとか、WebKitがスマート・フォン向けブラウザーのデファクトになるつつあるなど、とても戦略的に思える。

 さらに、この見地から考えると「これから10〜15年の間にアップルが何をしてくるか」が自然に見えて来るから面白い。

 まずひとつ確実に言えることは、Apple TVは「ひょっとしたら売れるかも知れない」などの軽い気持ちで作ったデバイスではなく、「アップルがリビングルームにネットを通して映像が提供される時代の覇者になるための最初の一歩」であること。日本でも米国でも光ファイバーを通した映像の配信はまだまだビジネスとして立ち上がっていないが、いつかはそんな時代が来ることだけは確実\。Apple TVはそんな時代に向けた先行投資であり、いつかはApple TVをリビングルームのiPhoneのような存在にしようと企んでいることは明白である。

 次に言えるのは、ある時点でAppleが書籍・雑誌のデジタル配信ビジネスに本気で出て来ることがほぼ確実なこと。ちまたでは、AppleがタブレットPCを出すかどうかが毎年の様に話題になるが、このロードマップを考えれば、Appleがタブレット型のパソコンを「タブレットPC」として出すとは考えられない。そうではなくて、「デジタルで配信された書籍・雑誌を読むのに最適なデバイスは何か?」と考え、それに最適なデバイスをハードもソフトもサービスも含めて設計し、コンテンツ流通の仕組みと一緒に提供するのがAppleである。

 次に忘れてならないのはゲーム市場。最近のiPhone/iPod touchのアプリの宣伝の仕方でも分かる通り、Appleはすでに「ゲームを遊ぶ」をその二つのデバイスの主要なユーザー・シナリオの一つと位置づけている。わずか2年あまりの間に、iPhone/iPod touchは既にSony PSP、Nintendo DSに十分対抗しうる携帯ゲーム・プラットフォームに成長したのだ。

 そしてApple社内でもそろそろ真剣に検討しはじめていると容易に想像できるのが、PS3/Wii/Xbox360に対抗する据え置き型のゲーム市場。何年後になるかはわからないが、次の世代のApple TVがOS-Xを搭載し、iTunes storeからゲームをダウンロードして遊べるようになる、という可能性は十分にある。もちろん簡単な話ではないので、単にゲーム機能をApple TVに追加しただけでは話にはならないが、「映像を見る」というテレビ本来の役割に革命をもたらす形でApple TVを普及させることに成功すれば、そこに「ゲームを遊ぶ」というシナリオを追加することはそれほど難しくない。

 なんとも皮肉なのは、このロードマップが、出井さんの時代にソニーが掲げていたビジョンと酷似している点。Appleが苦しんでいる時期に、冗談まじりに「ソニーは今のうちにAppleを買収すべき」と言って来た私だが、まさかここまでAppleがコンシューマ・エレクトロニクスの市場に進出するとは正直言って想像もしていなかった。97年の時点でそこまでのロードマップが書けており、かつそれをこれだけ長い間ブレずに着実に実行して来ているという点が、まさに今のAppleの戦略の強さの源流だと思う今日この頃である。

Comments

塩

詳しい話が本田雅一 週刊モバイル通信
PC業界がAppleに学べること に
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0711/mobile348.htm

佐藤

聡さんは自分で作られた自分の会社を代表するAppを飽きてしまったんでしょうか? 

midoriao


99年にジョブズが来日した際に報道番組のインタビューかなにかで、「日本にはソニーという素晴らしい会社がある。我々もそんな会社になりたいんだ」という旨の発言をしていたと記憶します。(誰か正確に覚えてないかなあ)妙な事を言うなあと、それ以来引っかかっていたのですが、数年後iPodが出たときに「嗚呼、あれは此のことだったのだらうか・・・」と鳥肌がざわざわするのを感じたものです。
しかし97年の時点でロードマップがあったのであればあの一言には納得できますし、出井氏のビジョンとの符合も当然のように思えてきます。
ソニーはおだてられたと思っていたのかもしれませんが、むしろ「こいつ何たくらんでやがる?」と戦線布告として身構える必要があったのかもしれません。

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