iPadアプリ作成日誌: Apple に Submit しました
iPadで走れメロスを読むとこんな感じになります(実物大PDF付き)

iPadのインパクト、私の予想8

 iPadの米国でのローンチまで10日となったわけだが、色々と思うことがあるので書いてみる。

予測1:4月3日のローンチは成功する

 これは99.9%確実である。この手のデバイスのローンチには、(1)開発者に魅力的なプラットフォームを提供してアプリを作らせ、(2)ブロガーの興味をそそって発売前からせっせとブログエントリーを書かせ、(3)アーリーアダプターの心をくすぐって注文予約させれば良いのだが、まさにその戦略に100%ハマっている私がここにいる(笑)。

 先日のエントリーで書いた様に、開発者としては、iPad用のクラウド本棚付きeBookリーダー「Cloud Readers」をすでにAppleに審査のために提出済みである。ブロガーとしてはこのエントリーも含めてiPadに関しては何度も書いて来ているし、当然アーリーアダプターとしてiPadはオンラインで注文してある。Appleから表彰状をもらいたいぐらいだ。

 KindleもNexus OneもWindows 7もスルーして来た私に「これは入手しなければ」と思わせるiPadの魅力は、単なる「Jobsの現実歪曲空間」が作り出した幻想ではなく、iPadを通じてAppleが提供しようとしている「何か」にとてつもない魅力を感じるからだ。

 その「何か」とは、iPhoneよりもはるかに大きなマルチタッチ・ディスプレーにより提供される新しいユーザーエクスペリエンスだったり、iTunes storeを通じて提供されるさまざまなコンテンツやアプリケーションによるライフスタイルの変化だったりするのだが、そのあたりを製品作りの段階から強く意識して作っているかどうかが、Appleと「カタログスペック重視のその他のメーカー(参照参照)」の根本的な違いである。日本のメーカーでそんな姿勢が製品に反映されているのは任天堂ぐらいだ(参照)。

 予約注文も含めて、ローンチの週末にどのくらいiPadが売れるかを予想するのは難しいが、私のまわりでも予約注文をしている人がゴロゴロといることを考えれば、20〜30万代は軽く行くんではないかと思う。ここでのAppleの強みは、「iPhoneを買ってとても満足しているアーリーアダプター」が世界中に数十万人の(ひょっとしたら百万人超の)規模でいることだ。そんな「アップルを信頼しきった」アーリーアダプターたちにとって、「iPadで可能になる新しいライフスタイル」に一日でも早く触れるためにだったら500ドルは決して高くない(参照)。

予測2:アプリストアはいきなりRed Oceanとなる

 2007年のiPhoneアプリのローンチ時には、200強のアプリしかそろわず、そこに一番乗りの一つとしてPhotoShareをリリースすることができた私は、先駆者利益を多いに得ることができたのだが、iPadのローンチに関しては、もうそんなに甘くない。

 そもそも、iPhone向けのアプリの開発に慣れたエンジニアが世界中に何十万人といる上に、iPhoneアプリをiPad向けに作り直すのはそれほど難しくない。一気に1000以上のアプリがストアにならび、あっという間に供給過多で価格競争に陥るのは目に見えている。そこからきちんとした収益を上げられるのは、iPhoneと同じく、ごく一握りの開発者たちだけである。

 ただこれは、iPad購入者にとっては(そしてもちろんAppleにとっても)とても好ましいこと。良質なアプリが安価もしくは無料で手にはいるのだから(Cloud Reader ももちろん無料)。

予測3:netbookやタブレットPCとは直接の競合にはならない

 多くのアナリストが、netbookやWindowsベースのタブレットPCとiPadの争いを期待しているようだが、私はそこはあまり競合にはならないと読んでいる。netbookやWindowsベースのタブレットPCはあくまでパソコンであり、あえてOS-XではなくiPhone OSを載せて、はっきりと「コンシューマ・エレクトロニクス」市場に狙いを定めて来たiPadとは、ターゲットしているユーザー層も、それが可能にしようとしているライフスタイルも大きく違う。

 ただ、一つだけあなどってはいけないのは、iPadを医療の現場とか倉庫で使われる業務用デバイスにしてしまう「業務用アプリケーション」の市場がいきなり立ち上がってしまう可能性。ここは、本来ならばMicrosoftがリーダーシップを取らなければいけない分野だが、iPhoneの成功を横目で見てすっかり浮き足立ってしまって「コンシューマ市場でAppleに追いつけ追い越せ」なんてことをやっているうちに、いつのまにか「iPadって業務でもつかえるじゃん、開発者もWindowsアプリよりiPadアプリ作りたがってるし」と、足元を救われる可能性もなきしもあらずだ。

 じゃあ、タブレットPC市場そのものはどうか、というと「iPad効果」でそれなりに市場が伸びるとは思うが、メインストリームになれるかというと決してそんなことはないと思う。それよりも、今年の後半から2011年あたりに出て来るだろう、Chrome OSベースの100ドルnetbookとの価格競争でパソコンメーカーの業績がどうなるか、の方がよほど心配だ。

予測4:AmazonもB&Nも専用デバイスのビジネスから撤退する

 さすがに2010年中にそんなことにはならないとしても、2011年以降にAmazonやB&Nが専用でバイスのビジネスから撤退し、iPad等の「タブレット端末」向けのアプリを通じたコンテンツ・ビジネスに専念することになる可能性は十分にあると思う。もちろん、ここまでKindleを売って来たアマゾンとすれば、自社コンテンツの独壇場であるKindleをあきらめることは簡単には出来ないだろうが、iPadに販売数で大きく引き離されれば、真剣に考慮せざるを得なくなるだろう。

 とは言え、Amazonにとって大切なのは、デバイス・ビジネスではなく、本の流通がデジタル配信にシフトする時にそこでもしっかりとリーダーシップを取り続けること。ここだけは絶対に譲れない。その意味では、iPadにおけるデジタル書籍の流通のデファクト・スタンダードを巡るAppleとの戦いは熾烈なものになると予想できる。さすがのAppleでも、KindleアプリのiTunesストアでの販売を拒否はできないし(独占禁止法に引っかかる)、この戦いは2010年度の戦いの中で一番の見物だ(参照)。

予測5:Sonyが本気で巻き返し戦略に出る

 Amazonはハードウェアビジネスから撤退しても、iPad向けに本さえ売れれば良いが、ソニーはそうはいかない。いろいろなメディアでも言われている様に、ソニーの復活の鍵は、Stinger 氏がソニーの「部署間の垣根」を本当の意味で取り払うことに成功するかどうかにかかっている。iPadと戦うという意味では、何よりも早急にしなければならないのは、eBook端末であるLibrieを作っている部署とゲーム端末であるPSPを作っている部署間の垣根を取り払うこと。

 Librieの一番の問題は、狙っているユーザー層があいまいなこと。このままでは、iPadとKindleの狭間で存在感をなくしてしまう(参照)。私がStingerなら、ゲーマーとマンガを読む層がオーバーラップしていることを利用して、(Librieではなくて)PSPをマンガを読む最適のデバイスとして進化させるという戦略で、iPadともKindleともはっきりと異なる戦略で、まずはゲーマーたちにソニーのオンライン・ストアからデジタル・コンテンツを買うことに慣れてもらう。Librie単体ではどう考えても戦えない。

 まあ、このあたりのことは私に言われなくともソニーの経営陣は当然分かっているだろうが、そういう経営側のビジョンをちゃんと伝えて、それに全社員が本気で付いて来るように持って行くのは至難のワザ。正念場だ。

予測6:書籍の流通革命がゆっくりとだが着実に進む

 過去10年間に音楽業界に起こったことと同じことが出版業界にも起こる。iPadにより加速される「タブレットで読む」という習慣が、明らかに違法なもの(スキャンしたマンガのP2Pネットワークでの交換)から、グレーゾーンなもの(自分が持っている書籍を裁断・スキャン後、ヤフオクで販売)まで含めてユーザーに広まり、出版業界が悲鳴を上げる(参照)。

 それと同時に、出版社を飛び越した形で直接AmazonやAppleを通して自分の作品を売る作家が現れはじめ(その場合、売り上げの70%が作家のものとなる。通常の印税とは桁が違う。参照)、それがさらに出版業界を脅かす(参照)。

 賢くない出版社は、法に訴えたり業界団体を作ってこの流れに逆らおうとするが(参照)、結局はそれも時間稼ぎに過ぎない。「自分たちが提供できる付加価値とは何か」をちゃんと考えた上で、「だからAmazon直でなく、この出版社を通して売ろう」と作家を納得させる価値を提供できるところだけが生き残れる。

予測7:大手ウェブサイトが徐々にFlashばなれをする

 これは既にWall Street Journalのウェブサイトなどで始まっているが(参照)、これがiPadの普及およびHTML5ブラウザーの浸透とともに徐々に広まって行く。結局のところはツールがどこまで対応するか・映像をどうするか、が一番のネックなので、急速には起こらないが、徐々にだが確実に進行する。すでに知られている様に(参照)GoogleはすでにYoutubeの脱Flash化を着実に進めている。iPadのブラウザーでyoutube.comを開いた時に映像が見れないような恥ずかしいことはGoogleには出来ない。

 前にも述べたが、今年の後半か2011年には、Appleからかなり高機能なアクティブなウェブ・ページのオーサリング・ツールが出て来ると私は見ている(もちろん、Flashではなく、HTML/CSS/JSの最新の機能をふんだんに使ったもの)。(Adobe自身を含めた)他のツール・ベンダーもそれに追従することは目に見えており、それにより「脱Flash」が加速されるのが2011年から2012年だろう。

予想8:人々のライフスタイルが代わる

 色々と書いて来たが、何と言っても、もっとも大きなインパクトはこれ。iPhoneでもかなり「新しい体験」をさせてもらったが、iPadはそれをもう一段引き上げる。タブレットという新しい形のデバイスを使って、普通の人がウェブブラウジングをする・本を読む・絵を描く・音楽を演奏する・ゲームをする時代がまさに来ようとしている。

Comments

wirehead

>Appleからかなり高機能なアクティブなウェブ・ページのオーサリング・ツールが出て来る

Dashcode 3はInterface BuilderやCore Dataなんかの要素を取り込んでいますね。HTMLとCSSを直に扱わずに済み、Javascriptのライブラリが揃っていて結構楽しいです。

Apollo440

いつもお世話になってます。

林檎マニア用のネタ記事ですよね?それともマジですか?
毎日来るわけではないので最後の方に書いていただけるとわかりやすいかもしれません。
#No8の予想だけは面白ネタだとわかりますが・・・

でも、iPadによるインパクトかどうか証明できないような事柄について、
具体的な目標値も設定しないでぼかして予想を書くスタイルは
ブロガーの間で流行っているのでしょうか?
それとも、そこは、占いと同じであまり気にしない方がよいのでしょうか。

AZ

マックPCは、マシン上でウィンドウズを使える。

それと同じぐらいの手間とコストで

PCで、iPhoneOS、もしくはアプリが使えるようにならないと。

アマゾンは、金ドル単体で電子書籍を販売しているわけではなく

PC(ウィンとマック)でも、さらにはiPhoneでも閲覧ソフトは配布しているわけで。

電子書籍については、どの程度の勝負になるのか!?

asd

>>Apollo440さん
>iPadによるインパクトかどうか証明できないような事柄
この記事のiPadの影響だけではなくタブレットPC、NetBook、電子書籍リーダーなどの
業界全体を見通した上での予想だと思います。
特に5,6あたりはiPadというより、Kindleも含めた電子書籍業界全体の流れからの予想であって
iPadのインパクトでのみでそうなると言う予想ではないですよね。

TT

昨年、ようやくMacBookを調達して、Macの素晴らしさを知りました。
お陰でiPhne3GSが出たときには、夫婦で機種変しています。

iPadのお陰で、これからPCという言い方が廃れていくのでしょう。
「コンテンツ・タブレット」としての機能を各社が競争していく方向になりますね。
自分が「見たい」「聞きたい」「知りたい」「共有したい」情報にアクセスする機能が充実しているのなら、○00GBもの記憶容量を持ち歩く必要はない。

バックライトに映し出された鮮やかな絵本のページなどは、「iPadならでは!」だと想像します。

higekuma3

ケータイ小説みたいなことが、
iPadでも、出てきますね。

Appleのしくみのすごいのは、Worldwideのほう。

iPhoneのおかげで、日本の輸入ゲーム会社に、くそゲーだから
輸入価値なしと、烙印おされて、
ローカライズされてなかったものが、
どんどん、現地版のまま、購入可能の状態になり、
最初は、ローカライズまったくされていないが、
途中から、解説webができ、そのうち、ローカライズが、
裏で、または、ボランティアで行われ、
よりローカルで売れ始める。という現象が、起こるはず。

なので、ペーパーバック等を輸入している会社などが、
ごんごん、やばくなっていく。

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