ガラパゴス・ケータイと「政府の役割」と
2010.06.12
米国におけるソフトウェア・ビジネスは、基本的にベンチャー主導型で成長して来た。Microsoftが典型的な例だが、Adobe、Google、Apple、Salescorce.com など、この業界を牽引する会社はほとんどすべてが「起業家」と呼ばれる野心的な人たちによって作られたベンチャー企業である。そういったベンチャー企業は、まずは開業資金を起業家本人や家族から集めた「自己資金」で会社を立ち上げ、少し軌道に乗ったところでベンチャー・キャピタルと呼ばれる投資家から資金を集めて会社を大きくして行く。そこでの政府の役割は、起業家が会社を成功させた時に得る利益(創業者利益)への税率を低く設定して起業家精神を刺激したり、巨大な企業が既得権やマーケットシェアを利用してベンチャー企業による市場への進出を不当に妨害したりしないように監視することである。
米国と日本には共通点も相違点もあるが、ことビジネスに関してもっとも違うのはこの太字で書いた部分だ。「企業間の自由競争があってこそ、社会は発展するし、国民はより良いものを安価に手に入れられる様になる」という考えは、アメリカ建国当時からのビジョンであり理念である。「結果平等」よりも「機会均等」を重視する発想のルーツも同じところにある。
日本の携帯電話が、iモード全盛の時期に機能だけみると世界よりも2年ぐらい進んでいたのにも関わらず、今や「ガラパゴス・ケータイ」と呼ばれる世界市場でまったく競争力を持たないものになってしまった一番の原因は、電電公社時代から受け継がれて来た官僚主導の「既得権を持った企業からの横並び調達」にある。
競争原理が働かないからコストを度外視した開発スタイルが身に付いてしまい、一度既得権を取った大企業がいつまでも保護されるから、ベンチャー企業が育ちにくい。日本の携帯電話メーカーが、世界市場で勝ち抜いて来たAppleやSamsungと正面切っては戦えない企業ばかりになってしまった一番の原因はここにある。
ただ、難しいのは「米国のやり方が正しい、日本もそれに見習うべきだ」とは一概に言えないこと。
自由競争はどうしても貧富の差を広げる。「格差」を嫌い、「結果平等」を好む日本人がそんな状況に耐えられるか疑問である。日本の企業の国際競争力を本気で高めようと思ったら、もっと自由に人を解雇できるようにしなければならない。「派遣切り」だけで批判されるトヨタやパナソニックが、正社員までも切りはじめたらどんなに批判されることか。大企業から既得権を奪うということは、大企業で働いている人たちも安心してはいられないということ。自分もいつ解雇されるか分からないし、会社もいつまでも存在するとは限らない。
結局のところは、日本人の気質にあった「日本なりの資本主義のありかた」というのを見つけて、その枠組みのなかで、アジアに進出しようとする日本企業を税制面などで優遇するなどして、日本企業の海外での競争力を高める方向でサポートするのがこれからの政府の役割なんだと思う。「国内市場で保護してさえおけば、それを活力に海外に出て行けるだろう」という発想が幻想であったことはガラパゴス・ケータイが証明したのだから。
「もっと自由に人を解雇できるようにしなければならない」ってアホか。
「相手企業をテロ攻撃できるようにしなければならない」とか言い出しかねん。
「結果平等」ではない「機会均等」が本当にあるのか。
くじ引きで格差を付けるのか。本当に「格差」が必要か。
Posted by: 通りすがり | 2010.06.13 at 00:30
> そこでの政府の役割は、起業家が会社を成功させた時に得る利益(創業者利益)への税率を低く設定して
> 起業家精神を刺激したり、巨大な企業が既得権やマーケットシェアを利用してベンチャー企業による
> 市場への進出を不当に妨害したりしないように監視することである。
この点についてですが、自由すぎる(何でもアリな)競争に枷をはめる介入です。
普段、ルールある競争を「自由競争」、ルールのない何でもアリ競争を「不正競争」等と呼称しがちなせいで
ついつい感覚が逆になってしまいがちですが、弱者保護、セーフティネットの一種です。
考え方は数々の弱者保護政策等と同じで、自由すぎる競争だと貧富の格差が激しくなりすぎるので
「上を抑えて下を持ち上げ」(弱肉強食の観点からは不自然でも)強引に競争状態を作らせるための介入なんです。
この米国式ベンチャー保護政策は、即座に貧富の差にはつながりません。機能としては逆の傾向を持ちます。
ゆえに、「自由競争はどうしても〜」以下との、文章のつながりがおかしくなっています。
Posted by: AT | 2010.06.13 at 01:16
通りすがりさんのお書きになった感想が、日本人の大多数なのだと思います。
そしてそれが実は今の若者達の就職難を呼び込み、将来を暗くする思想なのだと思います。残念ながら。
Posted by: tarosan9 | 2010.06.13 at 03:23
>「相手企業をテロ攻撃できるようにしなければならない」
なぜ解雇の話からそうゆう発想になるのかよくわかりません、明らかに論理の飛躍です。
>tarosan9
確かに労働市場に流動性をと言っても意味がわからない人が大多数なのは確かでしょうね。
しかも個人的に問題視しているのは若者でさえそういった「思想」にとらわれてしまっている点です。
僕のまわりで就職活動なるものを経験した人はかなりの確率で保守的です。きっと今の労働環境で職をえたりそれを守るためにはそうならざるを得ないのでしょう。今更おじさんたちの既得権を守っても見返りないと思うんですがね(^^;
Posted by: yis | 2010.06.13 at 06:14
>tarosan9
同意です。成長がままならないのに、降格人事すらない組織が健全な状態を保てるとは思えません。容易に切れる代わりに窓口を広げる。そうすることでいわゆる"老害"も溜まらず、若者を含めて全員の機会を増やすことができる。
過度な自由主義は過度な格差を産むことになるとは思いますが、過度に保守的になり、運・タイミングで既得権益を得られる立場になれるかどうかで人生が決まってしまうような状態よりも、能力・努力に見合った見返りがあるという意味ではよほど健全だと思います。
Posted by: soos | 2010.06.13 at 07:21
能力があるかないか、努力できるかできないか、そもそもそこに機会の不平等がある。
障害者には見返りがなくても健全なのか。切られた労働者は幸福になったのか。
労働市場を流動化させると、弱者の幸福が増大するのか。
Posted by: 通りすがり | 2010.06.13 at 08:02
日本人は、不平等自体は許容してるように見えます。なにせ天皇制を存続させてますから。
心配しているのは、そして避けなければならないと思っているのは、不平等の結果、最下層の人々が明日をも知れぬ暮らしになってしまうことでしょう。この点で合衆国は大失敗をしていますよね。
Posted by: tripod | 2010.06.13 at 08:55
> 「経済的に豊かだが格差が大きい国」と「豊かさはさほどでないが格差の小さい国」のどちらを
> 目指すかでは 「格差が小さい国」73%が「豊かな国」17%を圧倒。
http://www.asahi.com/politics/update/0610/TKY201006100468.html
日本は、国民の大多数が社会主義思想を持っている社会主義国家なんです。
社会的正義と経済成長のために既得権益を破壊しよう、と考えている人なんてほとんどいません。
学生は既得権益を得るため、政府自治体・半官半民企業・規制産業の企業に就職しようと必死になっています。
Posted by: fantasia | 2010.06.13 at 09:18
記事の内容に同意。一番上の「通りすがり」さんの意見は象徴的だよね。こういった偏った日本独自の仕組みを変えていかない限り、日本はヤバイと思ってしまいます。
解雇できないってことは新人を雇えないってこと。既得権を保護すれば、ベンチャーは伸びないってこと。新人が入ってこなければ、ベンチャーが伸びなければ、今の場所にあぐらをかいて、技術力・国際競争力をどんどん失っていくってこと。
作用には必ず反作用があるってことを考慮しないと、全体は見えてこないと思う。
じゃぁ欧米のように、とはできないとも思う。だからこそ、「日本なりの資本主義のありかた」を考えるべきなのですよね。
Posted by: makog | 2010.06.13 at 09:35
簡単に人を解雇できると言うことは、簡単に雇用できることでもあるだろう。
今以上に雇用機会は増えるだろうとは思う。これが流動性ってやつ。
仕事、人と企業って、結婚と一緒で相性みたいなもんで、つきあってみないとわからない。
つきあってダメだったら、やっぱり別れるべきで、嫌々でも付き合い続けてるのが今の世の中でしょう。
別れてもすぐ次のパートナーが見つかるような社会のほうが、運命の人に出会う可能性は増える。
これは、双方にとって良い結果になるだろうと思うよ。
もちろん、軽く解雇されて次見つかるまでは大変だけど、そこをサポートするのが失業保険、国である。
Posted by: sis | 2010.06.13 at 13:01
× Salescorce.com
○ Salesforce.com
とりあえず。
Posted by: ryu | 2010.06.13 at 18:07
みなさん雇用の流動化と簡単におっしゃいますが、それで捨てられる「老害」の方々の今後は
どうなるのでしょうか?特にバブル世代の、4、50代の方々。
古い産業から成長分野へ人を移動させる、というのはわかりますが、子飼弾さんも書かれてましたが、
成長期を過ぎた大人はもはやES細胞ではないのです。いきなり介護士やプログラマーになれるものでは
ありませんし、年齢的にも厳しいでしょう。そして、彼らの受け皿としての地下経済(マフィアとか)が
拡大すれば、結果的に社会的コストも増大する可能性があります。
むしろ、アメリカやギリシャの例を見るにつけ、資本主義そのものがもうピークを過ぎて老齢期に入った
気がします。これだけカンフル剤打ち続けて、海外や未来から借金しまくって、それでなんとか維持されて
いる体制って...。とにかく、Satoshiさんのおっしゃるとおり、この問題はそう簡単ではないと思います。
Posted by: Yamamoto | 2010.06.13 at 18:15
> 能力があるかないか、努力できるかできないか、そもそもそこに機会の不平等がある。
ちょっと前までの反グローバリゼーションや反自由主義にありがちな、この理屈が納得できないんだよなぁ。結果平等の方がよっぽど不平等だと思うし、機会が不平等だから努力出来ないのか? 能力がないのは、努力して無いからではなく、不平等だからなのか?
> 障害者には見返りがなくても健全なのか。切られた労働者は幸福になったのか。
> 労働市場を流動化させると、弱者の幸福が増大するのか。
なぜ障害者に見返りがないことに繋がるのか。。。
今の日本の仕組みだと、切られても幸福を感じられないし、弱者(ところで、この定義は?)の幸福が増大しないかも知れない。しかし、雇用の流動性を確保したうえでなら、今よりマシだと思う。
資源も何も無くて、輸出産業、加工貿易で成り立つ国で、社会主義で結果平等で。というのは、難しいと思う。人口も増えることはない訳だし、内需でやってた企業だって、あと40年もすれば立ちいかなくなるのは目に見えてる。それとも、移民を受け入れて人口を増やすか。。。 ついでに、なし崩し的に戦後の悪しき終身雇用、年功序列の体制が崩れることを切に願います。
4,50代の方々で思うのは、業種は違っても職種が同じ、あるいは似たものってあると思うのですが、それは難しいんですか? もちろん、その年代から起業するってのもありだと思うし、職業訓練だとか大学との連携による再教育の機会提供などなどっていうのは、あまり効果が無いんですかねぇ。米だと、4,50代で大学、大学院で学習ってそれなりにあると思うんですが。。。
Posted by: kazuo | 2010.06.13 at 22:33
障害者が健常者と自由市場で競争したら、障害者は富を得られない。
あなたの健康は、あなたが努力した結果なのか。
あなたの能力は、あなたが努力した結果なのか。
あなたの努力は、あなたが努力した結果なのか。
Posted by: 通りすがり | 2010.06.14 at 06:17
>あなたの健康は、あなたが努力した結果なのか。
>あなたの能力は、あなたが努力した結果なのか。
>あなたの努力は、あなたが努力した結果なのか。
そうだよ。違うとでも?
それにしてもあんた、論点のすり替えが露骨過ぎるよ。
Posted by: foobar | 2010.06.14 at 09:19
通りすがり君の意見もありだよ。「政府の役割」というお題を立てれば、どんな意見でも出てきてあたりまえ。
Posted by: ogayuki7 | 2010.06.14 at 18:42
>通りすがりさん
たぶん社会主義的な考え方をする日本人の中だからこそ障害者は生きづらいんだと思いますよ。なぜなら社会主義的な国、結果の平等にこだわる国ではみんな同じであることを求めるから。そういった国では毛色の違う人は最初から「社会」の枠にさえ入れてもらえない。障害を持った子供を隠して育てたなんて話ありますよね?
一方で現在の資本主義の流れは多様性を認める方向に進んでいるように思います。なぜならそこに市場があるから。つまり障害者や女性、発展途上国などいままで無視されてきた場所に市場としての価値が見いだされつつあるわけです。要は秋葉原です。フィギュアをこよなく愛する人、鉄道をこよなく愛する人、コスプレ好きな人、それぞれに市場があって別に同じ土俵で争う必要もない。土俵を増やせばいいんですよ。だって世界で一番強いやつなんて決められないでしょ?でも「その世界で」一番の人なら決められる。そしてそうやって限定された市場の中で需要も雇用も生まれる。結局、富という一つの土俵でしか物事をとらえていないから「障害者は富を得られない」ってことになるんだと思います。障害者について語るなら障害者が富を得て幸せなのか、何に幸せを感じるのかってことから考えてほしいです。若造が生いってすいません。
Posted by: yis | 2010.06.14 at 19:16
みなさん雇用とか貧富の差とかで議論していますね。
「日本の企業の国際競争力を本気で高めようと思ったら・・・」という点を突き詰めていくと、強みを持った人は残り、強みを持たない人は去るということです。
もちろん、人間強みだけの人はいません。必ず弱みの部分が付いてきます。
強みがあっても障害を持つ人かもしれません。
体が健康であっても仕事上の強みが無い人もいるかもしれません。
ですから、弱みではなく、強みを利用できる経営者というのも必要です。
国際競争上でのビジネスは強みを持たない人にかまっているほど甘くないというのが現実だと思いますよ。
Posted by: ktsuchiya | 2010.06.15 at 06:35
「もっと自由に人を解雇できるようにしなければならない」は正論、かつ急務だと思います。
某大手電機メーカー勤務の友人に聞くと、かの企業では、定年間近な社内失業者の雇用を守るために、有能な派遣社員を何人も切るようなことが行われているとのこと。電気にしろ自動車にしろ、いずれ新興国に追いつかれてしまう産業が、いつまでも多くの人材を抱え込んだままでは拙いです。
Posted by: PowerYOGA | 2010.06.16 at 18:24
初めまして。いつも慧眼に感心しながら拝見しています。
S社は事業部(カンパニーかも)が解散すると優秀なひとは他部署から「もらい」がかかるんだそうです。で、どこからも引き合いがない人は辞めることになる、とか。
米国は大統領が交代するとホワイトハウスのスタッフが入れ替わりますよね(警察官や消防署員が代わるという話は聞きませんが)。
家を建てるときでも、「○○邸工事」というプロジェクトに対して職人が集まり、竣工すれば解散します。
日本も雇用を「行う・止める」ということがもっと柔軟に行われるべきです。そして裁量性労働への移管、さらには年齢による人事の制約も外れるべきか、と。でもこれって法律で決めても意味が薄く、意識がそうならないとダメかと思っています。
Posted by: JI1V | 2010.06.22 at 20:48