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プラットフォームは乗るものではなく、担ぐもの

先日、出版記念イベントを開かせていただいた「エンジニアとしての生き方」、アマゾンでの在庫がなくなっていたようでご迷惑をおかげしたが、再び入荷したようである(30日現在)。

ちなみに、この本はブログの人気エントリーとWEB+DB PRESSのコラムと書き下ろしから構成されるが、WEB+DB PRESSのコラムの連載はまだ続いているのでこちらもよろしくお願いする。

最新号のVol.62には、「プラットフォームは乗るものではなく、担ぐもの」というタイトルで、AndroidだiOSだHTML5だと乱立するプラットフォームにどんな気持ちで向き合うべきかという話を書いてみた。要約すれば「常に時代の先端を走り続けたいのであれば、『勝ち馬を見つけ出してそこにお金を張る』のではなく、『自らが騎手になって自分がこれと思ったプラットフォームを勝たせる』意気込みが必要」という話。

SDKの公開当初からアプリケーションを作り続け、このブログでもApple製品の素晴らしさを訴え続ける私のiPhone/iPadに対する態度を見ればそのあたりは明らかだとは思うが、私のように「プラットフォームを担ぐ」開発者たちがプラットフォーム間の戦いにおいて重要な役割を果たしていることを見逃してはならない。


電通とリクルートと無料アプリビジネスと

成田空港の本屋で時間つぶしをしている時になにげなくタイトルに引かれて買った本だが、久しぶりに中身のある、得るところの多い本だったのでここで紹介。 

電通とリクルート 山本直人

広告やマーケティングに関する実用書は巷にあふれているが、SEOだのソシアル・マーケティングだのの「小手先のテクニック」を述べたものばかり。その手のテクニックを学ぶことにもそれなりの価値があるが、「なぜそんなテクニックが効果的なのか」という本質的な部分を知っているのと知らずにいるのとでは、応用力や適用力に大きな差が出る。

そんな広告の「なぜ」の部分を一歩も二歩も踏み込んで理解を深めたい人にはこの本は最適だ。マスメディア広告の王者である電通と、インターネット以前から「情報誌」という形で「消費者が自ら読む広告」ビジネスを作り出したリクルートを題材に、マスメディアからインターネットへの広告ビジネスの移り変わりを描く本誌は、ネットビジネスや無料アプリビジネスに関る人に、いくつかの重要な「気づき」を与えてくれるはずだ。

たとえば、本文中のこんな文章(181頁)。

たしかにマス広告におけるコミュニケーションとは、ある意味「いい加減」なものである。美しい女優が宣伝している化粧品を買ったのに「あんなにきれいになれない」と嘆いたりクレームをつけたりする人はいない。それが偽リアリティの約束だからだ。しかし、ネットランキング上位の化粧品がきにいらない人の嘆きは深い。…(以下略)

美しい女優を使い「夢」を売るマス広告は、誰もが夢を見ていた高度成長期には効果的だったのかも知れないが、物があふれ、たとえ多くの物を手に入れたところでそこにはテレビコマーシャルで描かれているような世界が広がっているわけではないという現実を知ってしまった今の人たちには、「実際に肌がきれいになるのか」「どの店が一番安いのか」という情報の方がはるかに重要であり、購買意欲をそそるのである。


「エンジニアとしての生き方」トークイベント、USTREAMのお知らせ

エンジニアとしての生き方」の出版記念イベント(参照)、当初50人の部屋を用意していたが、参加希望者が多いので100人の部屋に切り替えて実施する。申し込みに間に合わなかった方・当日来る事ができない方のために、USTREAMでの放送も準備している(http://ustre.am/xXIF)。

本に書いてあることを繰り返しても面白くないので、当日はUIEジャパンの古志野氏(@Cossy)に聞き手として入ってもらい、質疑応答の形を取る予定だ。多少はこちらでも質問を用意しておく予定だが、どうしても聞きたいことがあれば、彼(@Cossy)あてにTwitterであらかじめ送っておいてもらえると、ありがたい(ただし、すべての質問に答える時間があるとは限らないのでそこはご了承いただきたい)。

ちなみに、UIEジャパンからiPhone向けのKoukouTVがリリースされたので(ストアへのリンク)、ここを借りてアナウンスしておく。前にもここで書いたが、Google TVやアクトビラに代表されるユーザー不在の「テクノロジー・ドリブン」なもの作りと比べて、「孫の顔を実家の祖父母にリアルタイムで届けたい」というはっきりとしたニーズに基づいた「ユーザー・ドリブン」なもの作りという意味で、「おもてなし」をモットーとするUIEジャパンらしい製品である。もちろん、iPad/iPhoneは通過点に過ぎず、最終的にはテレビ、セット・トップ・ボックス、フォトフレームへのOEMビジネスを想定しているので、興味のある方はぜひともUIEジャパンまでご連絡いただきたい(問い合わせフォーム)。


「今の日本の若い人たちには元気がない」は本当か?

最近、「日本の若い人たちの元気がない」という声を聞く。「若い人たちはすぐ辞めてしまう」とも聞く。本当に若い人たちに元気がなくなってしまったのだろうか?今の若い人たちは、高度成長期の「企業戦士」のように努力する事ができなくなってしまったのだろうか?

私は決してそんなことはないと思う。一番の問題は、そんな若い人たちを雇う企業、そしてそこの経営者たちにある。グローバル化が大きく進む中で、過去の成功体験にしがみついて旧態依然とした体質のままの大企業。自分が退職金をもらうまでだけは会社が存続してくれれば良いと、リスクを避けて問題を先送りにする「逃げ切りメンタリティ」の経営者。「雇用を守る」との名目で競争力を失った大企業を無理矢理存続させる日本政府。不要になった人員を整理する事を禁じ、日本企業の国際競争力を奪う雇用規制。その雇用規制が故に出来上がった、「終身雇用が保証された正社員」と「使い捨ての派遣社員」という二重構造。

そんな日本企業に、若い人たちが「一生を捧げる」気になれないのは当然である。

高度成長期に通用した「若いうちは安月給で努力していれば、会社が一生面倒見てくれるし、給料も年齢とともに上昇する」という暗黙の了解が、すでに成り立たなくなっていることは誰もが知っている。 「一流大学に入学して、一部上場企業にさえ就職できれば、後は安泰」という甘い時代でないことも良く知っている。

本書は、そんな日本社会全体を包む閉塞感のために行き先を見失っている若い人たちに向けたメッセージである。今こそ、日本という狭い世界に捕われず、日本の外に目を向け、自分の活躍すべき場を見つけるべきだ。

筆者として本書を通じて一番伝えたいことは、10年後、20年後の自分の生活レベルが、中国やインドの人たちよりも高いか低いかを決めるのは、自分の働いている会社の上司や経営者でも、日本の政治家でもなく、あなた自身だ、ということである。グローバルな人材市場において、自分自身の人材としての価値を高め、やりがいのある仕事に就き、豊かな生活を送れるようにする責任は、あなた自身が担っている。そのためには、今、何をしなければならないか、これから何をして行くべきか、を真剣に考えるべきである。

(「エンジニアの生き方」まえがき)


「エンジニアの生き方」出版イベントのお知らせ

偶然にも大震災の日に発売になってしまった「エンジニアとしての生き方」、ようやく出版イベントの準備ができたのでお知らせする。日時は4月24日(日)15:30、場所は東京の神保町。

詳しくは上のリンク先を見ていただきたい。

ちなみに、本書に関してのフィードバックをいくつかブログなどを通じていただいたので、気がついたものはFacebookのページにリストアップしておいたので、興味のある人はどうぞ。


「エンジニアの生き方」出版イベントのお知らせ

偶然にも大震災の日に発売になってしまった「エンジニアとしての生き方」、ようやく出版イベントの準備ができたのでお知らせする。日時は4月24日(日)15:30、場所は東京の神保町。

詳しくは上のリンク先を見ていただきたい。

ちなみに、本書に関してのフィードバックをいくつかブログなどを通じていただいたので、気がついたものはFacebookのページにリストアップしておいたので、興味のある人はどうぞ。


原子力委員会が皆さんの意見を募集しています

内閣府の原子力委員会が今後の原子力政策に関して、皆さんの意見を募集している。

募集ページ

今後のエネルギー政策に関する意見や提案、東京電力の扱いなどに関する意見を表明できる良い機会である。

私自身は、先にFacebook Noteとして公開した「東京電力 解体・再生プラン」の全文のコピーとリンクを私の意見として提出した。今回の原発災害に関しては、色々な原因・要因・誘因があるが、その根本にあるのは、「発電と送電の両方を持つ東京電力の強すぎる力」である。その意味では、「政府が被災者への補償額の不足分を補う」前に、東京電力の解体(=送電ビジネスと発電ビジネスの分離、そして発電ビジネスへの競争原理の導入)することが必須である。税金の投入を決めた後に解体しようとしても、東電側は色々と理由をつけて抵抗する。補填の条件として、現経営陣の解雇、一時国有化、東電の解体を突きつけることができるのは今しかない。

ちなみに、このプランの文章はパブリック・ドメインなので、これをそのままコピーして投稿していただいても良いし、これを原案として自分の案を加えたものを投稿していただいても結構である。


「メインジョブ・エンジニア、サポジョブ・MBAというのが最強」の意味

偶然にも大震災と同時になってしまった3月11日発売の「エンジニアとしての生き方」を読んだ読者の一人から、中で引用した「『メインジョブ・エンジニア、サポジョブ・MBAというのが最強』の真意が知りたい」との意見をいただいたので、ここで答えてみる。

まず最初に「メインジョブ」「サポジョブ」だが、これは私も一時期遊んでいたことのあるFFXI(ファイナル・ファンタジー XI)用語。このゲームを遊ぶには、まず最初に自分のキャラクターを作る必要があるのだが、その時に決めなければならないのが「メインジョブ」。体力と戦闘力はあるけど魔法は使えない戦士、戦闘力はないが攻撃的な魔法の得意な黒魔導士、などの選択肢の一つを選び、そのキャラクターを遊びながら育てて行くのだ。最初に選んだジョブがその後のキャラクターの育成に大きな影響を与えるだけでなく、異なるジョブのユーザーが協力してでしか達成することができないミッションなどがあるために、ゲームに奥行きを持たせることに大きく貢献している。

それに加え、キャラクターをある程度育てた段階で、サポジョブ(サポート・ジョブ)という名目で別のジョブの属性を持つ事ができるようになっており、キャラクター作りにより大きな幅を持たせることを可能にしている。

そんな中で、どんなジョブの組み合わせが最強か、という話がユーザーの間でもしばしばされていた。「戦闘力の強い戦士をメインジョブとして選び、回復系の魔法が使える白魔導士をサポジョブとして選べば、一人でかなりのことが出来るから最強」などである。必ずしもどれが正解ということはないようにちゃんとバランスを考えて作られてはいるのだが、このキャラクター作りの面白さがFFXIの成功に大きく寄与したことは間違いない。

こんなFFXIを遊んでいる時に、働きながらMBAを取得したために、「メインジョブ(大学・大学院で勉強したこと)はエンジニア、サポジョブ(仕事をしてしばらくして取得した資格)はMBAが最強」、と言った次第である。

ソフトウェアの世界も、私が働きはじめたころ(80年代)は、プログラムさえ書ければプロフェッショナルとして簡単に世界で通用したが、今やネコも杓子もプログラムを書ける時代。この世界で成功しようとするのであれば、ビジネスのことも分かっている必要がある、という意味である。

実際、MicrosoftであれAppleであれ、世界の一戦で活躍するテクノロジー企業には、ソフトウェアとビジネスの両方をきちんと学校で勉強してきた連中が沢山おり、そこがビジネス面での交渉力だとかマーケティング能力の面で日本のメーカーが大きな差をつけられてしまっている一因になっているとつくづく思う。

入試だけ難しくしておいて、一度入ってしまえばろくに勉強もせずに3年生から就職活動に励んでいれば良い日本の大学であれば何を勉強しても同じかも知れないが、そのあたりの問題も含めて高等教育をもう一度見直さないと、中国や韓国だけでなく、近いうちにインドにも抜かれてしまうと思う。シアトルやシリコンバレーで活躍するエンジニアの多くが、そういったアジアの国々から来た移民。日本から来て活躍しているエンジニアの数はごく少数だ。


東京電力、解体・再生プラン

これまで「脱原子力宣言」、「No More Fukushima」などの漠然とした方向性を示すことだけを言って来たが、今回はもう少し具体的な提案として「東京電力、解体・再生プラン」というものを書いてみたので、ぜひお読みいただきたい。Facebook場のNoteとして書いてあるが、読むだけならFacebookのアカウントは不要である(コメントを書くにはFacebookアカウントが必要)。

東京電力という会社をどうするかだけでなく、骨抜きの原子力安全・保安院をどうするか、福島第一の廃炉コスト・原発被災者の補償に必要なコストをどうやって捻出するか、原子炉に変わる再生エネルギーへの投資をどういう形で進めるのか、過疎化が進み財政難に苦しむ地方をどうするか、などの問題に対する解決方法を私なりに考えてみた上での提案がこれである。

実際の政策として押し進めるには、細かなところで詰めなければならないことは沢山あるが、まずはこんな風に大筋の方向を決めてから、それに向けて細部を詰めて行くというやりかたが、ある意味で「大まかなモジュール構成とインターフェイスを決めてから、実装に取りかかる」というソフトウェア作りに似ていると思ったしだいである。


日本人の価値観にまで踏み込んで原発問題を考えるべき時が来たのだと思う

候補者のエネルギー政策を知りたい有権者の会」を見ると、さまざまな候補者のある意味で優等生的な答えが見られるが、今、問われているのは、「脱原発とクリーン・エナジーのどちらを選ぶか」なんて小手先の話ではなくて、「日本をどんな国にしたいか」というもっともっと大きな話だと思う。

戦後、日本は欧米に追いつけ追い越せと国民全員が一眼となって勤勉に学び・働き、世界2位のGNPを持つ国にまで成長したのだが、80年代終わりのバブルの崩壊後は「失われた20年」に突入し、2011年に入った時点ですでに、財政赤字、少子化、地方の過疎化、高い失業率、正社員・派遣社員の二極化、などのさまざまな問題を抱えていた。

3月11日の大地震と巨大津波は、まさに天変地異ではあったのだが、それに続く福島第一原発でのスリーマイルを超える原発事故は、「過疎化で苦しむ地方に金と雇用というエサで危険な原発をおしつけた結果得られる、豊富で安価な電気に支えられた首都圏ビジネスとライフスタイル」という醜い現実を浮き彫りにしてしまった。今まで原発問題を「地方の問題」として見て見ぬフリをし、原発反対運動を政府のやることになら何でも反対する非現実的な左翼運動の一つとして他人事のように静観してきた、私を含めた多くの日本人の目を覚まさせ、反省させる事となった。

上のサイトへの返事を見ると、基本的には(1)Bを選んだ脱原発・理想路線と(2)非A・非Bの慎重・現実路線であるが、私から見ると、(1)の人たちは現実を無視した優等生的な理想論を言っているようにしか見えないし、(2)の人たちは「今のライフスタイルを維持するためには原発しかないよね」という原発容認の現状維持派にしか見えない。

実際、今まで日本が歩んで来た経済成長優先路線を維持しようとする限り、日本の経済を支える首都圏が必要とする莫大なエネルギーを提供するためには、(どんなに安全に作ろうともゼロにはならない)リスクのある原発を地方に押し付けて首都圏が必要な電気を確保しつづけるしかない、というのが現実的な答えだと思う。

別の言い方をすれば、たとえ今の勢いに乗ってクリーン・エナジー派が政権を握ろうと、今までの首都圏集中型の経済成長を続けようとするかぎり、なかなかうまく行かず、結局は危険を承知で原発路線を維持せざるを得ないというのが現実だと思う。

つまり、今、私たちが問われているのは、単に「原発かクリーン・エナジーか」という単なるエネルギー政策の話ではなく、「日本という国はどこを目指すべきか」「私たちはどんなライフスタイルを持ちたいのか」「今の首都圏集中型の成長戦略が本当に日本人を幸せにしているのか」という日本の方向性への根本的な疑問だと思う。

戦後の65年間で、私たちの生活レベルは大きく向上したが、失われたものも沢山ある。

  • 子供の遊ぶ時間・子供が自然と戯れる時間
  • 自分の食べるものは自分で収穫する・料理するという自給自足能力
  • 日が昇ったら目を覚まし、暗くなったら寝るという自然と調和したライフスタイル
  • 大家族・親子の対話・近所付き合い
  • 自然そのもの・自然を楽しむ時間や心のゆとり
  • 地方の町や村が自立して行く力

などなどである。そしてその根底には、

  • 「結婚して子供をたくさん作ることが一番の幸せ」という価値観
  • 「親の職業を継ぐ、老いた親の面倒を見るのが親孝行」という価値観
  • 「自分が生まれ育った場所を大切にしてそこで生きて行くのが幸せ」という価値観
  • 「農業・漁業などにたずさわる人たちがいるから私たちは食べて行ける」という感謝の気持ち
  • 「健全な子供を育てるのは親だけじゃなくて、コミュニティ全体の役目」という責任感

などのそれまで日本人が大切にして来た価値観の喪失がある。

誰もが「大学を出て、都会の会社に勤めるのが一番の幸せ」という、たった一つの作られた価値観に縛られて、多くの人たちが首都圏に移動してサラリーマンになろうとした結果が、「遊ぶ時間もなく塾に通う子供たち」であり、「地方の過疎化」であり、「跡継ぎのいない自営業」であり、「一度大学に入ったら勉強もせずに3年生で内定をもらう大学生」であり、「結婚しない若者たち」であり、「コンビニで買った弁当を子供に毎日食べさせる親」であり、「地方に押し付けられた原発」なのである。

そういう価値観の部分にまで一歩も二歩も踏み込んだ上で、「これからの日本はどうあるべきか」を考えない限り、原発問題は解決しないと思う。

その意味で、政治家の人たちには、もっとそのあたりまで踏み込んだ大きなビジョンを見せて欲しい。「リスクのある原発を地方に押しつけながらも首都圏集中型の成長戦略を取る」のがもはや正しくないのであれば、どんな方向に日本を持って行くべきなのかを、何を捨てて何を守るべきなのかを、日本人の価値観まで含めて考え直す時期がきているのだと思う。