iPadアプリ開発日誌:neu.Notes 1.2 は会議室でも使える!?
電子書籍のiPadアプリ化サービス:その2

勝てば官軍、負ければガラパゴス

131624390-08b7e2c5e9361501b7c8ec12a917cd1c.4c428a50-full   私が数年前からこのブログで使っている「ガラパゴス化」という言葉、今やテレビや雑誌でまで見る様になり、何だかうれしいような悲しいような、複雑な気持ちである。

 私が最初に公の場でこの言葉を使ったのは、2001年のCTIA(米国最大の携帯通信業界のカンファレンス)でのこと。UIEvolutionというベンチャー企業を立ち上げたばかりでもあり、この業界でなんとか注目を集めようと、「NTTドコモのiモードのことなら詳しいので、日本の若い人たちのライフスタイルがiモードでどう変わったからなら解説できるよ」と会議の主催者に連絡すると、いきなり2000人も収容できる会場を割り当てられたのだ。

 私がNTTドコモから来た人間だと勘違いした人もいたようで、会場は超満員。冒頭でドワンゴの「釣りバカ気分」の面白さを手振り身振りで伝えたところそれが大受けで、日本のギャルの生態系の解説も交えながら、日本の「ケータイ文化」がいかに米国のそれと異なった進化をしているかを一時間ぶっとうしで解説したのを覚えている。

 その講演の中で、非関税障壁で海外メーカーを実質的に閉め出し、日本という島国の中だけで数多くの日本のメーカーがしのぎを削るという特殊な環境で、携帯電話が海外と比べて異常なスピードで進化している状況を「ガラパゴス状態」と呼んだのが始まりである。

 もちろん、その当時は私自身も「日本メーカーに海外進出のチャンスあり」と見ていたので肯定的な意味で使っていたのだが、それが今や「独自すぎて海外で通用しない」というネガティブな意味になってしまっているのは何とも皮肉である。

 日本の携帯電話がなぜ海外で通用しなかったのかについては、このブログでも何度も書いて来たのでここでは繰り返さないが、ぶっちゃけて言えば、

 勝てば官軍、負ければガラパゴス

というひと言につきると思う(ちなみに、これは私が発明した言葉ではなく、ブログの読者がコメント欄で書いたことば)。

 問題は「独自」であることではなく、自分が作ったものを世界市場で成功させたり、自分が決めた仕様を「デファクト・スタンダード」にするのが下手な点にある。

 NTTドコモは、iモードを国内で成功させるだけでなく、WCDAMの標準化に大きく貢献したり、AT&T Wirelessに投資をして3Gネットワークの構築を促したり、と実は色々と努力はしたのだが、結局のところ「縁の下の力持ち」にとどまり、一番おいしいところはQualcommやAppleに持って行かれてしまった、というのが現状である。

 何が行けないかと言えば、結局のところは交渉力と政治力とマーケティング能力で、なんだかそのあたりは幕末の不平等条約以来あまり変わっていないんじゃないかと思う。

 そうは行っても、CD, DVD, Blu-rayなんかの標準化に関しては、日本のメーカーも結構活躍していたわけで、そのあたりに何か学べるものがあるはずだ。

 まあ、とにかく大切なことは、積極的に開発投資をして、自分がイノベーションを起こす側に回ること。先日も「(ePubやHTML5の標準化会議の場で)外国の人たちに縦書きの重要性を話しても理解してもらえない」と嘆く日本の技術者に会ったが、嘆く暇があったら自らがWebKitやFirefoxを進化させる側に回り、そこでリーダーシップを取る立場に立った上で、縦書きを自ら実装してしまい、既成事実としてデファクト化する、ぐらいの強引なやり方を取るべきだと思う。

 「ガラパゴス化」を恐れて、他社と違うこと本流でないこと、を避けていたらイノベーターにはなれない。「そんな特殊なことをしていたらガラパゴス化しますよ」というコンサルタントには気をつけた方が良い。

 一説によると、今の人間の先祖であるホモ・サピエンスは、ちょうどガラパゴスのような隔離された環境で短期間に異常進化をとげたのだという。強烈な生存競争に勝ち抜いたホモ・サピエンスは、島からでると、先住民をあっという間に滅ぼし、世界の覇者になったという。「ガラパゴス世界を制す」の良い例である。

 結局のところ、独自であろうとなかろうと、世界で通用する製品を作らなければだめだということ。勝たなければだめだということ。「勝てば官軍、負ければガラパゴス」である。

Comments

kondou

CD, DVD, Blu-ray なんかを作って、規格をデファクトにしようとがんばってきたのは「民」な一方、NTTドコモはドコマデいっても「官」だったからではないでしょうか。規制やお上によって外界から隔離されていないと生きていけないのでしょう。

kondou

CD, DVD, Blu-ray なんかを作って、規格をデファクトにしようとがんばってきたのは「民」な一方、NTTドコモはドコマデいっても「官」だったからではないでしょうか。規制やお上によって外界から隔離されていないと生きていけないのでしょう。

JD

こんにちは。特に日本国内では当時の海外携帯より多機能化した国産携帯が単純に世界に通用すると信じられていたため、それが裏切られた心理的反動があるのだと思います。

一にも二にも、今後の日本産業の最大の課題は国際標準化。国際的に使われって初めていいものだと結果的に証明されると気づいたことはよかったと思います。Walkmanもそうやって認められたのですから(デファクト標準化から協議標準化への時代の流れの議論は別途ありますが)。

いいものだから売れないのはおかしいと考えるのは間違いで、売れるものが本当にいいもの、という製品開発の警句に近い話のような気もします。

hhayakaw

日下公人著「デフレ不況の正体」でも、同じ事を述べられています。

eto

「一説によると、今の人間の先祖であるホモ・サピエンスは」のところが興味深いのですが、どの本を読めばいいのか、教えてもらえませんでしょうか。

SickBoy

こんにちは。
面白く記事読ませてもらいました。

ブルーオーシャンを目指すためにはガラパゴス化するリスクを背負いながら特定の分野を進化させていく必要があるってことでしょうか・・・

進化の目指す環境が将来の大多数のニーズを受け止められる環境になるかどうかを見定めるのが難しいのかな?
違う面から考えると人間は自分で環境を再構築して反映してきた種族だし・・・考えると深いですね^^

Michi

あの頃は本当に、日本はまだ世界の10%以上を占める市場だったし、チャンスだったんですけどね。私は、あの時に日本のケータイ市場を牽引していたのも、グローバル化の動きの先頭に立っていたのも、「ドコモ」だったところが問題と思うのです。

メーカー自身だったら、海外に市場ができればダイレクトに商売につながるのに対し、ドコモではその関連性は間接的でしかなく、全社一丸となってグローバル化を推進するというふうにはなっていなかった。いまいち腰が据わっていなかったと思うのです。一部の人たちだけが一生懸命やっていたけれど、「何のためにやっているのか」といつも社内から疑問視される状態では、生きるか死ぬかでやっているクアルコムやノキアには勝てないと思うのですね。

それに、ただでさえ、あの世界は欧州の「インナーサークル」が握っている感じがあって、アメリカでさえノケモノですから、日本人があの百戦錬磨の欧州インナーサークルで勝ち抜くのは大変です。新興宗教並の結束力を誇るクアルコムも、最終的には外された感じですよね・・最近調子のいいアメリカ勢は、この力関係があまり及ばない上位レイヤーで勝負してます。

キャリアの海外進出というのは、私がWirelessWire連載で書いているように、旧植民地以外のケースではそもそも難しいし、メーカーが、そんなドコモにおんぶしてもらうというのも、頼りない話であります。

ただでさえ難しいのだから、グローバル化が直接腹の足しになる人たちが自分で苦労してやらないと、そして既存勢力と正面から戦わなくていいところを狙わないと、うまくいかないのでは、と思います。

それにしても、返す返すも「勝てば官軍負ければガラパゴス」とは言い得て妙です。すばらしい。

Galapagos

勝つ ってどういうことを言うんでしょうか。総体的にみて 今の状態って 世界で売れてそれで勝ってるんでしょうか。
相入れてないだけのような。 
なくては困るものアプリ・サービスは、極彩色のようなまだまだ擬態のようなものかもしれませんが、ガラパゴスにしかないのものも多く。
趨勢と制度化の争いだけで、ユーザビリティは遅々として進化し、残るものとは自然淘汰するものではないでしょうか。

Galapagos

勝つ ってどういうことを言うんでしょうか。総体的にみて 今の状態って 世界で売れてそれで勝ってるんでしょうか。
相入れてないだけのような。 
なくては困るものアプリ・サービスは、極彩色のようなまだまだ擬態のようなものかもしれませんが、ガラパゴスにしかないのものも多く。
趨勢と制度化の争いだけで、ユーザビリティは遅々として進化し、残るものとは自然淘汰するものではないでしょうか。

eakas

日本の携帯端末の最大の失敗要因は高コストな端末の価格設定かと。

永吉

はじめまして、ガジェット通信編集部の永吉と申します。
私どもは、『ガジェット通信』というウェブ媒体を運営しております。
http://getnews.jp/

こちらの記事を、興味深く読ませていただきました。
この記事を『ガジェット通信』に寄稿という形で掲載させて
いただきたいのですがいかがでしょうか。
掲載の際には、表記統一などのために、若干の修正をさせていただく
場合がございます。
また、元記事へのリンクも貼らせていただきます。
ご検討いただき、下記アドレスへお返事をいただけましたら幸いです。

post2009<アットマーク>getnews.jp

以上、コメント欄から失礼致しました。
どうぞよろしくお願いいたします。
-----------
ガジェット通信編集部
永吉

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