今、日本に必要なのは企業の新陳代謝と優秀な人材の有効な活用
2010.03.15
先日の「とある家電メーカーでの会話:クラウドテレビ編」と「もし日本のメーカーがiPhoneを発売していたら」、ユーザー不在・カタログスペック重視のもの作りの問題点を浮き彫りにしてみたつもりだ。「こんな場面につい最近も出くわした」という意見から、「こんなにはひどくない」というフィードバックまでいただけたが、多かれ少なかれ、これに近い状況が現場で起こっており、それが日本のメーカーの国際競争力を奪う原因の一つになっていると私は見ている。
日本の家電・半導体メーカーが米国のメーカーと激しい貿易摩擦を起こしていた80年代、日本の企業の強さはまさにこの「スペック重視のもの作り」にあったことは事実である。日本人の勤勉な気質と日本流の経営スタイルがちょうど良い案配に働き、より集積度の高い半導体、より画質のきれいなテレビ、よりハイスペックな家電を欧米よりもはるかに低コストで効率良く作ることにより、日本が一気に世界市場でシェアを拡大し、米国の製造業を徹底的にたたきのめしたのである。
当時と状況はかなり異なるとは言え、今度は日本の製造業が韓国・台湾・中国のメーカーに激しく追い上げられる立場になっているのが現状。このままでは20数年前の米国の製造業と同じ目にあうのではと憂う声も良く聞く。
そんな時に耳にするのは「どうやったら日本の製造業を救えるか」という延命措置の話だったり、「これじゃあ日本の先は思いやられる」という悲観論だが、私は少し見方を変えるべきだと思う。経済産業省のレポートにも書かれていたように、そもそもこの狭い国で数社が横並びで同じようなものを作っていること事体に無理がある。妙な救済措置を考えるよりも、逆に企業の新陳代謝を加速し、日本全体として「優秀な人材をどんな分野に活用して、どこで勝負する」国になるかを真剣に見直すべき時期が来ていると思う。
米国は、家電や自動車産業などの製造業でことごとく日本に負けたわけだが、それで国力が落ちたかと言えば決してそんなことはない。ソフトウェア、ウェブサービス、コンテンツなどの分野では、米国の一人勝ちに近い状況だし、ハードウェア・ビジネスに関しても、Cisco、Dell、Apple などの新しい形の企業を生み出している。
なぜそれが可能だったかを一口で言えば「企業の新陳代謝が経済原理にのっとって健全に進み、優秀な人材が有効に活用される仕組みができている」からだ。米国でテレビを作っていたRCAはとっくの昔に消えてしまったし、最近では、ハードウェア重視の文化から脱皮できずに消えたSun Microsystemsがある。「だめな会社や経営陣にはさっさと退場してもらう」という文化は一見「非情」に聞こえるが、実はずっと「公平」であり「健全」である。
では、そんな消えて行った会社で働いていた人たちがことごとく失業者になったかというと決してそんなことはない。優秀な人材であればあるほど、常に上司や経営陣を常に厳しい目で評価しつづけ、「こんな上司の元では働けない」と思えばさっさと部署を変えてしまうし、「この会社の経営陣は分かっていない」と思ったらさっさと別の会社に移ってしまう。ソフトウェアを重視しない経営陣に我慢が出来ずにDECを飛び出してMicrosoftでNTを作ったデビッド・カトラーが良い例だ。
それと比べると、日本の企業の新陳代謝はとても遅い。高度成長経済の時期に日本の成長を牽引した企業が「一部上場企業」という看板を背負って、高学歴な人材をかき集めて続けて来た(ちなみに、「高学歴」は単に「一流大学を卒業した人」という意味。これが「勉強しない大学生」を生み出して、日本の国力を奪っているのは「不都合な真実」)。そして、スクラムを組んでベンチャー企業や海外勢の躍進を阻んでいる。一時期、「非関税障壁」と米国から激しく非難された、官民一体となった「保護主義」である。
日本の高度成長経済を足場から支えて来たこの保護主義が、逆に日本の企業から国際競争力を奪ってしまったことはとても皮肉である。あれほど技術的に進んでいながら、あれほど先進的なユーザーを抱えながら、日本の携帯メーカーが世界に出て行けなかったのは、郵政省とNTT DoCoMoが電電公社時代から築いて来た非関税障壁に守られていたからだ。
しかし、その非関税障壁ももう役に立たなくなりつつある。グローバル化の波はいやおうなしに国内市場にまで波及して来ているし、消費者も賢くなって来ている。延命措置をほどこすにも限度がある。政府からの予算がなければ成り立たないスパコンビジネスが良い例だ。
だからと言って「だから日本の将来は暗い」と落ち込んでいてもしかたがない。日本企業の国際競争力を上げるために必要なのは、古い体質や旧来型のビジネスモデルにしばられた国際競争力のない企業の延命ではなく、新しい価値を生み出す新しい企業の誕生であり、そんな未開拓な分野にチャレンジする若くて優秀な人材の有効な活用である。
◇ ◇ ◇
と、ここまで書いたところで、今度のエントリーを書いた本当の理由を明かそう。
人材募集である。
組み込みソフト+ウェブ・サービスという特殊な分野でビジネスをするUIEジャパンの一番の強みは、ソフトウェア資産でも顧客リストでもなくて、そこで働く人材である。設立4年目に入ってようやくビジネスも軌道に乗りはじめたので、ここはより会社の価値を高めてくれる「人材」に投資すべきという経営判断だ。
それならば、単に「うちに来てください」と言うのではなく、ちゃんと「なぜ来て欲しいか」を書いてみたいと思ったのだ。エンジニアとして生まれて来たからには、多くの人のライフスタイルにインパクトを与えるようなものを作ってみたい、最新の技術に触れて、エンジニアとしての腕を徹底的に磨いてみたい、そんな人を求めているし、そんな人に活躍する場所を提供できれば、と考えている。
ただし、敷居は高いので覚悟していただきたい。「大学の研究室では実験に必要だったので、ARMベースの組み込みボードにLinux載せました。でも最近は、Google App Engineでサイト作って遊んでいます」みたいな人が理想である。正社員・インターンともに募集なのでよろしく。詳しくは下のリンクで。
http://www.uievolution.co.jp/recruit
それから、せっかくなのでもう一社紹介させていただく。エンターモーションというモバイル・ソリューションの会社。私がUIEの立ち上げ時に日本でお世話になった佐竹さんという人が副社長をしている会社だが、(米国よりも一足先に)モバイル・コンテンツが無料化する部分に的確に目を付け、ツタヤやスカイラークなどの企業に、モバイルを使ったマーケティング(例:会員管理・割引クーポンの発行)をソリューション・サービスの形で提供している。こちらの会社も、同じくようやくビジネスが軌道に乗りはじめ、優秀なエンジニアを探しているとのこと。今回の訪日中に、開発中のモバイル向けクラウド・サービスのデモを見せていただいたのだが、とても面白い試みだ。同じクラウドとは言え、Google App Engineとはひと味違った仕上がりを目指している部分がとても気に入ったのだが(そのうち、ここでも詳しく紹介させていただく)、そんなプラットフォーム作りに興味のある人にはお勧めだ。
http://www.entermotion.jp/
それが、シアトルコンピュータなのではないのでしょうか?
それがディレンマですな。祇園祭の鉾の話も現代に於いても面白いものです。
Posted by: You'll stealing from as? | 2010.03.15 at 21:05
カタログスペックの粒度が中途半端というところがそもそも問題だと思うんですが。
適正な粒度でカタログスペックを設定すれば有効な方法ではないでしょうか。
そもそも「マルチタッチ」という文言はそもそもスペックを表しているんでしょうか。
Posted by: michael | 2010.03.19 at 08:11