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iPadアプリ作成日誌: CloudReaders ベータ版SDK上での審査に合格

CloudReaders  

 iPad向けのクラウド本棚付きPDF/マンガリーダー「CloudReaders」、27日が〆切のところを余裕を持って21日にSubmitしたのにも関わらず、審査合格の知らせが来たのは今日(29日)の午後になってのこと。狙い通り一発合格だったのはうれしいが、「30日までにGM Seed版SDKでリビルドしてSubmitするように」という指示にはちょっと閉口。

 例によってSDKのダウンロード+インストールだけで数時間かかるというのに、36時間以内にテストして再びSubmitしろ、というのはいささか強引。乗りかかった船だから最後までつき合うつもりだが、このあたりの強引さはいかにもAppleらしい。

 ちなみに、iPadの成功を強く確信したのは、AppleがiPadにMacBookと同じOS-Xではなく、iPhoneと同じiPhone OSを載せると聞いた時。そのあたりの戦略をぶれずに正しく実行してくるところがAppleの強さだ。相変わらずWindows7しかパソコン・メーカーに提供できないMicrosoftとここで大きく差が開いてしまった。Windows CEに本腰を入れて取り組まなかったつけが今になって来ている。

 Appleが社名からComputerの文字を外した2007年から公式に踏み出した「ソフトウェアとおもてなしがやたらと得意な家電メーカー」への転向が、このiPadで第二フェーズに入る。まだまだ「タブレット」という形のデバイスがユーザーに広く受け入れられるかどうかは予想が難しいが、もし受け入れられるとしたらiPadがその主役の座を取ることはほぼ間違いないだろう。

 iPad発売まで後5日。


時価総額のチャートにGoogleも追加してみた

 リクエストがあったので、チャートにGoogleも追加してみた。Googleもリーマンショック前はかなり良いところまでMicrosoftを追い上げていたが、その後は少し伸び悩んでいるようだ(リーマンショック前のピークと今の株価を比べるとMicrosoftとの差は縮まっていない)。

 ちなみに、株価には「現在の企業の価値」だけでなく、投資家たちの「企業の成長性への期待」も織り込まれているので、短期的には(デイトレーダーたちの売り買いを反映して)iPadのような大型の新製品には敏感に反応したりするので注意が必要(ここ1〜2ヶ月のAppleの株の伸びは明らかにそれ)。しかし、中長期的には(長期で株を保有する人たちの意思を反映して)企業が実際に生み出す価値を反映するようになる。

 エンジニアの私から見れば、Google App EngineなどはiPadと同じぐらいにエキサイティングなんだが、投資家から見れば「どうやって儲けるのか分からないもの」の一つでしかないらしく、Googleの株価にはまったく影響を与えていない。まあ、Googleの場合はそんな「どうやって儲けるのか分からないもの」をいくつもいくつも出しているうちに、いつの間にか(Google.com、Google Map、Gmailのように)「人々の生活になくてはならないもの」が増え、Google自身が「人々の日々の必要になくてはならない企業」にますますなって行く、という戦略が成功しているわけで、経営陣や長期ホルダーとしてはそれで十分なのだろう。

Caps2  


Appleの時価総額がついにMicrosoftを抜くかも知れないという話

 Appleの時価総額がMicrosoftの時価総額に近づいて来たという記事にインスパイアされて、両社の過去10年間の時価総額(= 株価 x 発行株数)をグラフにしてみた。ちなみに、「AppleがSonyを抜いた」という話も数年前に聞いたので、その後の推移を見るためにもSonyも追加してみた。

 リーマンショックによる一時的な株価の低迷を除けば、iPodの成功・iPhoneの成功で、順調に会社を成長させて来たApple。それと比べるとMicrosoftとSonyの成長が過去10年間すっかり止まっていることが良く分かる。

 近づいて来たとは言え、Microsoftを抜くにはiPhoneに続く三つ目のヒット商品が必要。ウォールストリートの目がiPadに注がれているのも当然。

Market_caps

 


iPadのインパクト:電子書籍のビジネスモデル

 Tech Waveの「iPadに期待する米出版業界、期待すれば裏切り者扱いされる日本の業界【湯川】」という記事を読んでから色々と気になったことがあったので日本における書籍の流通の仕組みについて調べてみた。

 とても参考になったのが、少し古いが「書籍の価格構成比をめぐる小考」というブログ記事。流通マージン等に関して、具体的な数字が列挙されているのがうれしい。

  • 紙代:6%
  • 製版・写植代:12%
  • 印刷・製本代:7%
  • 編集コスト:3%
  • 版元粗利:32%
  • 著者への印税:10%
  • 取次マージン:8%
  • 書店マージン:22%

 この数字(特に写植代と取次マージン)がそもそも電子写植・大規模店舗・オンライン店舗・チェーン店の時代に適切かどうか、という話はひとまずおいておいて、電子書籍の時代にどうなるかを考えてみる。

  • 紙代:0% (不要)
  • 製版・写植代:?% (はるかに低コスト)
  • 印刷・製本代:0%(不要)
  • 編集コスト:?%
  • 版元粗利:?%
  • 著者への印税:?%
  • 取次マージン:0%(不必要)
  • 書店マージン:30% (AmazonもしくはApple)

 電子出版なのだから、紙代や印刷・製本代が不要なのはもちろんのこと、委託販売の必要もない電子出版で、取次は不必要以外の何者でもない(出版社の人たちは、たぶんこんなことはおおっぴらに言えないだろうから、私が声を大にして代弁しておく)。

 これだけで、21%の節約だが、書店マージンが22%から30%に増えているので、ネットでは13%の節約。一方、製版・写植代は、ePubの場合は原則として0%、PDFの場合でもほとんど無視できるぐらいのコストに下がっているので、編集コストに含めて考えれば、25%の節約となる。

 こうなるとAmazonやAppleが30%を抜いた後に残るのは、出版社と著者であり、この2者が残りの70%をどう分けるのが適切か、という話になる。

 当然だが、「小売価格の10%が著者」というのはもうあり得ない。そんな時代錯誤な条件を提示し続ける出版社は生き残れない。

 「著者が直接AmazonやAppleと取引をして、小売価格の70%をすべて得る」というのも当然一つの選択枝である。同人作家やブロガーなどにとっては、失うものがほとんど無いし、自分なりのマーケティング手法はそれなりに持っているので、とても魅力的な選択肢だ。次にこの手法を選ぶと考えられるのが、既に故人となった著名な作家の作品の権利を持っている子孫の方々。著作権が切れる前に「最後の刈り取り」をするのであれば、この方法はもっとも効果的だ。

 注目すべきは、既にベストセラーを何本も出し、知名度が十分に高い人たちの行動。彼らにとっても、大手出版社のマーケティング能力や、通常の書店で「平積み」の力は無視できない。しかし、彼らも10%の印税で甘んじるほどお人よしではないので、それを30〜45%ぐらいに引き上げる交渉力を持つのではないかと私は期待している。彼らが上限を引き上げ、それにつられてそれ以外の作家の印税も20〜35%ぐらいに増えるのが業界全体のためにも健全だろう。

 結局のところ、電子出版の時代に出版社が生き残るためには、(1)(少なくとも)電子出版に関してはバッサリと取次を切る、(2)マーケティング能力や新しい作品・作家の発掘という部分での付加価値を十分に提供し作家に「出版社を通して売る」メリットをアピールする、(3)10%印税などとケチなことは言わず電子出版の時代向けの適切な印税を作家に払う、の3つをしなければならないと思うのだがどうだろうか。


iPadで走れメロスを読むとこんな感じになります(実物大PDF付き)

 先日アナウンスしたiPad向けの「クラウド本棚付きeBook Reader」向けの青空文庫のPDF化の件、たくさんの方々からご支援をいただき、大変感謝している。このペースで行けば、日本でiPadが発売されるまでには、かなり充実した「本棚」ができそうだ。

 ところで、実機がまだ手に入っていないこともあり、レイアウトに関して特に指定はして来なかったのだが、皆さんの意見を聞いたり、実際にPDF化された文章をエミュレータで読んでいて感じたのは、青空パッケージなどで標準で採用されている「縦書き二段組み」がよさそうだということ。

 試しにiPadにこのフォーマットのPDFファイルを表示したところを実物大でプリントアウトしてみたが、結構良い感じだ。参考のために、リンクを下に貼付けておいたので、興味がある方はどうぞ(画面で見るのではなく、プリントアウトしてお楽しみください)。

http://satoshi.blogs.com/raw/sample_ipad.pdf

 ひょっとすると揺れる電車の中で読むには少し字が小さいかもしれないが、その場合はiPadを横向きにしていただければ、一段ごとに(つまり倍の大きさで)表示するようには作ってあるのでこれで十分かも知れない。

 ちなみに、「どうしてPDFなの」という質問がよせられたので答えておくと、iPadぐらいの大きさのデバイスで読む場合は、テキストファイルを流し込んで自動レイアウトする方式よりも、人力でフォントをしていてレイアウトしたものの方が、実際の本を手に取って読む感覚に近いものが実現できると考えているからだ。もちろん、そんな設計の方が、スキャンしたマンガ(JPEGファイルをZIP圧縮したもの)の取り扱いと親和性が良いというユーザー・インターフェイス上の利点もある。

 後、少し誤解をまねいてしまったようだが、正しいツールで制作したPDFファイルは基本的にベクターフォーマットなので、拡大縮小しても品質が落ちない。私が言うところの「iPad向けに最適化したPDF」とは、「iPadのピクセルサイズにあわせてラスタライズしたもの」を指すのではなく、「iPadの画面ぐらいの大きさに表示して読むのに適したフォントサイズとレイアウト」を指す。

 最後に、青空文庫のPDF化に関して、とても良いサイトを二つ教えていただきいたので、リンクを貼付けておく。


iPadのインパクト、私の予想8

 iPadの米国でのローンチまで10日となったわけだが、色々と思うことがあるので書いてみる。

予測1:4月3日のローンチは成功する

 これは99.9%確実である。この手のデバイスのローンチには、(1)開発者に魅力的なプラットフォームを提供してアプリを作らせ、(2)ブロガーの興味をそそって発売前からせっせとブログエントリーを書かせ、(3)アーリーアダプターの心をくすぐって注文予約させれば良いのだが、まさにその戦略に100%ハマっている私がここにいる(笑)。

 先日のエントリーで書いた様に、開発者としては、iPad用のクラウド本棚付きeBookリーダー「Cloud Readers」をすでにAppleに審査のために提出済みである。ブロガーとしてはこのエントリーも含めてiPadに関しては何度も書いて来ているし、当然アーリーアダプターとしてiPadはオンラインで注文してある。Appleから表彰状をもらいたいぐらいだ。

 KindleもNexus OneもWindows 7もスルーして来た私に「これは入手しなければ」と思わせるiPadの魅力は、単なる「Jobsの現実歪曲空間」が作り出した幻想ではなく、iPadを通じてAppleが提供しようとしている「何か」にとてつもない魅力を感じるからだ。

 その「何か」とは、iPhoneよりもはるかに大きなマルチタッチ・ディスプレーにより提供される新しいユーザーエクスペリエンスだったり、iTunes storeを通じて提供されるさまざまなコンテンツやアプリケーションによるライフスタイルの変化だったりするのだが、そのあたりを製品作りの段階から強く意識して作っているかどうかが、Appleと「カタログスペック重視のその他のメーカー(参照参照)」の根本的な違いである。日本のメーカーでそんな姿勢が製品に反映されているのは任天堂ぐらいだ(参照)。

 予約注文も含めて、ローンチの週末にどのくらいiPadが売れるかを予想するのは難しいが、私のまわりでも予約注文をしている人がゴロゴロといることを考えれば、20〜30万代は軽く行くんではないかと思う。ここでのAppleの強みは、「iPhoneを買ってとても満足しているアーリーアダプター」が世界中に数十万人の(ひょっとしたら百万人超の)規模でいることだ。そんな「アップルを信頼しきった」アーリーアダプターたちにとって、「iPadで可能になる新しいライフスタイル」に一日でも早く触れるためにだったら500ドルは決して高くない(参照)。

予測2:アプリストアはいきなりRed Oceanとなる

 2007年のiPhoneアプリのローンチ時には、200強のアプリしかそろわず、そこに一番乗りの一つとしてPhotoShareをリリースすることができた私は、先駆者利益を多いに得ることができたのだが、iPadのローンチに関しては、もうそんなに甘くない。

 そもそも、iPhone向けのアプリの開発に慣れたエンジニアが世界中に何十万人といる上に、iPhoneアプリをiPad向けに作り直すのはそれほど難しくない。一気に1000以上のアプリがストアにならび、あっという間に供給過多で価格競争に陥るのは目に見えている。そこからきちんとした収益を上げられるのは、iPhoneと同じく、ごく一握りの開発者たちだけである。

 ただこれは、iPad購入者にとっては(そしてもちろんAppleにとっても)とても好ましいこと。良質なアプリが安価もしくは無料で手にはいるのだから(Cloud Reader ももちろん無料)。

予測3:netbookやタブレットPCとは直接の競合にはならない

 多くのアナリストが、netbookやWindowsベースのタブレットPCとiPadの争いを期待しているようだが、私はそこはあまり競合にはならないと読んでいる。netbookやWindowsベースのタブレットPCはあくまでパソコンであり、あえてOS-XではなくiPhone OSを載せて、はっきりと「コンシューマ・エレクトロニクス」市場に狙いを定めて来たiPadとは、ターゲットしているユーザー層も、それが可能にしようとしているライフスタイルも大きく違う。

 ただ、一つだけあなどってはいけないのは、iPadを医療の現場とか倉庫で使われる業務用デバイスにしてしまう「業務用アプリケーション」の市場がいきなり立ち上がってしまう可能性。ここは、本来ならばMicrosoftがリーダーシップを取らなければいけない分野だが、iPhoneの成功を横目で見てすっかり浮き足立ってしまって「コンシューマ市場でAppleに追いつけ追い越せ」なんてことをやっているうちに、いつのまにか「iPadって業務でもつかえるじゃん、開発者もWindowsアプリよりiPadアプリ作りたがってるし」と、足元を救われる可能性もなきしもあらずだ。

 じゃあ、タブレットPC市場そのものはどうか、というと「iPad効果」でそれなりに市場が伸びるとは思うが、メインストリームになれるかというと決してそんなことはないと思う。それよりも、今年の後半から2011年あたりに出て来るだろう、Chrome OSベースの100ドルnetbookとの価格競争でパソコンメーカーの業績がどうなるか、の方がよほど心配だ。

予測4:AmazonもB&Nも専用デバイスのビジネスから撤退する

 さすがに2010年中にそんなことにはならないとしても、2011年以降にAmazonやB&Nが専用でバイスのビジネスから撤退し、iPad等の「タブレット端末」向けのアプリを通じたコンテンツ・ビジネスに専念することになる可能性は十分にあると思う。もちろん、ここまでKindleを売って来たアマゾンとすれば、自社コンテンツの独壇場であるKindleをあきらめることは簡単には出来ないだろうが、iPadに販売数で大きく引き離されれば、真剣に考慮せざるを得なくなるだろう。

 とは言え、Amazonにとって大切なのは、デバイス・ビジネスではなく、本の流通がデジタル配信にシフトする時にそこでもしっかりとリーダーシップを取り続けること。ここだけは絶対に譲れない。その意味では、iPadにおけるデジタル書籍の流通のデファクト・スタンダードを巡るAppleとの戦いは熾烈なものになると予想できる。さすがのAppleでも、KindleアプリのiTunesストアでの販売を拒否はできないし(独占禁止法に引っかかる)、この戦いは2010年度の戦いの中で一番の見物だ(参照)。

予測5:Sonyが本気で巻き返し戦略に出る

 Amazonはハードウェアビジネスから撤退しても、iPad向けに本さえ売れれば良いが、ソニーはそうはいかない。いろいろなメディアでも言われている様に、ソニーの復活の鍵は、Stinger 氏がソニーの「部署間の垣根」を本当の意味で取り払うことに成功するかどうかにかかっている。iPadと戦うという意味では、何よりも早急にしなければならないのは、eBook端末であるLibrieを作っている部署とゲーム端末であるPSPを作っている部署間の垣根を取り払うこと。

 Librieの一番の問題は、狙っているユーザー層があいまいなこと。このままでは、iPadとKindleの狭間で存在感をなくしてしまう(参照)。私がStingerなら、ゲーマーとマンガを読む層がオーバーラップしていることを利用して、(Librieではなくて)PSPをマンガを読む最適のデバイスとして進化させるという戦略で、iPadともKindleともはっきりと異なる戦略で、まずはゲーマーたちにソニーのオンライン・ストアからデジタル・コンテンツを買うことに慣れてもらう。Librie単体ではどう考えても戦えない。

 まあ、このあたりのことは私に言われなくともソニーの経営陣は当然分かっているだろうが、そういう経営側のビジョンをちゃんと伝えて、それに全社員が本気で付いて来るように持って行くのは至難のワザ。正念場だ。

予測6:書籍の流通革命がゆっくりとだが着実に進む

 過去10年間に音楽業界に起こったことと同じことが出版業界にも起こる。iPadにより加速される「タブレットで読む」という習慣が、明らかに違法なもの(スキャンしたマンガのP2Pネットワークでの交換)から、グレーゾーンなもの(自分が持っている書籍を裁断・スキャン後、ヤフオクで販売)まで含めてユーザーに広まり、出版業界が悲鳴を上げる(参照)。

 それと同時に、出版社を飛び越した形で直接AmazonやAppleを通して自分の作品を売る作家が現れはじめ(その場合、売り上げの70%が作家のものとなる。通常の印税とは桁が違う。参照)、それがさらに出版業界を脅かす(参照)。

 賢くない出版社は、法に訴えたり業界団体を作ってこの流れに逆らおうとするが(参照)、結局はそれも時間稼ぎに過ぎない。「自分たちが提供できる付加価値とは何か」をちゃんと考えた上で、「だからAmazon直でなく、この出版社を通して売ろう」と作家を納得させる価値を提供できるところだけが生き残れる。

予測7:大手ウェブサイトが徐々にFlashばなれをする

 これは既にWall Street Journalのウェブサイトなどで始まっているが(参照)、これがiPadの普及およびHTML5ブラウザーの浸透とともに徐々に広まって行く。結局のところはツールがどこまで対応するか・映像をどうするか、が一番のネックなので、急速には起こらないが、徐々にだが確実に進行する。すでに知られている様に(参照)GoogleはすでにYoutubeの脱Flash化を着実に進めている。iPadのブラウザーでyoutube.comを開いた時に映像が見れないような恥ずかしいことはGoogleには出来ない。

 前にも述べたが、今年の後半か2011年には、Appleからかなり高機能なアクティブなウェブ・ページのオーサリング・ツールが出て来ると私は見ている(もちろん、Flashではなく、HTML/CSS/JSの最新の機能をふんだんに使ったもの)。(Adobe自身を含めた)他のツール・ベンダーもそれに追従することは目に見えており、それにより「脱Flash」が加速されるのが2011年から2012年だろう。

予想8:人々のライフスタイルが代わる

 色々と書いて来たが、何と言っても、もっとも大きなインパクトはこれ。iPhoneでもかなり「新しい体験」をさせてもらったが、iPadはそれをもう一段引き上げる。タブレットという新しい形のデバイスを使って、普通の人がウェブブラウジングをする・本を読む・絵を描く・音楽を演奏する・ゲームをする時代がまさに来ようとしている。


iPadアプリ作成日誌: Apple に Submit しました

Submitted   

 先日予告した「クラウド本棚付きeBook Reader」(正式名称はCloud Readers)、予定通りに開発も終わり、 Apple に Submit することができたのでここに報告させていただく(現在、Appleによる審査中)。前のエントリーでも書いたが、これは私自身がiPhoneで主にマンガを読むために自分用に作ったマンガリーダー(非売品)をiPad用に改造したもの。1年近くもの間、細かなところで微調整を繰り返して作り込んで来たものなので、満足していただけると思う。

 一つだけ不安なのが、リリース前に実機でのテストができなかったこと。本来ならば、iPad上で私自身がしばらく使い込んで微調整を繰り返してからリリースするべきなのだが、「iPadアプリストアのグランド・オープニングに自分の作品を並べたい」という欲求には勝てず、エミュレータでのテストに頼らなければならなかったのが残念。

 もう一つ実機がないと出来ないのがメモリーのストレステスト。iPhoneよりはかなり使えるメモリが多いはずだが、画面サイズも大きいわけで、いったいどのくらいメモリを使ったらアプリが落ちてしまうのかが見えずに、かなり保守的な作りにせざるを得なかった。

 とは言え、かなり満足するものができたので、iPadを入手される方はぜひともお試しいただきたい。

 最後に、参考までに現時点でのマニュアルの中身を貼付けておく(このマニュアルもPDFファイルとして「クラウド本棚」から配布する)。

 ◇ ◇ ◇ 

CloudReadersをインストールいただき、ありがとうございます。CloudReaders は使い心地を重視したiPad向けの無料のPDF/マンガリーダーです。パソコンからのファイルの転送も可能ですが、皆さんのご協力で作られている「クラウド本棚」からのダウンロードも可能です。 

ローカル本棚

CloudReadersをスタートすると最初に表示されるのが、メインスクリーンで、ここには「ローカル本棚」に置かれた本やマンガが表示されます(最初は空っぽです)。 CloudReaders で本やマンガを読むには、この「 ローカル本棚」に読みたい本やマンガを置いておく必要があり、それには二つの方法があります。

「クラウド本棚」からダウンロードする

1. iPadをインターネットに接続する(WiFi もしくは 3G)。

2. CloudReadersをスタートする。

3. 最初に表示されるメインスクリーンの左下の本棚アイコンをタップする。 クラウド本棚に置かれた本やマンガのリストが表示されます。現時点では一つしか本棚がなく、あまり本の数も多くありませんが、皆さんのご協力を得ながら増やして行く予定なので、ご期待ください。  

4. ダウンロードする本・マンガをタップする。クラウド本棚に置かれた本やマンガは、すべて無料です。クラウド本棚には、著作権の切れた書物を皆さんの力でiPad向けにPDF化した書物を置いています。ご協力いただける方を募集していますので、ぜひともhttp://satoshi.blogs.com/life/2010/03/cloudreaders.html をお読み下さい。

5. ダウンロードが終了したら、”Done”ボタンをタップしてメインスクリーンに戻る。ダウンロードに成功していれば、ダウンロードした本が「ローカル本棚」の一冊として表示されるはずです。

6. 読みたい本を選択して読み始める。 本の読み方に関しては、「読書モード」セクションをご覧下さい。

パソコンから転送する

iPad とパソコン(PC/Macどちらでも結構です)を同じWiFiネットワークに接続する 。

1. CloudReadersをスタートする。

2. メインスクリーン右下のWiFiアイコンをタップする。iPadが正しくWiFiに接続してあれば、パソコンからiPadに接続する時に必要なURLが表示されます。 

Pic1

3. パソコン上でブラウザーを立ち上げる。

4. iPadに表示されたURLをパソコンのブラウザーのアドレスバーに入力する。ブラウザーに表示された指示に従って、ファイルを転送する。CloudReaders で読むことの可能なファイルフォーマットに関しては、次のセクションをご覧下さい。

5. 転送が終了したら、画面左上の”Done”ボタンをタップして、メインスクリーンに戻る ダウンロードに成功していれば、ダウンロードした本が「ローカル本棚」の一冊として表示されるはずです。

6. 読みたい本を選択して読み始める。本の読み方に関しては、「読書モード」セクションをご覧下さい。


ファイルのフォーマット

Cloud Readers では、以下のフォーマットの本・マンガを読むことができます。

  • ZIP化されたJPEGファイルの集まり (.ZIP もしくは .CBZ)
  • PDFファイル(.PDF)

読書モード

Cloud Readers で本やマンガを読むには、メインスクリーンに表示される「ローカル本棚」の中から、読みたい本・マンガを選んでタップします。初めて読む本の場合は、最初のページを表示しますが、読みかけの本を選んだ場合は自動的に最後に読んでいたページを表示します。

最初、上下にツールバーが表示されますが(右下の図参照)、少したつと自動的に隠れます。ツールバーに再びアクセスしたい場合は、画面の中央をタップしてください。 

Pic2
 

ページ送り

ページ送りは、通常は一本の指で左右にスワイプすること行います。画面の右端・左端をタップすることでも可能です。 

特定のページに飛びたい時は、画面の中央をタップしてツールバーを表示させ、画面下部のツールバー上のスライダーを使って行き先を指定します。

ページ送りは、基本は「右送り(横書きの文書向き)」ですが、丈夫ツールバーのページ送りアイコンをタップすることにより、「左送り」に変更することが可能です。  

拡大・縮小

本やマンガを選択すると、Cloud Readers は自動的に「最適なサイズ」を計算してその大きさで表示します。そのサイズ以外の大きさで読みたい場合は、二本の指でピンチ・ズーム操作を行います。

ダブルタップをすることにより、「最適なサイズ」と「最大サイズ」の間を切り替える可能です。 

本・マンガの向き

本やマンガを表示する方向は、iPadを座ってもしくは立って操作することを前提に自動的に決められます。ベッドやソファーに横になって読む場合、もしくは無重力状態で読む場合には、上部ツールバーの「向きアイコン」をタップして、 向きを固定してください。



iPadアプリ作成日誌:ロゴが完成

Cloud_logo 先日予告した「iPad向けクラウド本棚付きeBook Reader」、今日はロゴをPhotoShopで作成。「本の形をした雲」を描こうとスタートしたのだが、なかなかそんなイメージになってくれないので苦労した。少し当初のイメージとは違うが、一応これで完成。

 PDFの制作に協力していただける方も何人かすでにいるし、私自身も少し作りはじめたので、ローンチまでにはなんとか「クラウド本棚」の形にできそうだ。中長期的には、もっと自動化したいところだが、今のところはすべて手作業。

 しかし、エミュレータで一通りの開発は出来るとはいえ、実機無しで作るのは「使い心地」「読み心地」の部分の微調整が出来ないので難しい。特にPDFを作る際にフォントの大きさとか、縦書きの場合2段組みの方が読みやすいのかどうか、などはぜひとも実機で読みつつ決めたいものだ。

 iPadアプリのsubmissionの〆切まで後6日。


予告:iPad向けクラウド本棚付きeBook Readerを無料で配布します

 数ヶ月前から、自分専用のiPhone向けComicリーダーを作ってスキャンした本とかマンガを読んでいる私だが、いまいち画面が小さいので、マンガは良いとしても本を読むにはちょっとつらい。そこでiPadには多いに期待している。自分だけで楽しむのももったいないので、iTunesストアから無料で配布するつもりなので期待していただきたい。

 ちなみに、ついでにGoogle App Engine上に「クラウド本棚」を作ってそこからいろいろな本をダウンロードできるような仕組みも作ったのだが、今のところ「使い方マニュアル」しか置くものがないのでちょっと困っている。いくつか手持ちの本をスキャンしてはあるが、これを勝手に配布することはもちろんできない。青空文庫の本をPDF化しておいておけば喜んでもらえると思うんだが、読みやすい大きさにレイアウトするには、それなりに手間がかかる。

 そこで、みなさんのご協力をあおぎたいと思う。

 青空文庫など著作権が切れたものの「PDF化」にご協力いただけないだろうか。

 参加手順は以下の通りである。

  1. 青空文庫から好きな作品(もしくは作家)を選び、それをこのエントリーのコメント欄で表明していただく(重複を避けるため)。
  2. 何らかのツールを使い(ちなみに、私はiWorkのPagesを使っている)、選んだ作品(もしくは選んだ作家の全作品)をPDF化する。レイアウトは基本的に自由だが、それぞれのページを横768x縦1024のiPadの画面全体に縦向きに表示することを前提に、自分が読みやすいだろうと思うフォントの大きさとかレイアウトを決めていただければ良いと思う。ちなみに、一度画像に変換してからPDF化するとファイルが巨大になってしまうので、文字から直接PDF化していただきたい。ファイルの最大サイズは10MBである。PDF化した本人の名前・メアド・twitterID・ブログのアドレス等は自由に入れていただいて結構。ご協力していただいた方々の名前をアプリに表示することは現実的に不可能なので、ぜひともここで自己アピールをしていただけると良いと思う。
  3. スキャンしたPDFファイルを、メールで submit(アット)cloudreaders.com に送る。

 ちなみに、アプリを無料にするのはもちろん、本のダウンロードもすべて無料でできるようにするので、iPad購入予定の方々にはぜひともご協力いただきたい(これは会社としてのビジネスではなく、このブログと同じように私個人の趣味で配布する)。Google App Engineの無料Quotaでどこまでの人数とダウンロード数をさばけるか若干不安だが、とりあえずやってみようと思う。

【追記】Twitterで語る場合のタグは、#cloudreadersで。ただし、重複の調整は一カ所の方が良いので、やはりこのエントリーのコメント欄でお願いします。


共著「Google Chrome OS」出版のお知らせ

 先日のセミナーでも少し触れた、「Googleのコモディティ戦略」。インプレスからこのたび出版される「Google Chrome OSー最新技術と戦略を完全ガイド」の「戦略」の部分に共著者の一人として寄稿したのでここで紹介させていただく。

 Chrome OSにせよAndroidにせよ、OSをGoogleが無料で提供するには深い意味があるのだから、それをちゃんと理解した上で、自社のデバイスに採用するかしないかを「経営判断」として決めるべき。「他のメーカーも載せはじめたから」とか「自分だけ乗り遅れたくないから」ぐらいな安易な気持ちで始めると、「実際やってみたら得をしたのはGoogleだけ」という結末になりかねないので慎重にすすめるべき。

 2年ほどiPhone向けのアプリを作って来た結果、最近強く思うのは、テレビなどの据え置きがたの家電にアプリをダウンロードして走らせる、という発想自体が根本的に間違っているんじゃないかということ。せっかくブラウザーがここまで進化して、常時接続状態が実現になってきたのだから、すべてを(JavaScriptとHTML5を最大限に駆使して)ウェブサービスとして提供すべき時代が来つつあると思う。

 その意味では、AndroidのJavaアプリというのは方向性からして間違っているし、Google全体が目指している方向とも違う。AndroidのLinuxとかWebkitの部分は良いとして、Android向けのアプリをごりごり作って差別化をはかろうという作戦だけはどう考えても間違い。

 まあ、iPhoneアプリがあれだけ成功しているのを見れば、自分でも同じことがしてみたいという気持ちになることは分かるが、「今、成功しているもの」を真似するんじゃなくて、「次に起こるだろう・起こるべきこと」をちゃんと見極めて、その変化を起こす立場にならないと、この業界ではリーダーシップは取れない。

 今後、デバイスがどうなって行くのか、OSはどこが主導権を握って行くのかは誰にも読めないけれど、HTML5が標準になってパソコン以外にも広がって行くこと、そこではWebkitがデファクト・スタンダードとなってパソコン以上に標準化が早く進むこと、iPhone/Android/Palm OS/Symbian などのすべてのOSで動くアプリを作る唯一の現実的な答えはHTML5+JavaScriptだということ、だけはこの業界にいてちゃんと目を開いてものを見ている人ならば誰でも知っていること。

 GoogleがAndroidのサポートをある時点で突然辞める可能性は少なからずあるが、彼らがHTML5を捨てることは100%ないのも明々白々。実際、もし私がGoogleの経営陣の一人だったら、AndroidというOSは出したが、JavaVMは載せずに、全精力をブラウザーを最高のものにすることに使っただろう。あのJava VMは経営判断ではなく、一部のエンジニアの趣味で作られたものなことを忘れてはいけない。

 こんな状態で、Androidアプリで差別化をするのが正しいと判断する経営者がいたとしたら、その会社はかなり危ないと思う。アプリを戦略的な財産として蓄積して行くなら特定のOSやVMに依存しない形の、ウェブ・アプリケーションとして作るのが明らかに正しい方向。エンジニアを育てるのであれば、JavaじゃなくてJavaScriptが書けるエンジニアを育てるべき。

 まあ、「技術的に細かなことは技術者まかせ」の日本の大会社の経営者には「馬の耳に念仏」なんだろうな、こんな話。本当は全然「細かなこと」なんかじゃなくて、戦略を立てる上で中核になる話なんだが...。まあ実際のところ、この業界にいながら Java と JavaScript の違い(それも言語の違いだけでなくて、マーケットでの位置づけだとか戦略的な意味だとか)が分からない経営者もたくさんいるわけで...困ったものだ本当に。