iPadのインパクト:電子書籍のビジネスモデル
2010.03.26
Tech Waveの「iPadに期待する米出版業界、期待すれば裏切り者扱いされる日本の業界【湯川】」という記事を読んでから色々と気になったことがあったので日本における書籍の流通の仕組みについて調べてみた。
とても参考になったのが、少し古いが「書籍の価格構成比をめぐる小考」というブログ記事。流通マージン等に関して、具体的な数字が列挙されているのがうれしい。
- 紙代:6%
- 製版・写植代:12%
- 印刷・製本代:7%
- 編集コスト:3%
- 版元粗利:32%
- 著者への印税:10%
- 取次マージン:8%
- 書店マージン:22%
この数字(特に写植代と取次マージン)がそもそも電子写植・大規模店舗・オンライン店舗・チェーン店の時代に適切かどうか、という話はひとまずおいておいて、電子書籍の時代にどうなるかを考えてみる。
- 紙代:0% (不要)
- 製版・写植代:?% (はるかに低コスト)
- 印刷・製本代:0%(不要)
- 編集コスト:?%
- 版元粗利:?%
- 著者への印税:?%
- 取次マージン:0%(不必要)
- 書店マージン:30% (AmazonもしくはApple)
電子出版なのだから、紙代や印刷・製本代が不要なのはもちろんのこと、委託販売の必要もない電子出版で、取次は不必要以外の何者でもない(出版社の人たちは、たぶんこんなことはおおっぴらに言えないだろうから、私が声を大にして代弁しておく)。
これだけで、21%の節約だが、書店マージンが22%から30%に増えているので、ネットでは13%の節約。一方、製版・写植代は、ePubの場合は原則として0%、PDFの場合でもほとんど無視できるぐらいのコストに下がっているので、編集コストに含めて考えれば、25%の節約となる。
こうなるとAmazonやAppleが30%を抜いた後に残るのは、出版社と著者であり、この2者が残りの70%をどう分けるのが適切か、という話になる。
当然だが、「小売価格の10%が著者」というのはもうあり得ない。そんな時代錯誤な条件を提示し続ける出版社は生き残れない。
「著者が直接AmazonやAppleと取引をして、小売価格の70%をすべて得る」というのも当然一つの選択枝である。同人作家やブロガーなどにとっては、失うものがほとんど無いし、自分なりのマーケティング手法はそれなりに持っているので、とても魅力的な選択肢だ。次にこの手法を選ぶと考えられるのが、既に故人となった著名な作家の作品の権利を持っている子孫の方々。著作権が切れる前に「最後の刈り取り」をするのであれば、この方法はもっとも効果的だ。
注目すべきは、既にベストセラーを何本も出し、知名度が十分に高い人たちの行動。彼らにとっても、大手出版社のマーケティング能力や、通常の書店で「平積み」の力は無視できない。しかし、彼らも10%の印税で甘んじるほどお人よしではないので、それを30〜45%ぐらいに引き上げる交渉力を持つのではないかと私は期待している。彼らが上限を引き上げ、それにつられてそれ以外の作家の印税も20〜35%ぐらいに増えるのが業界全体のためにも健全だろう。
結局のところ、電子出版の時代に出版社が生き残るためには、(1)(少なくとも)電子出版に関してはバッサリと取次を切る、(2)マーケティング能力や新しい作品・作家の発掘という部分での付加価値を十分に提供し作家に「出版社を通して売る」メリットをアピールする、(3)10%印税などとケチなことは言わず電子出版の時代向けの適切な印税を作家に払う、の3つをしなければならないと思うのだがどうだろうか。
作者に7割マージンってのはあまりインパクトないですね。日本にも存在するので。
例えば、同人誌とかは、7割ほど作者にマージン来ます。同人誌でも、書籍は自前で印刷する必要がありますが、最近増えてきたPDFなどのデータ販売なら印刷代も基本は無し。
その波が、とうとう大手出版にも来たようなイメージです。
Posted by: ATM | 2010.03.27 at 00:22
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20411057,00.htm
掘り下げて行くと、行き着く先は同じ源泉に辿り着くんですか?
Posted by: Mr.doriller. | 2010.03.27 at 02:00
amazonは印税70%だそうです。しかも「著者が直接AmazonやAppleと取引をして、、」とかいうのではなく出したい時にだれでもポンと。つまりブログを書くような感覚でそれが自動的に販売ルートに乗る形。問題は1冊いくらになるかでしょう。パーセントが上がっても小売価格は下がると思われるます。appleがiTunesストアーで一曲1ドルという破格値で曲を販売したのを思い出したら分かると思います。
Posted by: mao14 | 2010.03.27 at 10:21
レコード会社〜アーティスト間では、重要なアーティストはすでにオンラインディストリビューションの50%以上のロイアルティーを得ているので、同じことが出版業界に起こらない理由はないですよね。わずか数年前、CD時代のミュージシャンのロイアルティーの相場は10%やそこらだったことを考えるとすごいことです。
Posted by: Hiro | 2010.03.28 at 10:28
アマゾンの印税70%は、“競合他社より必ず売価を最低にする”“オーディオブックなどアマゾンが提示する全てのフォーマットを用意する”という縛りがあり、実行するとそれなりに労力が必要になります。
同人市場はユーザーの自律性が高いので、手数料のかかるアップルやアマゾンを通さず、P2Pやオークションを使った流通も多くなると思います。
出版界の人たちは白亜紀並みの大量絶滅期が目前なのに、危機感があまりない‥
Posted by: onobori | 2010.03.29 at 16:31
# 紙代:0% (不要)
ごもっとも。
# 製版・写植代:?% (はるかに低コスト)
一度紙で出版したものをそのままデータに落としている。
データに落とす代金、チェック料金が発生。
# 印刷・製本代:0%(不要)
印刷・製本は必要ないが、代わりにオーサリング費用が発生。
# 編集コスト:?%
ピンキリ。
# 版元粗利:?%
ピンキリ。
# 著者への印税:?%
私の知る限りで25-50の間。
アップルにピンハネされてからのパーセンテージであるか
売上に対するパーセンテージかは作家や出版社による。
# 取次マージン:0%(不必要)
出版社側が数多の電子書籍サイトに著作物を露出し
(電子書籍販売では露出の仕方がとても重要)、
その運営、管理、経理まで行うのは相当の労力。
その為電子配信の取次というものがある。
彼らに任せておけば、運営も、管理も、
各サイトから集まってくるお金の計算も一括化できるので
大変手間が省ける。
その手数料は作品や作家によって変わる。
# 書店マージン:30%
これが一番の問題。
何もせずに決済システムだけを提供して
30%を取るというのは、
いくらなんでもボり過ぎ。
ちなみに携帯は13%。
携帯では「売れる作家」が「売れる」のではなく
「露出された作家」が「売れる」のだが、
ウェブもほぼ同じ。
現在それ系の職に付いている人間が書き散らしました。
お目汚し失礼いたしました。
Posted by: meda | 2011.02.09 at 12:24