ある電力会社OBのインタビュー:エイプリルフール編
2011.03.31
(このエントリーは、2011年のエイプリルフール向けのものであり、ここに書いてあることは、すべてフィクションなので誤解しないでいただきたい)
私:今日は、お忙しい中、インタビューの時間を使っていただきありがとうございます。
OB: 気にしなくてもいいよ。こっちは引退した身だし、家にいても原発のニュースばかり見ているだけだしね。
私:ありがとうございます。さっそくですが、福島第一での事故に関してどう思われますか?
OB: 正直言って、私が現役の時に起こらなくて良かったと胸をなで下ろしているところだよ。まだ臨界状態にはなっていないようだが、それを除けば「考えられる限り最悪の事態」だよ。
私:今回の事故に関しては「人災だ」という意見もあるようですが、どう思われますか?
OB:君も知ってると思うが、日本の原発は耐震性に関してだけ言えば世界一だよ。今回は、たまたま1000年に一度の巨大津波が来て電源系統がおかしくなったからこんなことになったけど、津波さえなければマグニチュード9.0の地震にも耐えた、という部分に関しては評価して欲しいな。
私:しかし、津波の危険性に関しても以前から指摘した学者もいるわけでして...
OB:確かにそんな学者もいたのはたしかだけどね。しかし、今回の巨大津波みたいに「めったに起こらないこと」のために予算を使うのはとても難しいんだよ。万が一隕石が頭に落ちた時のために常にヘルメットをかぶっている人なんていないのと同じだよ。
私:でも「いつかはそんな巨大津波が来るんじゃないか」とは思わなかったんですか?
OB:そりゃ、まったく思っていなかったと言えば嘘になるけどね。漠然と「少なくとも私の現役中には来るはずがない、来ないで欲しい」とは感じていたと思う。まあ、実際に私の現役中には来なかったんだがね(笑)。
私:ちなみに少し話しは変わりますが、元福島県知事の佐藤栄佐久氏のことはご存知ですか。
OB:もちろんだよ。彼も最初は原発に賛成していたんだが、プルサーマルの導入のあたりから反対に回ったんだ。本当にけしからんやつだよ、彼は。
私:その佐藤氏の収賄疑惑に関してはどう思われますか?
OB:どう思われますかって言われても困るな。収賄疑惑そのものについては新聞に書かれていることぐらいしか知らないよ。でも、彼が知事を辞める事になったおかげでうちの会社が助かったというのは事実だよ。あのままだと、プルサーマルどころか、原発そのものを止めろという話になりかねなかったからね。
私:あの事件と担当した前田検事とは面識はありますか?
OB:そう来たか。うちが前田検事に頼んで佐藤くんを失脚させたとでも言いたいのか?残念ながらそんなことはないよ。前田くんは政治家を取っ捕まえるのが趣味なんだよ。小沢一郎の件も彼がしかけたそうじゃないか。それだけのことだよ。
私:しかし、あの事件で佐藤氏の弟さんから土地を購入した水谷建設って、福島第二の残土処理事件で問題になった業者ですよね。
OB:よく勉強してるね。水谷建設の連中とは私も何度も会ってるよ。
私:残土処理に関しては水増し請求だったのではないかと疑惑があがっていましたが、その件に関しては何かご存知ですか?
OB:確かにあれだけの土を運ぶのに60億円というのは水増しと言われてもしかたがないが、私企業間での取引なんだからなんのやましいところはないよ。勘違いしてもらっては困るが、あれは水増し請求が問題になったんじゃなくて、水谷の所得隠しが問題になっただけなんだ。
私:税務署としてはあのお金の使い道にかなり不透明な部分があったと解釈したようですが。
OB:あんなものは水谷が最初から使途不明金として処理していればなんの問題もなかったんだよ。税金を払うのがいやだったばかりに、架空のコンサルタント料とかをねつ造するから税務署ににらまれた。
私:実際にはどんなところに使われたんでしょう?
OB:そこまでは把握してないし、知りたくもないよ。うちとしては、福島での原発の建設をスムーズにするためにあれだけのお金を水谷に払っているだけの話で、それをどう使うかは水谷しだいさ。
私:「裏金」と解釈してよろしいでしょうか。
OB:そういう言い方は辞めて欲しいな。水増し請求の件だって、単に「残土処理代金」と呼んだからケチがついたわけで、「残土処理代金+コンサルタント料」と呼んでおけば誰も文句は言えなかったんだから。
私:ちなみに、水谷建設の接待攻勢はすごかったというのは本当でしょうか。
OB:確かに、私も接待は何度も受けたが、それも私企業間の取引で許される範囲のこと。リベートのようなものだけは一切受け取っていないよ。私だって後ろに手が回るのはいやだからね。
私:佐藤栄佐久氏の収賄疑惑はでっちあげだった、という説もあるようですが、どう思われます?
OB:君は、どうしてもうちが佐藤くんを失脚させるために水谷建設と前田検事とぐるになって収賄容疑をでっちあげた、というストーリーを聞きたいようだが、そんなきたないことにうちが直接手を染めるはずがないじゃないか。
私:では、間接的にはあると。
OB:とんでもないよ。確かに水谷の連中には、「県内の原発反対派を何とかして欲しい」とは頼んだけど、佐藤くんの弟からの土地の購入は水谷建設が勝手にやったこと。私の知るところじゃないよ。だいたい、あの時の購入価格は適正価格だったということで裁判所で決着がついたそうじゃないか。収賄でもなんでもないものを収賄にしたてあげたのは前田検事。彼の暴走だよ。
私:しかし、あの収賄疑惑のおかげで佐藤氏は知事の座を失い、その結果として福島第一でのプルサーマルも実現したわけで、御社としてはメリットがあったと言えますよね。
OB:そんな「風がふけば桶屋がもうかる」みたいなことを言われても困るよ、君。
私:ちなみに、小沢一郎氏の収賄疑惑でも水谷建設の名前が出ているようですが、何かご存知ですか?
OB:私が知るわけがないだろう。まあ、小沢一郎ぐらいになると敵も多いだろうから、しょうがないんじゃないのか?
私:しかし、佐藤氏の収賄疑惑と小沢氏の収賄疑惑件には妙な共通点があるのが不思議でしかたがないんですよね。両方とも前田検事が担当しているし、収賄側はどちらも水谷建設だし。
OB:何が言いたいんだね、君は?前田検事が水谷建設が組んで収賄をねつ造しまくっているとでも言いたいのか?考えすぎだよ。
私:本当に前田検事とは面識がなかったんですか?先ほど「前田くん」と呼ばれていたようですが...
OB:ないといっただろう。しつこいな、君は。もうそろそろインタビューを終わりにしてくれないか。
私:最後にひとつだけ。プルサーマルに関してはどうお考えですか?
OB:あれは霞ヶ関の連中が作り出した詭弁(きべん)だよ。高速増殖炉があんな状態になったたためにプルトニウムがあまっているから、しかたがなくウランと一緒に燃やすだけの話だよ。電力会社としては、あんな危ないもの本当は欲しくないんだ。
私:ほしくもないのに、なぜ地元の反対を押し切ってまでプルサーマルを推進するんですか?
OB:それはプルサーマルと使用済み核燃料の処理がセットだからだよ。日本の原発では、毎年1000トンの使用済み核燃料が発生しているんだ。日本にはそれを捨てる場所がないから、六ヶ所村の再処理施設に引き取ってもらうんだが、そこで精製したプルトニウムを買い取らなければならないんだ。
私:義務なんですか?
OB:厳密には義務ではないけど、いったん原発を始めてしまった日本の電力会社は運命共同体だよ。原発の結果できたゴミを捨てる場所がないから、再処理場でプルトニウムという形でリサイクルして、それをまた原発で燃やすしかないんだよ。
私:でも本当にリサイクルできているならいいじゃないですか?
OB:そこが難しいんだが、再処理をする時に、プルトニウムの他に大量の放射性廃棄物がでるんだ。
私:それはどうしているんですか?
OB:低レベルのものは埋めたり海に流したりしているけど、高レベルのものはとりあえず保管してあるらしい。
私:とりあえず保管、って将来はどうするんですか?
OB:地下に巨大なゴミ捨て場を作ってそこに捨てるという構想はあるらしいけど、莫大なコストがかかるんで、実現はまだしばらく先だよ。
私:それって、問題の先送りじゃないんですか?
OB:そういう言い方もあるな。実際のところ霞ヶ関の連中も頭を抱えていると思うよ。
私:そうなんですか。
OB:じゃあ、そろそろいいかな?
私:はい、最後にもう一つだけ。これからの日本の原発はどうなるんでしょう?
OB:難しいだろうね、今のまま進めるのは。福島第一だけでなく、他の原発も止めろという話にならざるをえないんじゃないかな。
私:そうですか。今日は本当にありがとうございました。
(ここでインタビューは終了。ここからはオフレコ)
私:今日は、お疲れさまでした。良い勉強になりました。ちなみに、このたび何か新しいビジネスを始められるということですが、どんなビジネスでしょうか?
OB:もちろん「廃炉ビジネス」だよ、「廃炉ビジネス」。原発を一つ廃炉にするだけで数百億のビジネスになるからね。これから十数年の間に、1兆円以上の金が「廃炉ビジネス」に落ちるのは確実だよ。今日もこれから中国に飛んで、下請け業者との交渉に入るんだ。厚生労働省も日本人の被曝量に関しては「なんたらシーベルト」とか、うるさく言って来るが、外国人なら甘く見てくれるからな(笑)。
◇ ◇ ◇
冗談はさておき、岩波書店がいくつかの貴重な資料を無料で公開しているので、ぜひともお読みいただきたい。
原発震災 ー 1997年に書かれたものだが、今回の事故を予見するような「原発にとって大地震が恐ろしいのは、強烈な地震動による個別的な損傷もさることながら、平常時の事故と違って、無数の故障の可能性のいくつもが同時多発することだろう。とくに、ある事故とそのバックアップ機能の事故の同時発生、たとえば外部電源が泊まり、ディーゼル発電機が動かず、バッテリーも機能しないというような事態がおこりかねない」という適切な指摘がある。最後には「そもそも民意が政策決定に反映されにくい日本では、政府が原発推進を堅持し、原子力産業の圧力が強大で、立地地域の経済が原発にどっぷりと依存させられているため...」と書いてある。
最後にキヨシローからひと言。