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電子書籍のiPadアプリ化サービス:ベータ版プレゼント

  iPad向けにCloudReadersを配布しはじめてから、絵本作家・同人作家・出版社などの方々から色々な形で連絡をいただいている。その中でも興味深いのが、PDFなどの形で作った電子書籍をCloudReadersと組み合わせて単体のiPadアプリとして販売・配布したいという話。

 「ビジネスモデル」なるものを準備していたわけではないので、相手が個人の場合は書籍の内容さえ面白そうであれば無償でアプリ化を進める一方、相手が出版社の場合はそれなりの手数料+ライセンス料を請求させていただく、という形でいくつかを同時進行させていただいている。

 本来ならば、こういうことはちゃんと営業の人を雇うなり代理店を見つけるなりして幅広くビジネスとしてやるべきなのだろうが、そちらが本業になってしまっては「新しいアプリを作る」という一番楽しいことができなくなってしまうので少し悩んでいる。

 そこで、実際にこの手のニーズがどのくらいあるものかを調査するために、ちょっとした企画を試してみる。「電子書籍のiPadアプリ化プレゼント」である。応募要項は以下の通りである。

  • 対象:電子書籍(マンガ・写真集も含む)の著作権もしくは版権を所有する個人もしくは法人
  • 応募方法:submitアットcloudreaders.com に電子書籍(PDFもしくはZIPで固めたJPEGファイル)をメールで送付してください。subjectを「電子書籍のiPadアプリ化サービス:ベータ版プレゼントに応募」としていただけると助かります。
  • 選抜方法:原則として先着10人(個人5名、法人5社)。ただし独断と偏見により先着に漏れた人・法人を若干名追加する場合も有ります。
  • その他必用事項:ベータ版を走らせるiPadのUDID (UDIDに関しては http://support.apple.com/kb/HT4061?viewlocale=ja_JP を参照のこと)。書物の題名および著作権所有者の名前。可能であれば72x72の大きさのアイコン(PNG)。ウェブサイトのURL(お持ちの場合のみ)。
  • 当選の発表:当選した方だけに連絡し、後日、送付していただいた電子書籍をもとに作ったiPadアプリのベータ版を送付させていただきます(必用に応じて、その前にデータの修正をお願いする場合もあります)。当選しなかった方にはメールの返事は書かない予定なので、そこはご了解いただきたい。

 ちなみに、iOSの設計上、送付したベータ版のアプリは送付していただいたUDIDを持つiPadのみでしか動かすことができないのでそこはご了承いただきたい。


iPadアプリ開発日誌:第三弾は neu.KidsDraw

Drawing 私としては、第三弾、neu.Pen LLCとしては第二弾になる今回のiPadアプリは、neu.KidsDrawneu.Notesの「お子さまバージョン」だ。値段はneu.Notesと同じく無料。

 neu.Notesは、友人のPeteと二人で開発をしているのだが、並行して開発がしやすいように、私が「手書きエンジン」を開発し、Peteがそれを使って「アプリ」を作る、という分担にしている。

 「手書きエンジン」の部分は、拡張性の高い「部品」として作っているため、別のアプリに流用したり、特殊なペンを追加したり、が比較的簡単にできるようになっている。

 今回のneu.KidsDrawも、その仕組みを使って、「マンガ風の黒いフチのあるペン」「塗りつぶしペン」「模様ペン」を追加して作ったものだ。

 子供用とは言え、すべてベクターで処理していて無限にundoが出来るところとか、書いた絵をPNGもしくはPDFの形でメールで送ることができるなどの機能は、neu.Notesからそのまま継承している。当然、ベクターのままIllustratorに取り込んで編集も可能だし、PDFの形にしてパソコンに渡せば、高画質でのプリントアウトも可能だ。

 まだまだ追加したい機能はたくさんあるのだが、あまり欲張っていてはいつまでたってもリリースできないので、まずは「お絵描きソフト」として必用な基本機能を備えたものとしてリリースすることにしたので、これからの拡張にもご期待いただきたい。

 いつものように、要望・コメント・アイデアは大歓迎である(このブログエントリーへのコメントとしていただければすべて目を通させていただく)。特にデザイナーの方で、塗りつぶし様のパターンや、スタンプ素材などをベクター・データとして提供していただける方がいれば大歓迎である(まずは無料で配布できるものがありがたいが、有料オプションとしてスタンプ素材をアプリ内で販売する、というのも十分可能だ思うので、そのあたりは「ご相談」ということで...)。

 ちなみに、neu.Notesのアップデート(version 1.1)はすでに提出済みでアップルの審査待ち。そして、今週は、neu.Pen LLCとして第三弾のneu.Annotate(どんなアプリかはお楽しみ)の開発とneu.Notesのさらなるアップデートに取り組んでいる。CloudReadersに関してもまだまだやりたいことはたくさんあるし、しばらくはiPadで大忙しだ。


CloudReaders 1.12はPDFの高画質描画対応

 CloudReadersは「サクサク動く」ことを最重視して作っているため、ベクターデータのPDFであっても、一度ビットマップデータに変換してから、GPUを使って拡大縮小するという手法(=プリレンダリング)を使っている。ここがGoodReaderなどの他のPDFリーダーとの設計思想の大きな違いだ。

 私自身、主に見るのがマンガと本なのでこれで十分と考えて来たが、数人のユーザー方から「ベクターで書かれた大きな地図や設計図を拡大した時に使い物にならない」という指摘を受けた。実際、観光地などでは地元の地図をA1やA2サイズのベクター形式のPDFとして配布しているところもあり、その手のものはこれまでのCloudReadersで見ると使い物にならなかった。GoodReaderならば、ちゃんと拡大表示はできるのだが、描画が遅すぎるので自分がどこを見ているのかすぐに分からなくなってしまう。

 そこで、GPUの描画によるサクサク感を失わずに高画質でPDFが描画できないものかと試行錯誤を重ねた結果できたのが、今回のVersion1.12。何をGPUに担当させて、どのタイミングで高画質描画に切り替えるのかなど細かなパラメーターの微調整に苦労したが、それなりに使いやすいものができたと思うのでぜひともお試しいただきたい。

 興味のある方は、この地図あたりを試してみると違いが良く分かると思う。3MB近くあるベクターデータなので、iPadのCPUにとってはかなり重い。スクロール後にいったん指を離すと、高画質での描画が完了するまで3秒ほどかかるので、一本でも良いので指を離さずにスクロール・拡大縮小して、見たい部分を決めてから指を離すのがコツである。

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私はなぜAndroidアプリではなくて、iPhone/iPadアプリを作っているのか

「中島さんは、なぜAndroid向けにもアプリを作らないんですか?」という質問は良く受ける。「色々な情報が左脳に入った結果、右脳が本能的に出した結論」というのが一番正直な答えだ。

 私がここのところiPhone/iPad向けのアプリケーションばかりを開発しているのは、iPhone OSが先進的だからとかiTunesストアで一儲けできそうだから、なんて「理論的」な考えに基づいた話じゃなくて、iPhone/iPadというデバイスが魅力的だから、その上で自分で作ったアプリを走らせたくて仕方がないから、というもっと直感的・感情的な、言い換えれば「右脳からの指令」に従っただけのことである。

 これから日本のメーカーもAndroidケータイやAndroid家電を出すことになると思うが、その時に意識しておいてほしいのは、「Androidを載せた」だけでたくさんの魅力的なアプリが集まるなんてことは全くの幻想で、そのデバイスそのものをユーザーや開発者にとって魅力的なものにしなければだめだ、ということ。

 参考までにAppleが作ったiPhone/iPadアプリ開発者のコメント集ビデオを紹介する。冒頭の「I feel like I was born to create apps」というセリフは、日本語に訳せば「自分は(iPhone向けの)アプリを開発するために生まれて来たんじゃ無いかと思う」という意味。私も含めた、世界中のアプリ開発者の気持ちを一番良く表している言葉だ。


ガラパゴス・ケータイと「政府の役割」と

最近、技術評論社のWEB+DB PRESS向けに連載を始めたのだが、次号のコラム向けの原稿を書いているうちに、妙に熱くなってしまったテーマがある。米国の政府の産業界との関わりを書いた部分。

 米国におけるソフトウェア・ビジネスは、基本的にベンチャー主導型で成長して来た。Microsoftが典型的な例だが、Adobe、Google、Apple、Salescorce.com など、この業界を牽引する会社はほとんどすべてが「起業家」と呼ばれる野心的な人たちによって作られたベンチャー企業である。そういったベンチャー企業は、まずは開業資金を起業家本人や家族から集めた「自己資金」で会社を立ち上げ、少し軌道に乗ったところでベンチャー・キャピタルと呼ばれる投資家から資金を集めて会社を大きくして行く。そこでの政府の役割は、起業家が会社を成功させた時に得る利益(創業者利益)への税率を低く設定して起業家精神を刺激したり、巨大な企業が既得権やマーケットシェアを利用してベンチャー企業による市場への進出を不当に妨害したりしないように監視することである

 米国と日本には共通点も相違点もあるが、ことビジネスに関してもっとも違うのはこの太字で書いた部分だ。「企業間の自由競争があってこそ、社会は発展するし、国民はより良いものを安価に手に入れられる様になる」という考えは、アメリカ建国当時からのビジョンであり理念である。「結果平等」よりも「機会均等」を重視する発想のルーツも同じところにある。

 日本の携帯電話が、iモード全盛の時期に機能だけみると世界よりも2年ぐらい進んでいたのにも関わらず、今や「ガラパゴス・ケータイ」と呼ばれる世界市場でまったく競争力を持たないものになってしまった一番の原因は、電電公社時代から受け継がれて来た官僚主導の「既得権を持った企業からの横並び調達」にある。

 競争原理が働かないからコストを度外視した開発スタイルが身に付いてしまい、一度既得権を取った大企業がいつまでも保護されるから、ベンチャー企業が育ちにくい。日本の携帯電話メーカーが、世界市場で勝ち抜いて来たAppleやSamsungと正面切っては戦えない企業ばかりになってしまった一番の原因はここにある。

 ただ、難しいのは「米国のやり方が正しい、日本もそれに見習うべきだ」とは一概に言えないこと。

 自由競争はどうしても貧富の差を広げる。「格差」を嫌い、「結果平等」を好む日本人がそんな状況に耐えられるか疑問である。日本の企業の国際競争力を本気で高めようと思ったら、もっと自由に人を解雇できるようにしなければならない。「派遣切り」だけで批判されるトヨタやパナソニックが、正社員までも切りはじめたらどんなに批判されることか。大企業から既得権を奪うということは、大企業で働いている人たちも安心してはいられないということ。自分もいつ解雇されるか分からないし、会社もいつまでも存在するとは限らない。

 結局のところは、日本人の気質にあった「日本なりの資本主義のありかた」というのを見つけて、その枠組みのなかで、アジアに進出しようとする日本企業を税制面などで優遇するなどして、日本企業の海外での競争力を高める方向でサポートするのがこれからの政府の役割なんだと思う。「国内市場で保護してさえおけば、それを活力に海外に出て行けるだろう」という発想が幻想であったことはガラパゴス・ケータイが証明したのだから。


「実家に孫が贈れる!?」次世代テレビkoukouTV、モニター大募集

Koukou

 少し前に、「とある家電メーカーでの会話:クラウドテレビ編」というエントリーを書いたが、あのエントリーで私が伝えたかったことは、「Android OS」「HTML5ブラウザー」などの「テクノロジーそのもの」が目的になってはいけない、ということにつきる。

 もの作りの際にもっとも大切なことは「どんな価値をユーザーに提供できるか」である。まずテクノロジーありきでは良いものは作れない。テクノロジーは、価値を提供するための手段の一つでしかないことを忘れてはならない。

 D8のインタビューで、マイクロソフトとの「プラットフォームの戦い」について質問されたスティーブ・ジョブズは「僕らはプラットフォームの戦いをしているつもなんてないよ。ただ、ユーザーにとって価値のある商品を作ろうと日夜努力しているだけだ」と答えたが、これはパフォーマンスでのなんでもなく、ここにこそアップルの強さがあり、その結果がiPhoneでありiPadなんだと思う。

 なんでその話を再びしたかというと、私が会長をつとめる(とは言っても、年に3〜4回顔を出して、ブレストミーティングをするぐらいのことしかしていないが)UIEジャパンが、なかなか面白そうなサービスをローンチしたからだ。

 その名も、KoukouTV。親孝行の孝行から来ている。「生まれたばかりの孫の写真を、ネットに詳しくないおじいちゃんおばあちゃんに見てもらいたい、それもパソコンなんかじゃなくて、大画面テレビで。メモリーカードで渡すとか、メールで受信してもらう、とか面倒なことは一切不要で、何もしなくても孫の最新の写真がテレビで見れる、という環境をプレゼントして親孝行がしたい」というとてもはっきりと定義されたユーザーのニーズに答えるためだけに作られたサービス。

 そんなサービスを提供するためには、サーバーも必要だしテレビに繋ぐ箱(セットトップ・ボックス)も必要だが、その箱のCPUやOSが何だとかはユーザーにとってはどうでも良いこと。大切なのは「最新の孫の写真をいつでもテレビ見ることができること」であり「そんな体験を親にプレゼントすることができること」である。

 ちなみに、UIEジャパンはあくまでソフトウェア+サービスの会社で、本格的にハードウェアのビジネスに進出する予定はない。今回500人限定でモニターを募集して箱を無料で配るのは、これをより完成度の高いサービスにするためには何をすべきかを学ぶためでもあるし、このサービスの価値を理解して実際にこの箱を量産したり、この仕組みを自社のテレビに組み込もうという意気込みを持ってくれるパートナーを見つけるためでもある。

 モニターの募集は今日から開始で、先着500名とのこと。詳しくはKoukouTVのホームページをごらんいただきたい。また最新のお知らせは、Twitterでhttp://twitter.com/koukouTVをフォローしていただければリアルタイムで見ることができる。 


iPad活用術:iPadでパワポのプレゼンをする方法

Accessories_vgakit_20100225  iPadのような「新しいおもちゃ」を手に入れたら、出来るだけ色々な場面で使って満足感を増したい、さりげなく使うところを他の人に見せて優越感に浸りたい、と思うのは、このタイミングでiPadを入手するような典型的なアーリーアダプターとして当然の要求。

 そんな人におすすめなのが、iPadを使ったプレゼンだ。ミーティングの場に、ノートパソコンの代わりにiPadだけを持って行き、おもむろにiPadをプロジェクターに繋げ、プレゼンをする。注目を浴びること、間違いなしだ。

 用意すべきは小道具はiPadをプロジェクターに繋ぐためのiPad Doc Connecter (2980円、Apple Storeへのリンク)。そしてアプリはCloudReadersを使う(こちらは無料)。Version 1.10からは外部モニターをサポートしているので、その機能を使ってプロジェクターにスライドを映すのだ。

 プレゼンのスライドの準備は今までと同じくパワポでかまわないが、ここからひと手間かける必要がある。パワポのスライドをCloudReadersが読める形(PDFもしくはZIPでJPEG画像)に前もって変更しておく必要があるのだ。

  1. パワポのメニューから、File->Save As... を選ぶ
  2. フォーマットとしてJPEGを選択する(文字だけのスライドの場合PDFでも問題ないが、画像が貼付けてあるスライドの場合、JPEGの方が軽くて良い)
  3. Options...をクリックして、解像度を適当な大きさ(私は通常1365 x 1024にしている)に変更して、OKボタンをクリックする
  4. 適当な名前をつけて、Saveボタンをクリックする
  5. セーブされたJPEGファイルをすべてZIP圧縮する
  6. iTunesアプリ経由で、CloudReadersに転送する
  7. プレゼンの時に見つけやすいように、適当なタグをつけておく

 これで準備は完了なので、あとはプレゼン当日に以下の手順で資料をプロジェクターに映すだけのことだ。

  1. iPadをiPad Doc Connecterでプロジェクターに繋ぐ
  2. CloudReadersを立ち上げる(iPadは横向きにしておいた方が操作しやすい)
  3. 上で転送しておいたプレゼン資料を開く

 これだけだ。手元のiPadで表示されている「現在ページ」が自動的にプロジェクターに投影されるので、後はCloudReadersで文書を読むのと同じ要領で、スワイプやタッチでページ送りをすれば良い。もちろん、ツールバーのスライダーを使って特定のページにジャンプすることも可能だ。

 参考のために、私が先月の日経BPのセミナーで使ったパワポの資料をZIP化したものをここに置いておくので、ぜひともお試しいただきたい。


iPadアプリ作成日記:書き心地重視のneu.Notesリリース!

Icon  先日予告した「書き心地重視の『手書きメモ』アプリ」、ようやくiTunesストアに並んだのでここで発表させていただく。名前は neu.Notes("neu"はドイツ語で「新しい」という意味)。読み方は「ノイ・ノーツ」。日頃のちょっとしたメモや、ミーティングや授業のノートを取る時に便利な様に、使い勝手と書き心地を最重視して作ったアプリ。無料なので、iPadをお持ちの方は、ぜひともお試しいただきたい(iTunesストア上のneu.Notesへのリンク)。

 これを作るきっかけを与えてくれたのは、Adobe Idea。最初に見た時には「やられた」と思った。簡単なメモを取るには十分な機能があるし、何よりもベクター・データのままIllustratorに渡せるという部分がすばらしい。描いた線をなめらかにしてくれる機能もなかなかしゃれている。これで私にとっての「メモアプリ」の座は決まりだと思った。

 しかし、実際にしばらく使っていると色々と気に食わない点が出てきた。まず、なんと言っても使い勝手が悪い。ペンの太さの選択とか、色の選択にひと手間よけいにかかるし、ツールバーが横にあるというのもスクリーンの効率利用上、好ましくない。Undoが出来るのは良いがRedoができない。ベクトル・データなので拡大縮小が自在にできるのは良いが、ベクトルの数が増えるとやたらとカクカクしてレスポンスが悪くなるのも気に入らない。

 まあ、それでも我慢して使っていると、Penultimateという有料ソフトの評判が良いことが耳に入って来る。試しにダウンロードしてみると、なぜ人気があるかがすぐに分かった。「書き心地」が良いのだ。一度折れ線を書いた後に曲線に変換するAdobe Ideaと違い、いきなり指で書いたとおりにリアルタイムで曲線を生成してくれる。それにもかかわらず、レスポンスがとても良いのだ。機能的にはAdobe Ideaに劣るものの、このレスポンスの良さはたまらない。

 そんな感じに、Adobe IdeaとPenultimateと使い分けているうちに、何だか「自分ならもっと良いものが作れる」という気持ちが日増しに強くなってしまった。Penultimateの書き心地を持ち、すべてのデータをベクターデータとして保持してIllustratorにも渡せて、自由自在にすばやく拡大縮小・undo/redoもできて、それにも関わらずとてもシンプルでとても使い勝手が良い、というアプリだ。

 そこでまずは、指で入力するモジュールの制作に取りかかった。「Penultimateと同等かそれ以上の書き心地」というはっきりとしたゴールを持ち、さまざまなアルゴリズムを試した。2週間ほど失敗を繰り返したあげく(20通りはプログラムを作ったと思う)、到達したのはとてもシンプルなアルゴリズム。シンプルであるが故に、高速に描画できて、かつ指の動きを忠実にとらえてリアルタイムにスムージングをかけることができる。

 ここまででかなりの精力を使い果たした感もあったのだが、その時に偶然にもマイクロソフト時代の仲間から連絡があった。「iPadアプリでも一緒に作らないか」という誘いだ。UI設計の専門家でプログラミング能力もピカイチのPeteなので、パートナーとしては最高の相手。すぐにその場で共同開発を決め、今回のリリースに至ったというわけである。

 ちなみに、ユーザーインターフェイスの設計の際にPeteがもっとも強く主張したのが、「どんな状態でアプリを終了しても、再起動した時にはその状態を完璧に再現すること」。描画中のノートが同じズーム状態で再び開くのは当然ながら、Undoスタックまで完璧に再現するのにはかなり苦労したが、結果的にはRedoスタックまで再現するとても良いものができたと思う。ちなみに、ほとんどのお絵描きアプリは、Undoの数に制限があるが(Adobe Ideasは50まで)、neu.Notesにはその制限がなくて、すべてのストロークがUndoスタックに積まれるように作られている。

 ということで、CloudReadersに続くiPadアプリの第二弾は、neu.Notes(ノイ・ノーツ)。「こんなアプリを使いたかったからiPadを買った」「neu.Notesが使いたいからiPadを買う」とできるだけ多くの人に言っていただくためにも、またまた無料でのリリースなので、CloudReadersともどもご愛用いただきたい。


普天間基地問題に関する一考察:米国は世界の「ジャイアン」

 鳩山さんの引退会見をこちら(シアトル)からiPad+Youtubeで見た私だが、彼が「普天間の問題は日本の安全保障の問題でもあり... 今の朝鮮半島の情勢を見るに...」という発言を聞いていて、「これはアメリカに恫喝されたんだな」と感じたのは私だけではないはずだ。

 安全保障の問題は、まさに日本という国のアキレス腱だ。それも第二次世界大戦における敗戦の傷が65年たってもまだ直らずに精神的なトラウマ状態になっている。

 「日本は世界で唯一の被爆国で、世界に平和を訴えて核兵器のない世界を作るのが日本の使命」というモットーはすばらしいが、現実の世界では軍事力を持ったアメリカが「世界の警察官」と自分自身を勝手に任命して、大きな顔をしている。「日本は絶対に核兵器を持たない、でもいざとなったら(核兵器を持った)米国に助けてもらう」という本音と建前の微妙な境目に日本の安全保障は立っている(参照)。

 米国は、ある意味でドラえもんに出て来る「ジャイアン」のような嫌なやつなのだが、実際のところ北朝鮮が韓国に攻め入ったりした時に真っ先に軍を派遣できるのは日本ではなく米国だ、というところが頼りになると日本も韓国も思ったりしているところが微妙だ。日本と韓国が隣国として本当の意味での強い同盟関係を結ぼうとしても、一番大切な結局安全保障の問題になると米国を交えずには話し合いすらできないのが現状だ。

 日本の政治家は、「日本も自衛隊なんかじゃなくて、ちゃんとした軍を持つべき」と発言しただけで「あいつは右翼だ、ファシズムだ」とマスコミに徹底的に叩かれ、結果的に票を失ってしまうという弱みを持っている。米国もそれをちゃんと理解しており「自分の国を自分で守れないくせに(すなわち、『自国の軍を持とう』と国民を説得もできないくせに)、沖縄の基地を移転しろなんて甘いこと言ってんじゃないよ」と、交渉の余地もない。

 鳩山さんも「そんなこと言うなら、日本だって自分で軍隊を持ってやる。日米安保なんかくそくらえだ!」とタンカを切ってから交渉にのぞみたかったところだろうが、現実問題としてそれが無理なことは米国にもバレバレで、結局のところ「分かったよジャイアン、なんとか沖縄の人を説得してみるよ」とすごすごと肩を落として退散してくるしかないのび太くん状態なのだ。

 こうなったらドラえもんに頼んで、新しい島でも一つ作ってもらうしかないと思うんだがどうだろう?あ、それはあまりにも現実的ではないから辞任するって?

 鳩山さんの会見を聞いていて、この人は本当は「日本も軍を持って、自国のことは自分で守れる状態にすべき」と言いたいんだな、でもそれをはっきりと言ってしまうと党が次の選挙で票を失うから言えないんだな、と強く感じた。

 世界の情勢が見えている政治家は、自民党でも民主党でも皆、「自国のことが自分で守れない国は世界での発言権がなくて、米国の言うことを聞くしかない」ことは十分に理解していると思う。でも「だから軍を持とう!」とは言えない。マスコミにたたかれるから言えない。「右翼だ、軍国主義だ」と批判されて票を失うから言えない。そんな気持ちがつくづくにじみ出ている会見であったと思う。

 次の総理が誰になるかは分からないが、もしその人が憲法9条の改正のことを言い出したり、自衛隊の海外派遣のことを言い出したとしても、拒絶反応で頭から否定するのは賢くないと思う。軍国主義でもなく、かつ米国の属国・二級市民状態でもない「平和を愛し、核兵器にも反対するけど、軍隊の必要性から目を背けたりせず、自分のことは自分で守れる自立した国」という形を本気で目指す時期が来ていると思う。難しいとは思うが、そろそろ敗戦のトラウマから脱却する時期だ。


電子書籍ビジネスとフォーマットのオープン化と

 少し前に「電子出版に関する一考察:コンテンツのガラパゴス化の危機」というエントリーを書いたが、それと、もとまか日記さんの「日本の電子書籍に必要なたった一つのこと」を読み合わせると、今何が起こっているのか、そしてどちらの方向に進むのが正しいのかが、自ずと見えて来ると思う。

 ちなみに、週間ダイアモンドの方々とは、雑誌の電子書籍化に関して「コンテンツの最適化」の部分で少しご協力をさせていただたのだが(参照)、私がこだわったのはコンテンツをオープンなフォーマットにしていただくこと。CloudReadersで読めるのはもちろんのこと、i文庫HDでも読めることが大切だ。

 マイクロソフトが全盛だった90年代なら、「自分独自の電子書籍フォーマットをデファクト・スタンダードにして、コンテンツの抱え込みをしよう」という戦略も成り立ったのかも知れないが、ここまで「オープン化」の重要性が幅広く理解されている今、クローズドな戦略に出ることは自分で自分のクビを占めることになる。

 オープンなフォーマットを採用し、コンテンツの抱え込みなどではなくて、読みやすさとか使い勝手に力を入れてユーザーに受け入れてもらう。それが今の時代にあるべきソフトウェア・ビジネスのありかただと思う。

 ちなみに、週間ダイアモンドの方が書かれたZIPファイルのiPadへの転送方法の解説がとても良く出来ているので、CloudReadersの利用者でそこでつまずいている方がいたらぜひとも読んでいただきたい。